和楽器バンドのニューアルバム「オトノエ」は、“音の絵”をイメージさせるタイトルの通り、音のミュージアムをテーマに制作された作品。1曲ごとにさまざまな表情を見せる彩り豊かなこのアルバムを作るため、今回彼らはサウンド面で、過去には行ってこなかったアプローチに積極的に取り組んでいる。
“和楽器と洋楽器の融合”というバンドの個性を確固たるものにしながら、徐々に音楽性の改革を推し進め、今作である一定のゴールにたどり着いたように見える和楽器バンド。理想的な進化を遂げているとも言える彼らは、これまでどのような思いで活動を続けてきたのか。メンバー8人に話を聞いた。
取材・文 / 阿刀“DA”大志 撮影 / 草場雄介
4年間の活動をリセットして、今後の方向性を考えるタイミングだった
──まず、昨年11月にリリースしたベスト盤「軌跡 BEST COLLECTION+」の話からお聞きしたいんですが、発売から半年近くが経過した今なおチャートインを続けているロングヒットになっています。
鈴華ゆう子(Vo) そうなんですか!? すごい。やった!
──この結果を受けての感想はいかがですか?
鈴華 初動売上に関しては、これまでで最高だった「ボカロ三昧」(2014年4月リリースの1stアルバム)を超えていて、この勢いのままいけば一番いい結果を残せるという話は知っていました。これはみんなで話し合って、タイミングを見計らってリリースした結果なので充実感がありますね。あと、今作「オトノエ」を作ることは「軌跡」を作っている頃からすでに決まっていたんですが、実は「軌跡」と同じタイミングで「オトノエ」を出すというアイデアもあったんですよ。だけど、本当にそれでいいのかということをみんなで話し合って、まずはメジャーデビュー5年目を迎えるタイミングでこれまでの集大成としてベスト盤を出す、そして、そこから時間を空けずにコンセプチュアルなアルバムを出すということに決めたんです。
──そうだったんですか。
鈴華 「軌跡」は自分たちの名刺代わりの1枚にすることを意識して、手にしてくださる方が多いだろうということを見越して、次のアルバムにつながる新しい一面を見せるための新曲を3曲入れました。なので、ただのベスト盤ではなく、ちゃんと今作につなげるという役割を果たせたと思います。
──ベスト盤は新曲の制作が追いつかないときとか、契約の事情でリリースされるケースも多いと思うんですが、今回はこんな短いタームで新作を出す運びになっていますし、そういうパターンには当てはまらないんだろうなと思いました。
いぶくろ聖志(箏) 僕らの場合、「軌跡」をリリースする直前までDVDやBlu-rayでシングルを作っていて、去年の9月にリリースしたシングル「雨のち感情論」でCDに切り替えたんですけど、その頃から音作りも変えているんです。そういった意味でも、「軌跡」でいったん区切りをつけて、和楽器バンドの新しい可能性を探っていくいい機会だったんじゃないかなと。
蜷川べに(津軽三味線) あと、海外にも視野を広げていろんな国でライブをしてきた私たちにとって、一度立ち止まって今後の方向性を考えるタイミングでもあったんですよね。そこでまずは日本の人たちに「和楽器バンドとはなんぞや」ということを知ってもらおうという意図もあったんです。
町屋(G) これまでの4年間の活動をリセットして、そこで培った経験を5年目以降にどうやって打ち出していこうか、いろいろなパターンをスタッフ含めてみんなで考えた上でのベスト盤のリリースなんです。ただ、レコーディングもその分詰め詰めで進めたので、スケジュール的には大変でしたね。
我々がアーティストとしてどう表現できるか世間から問われてくる
──ベスト盤について、リスナーからはさまざまな反応があったと思います。
神永大輔(尺八) 新曲「シンクロニシティ」は、ミュージックビデオを作ったこともあってインパクトの強い曲になったのかなあと。「和楽器バンドってこういう音楽もやるんだ!」っていう反応が多くて、僕たちとしても自分たちの幅を広げられた曲だし、今回のアルバムにうまく踏み出せたと思います。
山葵(Dr) 「オトノエ」への布石になりましたね。
──「オトノエ」を聴いて、「軌跡」の新曲3曲の重要性を改めて感じました。一方、「軌跡」以降、メディア露出の機会も多くなりました。「ミュージックステーション」や朝の情報番組に出演したり、コンビニの店内放送で皆さんがトークをしていたり、宣伝面でも和楽器バンドはネクストステージに入ってきたという印象を受けます。
鈴華 もちろん、それもシミュレーションした中の1つで、「日本のバンドと言えば和楽器バンドだ」という位置付けにしていきたいという思いがあってのことなんです。でも、いったんツアーに入ってしまうと、一般の皆さんは「和楽器バンドって今、何してるんだろう?」ってなりがちだと思うんですね。そうならないように、「ここでこういうことをやっていこう」と年間スケジュールを組み立てているので、今のところ、それがうまくいってるんじゃないかと思います。
──そういった動きと連動するかのように、楽曲の幅が広がってきてると思うんですが、音楽性を徐々に広げていくことは結成当初から構想の中にあったんですか?
