BiSH急成長の理由
──ここまでのお話を聞いていると、初期のBiSHは「メジャーなものをやる」というコンセプトからは若干ズレていたような気もしますね。
渡辺 だからメジャー感とか言いつつ、その時点では反骨精神みたいなものがまだ強かったんでしょうね。それで2015年9月に「OTNK」っていう「おちんこ」って連呼する曲を出すんですけど、それもなぜかオリコン10位に入っちゃった。「あっ、これはまずいぞ」「もうあんまりおかしなことしないほうがいいな」と思ったのがそのときです。
──じゃあ初期はもっとBiSの延長と言うか、トリッキーな仕掛けで注目を集めようという気持ちがあったんですかね。
渡辺 あったんでしょうね。
松隈 そんなやり方しかできないと思ってたんですよね(笑)。
──BiSHをスタートさせてみて、奇をてらったやり方じゃなくても受け入れられるんだっていうことがわかった?
松隈 うん、そういう感じが近いと思います。
──その後BiSHはエイベックスと契約して名実共にメジャー路線を歩み始めます。メジャーレーベルと組んだことで何か変化はありましたか?
松隈 楽曲に関して言うと僕は一貫してまったく変わってなくて、常にいい曲を作りたいっていうだけですね。BiSHにしろBiSにしろ、インディーズ時代からずっと「ミュージックステーション」に出ても大丈夫な曲を作っているつもりです。
──サウンド面はどうですか?
松隈 あ、音のバランスは変わりましたね。BiSHの場合はメジャーになったタイミングでボーカルをデカくしてる。インディーズ時代は下手くそだったんで、歌のボリュームを上げられなかったんですよ。それがどんどん上手になって歌を聴かせられるようになった。
渡辺 そう考えるとBiSHは全員ずいぶん成長したんだなって思いますね。「精神と時の部屋」にいるみたいに凝縮した濃い時間を過ごしてるんで、ほかのグループと比べても成長のペースは早い気がします。
アイナ・ジ・エンド成長の軌跡
──お二人はBiSHがここまで幅広い支持を集めた理由についてどう考えていますか?
渡辺 僕ら運だけはいいんですけど、BiSHもそういうタイプなんですよね。ビンゴ大会とかがあると何かしら当てちゃうタイプで、なんか持って生まれた運が強いっていう。そこはあるんじゃないですかね。
松隈 そうだ、俺の結婚パーティのときのビンゴだよね。あのときはまだBiSHが一番下っ端だったのに。
渡辺 ワンツーフィニッシュでアイナ(アイナ・ジ・エンド)とモモコ(モモコグミカンパニー)が賞品取ってた(笑)。あのときに僕たち言いましたもんね、「やっぱりBiSHは持ってるね」って。あとBiSHにラッキーが1つあるとすればアイナ・ジ・エンドの歌声がいろんな人に刺さったことかな。
松隈 オーディションのときはノーマークだったもんね。
渡辺 僕たち見る目ないんですよね(笑)。
──当初アイナさんを合格させるつもりはなかったという話はほかのインタビューでもされていますね。オーディションでは彼女の才能の片鱗は見えなかった?
松隈 まあ謙遜ばっかりしててもアレだからたまには言いますけど、当時アイナはBiSH以外のオーディションも受けて落ちてたわけだし。最初から今みたいに歌えてたわけじゃないんです。渡辺くんと僕がアイナを育てたから今の状況があるんですよ(笑)。レコーディングを何回も繰り返して、BiSHでライブを重ねてるうちに「アイナは天才だ」って言ってくれる人が増えてきた。
渡辺 確かにそうですよね。歌はホントにずいぶん変わった。
松隈 昔はもっとR&Bっぽい歌唱で、いわゆる“歌うま系”な感じでしたからね。なんかクネクネしてた。それをキャッチーな歌い方ができるように鍛えていって、まあ彼女の性格がよかったっていうのもあるよね。最初はこだわり強い感じかなって思ってたら、びっくりするぐらい柔軟にいろいろ挑戦してくれたから。
──その結果、今ではMONDO GROSSOやKenKen、TeddyLoidからも絶賛される実力派シンガーになりました。
松隈 いい感じに熟したところでコラボしてる人たちズルいよね(笑)。
──おいしいところを持っていかれた?
松隈 そうそう。俺たちががんばって育てたのにって(笑)。
SCRAMBLESの仕組み
──ところで松隈さんは現在かなりの量の楽曲をハイペースで制作していますね。これはやはりSCRAMBLESというチームの力が大きいんでしょうか?
松隈 そうですね。チームで音楽を作っていくイメージは僕の中にずっとあったんですけど、その形がようやく機能し始めたのかなって思います。
──今SCRAMBLESのメンバーは何人いるんですか?
