ギタリスト・町屋が考える音楽の未来
かいりきベア 今お話を聞いていて「この音は緻密なアレンジと、プレイヤーの高い技術で成り立っているんだ」と驚いているんですけど、それでいてメンバーの皆さん全員に活躍するパートも用意されていますよね。その中でギターのフレーズを考えるのは大変だったんじゃないですか?
町屋 最初にギターを入れるとほかのメンバーの自由度が狭まるので、それぞれに好きにやってもらったあとに、隙間を縫うようにギターを入れています。自分は和楽器バンド結成以前にボカロ曲にギターを入れる仕事をやっていて。最終的に僕のところに来るのって、「飛び道具的なものが欲しい」というオーダーが多かったんですよ。なので、そういう作業が得意でもあったんです。
かいりきベア ちなみにですが、これからの音楽の未来として、楽器のプレイヤーが減ってしまうんじゃないかと思っていて。僕もギターを弾くからこそ、そういう話を町屋さんにお聞きしたくて。
町屋 ああ。それは僕もちょっと考えています。最近はギターヒーローがそもそも減ってきていますよね。ただ、一方でギターのスタイルが変わってもきていて。最近は新たなギターヒーロー的な人がちらほらと出てきていると思うんです。例えばIchika(Nito)くんもそうですし、Polyphiaのティム(・ヘンソン)もそう。
かいりきベア 新しいスタイルでタッピングをしている人たちですね。
町屋 そう。ああいうニューエイジのスタイルを持った人たちが出てきたことで、それに感化される人も増えていて。そんなふうにアップデートをしつつ、同時に昔のものにあるよかったものというのも絶対にあると思っているので、そこをハイブリッドできるといいのかなと思っています。だから僕も「ギターをがんばろう」と思っていますね。
──かいりきベアさんは「ベノム」を作ったときのことを覚えていますか?
かいりきベア 「ベノム」は依頼を受けて作った楽曲だったので(2018年の「v flower DJ NIGHT」テーマソング)、DJイベントらしいノリノリの楽曲というコンセプトで制作をスタートさせました。プラスして、自分らしさやギターのフレーズを多めに、DJを意識してキックをシンセで入れたりして。そんなコンセプトだけで、ノリで作っていった曲なんです。町屋さんが話されていたモジュレーション(揺らし系のエフェクター)がかかっているフレーズも、実は締切前夜に思い付いたものなんですよ。それなのに、今回のアレンジの際にこんなにいっぱい考えてくださって恐縮極まりないです。
──ノリノリの曲を作るために、勢いを大事にして進めていったんですね。
かいりきベア 「ベノム」以前はそういう曲があまりなかったので、自分としても新鮮な経験でした。今回のカバーについても、再生ボタンを押す前からワクワクでした。原曲を崩さずに遊び心を入れていただいていて、最後まで聴いていて楽しかったです。
──「べノム」は、鈴華ゆう子さんと町屋さんのツインボーカルも印象的な楽曲です。ツインボーカルの楽曲は「1」にもありましたけど、この曲を2人で歌おうと思ったきっかけはあったんですか?
