こんな私たち、どうですか?
──「Ignite」は町屋さんの作詞作曲です。1990年代のデジロックを彷彿とさせるアグレッシブな楽曲ですが、この曲はどうやって作っていきましたか?
町屋 “New Beginning”というテーマに沿った曲です。「こんな私たち、どうですか?」っていう。こういうグルーヴ感の曲は今までの和楽器バンドになかったし、歌詞の1行目から英語を使ったのも僕らとしては新しい。ラップは「拍手喝采」という曲でもチャレンジしましたが、ここまでガッツリやったのは初めてでした。あと、楽曲のどこを切り取っても使えるものにしたかったというか、同じ熱量が感じられるようにしたかったんですよね。しかも、1セクションの尺が15秒になっているんですよ。どこからでもCMに使ってもらえるように。
──そんなことまで考えていたとは。ミュージックビデオもとても印象的でした。コンテンポラリーダンスとのコラボや、白バックのスタイリッシュな映像など、これまでの和楽器バンドの世界観とはまた違った魅力があふれていて。
鈴華 ありがとうございます。個人的な話をすると、衣装が今までのバンドっぽさからかけ離れていて。いつも衣装はライブでも使えるものという発想で作っていたんですけど、今回そこは度外視してあくまでもMVの映像として映える衣装や靴を選んでいるんです。例えば袖は振袖じゃないから、扇子を回すと絡まっちゃったりして(笑)。撮影当日に急遽踊り方を変えたりもしました。ピンヒールやミニスカートを履いて私が見せる所作が、品がなく見えてしまったら台無しなので、その調整にも苦労しましたね。本番直前まで鏡の前で確認していました。あと、コンテンポラリーダンサーの方とは違う動き方をしてコントラストを作ろうとも思いましたね。
町屋 白をバックに僕らはモノトーンを基調とした衣装だったんですが、それに対してダンサーの方は火をイメージした赤い衣装を着てくださっていて。
鈴華 「なんか日の丸みたいだね!」って言ってくださった方がいて。そこは自分たちでも意図していなかったので、面白いなと思いました。
「別れ」を経て未来に
──次の「IZANA」は鈴華さんの作詞作曲ですが、これは「古事記」や「日本書紀」に登場するイザナギとイザナミをモチーフにしているのでしょうか。
鈴華 そうです。でも、それだけじゃなくいろんな意味を込めたかったので、「誘う(いざなう)」という意味も込めて「IZANA」にしてみました。パッと聞きはファンタジーを歌っているように聞こえると思うのですが、オーケストラも導入してすごく壮大なアレンジにしていて、実質的には全然ファンタジーじゃないことがテーマなんです。去年は災害も多い年で、「なんでこんなことが自分の身に降りかかるんだろう」と思うことも多くて。そのことはもちろん、小さなものも含めて別れを経て人は未来に進んでいくということを歌いたかったんです。個人的にはとても大切な曲になりましたし、聴いてくださった人が苦しみから解き放たれていくような気持ちになってくれたらうれしいです。
──この曲は町屋さんとのデュエットも印象的です。
鈴華 実はバラードでデュエットというのは今までなかったので、歌謡曲っぽくなりすぎないように気を付けました。イザナギとイザナミが天と地で包み込むようなイメージがあったので、アレンジをお願いした町屋さんにはあえて普段のキーの1オクターブ下で歌ってもらって。上げようとしたのをダメ出ししまくりました(笑)。私は町屋さんの低い声がすごく好きで、この曲でフィーチャーできたらすごく素敵だなって。また1つ、和楽器バンドの新たな魅力を引き出すことができたと思いますね。
──亜沙さん作詞作曲の「情景エフェクター」は“Special Thanks”がテーマで、ファンへのメッセージも込められているのかなと思いました。
町屋 それもあって、この曲はかなりライブを意識したアレンジになってますね。クラップを入れたり、今回初めて8人全員でコーラスしたり。嫌がるメンバーも半強制的に参加させました(笑)。
黒流 自分も歌うってことを、スタジオで初めて聞かされましたからね。太鼓の録音が終わって、さあ帰れると思ったら「ヘッドフォンをして録音ブースに入って」と言われ、「はあ?」みたいな(笑)。和太鼓に関しては、ループを基軸としたトラックの上であまり弾きすぎないよう、ある意味ではEDMの延長線上のような音像を目指しましたね。
やりたい音楽を丁寧に
──来年は東京オリンピック・パラリンピックも開催され、日本のカルチャーにより注目が集まると思いますが、日本の文化を世界に発信している和楽器バンドとして何か抱負はありますか?