松隈 パッと集まれる正式メンバーは10人くらい。あとうちは音楽スクールもやってて、そこの生徒が今100人弱いるので、彼らがもう3軍みたいになってるんですよ。生徒でもいい曲作るやつはどんどん使ってるし、いいプレイするやつもたくさんいるし。しかも彼らには“松隈イズム”が浸透しているので一緒にやっててやりやすい。
渡辺 そういう構想を昔から考えてて、今ちゃんと実現させてるところが松隈ケンタのすごいところなんですよ。
──松隈さんが曲の骨子を作って、アレンジやトラックメイキングをほかのメンバーが担当する形が多いんでしょうか?
松隈 そうです。俺の中ではバンドのメンバーがどんどん増えて10人になってるって感覚なんですよ。ロックバンドの場合ドラムのアレンジはドラマーが考えて、ベースラインはベーシストが考えることが多いわけで。僕らもそれと同じで、それぞれの得意な作業を分担してやってるっていう。プロの作曲家でも、まあ中田ヤスタカさんとかヒャダインさんみたいに全部1人でやる人もいますけど、実際は外注のアレンジャーやエンジニアを使ってる人が多い。僕もやろうと思えば全部1人で作ることもできるけど、作業量的な限界もあるし、メンバーからのアイデアがあればもっと広がるんじゃないかなと思うので、だから僕がやりたいことをわかってる仲間を集めてチーム体制にしてるんです。
──チームで作っていても、完成した楽曲には松隈さんのカラーが色濃く出ていますよね。
松隈 結局メロディを作るのは今のところ僕が一番上手なので、その印象が強いんじゃないかな。でも逆にトラックは僕よりうまく作るメンバーに任せちゃってますね。例えばうちの田仲圭太ってやつはEDM路線が得意だからGANG PARADEをやってたり、佐藤カズキや豊住サトシはロック系が得意なんでBiSHとかBiSをやってもらって。ジャンルごとに個性を発揮してもらってます。
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渡辺流トラブル克服術
- V.A.「WACK & SCRAMBLES WORKS」
- 2017年12月6日発売 / avex trax
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CD+DVD盤
4860円 / AVCD-93764/B -
CD盤
3240円 / AVCD-93765
- CD収録曲
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- スパーク(オリジナル:BiSH) / beat mints boyz a.k.a. 松隈ケンタ×JxSxK
- オーケストラ(オリジナル:BiSH) / カミヤサキ、ゴ・ジーラ、ももらんど(BiS)&ヤママチミキ、ココ・パーティン・ココ、アヤ・エイトプリンス(GANG PARADE)
- gives(オリジナル:BiS) / アイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ、リンリン(BiSH)&キャン・マイカ、ユイ・ガ・ドクソン、テラシマユウカ(GANG PARADE)
- Nerve(オリジナル:BiS) / BiS、BiSH、GANG PARADE、EMPiRE
- Plastic 2 Mercy(オリジナル:GANG PARADE) / キカ・フロント・フロンタール、パン・ルナリーフィ(BiS)&アイナ・ジ・エンド、ハシヤスメ・アツコ、アユニ・D(BiSH)
- EMPiRE is COMiNG / EMPiRE
- WACK is FXXK / SAiNT SEX
- フライングヒューマノイド(オリジナル:中川翔子) / プー・ルイ、ペリ・ウブ(BiS)&モモコグミカンパニー、リンリン(BiSH)&ユメノユア、ヤママチミキ(GANG PARADE)
- ラバソー ~lover soul~(オリジナル:柴咲コウ) / セントチヒロ・チッチ(BiSH)&アヤ・エイトプリンス(GANG PARADE)
- 屋上の空 / Buzz72+ feat. アイナ・ジ・エンド(BiSH)
- DVD収録内容
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- スパーク / beat mints boyz a.k.a. 松隈ケンタ×JxSxK(Music Video)
- WACK is FXXK / SAiNT SEX(Music Video)
- 渡辺淳之介(ワタナベジュンノスケ)
- BiS、BiSH、GANG PARADE、EMPiREらが所属する事務所・WACKの代表取締役として各グループのプロデュースを担当。前例のないプロモーション施策を次々と実施し、2014年にはBiSの神奈川・横浜アリーナ公演を成功させた。現在はWACK所属アーティストのほかに、NIGOと共にBILLIE IDLEのプロデュースも手がけている。2017年7月に千葉・幕張メッセイベントホールにてBiSHの単独公演を成功に収め、8月にはWACKとエイベックス・エンタテインメント株式会社によるプロジェクト「Project aW」で新グループ・EMPiREを始動させた。
- 松隈ケンタ(マツクマケンタ)
- 福岡県出身の音楽プロデューサー、音楽制作プロダクションSCRAMBLES代表。ロックバンドBuzz72+を率いて上京し、2005年にavex traxよりメジャーデビュー。編曲家CHOKKAKUのプロデュースにより4枚のCDを発表する。バンド休止後に作詞家、作曲家としてアーティストへの楽曲提供をスタートさせ、BiS、BiSH、GANG PARADE、EMPiREらの楽曲を手がけている。さらにロックバンドGHOST ORACLE DRIVEのボーカルを担当しているほか、ギターブランド、楽器店、音楽スクール、スタジオを運営している。