曲の主人公が許される
──本編の最後に置かれた曲「わたしの未成年観測」では、それぞれ収録曲で表現されていた世界観が交差する歌詞が書かれています。
全部つながってると言うと大げさなんですけど、フィクションを取りまとめるために「これは全部同じ世界線の話だった」という表現にしました。そうやって全部の曲の出来事を俯瞰で見ている人を曲の登場人物として出すことで、ほかのみんな、各曲の主人公が許された感じがするかなと思ったんです。
──「曖昧な感傷を、言葉に出来ないから 未成年だった。未成年だった。」という歌詞は、和田さんの“未成年観”が集約されているようにも思えました。
そうか。さっき「未成年とはどういう存在か?」って聞かれたとき、これをそのまま言えばよかったんだ(笑)。「曖昧な感傷を、言葉に出来ないから」というのは、なんとなく抑圧されて、なんとなく不安だけど、それをどう言えばいいのかわからない感覚を表してて。曖昧な感傷があるのは大人も一緒なんですけど、それを言葉で表現できないのが未成年なんだと思いますね。
──曲の最後に「わたしのアール」の登場人物である、自殺しようとしてる女の子の物語と接続して、アルバムの1曲目に戻っていく構成を取っていて。この楽曲があることによって、アルバム全体が1つの物語として完成度の高い作品になっていると思います。
ありがとうございます。今回は初回限定盤にマンガが付いてますけど、それはあくまで豪華な歌詞カードなんです。曲のコミカライズなので、歌詞だけで物語が展開していく形を取っていることもあって、単純にマンガとして見たら普通よりも読み応えに欠けるものにならざるを得ないと思うんですよ。であれば歌詞にストーリー的な面白さを入れる必要があると思ったので、こういうつながり方にしました。
動画の代わりになる提示方法
──アルバムの初回限定盤に付属するマンガには、和田さんの楽曲のMVを多く手がけているチェリ子さんや、ヒトリエのシノダさんといった近しい関係の人を含め、錚々たるマンガ家やイラストレーターの方の作品が掲載されています。書き手についてはご自身で選ばれたのですか?
もちろんすべて自分で選んでオファーさせていただきました。普段から好きで作品を読んでる方ばかりなので、自分でもまさか描いていただけるとは思ってなかったです。
──個人的には道満晴明さんの描かれた「チェチェ・チェック・ワンツー!」が、主人公の女の子の少し狂信的な可愛らしさと道満さんの作風がマッチしていて素晴らしかったです。
ありがとうございます。僕も道満晴明先生が好きすぎて、どの曲に合うのか考える以前に描いてもらいたいという気持ちがあったので、そこのチョイスを褒められると安心します(笑)。
──中山敦支さんの描かれた「キライ・キライ・ジガヒダイ」も、お馴染みの見開き大ゴマを使った特徴的な見せ方をされてて。
僕も「そう、これをやってほしかったんだよ!」と思いました(笑)。別に僕からやってくださいとお願いしたわけではないんですけど、ネームを拝見したらちゃんと顔芸が入っててさすがだと思いましたね。中山先生は「ねじまきカギュー」が大好きでお願いしたんですけど、やっぱり間違いなかったです(笑)。
──ほかの方はどういった理由でオファーしたんですか?
高津マコトさんは「ぼんじんパレード」で妖怪を出そうと決めたときに高津さんの絵がピッタリだなと思いまして。シノダくんは最近マンガを描いてるので、じゃあ描いてもらいたいなあと思って。曲ありきで選んだ人とそうじゃない人がいますね。
──どのマンガも曲の世界観をイメージさせる手助けになっていて、素敵な試みだと思います。
自分の曲をフィクションにし始めた頃から、曲単体ではなく動画も含めたトータルでいい作品を作ろうと考えるようになって。でもそれがCDになると映像から切り離されて、音と歌詞カードだけでいい作品を提供しなければならない。動画の代わりになるような魅力的な作品の提示方法として、マンガという方法があるなと思ったんです。アルバムのクレジットの和田たけあき(くらげP)のところに「編集」って入っているんですよ(笑)。ホント、皆さんに描いていただいたマンガを整理して編集者みたいな仕事をしていましたから。「あれ、僕の仕事ってなんだっけ?」って思いました。個人的には「全曲動画を投稿し直した」みたいな感じですね。
次は音楽的に楽しいこと
──「わたしのアール」から始まった「未成年のフィクション」をテーマに据えたクリエイティブが、今作を持ってひと段落したわけですよね。
はい。アルバムが完成して達成感がありすぎて、今やりたいことが思い付かないんですよ。「次はどうしよう?」って、ある意味ではヤバい状態だと思います(笑)。
──今後も同じテーマで楽曲を書かれるのでしょうか? あるいは別のテーマを?
結果的にそうなることはあっても、意識して同じテーマのものを作ることはないんじゃないかと思います。かと言って今は新しいテーマの構想もなくてどうしようかなという感じですけど(笑)。
──最近ではアニメ「NEW GAME!」のエンディングテーマ「Now Loading!!!!」や、アニメ「魔法少女育成計画」のキャラクターソングの提供、アニメソング周りの仕事も多いですけど、作家活動も含めて今後の展望は?
作家業は機会があればもちろんやりたいんですけど、やっぱり自分のアーティスト活動を主軸にしようと思ってます。今回のアルバムはイラストありきで考えていたから、音楽と言うよりも歌詞と動画を作ってる感覚が強くて。だから次は音楽的に楽しいことをしたいですね。あとは作ることばかりやりすぎた感じがあるので、去年ぐらいから始めたライブをちゃんとできるように修行を積みたいと思います。
※ 和田たけあき(くらげP)の丸括弧は半角が正式表記です。
- 和田たけあき(くらげP)「わたしの未成年観測」
- 2018年3月14日発売 / Subcul-rise Record
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初回限定盤
[CD+コミック]
3500円 / SCGA-00069~70 -
通常盤
[CD]
2300円 / SCGA-00071
- 収録曲
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- わたしのアール
- チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!
- アマゴイ未成年
- チェチェ・チェック・ワンツー!
- ぼんじんパレード
- わすれんぼう
- おどれ!VRダンス!
- キライ・キライ・ジガヒダイ!
- トラッシュ・アンド・トラッシュ!
- ひとごろしのバケモノ
- それは、いいことだよ
- わたしの未成年観測
ボーナストラック
- サヨナラチェーンソー
- 和田たけあき(くらげP)
(ワダタケアキカッコクラゲピー) - 初音ミクを使用したVocaloid楽曲「くらげ」を2010年4月にニコニコ動画に投稿して以降、「くらげP」「electripper」「和田たけあき(くらげP)」といった名義でオリジナル曲を発表し続ける。またギタリストとして古川本舗やこゑだなど、さまざまなアーティストのライブやレコーディングに参加。2016年2月に公開した楽曲「チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!」はYouTubeで2018年3月までに710万再生を突破している。2018年3月にはVocaloid曲で構成されたオリジナルアルバム「わたしの未成年観測」をリリースする。