町屋 メンバーそれぞれの音楽的なバックボーンが違うんで、最初の頃はみんなが作ってくる曲の方向性も当然違っていたんです。でも活動の初期段階であまりに振り幅が大きすぎると「この人たちは何がやりたいんだろう?」ということになってしまうので、この4年間はバンドサウンドのイメージ付けを意識してやってきました。だけど、これからはサウンドのイメージ付けというところからさらに1歩踏み込んだ、音楽的だったり文化的だったりする部分で、我々がアーティストとしてどう表現できるか世間から問われてくると思うんです。
自分たちがやりたいことをやるのも大事だけど、それだけではダメ
──ただ、楽曲に幅を持たせていくことってちょっと怖い側面もあると思うんです。さまざまなアーティストが新たな方向に舵を切って、リスナーが「ああ、そっちに行っちゃったかあ」とがっかりするケースも考えられます。でも和楽器バンドは、リスナーにそういう変化や進化を変に意識させない展開を見せているのが巧みだなと。
町屋 それはメンバー編成が特殊だからだと思います。ほかにはなかなかないこのサウンド自体が和楽器バンドである、という認識になってきてる。
亜沙(B) 音楽性ってどんなバンドでも変わっていく部分があると思うんですよ。人間だって時間と共に考え方は変わるじゃないですか。俺は、今日考えてることと明日考えることが違ってもいいと思うんです。実際、1年前に自分が作りたかったものと今作りたいものは違うと思うし。だから、俺個人としては変わっていくことは普通だと思ってます。もちろん、変わらないものもありますけどね。でも、もちろんリスナーあっての音楽活動だと思うから、もし今回の「オトノエ」に対してリスナーさんが違うと感じるのであれば、そのときは俺たちも自分たちの方向性について考えると思います。
鈴華 亜沙が言ったことは本当にそうで、この4年間、私たちは各メンバーの器用さと柔軟性を長所にしてきたバンドなんですけど、皆さんが私たちの作品に対してどう思っていて、何を求めているのかっていうことに対してけっこうアンテナを張っていて、その結果を受けて舵を切ったりするんですよ。だから今回のプロモーションでも「『オトノエ』の次にどういうことをしようと考えているのか」って聞かれることがあるんですけど、何も決めてないんです。
亜沙 自分たちのやりたいことをやるのももちろん大事だと思うけど、それだけでもダメだと思うんですよね。俺たちは横浜アリーナをソールドアウトできるぐらいのバンドになりましたけど、そうやって支持をされたことにはなんらかの理由があるわけだから、そこはリスナーさんの意見を聞いて、常にプロとして考えていかなくてはいけないことなのかなあと思います。
神永 あとは、メンバーが8人もいる大所帯バンドだということと、メンバーそれぞれのキャラクターが被ってないというのも大きいと思うんですよね。今、和楽器バンドがどうなっているのか、次にどう進んでいったらいいのかっていうことを突き詰めて話していくと、全員近いことを感じているのに、それに対する解決法はそれぞれ違う案が出てくる。少人数のバンドだと1つの方向に突き進んじゃうこともあると思うんですけど、和楽器バンドはみんなでバランスを取りながら進んでいるんです。
黒流(和太鼓) 邦楽自体、「三味線はこう」「和太鼓はこう」といった普遍的な伝統を見せる世界で、それは今後も変わるものではないと思うんですね。でも僕たちはそうではなくて、この編成でやるんであればリスナーの皆さんの意見も聞いて、自分たちがカッコいいと思うものを作ってきたい、そして変わり続けていかなきゃいけないと思ってます。
亜沙 まあ、1年後には「伝統が大事だ!」って言ってるかもしれないですけどね。
全員 (笑)。
黒流 もし俺がそうなったら会社の力でクビにしてね(笑)。
──ボカロ曲をカバーした1stアルバム「ボカロ三昧」の原理主義者みたいなファンはいないんですか?
鈴華 わからないけど、いるんじゃないですか?
