和田たけあき(くらげP)がニューアルバム「わたしの未成年観測」をリリースした。
「和田たけあき(くらげP)」という名義で公開した楽曲を軸にした今作には、動画共有サイトで大きな注目を集めた「チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!」「チェチェ・チェック・ワンツー!」など、和田が「未成年」をテーマに据えて書いた計13曲のボカロ曲を収録。またアルバムの初回限定盤には収録曲のコミカライズ作品が付属しており、道満晴明、中山敦支、高津マコト、チェリ子といったマンガ家やクリエイターが制作に参加している。音楽ナタリーでは和田にインタビューを実施し、彼が「未成年」というテーマにたどり着いたきっかけや未成年のリスナーに伝えたかったメッセージ、収録曲すべてをマンガにするという意欲的な作品の制作背景について話を聞いた。
取材・文 / 北野創
どうせ辞めるなら一度仮面を被ってみよう
──「わたしの未成年観測」の初回限定盤には、収録曲をコミカライズしたマンガなどを含む144ページのブックレットが付属します。こちらに掲載されている和田さんのセルフライナーノーツが大変読み応えのある内容で、これ以上何を聞けばいいんだろうと思いまして……。
お仕事を取ってしまいましたね(笑)。
──その中でも言及されてましたけど、2014年に発表された前作「モノクロアンダーグラウンド」以降、楽曲制作に対する意識の変化があったんですよね?
はい。「モノクロアンダーグラウンド」の頃までは自分の“やりたいこと”をやっていたつもりだったんですけど、今思い返すとやりたいことではなくて“好きなこと”だったんです。当時はエモい曲、叙情的なバンドサウンドを作ることが多かったんですけど、「モノクロアンダーグラウンド」でそういう好きなものを作ることに満足して。でも達成感があったわりには思ったほどの反応が得られなくて、自分の名前でボカロ曲を発表する行為、いわゆるアーティスト活動を続ける意味について考えてしまったんです。僕はそのときすでにギタリストとしてライブのサポートメンバーなどの仕事をしてたこともあって、別にボカロで曲を作るのを辞めても音楽を辞めることにはならないですし。
──確かに。
で、そんなことを考えてたときにニコニコ動画を開いたら、たまたまマンガ家の山田怜司さんが「Bバージン」について語るという生配信の番組がやっていたんです。高校生の頃から山田先生が好きだったこともあって、番組を観てたら「自分のやりたいことを捨てて仮面を被ったとしても、そんなことで自分は消えたりしないから、何かを作ってる人は仮面を被ってもいいのでは?」ということをおっしゃってて。その言葉を聞いたときに「どうせ辞めるなら試しに一度仮面を被って曲を作ってみるのもアリかもな」と思ったんですよ。昔は「そういう行為のは魂を売る行為だ」みたいに思ったんですけど、まあ辞めるよりはマシかなと思って(笑)。
私小説的なもの、情緒的なものを捨てる
──和田さんはどんな仮面を被ろうと思ったのですか?
まずボカロ曲を聴くのはどういう人なのかを考えて、それを中高生であると仮定したんです。さらに仮面を被るうえで、自分のエゴをどうやって最小限に抑えればいいか考えた結果、私小説的な表現を捨ててフィクションにすればそれが可能だということに気付いて。そこから「未成年のフィクション」という方針が生まれました。僕自身はもう未成年ではないので、自分が未成年のことを描いたらそれ自体が自分を捨てる要因になるとも思ったんです。言わば未成年の仮面を被るということですね。
──とにかく私小説的な表現から離れていきたかったと。
私小説的なもの、情緒的なものは一旦捨てて、明確に楽しかったり悲しかったりするものを作りたくなったんですね。その方針を定めてから最初に作った曲が「わたしのアール」だったんですけど、今回のアルバムにはそれよりも古い「それは、いいことだよ」と「わすれんぼう」も収録しました。正直この2曲は後付けになるんですけど、「未成年のフィクション」というテーマにも意外と当てはまる内容なんですよ。きっとその2曲を作ったときの自分の中にも、そういうフィクションを作りたい気持ちがあったんだと思います。
──「わすれんぼう」は声優の藤東知夏さんに提供された楽曲ですから、それも私小説的な表現とは違うものになった理由の1つかもしれませんね。
まさにそうですね。あの曲に関しては人に提供したものなので、もともと自分っぽくはならないように作ってたこともあって、今回のアルバムに合う曲になっていたのかもしれません。
和田たけあきの未成年
──ちなみに和田さんにとって「未成年」とはどういう存在に見えているのですか?
うーん……自分がちゃんとした大人ではないので、自分とあんまり変わらないのかなとも思ってて。さっき言ったことをひっくり返す感じになりますけど(笑)。ただ未成年はどんなものか、ひと言では言えないからこそこのアルバムの12曲があるんだと思っています。それと僕もかつては未成年だったので、自分の中の未成年的なものを探して曲を書いたというのはあります。
──自分のかつての未成年時代を見つめ直す作業を行うことで、必然的に私小説的な部分も出てくるのでは?
そう、正直出ちゃったというのはあります。だから「仮面を被っても自分は変わらない」という山田怜司先生の言葉通りになったと思ってて。もともと自分の全部がなくなることはないと思ってたんですけど、ただ、それを最小限に抑えようと思ってたわりには自分が出てしまったと思いますね。
──和田さん自身はどんな未成年でしたか?
周りとはあまりなじめなかったですね。スクールカースト的なものも苦手でしたし、僕は中3ぐらいからバンド活動を始めたので、学校の外に音楽を通してできた友達がいたんですけど、みんなと聴いてるものの趣味が合わなかったのでずっと孤独な気持ちがあって。だから今回のアルバムに私小説的な部分があるとすれば、楽曲の登場人物たちが全員孤独なところに出てると思います。例えば自分がダサいと思うものを好きな人のことをつい見下してしまう気持ちは「ぼんじんパレード」とか「キライ・キライ・ジガヒダイ」に表れてますし……とにかく孤独でしたね。
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「そんなに簡単に死にたいって言っちゃうんだ」
- 和田たけあき(くらげP)「わたしの未成年観測」
- 2018年3月14日発売 / Subcul-rise Record
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初回限定盤
[CD+コミック]
3500円 / SCGA-00069~70 -
通常盤
[CD]
2300円 / SCGA-00071
- 収録曲
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- わたしのアール
- チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!
- アマゴイ未成年
- チェチェ・チェック・ワンツー!
- ぼんじんパレード
- わすれんぼう
- おどれ!VRダンス!
- キライ・キライ・ジガヒダイ!
- トラッシュ・アンド・トラッシュ!
- ひとごろしのバケモノ
- それは、いいことだよ
- わたしの未成年観測
ボーナストラック
- サヨナラチェーンソー
- 和田たけあき(くらげP)
(ワダタケアキカッコクラゲピー) - 初音ミクを使用したVocaloid楽曲「くらげ」を2010年4月にニコニコ動画に投稿して以降、「くらげP」「electripper」「和田たけあき(くらげP)」といった名義でオリジナル曲を発表し続ける。またギタリストとして古川本舗やこゑだなど、さまざまなアーティストのライブやレコーディングに参加。2016年2月に公開した楽曲「チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!」はYouTubeで2018年3月までに710万再生を突破している。2018年3月にはVocaloid曲で構成されたオリジナルアルバム「わたしの未成年観測」をリリースする。