“町屋”が“街屋”に改名?
──後半の2曲は書き下ろしの新曲ですね。まず「ブルーデイジー」はとてもノスタルジックな曲で、思えば和楽器バンドは常にある種のノスタルジーというか、過ぎ去った過去や“古きよき時代”に思いを馳せる楽曲が多いですよね。
町屋 人って2種類のタイプがあると思うんですよ。過去を振り返らずに前を向いて歩いていけるタイプと、過去をいちいち振り返りながら進むタイプ。僕は明らかに後者なので(笑)、こういう曲になっちゃうんですよね。「ブルーデイジー」は特に回想シーンが多めで、「それでも現在は進行していて未来へ続いていく」というテーマが込められています。歌詞も、僕の生まれ育った北海道の田舎を思い出しながら書いたので、1番のサビの“オレンジ色の町並み”のところは「町」になっている。つまり人口5万人未満の地域なのですが、2番のサビの“もしもこの街の片隅で”のところは「街」になっていて、主人公は現在人口5万人以上の地域に移り住んでいることがわかるんですよ(笑)。
鈴華 和楽器バンドが売れたら“町屋”も“街屋”に改名しなきゃね。
一同 (笑)。
町屋 僕は自分の経験していないことや想像できないことは歌詞にできないんですよね。例えば「Starlight」や「生命のアリア」は、作品ありきでその世界観に自分を寄せていくことによって、自らの想像力を超えることができるんですけど、「ブルーデイジー」のような書き下ろしの場合は、僕の記憶の中を掘り起こしていく作業になる。廃線になった地元の電車とか、帰る場所のない回送列車とか。
鈴華 そういえば、この曲は歌う前に「イメージ映像を全部送ってほしい」とまっちー(町屋)に頼みました。そうしたらイメージマップを送ってくれたよね?
町屋 そう。初めて今回イメージマップを共有したんですけど、言葉でいろいろ説明するよりも一発で伝わるので、すごくいい手段だなと思いましたね。きっとアレンジを詰めるときにも便利だし、音楽制作におけるイメージマップの活用はものすごく可能性があるなと。
蜷川 あと、やっぱりノスタルジックな世界観って、和楽器との相性がすごくいいと思う。
いぶくろ そうだね。構造がシンプルなので。昔から使われている楽器、シンプルな楽器って人にノスタルジックな思いを呼び起こさせると思う。
鈴華 確かに。不器用で素朴だからこそというか。しかも三味線だったら、海外の人たちは自分たちの国にある同じような撥弦楽器にイメージを置き換え、そこにノスタルジーを感じ取りながら聴いてくれている気がする。そういう意味では国内外問わず、伝えたいことはちゃんと伝わっているのだと思いますね。
町屋 あと、三味線の“さわり”(不規則な振動音の1種)。民族楽器は歪ませるのが好きで、シタールにも“ジャワリ”というのがあるのですが、それもノスタルジックな気分を盛り上げますよね。民族楽器特有のピッチの不安定さとか。
鈴華 12音階の合間を行ったり来たりできるところとかね。あと、和楽器には自然音とか、動物の鳴き声とか、そういう技法も多いから、自然の風景を描写しやすいんですよね。そういうところにも人はノスタルジーを感じ取るのかなと思います。
気持ちを成仏するパワー
──本作最後に収録された「雨上がりのパレード」の「雨上がり」とは、コロナ収束後の世界のメタファーなのかなと思いました。
町屋 ご時世的にも、今回は底抜けに明るい曲を作ってそれで終わりたかったんです。最初にタイトルを考えて、サビのメロディのピークにそれをはめて、そこから歌詞を考えていきました。内容に関しては、書いているままのことがテーマですけど、本作を1曲目から順番に聴いて最後にスカッとしてもらえたら一番いいなと思っていますね。
鈴華 この曲はロックっぽく歌うか、アニソンっぽく歌うか、どちらにするか迷ってまっちーに相談したところ、「聴いた人がときめくような声で歌ってほしい」と言われたので、さわやかでかわいらしい歌い方を心がけています。