亜沙 なんでもそうですけど、最初に聴いたときの衝撃って大きいと思うんですよ。だから、「ボカロ三昧」から入った人たちにとっては、当然「ボカロ三昧」が大きい。逆に、「四季彩」(2017年3月リリースの3rdアルバム)から入った人にとっては「ボカロ三昧」はしっくりこないかもしれない。
鈴華 本当にそうだよね。Twitterを見てても、こないだ出たMステがきっかけっていう人もいるし、「戦 -ikusa-」(2015年2月リリースの映像シングル)から入った人もいるし。
山葵 それは結果としていいことだと思っていて。「ボカロ三昧」から聴き始めた若い層も多いと思うし、「四季彩」で初めて知ったという人の中には年配の方もいらっしゃると思うんです。そうやって親子ぐらい年齢の差が生まれていたりもするので、親子の間で和楽器バンドというワードで会話が成り立って、一緒にライブに来てくださったりすることもあるし。
神永 「ボカロ三昧」の時点で、リスナーの方が和楽器バンドに対していいと感じているポイントはすでにバラバラだったと思うんですよ。だからむしろ、「ここだ!」って1つに絞るのは怖いし、逆に言うとどういう捉え方をしても正解なんです。
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これまで進化することをあえて拒否してきた理由
- 和楽器バンド「オトノエ」
- 2018年4月25日発売 / avex trax
-
MUSIC VIDEO盤
[CD+Blu-ray]
4968円 / AVCD-93870/B -
MUSIC VIDEO盤
[CD+DVD]
4104円 / AVCD-93869/B -
LIVE映像盤
[CD+Blu-ray]
5184円 / AVCD-93872/B -
LIVE映像盤
[CD+DVD]
4320円 / AVCD-93871/B -
CD ONLY盤
[CD]
3024円 / AVCD-93873
- CD収録曲
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- 細雪
- 「儚くも美しいのは」
- 雪影ぼうし
- 君がいない街
- World domination
- 独歩
- 沈まない太陽
- パラダイムシフト
- 風立ちぬ
- 紅蓮
- 砂漠の子守唄
- 天上ノ彼方
CD ONLY盤 ボーナストラック
- オキノタユウ-Live ver.-
(from 和楽器バンド Premium Symphonic Night ~ライブ&オーケストラ~ in大阪城ホール)
- MUSIC VIDEO盤DVD / Blu-ray収録内容
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- 雪影ぼうし (MUSIC VIDEO)
- 細雪 (MUSIC VIDEO)
- 細雪 for Piano and Symphonic Orchestra (MUSIC VIDEO)
- 砂漠の子守唄 (MUSIC VIDEO)
- 細雪 (MAKING)
- 砂漠の子守唄 (MAKING)
- LIVE映像盤DVD / Blu-ray収録内容
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- 「和楽器バンド Premium Symphonic Night ~ライブ&オーケストラ~ in大阪城ホール」より 第2幕「和楽器バンド×The WGB Symphonic Orchestra」
- オフショット
- 和楽器バンド TOUR 2018 音ノ回廊
-oto no kairou- -
- 2018年4月28日(土)
埼玉県 川口総合文化センターリリア - 2018年4月30日(月・振休)
茨城県 茨城県立県民文化センター - 2018年5月3日(木・祝)
北海道 わくわくホリデーホール - 2018年5月6日(日)
京都府 ロームシアター京都 - 2018年5月12日(土)
静岡県 静岡市民文化会館 中ホール - 2018年5月16日(水)
島根県 島根県民会館 - 2018年5月19日(土)
岡山県 岡山市民会館 - 2018年5月20日(日)
広島県 上野学園ホール - 2018年5月25日(金)
熊本県 市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館) - 2018年5月27日(日)
福岡県 福岡市民会館 - 2018年6月2日(土)
愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール - 2018年6月3日(日)
福井県 フェニックス・プラザ - 2018年6月9日(土)
兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール - 2018年6月16日(土)
神奈川県 カルッツかわさき - 2018年6月23日(土)
福島県 とうほう・みんなの文化センター(福島県文化センター) - 2018年6月24日(日)
岩手県 北上市文化交流センター さくらホール - 2018年6月29日(金)
高知県 県民文化ホール オレンジホール - 2018年6月30日(土)
香川県 ハイスタッフホール - 2018年7月7日(土)
富山県 高周波文化ホール - 2018年7月8日(日)
長野県 まつもと市民芸術館 - 2018年7月16日(月・祝)
東京都 東京国際フォーラム ホールA - 2018年7月22日(日)
新潟県 新潟県民会館 - 2018年7月28日(土)
沖縄県 ミュージックタウン音市場 - 2018年8月5日(日)
宮城県 仙台サンプラザホール - 2018年9月1日(土)
大阪府 大阪国際会議場 グランキューブ大阪 メインホール - 2018年9月2日(日)
大阪府 大阪国際会議場 グランキューブ大阪 メインホール
- 2018年4月28日(土)
- 和楽器バンド(ワガッキバンド)
- ボーカル、尺八、箏(琴)、津軽三味線、和太鼓、ギター、ベース、ドラムからなる8人組。個々にプロとしてアーティスト活動するメンバーが、ニコニコ動画にアップした“演奏してみた”動画などを通じて集合し、2014年4月にエイベックスからVocaloid曲のカバー集「ボカロ三昧」をリリースした。同年8月には初のオリジナル曲となるDVD / Blu-ray「華火」を発表。2015年1月の東京・渋谷公会堂公演、5月に台湾で行ったメジャーデビュー1周年記念ライブのチケットはいずれもソールドアウトとなった。9月にはオリジナル曲を中心とした2ndアルバム「八奏絵巻」を発売し、10公演の全国ツアーを実施。2016年1月に初の東京・日本武道館での単独公演「和楽器バンド大新年会2016」も即日完売で成功させ、同年3月にはアメリカ・テキサス州オースティンで開催された世界最大級のフェスティバル「SXSW 2016」にも出演した。2017年9月に初のシングル「雨のち感情論」をリリース。同年11月に初のベストアルバム「軌跡 BEST COLLECTION+」を発表し、2018年5月に5枚目のアルバム「オトノエ」を発売した。