音楽ナタリー Power Push - 和楽器バンド

和楽器隊、洋楽器隊、ボーカリストがそれぞれ語った現在のモード

3. ボーカル 鈴華ゆう子編

まだまだ満足してない

──アルバムがヒットして、初の全国ツアーは全公演チケット完売。バンドは快挙続きです。当事者としてはどう考えていますか?

鈴華ゆう子(Vo)

そうですね。でも確かに家族や友人、ファンの方から「すごいね」って言ってもらえるし、客観的にもすごいことだとは思うんですけど……私の気持ちとしては「まだまだ」というのが正直なところです。

──鈴華さんはずっと「まだ」って言い続けてますね。音楽ナタリーで和楽器バンドのインタビューをするのはこれで3度目ですが、毎回言ってるなと(笑)。

「よし! これでOK」って満足したことがない……というか現状については自分の想像の域を超えないんです。「どうすれば私がやりたいことを全部表現できるだろう」って考えて、詩吟や詩舞をやったり音大を目指してピアノをやったりしたのちに和楽器バンドという場所を見付けることはできたんですが、あくまでそれは基盤ができたというだけで。

──まだ理想の場所が見付かっただけだと。

はい。それに私たちのことを知ってくださる人がどんどん増えて「こんなことをしたらどうか」「海外はどうか」っていろんなお話をしていただくと、やりたいことが次から次に増えていくのでもう体が足りなくなるというか(笑)。それに、楽しみな出来事が増えたらその分私たちも進化しなきゃいけないって思いますし。デビューしてから今までのスピード感はすごかったと思いますが、それでもやっぱり「まだまだ」です。

──鈴華さんだけじゃなくて同じ思いをメンバー全員が持っていそうですね。

きっとそうだと思います。お互いを知れば知るほど新しい欲が生まれますから。バンドには「こういうこともできるね」っていつも言ってるようなメンバーがそろってます。

──大変ですね。

でもうれしいんですよ。私がずっと周りに言ってきた「尺八や琴ってカッコいいっしょ?」ってことを見せることができているので。

──和楽器バンドという形で。

はい。バンドを通じて「日本人だったらこの音を聴いてうずくでしょ? 震え上がるものがあるっしょ?」ってことを多くの人と共有できるのがすごくうれしいんです。しかも楽しさを共有するためにはまず私たち自身のことを知ってもらわなきゃって思ってたので、私たちを知ってくれて、かつファンとして魅力を代弁してくれる方が増えたことにすごく感謝しています。ファンになっていただいて「なぜ洋楽器と和楽器を融合させたのか」っていうようなことを知ってくださる方々が今は国内外にいるんです。海外のファンの方の中には翻訳がすごく難しいはずの和楽器のこともきちんと訳して広めている人もいて。それに「日本カッコいい」って思いを伝えてくれる人も以前より増えたように感じるんです。ありがたいですよね。

日本の魅力を今に残す

──バンドの活動目的の1つとしてあった「和楽器のカッコよさを伝える」という広報的な役割は果たしていると。一方でロックバンドとしても表現力を高めています。野音では和楽器の音をバンドサウンドを構成する一要素として純粋に楽しめました。

もともと和楽器って、なんとなく「すごい」って思われるだけのような感じだったと思います。その楽器をバンドの音の1つとして聴けたっていうのは、すごく私たちの感覚に近いものを感じてくださったのかなと。私たち自身和楽器が特別なものだとは思ってはいないんですよね。「ギターってカッコいいよね、俺も弾いてみたいな」と同じ感覚で尺八、三味線っていいよねって言ってもらえる、浴衣を着るようなカジュアルな感覚でもっと身近に感じてもらえるっていうきっかけをこの時代で作りたいと思ってるんです。そうすれば和楽器がもっと残っていくよねって。

──そこも「日本のもの」を残していく活動の一環だと。

はい。私たちは和楽器以外にも日本で生まれたものがすごく好きで。例えば今私が身に付けてるこのかんざしもそうなんですが、実はこれを作る職人さんが減ってきているんです。私はそういうものをたくさん使って、その魅力を多くの人に知ってもらうことで技術が残るようになればと思っていて。例えば刀とかも職人がいて伝統が受け継がれているんですけど国内の職人があまりに少ないから、その魅力を知った海外の人が伝統を受け継ぐってこともあるので。私たちに興味を持ってもらって、結果としていろんな方に日本のものに興味を持ってもらいたいなと思っています。

歌への欲求が一番

──鈴華さんが日本文化のプレゼンター的な役割を意識して活動しているのはこれまでのインタビューからも伝わってくるのですが、歌うときもその気持ちを背負ってパフォーマンスをしているのでしょうか?

鈴華ゆう子(Vo)

私が歌ってるのは、単純に歌が好きだからっていうことに尽きるんです。カラオケは子供の頃から好きでずっと歌ってましたが、そこでは節調を使ってなくて。ボーカリストとしては詩吟が、伝統がどうってことはあまり意識していないですね。

──いち歌手として。

はい。人生において歌いたくないって一度も思ったことがないくらい好きで、さらに和楽器バンドのボーカルっていう舞台も用意されているっていう。こんなにありがたいことはないです(笑)。インタビューだとほかのメンバーもいるからあまり言ってはこなかったんですけど、私は超幸せだっていつも思ってるんです。「真ん中で歌わせてくれてホントにありがとう!」って(笑)。

──ははは(笑)。

そんなメンバーが大好きだからこそ1人ひとりの思いを背負って真ん中に立ってるっていう気持ちも強いですね。

思いを乗せて歌う

──「八奏絵巻」では3曲書いていますね。

はい。その中でも「風鈴の唄うたい」は自分がつらいと思った経験を曲としてメロディと歌詞、そして声で届けようとしました。いろんな思いを抱えたからこそ、ステージの上でそれを歌で表現できて誰かの心を癒やすことができるのかもしれないって。

──1stアルバムはボカロ曲のカバー集でしたが、今回の2ndアルバムはほぼオリジナルアルバムです。今後はオリジナル曲を中心に、自分の思いをダイレクトに込めて歌っていく?