──この曲には「そして今、この気持ちを あなたに伝えてみるから」や、「心を通わせたのなら」といったフレーズが出てきます。「ブルーデイジー」にも「想いは伝わるだとか 言葉は生けるだとか」、「生命のアリア」にも「胸の奥底に閉まった手紙」など、思いを伝えたい、つながりたいということも町屋さんにとって大きなテーマなのかなと思いました。
町屋 そうですね。僕は普段、あまり自分の思いを言葉にしないので、きっと音楽で伝えたいという思いが歌詞に表れているのだと思います。
鈴華 音楽を聴くのって少ししんみりしているとき、気持ちが落ちているときが多いと思っていて。ポジティブなことを最後に持ってくるのはもちろん大事だけど、そこに至るまでのネガティブな気持ちというのも歌詞に入れることも、聴いた人に共感してもらうためにはすごく大事なんだなと改めて思いました。
蜷川 ネガティブな気持ちを歌詞にしたり、メロディにしたりするからこそ美しいなと個人的には思うんですよね。現実だとそういう気持ちってなかなか表に出せないじゃないですか。それを昇華できるからこそ音楽は芸術だなと昔から思っています。
町屋 気持ちの“成仏”だよね。
蜷川 そうそう(笑)。音楽によって自分のネガティブな気持ちが成仏されていく感じがする。
鈴華 きっと、そういうところに共感って生まれるのだと思うんですよね。コロナ禍で「やっぱり音楽ってそういう力があるよな」と自分の曲でも思うし、他人の曲を聴いていても思うようになりました。
──この曲も「Starlight」と同じく、聴き進んでいくにつれてリズムが大きく変化していきます。そういうドラマティックな構成は、ネガティブな気持ちからポジティブな気持ちへと変化していく心の動きを表してもいるのかなと。
町屋 そうですね。作品を通してもそうだし、曲単体で聴いてもなるべくそうなるようには作っています。
和楽器バンドが持つ包容力とは
──ハードな印象だったアルバム「TOKYO SINGING」(2020年10月発売)に比べて、今回は全体を通じてさわやかで明快な曲が増えているように感じました。
町屋 「TOKYO SINGING」はわりと意図的というか、原点回帰をしていく中でヘビーなサウンドになっていったところがあります。それに対し、タイアップ曲の場合はドラマサイドの意向とすり合わせていった結果、こういう曲調になった部分も大きいですね。さっきも話したように、ドラマの中で流れるわけだから、映像をちゃんと盛り上げる曲作りを心がけました。
──この作品を経て、和楽器バンドはどこへ向かっていきたいですか?
鈴華 今までは「和楽器バンドってこうでしょ?」というイメージがけっこう定着しているところがあったと思うんですけど、この作品がリリースされることで、和楽器バンドってこんなこともできるんだ、なんでもありなんだなというのが広がっていくといいなと思いますね。自分たちはもともとジャンルにとらわれず作品を作ってきたつもりだし、今後もそこをさらに広げていけたらいいなと思っています。
──鈴華さんの歌い方も、どんどん自由度が高くなっている感じはありますよね。
鈴華 初期の頃はある意味個性をしっかり出して、いろんな音楽ジャンルがある中であえて詩吟の歌い方を取り入れたりしていたんですけど、それってある意味では個性を殺しているというか。どんな楽曲にも詩吟の要素を入れることにこだわっていたんです。でも最近は、楽曲のよさを引き出すためにはどういう歌い方がいいかを中心に考えるようになってきて。特に今作では、曲ごとに求められたボーカルスタイルを忠実に再現していくことに徹しました。言い換えれば、どんなボーカルスタイルでも和楽器バンドたり得る包容力が、私たちの強みだということですよね。
町屋 それと、海外進出に向けた活動も引き続きやっていきたいよね。
鈴華 そうそう。今はコロナ禍ですけど、その中でもできることを探していきたい。例えば「生命のアリア」のような、海外の人にも刺さる楽曲もちゃんと作っていくつもりです。海外向けと日本向けのメリハリをちゃんとつけながら、これからもしなやかに活動していきたいですね。