町屋 今回もツインボーカルの曲を入れたいねという話をしたときに、リストをバーッと見て、「『ベノム』でしょう」と満場一致で決まりました。この曲は歌でも同じ音程をループする箇所が多いので、そういう部分を2人でスイッチするという意味でも、自然と「この曲が向いてるな」と判断したのかもしれない。
それぞれの印象に残る「ボカロ三昧2」楽曲
──ほかにも「ボカロ三昧2」の中で印象的だった曲があれば教えてください。
ツミキ 僕は友人でもあるすりぃの「エゴロック」のアレンジを聴いて、いい意味で爆笑しました。あれって原曲はアルバムでも屈指のバンドサウンドだけど、「それを和楽器も加えて演奏するとこうなるんや……!!」という変化が面白かったです。
町屋 すりぃさんの曲は音階がペンタトニックを中心にしたものが多いので、どの曲にしようか悩むぐらい我々にハマりやすかったですね。全員そう感じていたと思います。
かいりきベア 僕はKanariaさんの「アイデンティティ」が印象的でした。和楽器アレンジでありつつ、ジャジーな感じもあって、それがすごく新鮮で。
町屋 「アイデンティティ」はアレンジをビバップにしようと思い付いて、僕が持つジャズギターの知識を全部詰め込みました。あと、僕が特に印象に残っているのは柊マグネタイトさんの「マーシャル・マキシマイザー」ですね。この曲はダンスミュージック調で原曲にほとんどギターが入っていないので、そこにどうギターを入れるかがめちゃくちゃ難しくて。最初は入れるのやめようかな、とも思ったくらいです。「紅一葉」もそうですね。あの曲も「いらないかなあ……」と思いつつガットギターを弾いてアレンジしました。
かいりきベア 「紅一葉」のガットギターのスライド、すごく好きです。
町屋 うれしいです。行くか迷って、「行こう!」みたいな感じでできた部分でした。
──デジタル盤のボーナストラックとして収録されている、なきそさんの「ド屑」のカバーはどうですか? これも和楽器バンドならではのアレンジになっていると感じました。
町屋 「ド屑」は選曲会議でも満場一致で「やりましょう」となった曲ですね。最近のなきそさんの曲は旋律の部分があって、そこからEDMっぽいセクションに切り替わるような曲が多いので、全員の共通認識として、そこでガラッとダークな和の世界に切り替えたら面白いだろうな、と思っていました。あと、この曲ではシタールも弾いていますね。
──では最後に、今後皆さんで何かご一緒する機会があったらやってみたいことはありますか?
ツミキ 和楽器について教えてほしいです。何がオススメですか? 打楽器はちょっと得意かもしれません。
町屋 じゃあ、和太鼓がいいかもしれないですね。ただ、うちの和太鼓ってかなり特殊で、太鼓の数も多いし、左利きなんでセットが左右逆になっているんです。あのセットを普通の人が叩くのは、けっこう難しいかもしれない。
ツミキ そうなんですね。じゃあ、やめます……!
──あきらめるのがめちゃくちゃ早い(笑)。
かいりきベア (笑)。僕は津軽三味線をやってみたいです。
──いいですね。皆さんで作った曲を聴いてみたいです。
ツミキ 面白そうですよね。
町屋 ぜひやりましょう。役割どうします?
ツミキ じゃあ僕は……和太鼓にします!
──「やめます」と言ったばかりじゃないですか!
一同 (笑)。
町屋 そういうコラボもぜひともやってみたいですね。
プロフィール
和楽器バンド(ワガッキバンド)
ボーカル、箏、尺八、津軽三味線、和太鼓、ギター、ベース、ドラムからなる8人組バンド。個々にプロとしてアーティスト活動するメンバーが、ニコニコ動画にアップした“演奏してみた”動画などを通じて集合し、2014年4月にボーカロイド曲のカバー集「ボカロ三昧」をリリースした。2015年9月にはオリジナル曲を中心とした2ndアルバム「八奏絵巻」を発売。2016年1月に初の東京・日本武道館での単独公演「和楽器バンド大新年会2016」を即日完売で成功させ、同年3月にはアメリカ・テキサス州オースティンで開催された世界最大級のフェスティバル「SXSW 2016」にも出演した。2019年6月にユニバーサルミュージックへの移籍を発表。2020年2月末、3月1日に東京・両国国技館で開催予定だった「大新年会2021」がコロナ禍により中止となるも、8月に神奈川・横浜アリーナで各日5000人を動員する2日間の有観客公演を敢行した。2022年にはデビュー8周年を迎え、8月にボカロ曲カバー集の第2弾となる「ボカロ三昧2」をリリースした。
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ツミキ
2017年にボカロPとしての活動をスタート。初めて投稿した楽曲「トウキョウダイバアフェイクショウ」がニコニコ動画で殿堂入りを果たす。2021年2月には自身初のフルアルバム「SAKKAC CRAFT」をリリースした。また、みきまりあ(ぷらそにか)とのユニット・NOMELON NOLEMONとしても活動している。
ツミキ / NOMELON NOLEMON | YouTube
衣装提供:ROLLING CRADLE
かいりきベア
2011年にボカロ曲「ワカレノオト」を投稿し、アーティストとしての活動をスタートさせる。2018年8月に投稿したボカロ曲「ベノム」が大ヒットを記録。2020年1月には、多数のボカロPが参加するリミックスアルバム「ベノマ」をリリースした。