そうですね。例えば「追憶」のように、2ndアルバムは節調をまるで使わずに歌った楽曲が増えました。「和楽器バンドのボーカルは詩吟でしょ?」ってだけじゃなくて、J-POPのアーティストとして、日本人歌手として、1人の女性として追求していきたいなと思ってます。色物に見え過ぎないような表現を目指してます。

──なるほど。

そもそも1stはリスナーの方にまず「何これ!? 和楽器? 詩吟?」って言わせる、和楽器バンドの技量を見せつけたインパクト重視の作品だったんです。2ndではオリジナル曲中心で、曲を書いたメンバーと話をして思いを汲んで歌うようにしたり、その人のことを知ってるからこその歌い方にしたりと表現や感情の幅を広げたんですよね。これからもやりたいことはいっぱいあります。まずはいい曲を書かなきゃなって思いますけど(笑)。

「千本桜」を超える

鈴華ゆう子(Vo)

──アルバム「八奏絵巻」には前作「ボカロ三昧」と同様に「千本桜」のカバーが収録されていました。それにライブのセットリストでもいつもここぞというところに「千本桜」が入っていますね。

「千本桜」のカバーをYouTubeにアップしたときの再生数はすごくインパクトがあったんです。そもそもの曲がいいですし、海外の視聴者がすごく増えるきっかけにもなりました。バンドとしてあれに敵うものを今後どのように作るのかっていうことを常に話しています。

──オリジナルアルバムと呼べる作品を作った今、もはやカバー曲を歌うのではなく新しいものを提示していくバンドになる可能性も高いですね。

そうですね。ただ「千本桜」は一生歌っていくと思います。私が目標としているのは「キーを下げずに歌うこと」ですね(笑)。これはこれとして、想像を超えられる曲もいつか作れたらと思っています。

「和楽器バンド 大新年会 2016 in 日本武道館」

2016年1月6日(水)東京都 日本武道館
OPEN 18:00 / START 19:00(予定)
ニューアルバム「八奏絵巻」 / 2015年9月2日発売 / avex trax
「八奏絵巻」豪華絢爛BOX
豪華絢爛BOX [CD+USB+2DVD+Blu-ray+写真集] / 15000円 / AVZ1-93228/B~E
「八奏絵巻」MUSIC VIDEO COLLECTION
MUSIC VIDEO COLLECTION [CD+Blu-ray] 4104円 / AVCD-93224/B
MUSIC VIDEO COLLECTION [CD+DVD] 3780円 / AVCD-93223/B
「八奏絵巻」LIVE COLLECTION
LIVE COLLECTION [CD+Blu-ray] 4104円 / AVCD-93226/B
LIVE COLLECTION [CD+DVD] 3780円 / AVCD-93225/B
「八奏絵巻」通常盤
通常盤 [CD] 2700円 / AVCD-93227
CD収録曲
  1. 戦-ikusa-
  2. 星月夜
  3. Perfect Blue
  4. 追憶
  5. 鋼-HAGANE-
  6. 風鈴の唄うたい
  7. 華火
  8. 郷愁の空
  1. 暁ノ糸
  2. 白斑
  3. なでしこ桜
  4. 反撃の刃
  5. 千本桜
  6. 華振舞
  7. 地球最後の告白を

    (※初回盤のみボーナストラックとして収録)

MUSIC VIDEO COLLECTION 収録内容
  1. 千本桜
  2. 華火
  3. 戦-ikusa-
  4. なでしこ桜
  1. 反撃の刃
  2. 暁ノ糸
  3. 反撃の刃
  4. 暁ノ糸
LIVE COLLECTION 収録内容
  1. 六兆年と一夜物語
  2. 華火
  3. 星月夜
  4. 戦-ikusa-
  5. なでしこ桜
  6. 箏Solo
  7. 郷愁の空
  1. 虹色蝶々
  2. 脳漿炸裂ガール
  3. セツナトリップ
  4. 天樂
  5. 千本桜
  6. チルドレンレコード
和楽器バンド(ワガッキバンド)

和楽器バンド

ボーカル、尺八、箏(琴)、津軽三味線、和太鼓、ギター、ベース、ドラムからなる8人組。個々にプロとしてアーティスト活動するメンバーが、ニコニコ動画にアップした“演奏してみた”動画などを通じて集合し、2014年4月にエイベックスからボーカロイド曲のカバー集「ボカロ三昧」をリリース。同年8月には初のオリジナル曲となるDVD / Blu-ray「華火」を発表。2015年1月の東京・渋谷公会堂公演、5月に台湾で行ったメジャーデビュー1周年記念ライブはいずれもチケットをソールドアウトさせた。9月にはオリジナル曲を中心とした2ndアルバム「八奏絵巻」を発売し、10公演の全国ツアーを実施。2016年1月に東京・日本武道館で単独公演「和楽器バンド大新年会2016」を開催する。