黒流 和楽器バンドは和楽器バンドとして今まで日本と向き合い音を作ってきたわけですから、一過性のムードに乗るのでもなく惑わされるのでもなく、いつも通りの僕たちで日本と向き合いながら音楽を作っていきたいです。東京オリパラも、始まりがあれば終わりがあって。むしろ終わったあとにそこで途切れてしまわないよう、常にカッコいい音楽を作り続けていきたいなと。
町屋 ただ、目標が1つあれば、そこに向かってみんなが同じ方向を向けるので、そういう意味では目標設定というのはいいと思うんですけど。基本的には真摯に向き合って音楽を作ることに尽きますね。
鈴華 とにかくこれまで怒涛の5年間で、目の前にあるものを必死でやってきた感じなんですけど、我々が思い描いていた景色がやっと見えてきたところなので、ここからはやりたい音楽を丁寧に作り込むことができたらいいなと思っています。個人的にはもっと歌がうまくなりたいですね。日本代表として発信していくパワーを身に付けるために、もっと音楽やボーカルを勉強して大きくなっていきたい。世界に挑戦するってそういうことなのかなと思っています。
──2月には「Premium Symphonic Night」という、バンドとオーケストラを融合したライブも開催されますね。
町屋 今回が2度目の開催となります。最初はこのスタイルがファンに受け入れてもらえるのか心配していたところもあったんですけど、蓋を開けてみたらすごく評判がよくて。特に海外からの問い合わせも多くて「これは何の心配もなく2度目ができるな」と(笑)。
黒流 各パートによって感じる部分は違うかと思いますが、オーケストラとの音の調和をより強く意識することによって、各楽器のフレーズの作り方や演奏方法に変化が生まれたことを前回のコラボで感じました。個人的には前回のコラボから和太鼓それぞれの音が気になり、その後のレコーディングでも曲のキーと和太鼓の音程の調整もさらに工夫するようになりましたし、それぞれのパートもいい方向へ進化したと感じています。指揮者に合わせる演奏もバンドとしてはとても新鮮でしたね。あくまでも芯はブレないよう気を付けながら、今後もこういう斬新な試みによって和楽器バンドのいろんな面を見せていけたらいいなと思います。
──「Premium Symphonic Night」に続いては、オリンピックの会場でもある東京・両国国技館を舞台とした「大新年会 2020 天球の架け橋」が2月29日、3月1日の2日間にわたって開催されます。「大新年会 2019」は埼玉・さいたまスーパーアリーナが舞台でしたが、今年の「大新年会」はどんなライブにしたいですか?
黒流 移籍後初の大きなライブとなり、スタッフも入れ替わって初めての大新年会になるので、和楽器バンドとしての“これから”をファンの皆様に確認してもらう位置付けのライブだと認識しています。移籍に伴い、今年は会場が取れずに開催することができないかと思っていましたが、スタッフチームの方々のおかげで奇跡的に大新年会を行うことができたので、心からうれしかったし、今の和楽器バンドをしっかりと表現したいと思っています。
──「天球の架け橋」というタイトルにはどのような思いが込められているんでしょうか?
黒流 ここ最近の大新年会のタイトルが「明日への航海」「竜宮ノ扉」と続いていたので、移籍した今回は、そこから陸に出て空へ向けて突き進んでいくイメージがまず浮かびました。そんな中、「天球」という単語が以前ほかの話し合いのときにいぶくろ聖志(筝)から出ていたことを思い出し、ライブミーティングで提案したんです。ユニバーサルさんと新たに歩み出した自分たちの現状と「和楽器バンドから地球規模で世界中にメッセージを発信する」というテーマがとてもリンクしているとも感じたし、「天球の架け橋」というタイトルにしました。「架け橋」なので、一方通行ではなく、世界中のファンの思いもこの両国国技館に、和楽器バンドのステージに集められればとも思っています。
ライブ情報
- 和楽器バンド Premium Symphonic Night Vol.2 ライブ&オーケストラ~ in 大阪城ホール 2020
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2020年2月16日(日)大阪府 大阪城ホール
- 和楽器バンド 大新年会 2020 両国国技館 2days 天球の架け橋
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- 2020年2月29日(土)東京都 両国国技館
- 2020年3月1日(日)東京都 両国国技館