橋口洋平(wacci)×松下洸平対談|10年来の友が語り合う「恋だろ」の話、これからのこと (2/3)

ちなみにウチはこういうのが強みです

橋口 洸平くんが出るドラマ「やんごとなき一族」の挿入歌をやらせてもらえると聞いて、僕ら「洸平くんに恥じない曲を作らなきゃ」ってことで、かなり意気込んで制作に臨みました。当初のオーダーではね、今回のドラマはハチャメチャな展開がたくさんあるから……例えば誰かが衝撃発言をしたときとか、場面が一気に転がるようなシーンで流れる、派手な曲を作ってほしいと依頼されてたんですよ。

松下 そうなんだ!

橋口 それこそ、エスカレーターのすれ違いざまに「私、妊娠したの」からの……ジャジャッジャッジャジャン!(シャ乱Q「いいわけ」のイントロ)みたいな。

松下 おお!(笑)

橋口 「『Age、35 恋しくて』の『いいわけ』みたいな曲を」と言われてて。「これは今までに書いたことないテイストだぞ……!」と思ったんだけど、とにかくドラマのためにと思って15曲くらい書いて。アレンジも、みんなでかなり作り込んでね。

橋口洋平(wacci / Vo, G)

橋口洋平(wacci / Vo, G)

松下 うわあ、すごいなあ。

橋口 “ジャジャッジャッジャジャン!”的なイントロとかも、超たくさん作ってさ。なんだけど、いざ提出するとなったとき、そういう曲たちの中に「ちなみにウチはこういうのが強みです」みたいな感じで、アレンジもなんにもしてないピアノ弾き語りの「恋だろ」をポンと入れておいたんですよ。

松下 へえー!

橋口 そうしたら、制作陣の皆さんが「これにします」って。

松下 そうだったんだ……!

橋口 ビックリでしょう(笑)。僕らも驚いたんだけどさ、スタッフの方が「オーダーとは違うんですが、登場人物が何かにちゃんと向き合う場面だったり、穏やかな時間を描くときに流れる曲としていいと思うし、後半に進むに従って役割を担ってくれる曲だと思うので、これでお願いします」と言ってくれて。実際にドラマでもすごく愛のある使い方をしてくださって、この曲が選ばれてよかったなあと思います。

松下 “ジャジャッジャッジャジャン!”な曲たちも聴きたかったな(笑)。

橋口 15曲作ってあるから、「やんごとなき一族」の裏アルバムができるよ(笑)。

松下 それ、すごいなあ。

「乗り越えられんのが恋だろ」というワードに、何度励まされたことか

橋口 挿入歌って、僕らは作品の中からキーワードを見つけて作っていくんだけど、「恋だろ」に関しては「釣り合わない」とか「分不相応」という言葉をもとに作っていったんです。釣り合う、釣り合わないみたいな言葉って他人から言われることで、このドラマの中でも飛び交う言葉だったりするんだけど、そういう誰かの目だったり、誰かが作った障壁って、本人同士が恋をするうえで、その人を嫌いになる理由にはならないというか。

松下 そうだね。

橋口 誰かを好きになっちゃいけないことなんて、極論ないと思ってて。「好きだ」という感情はすべての壁を乗り越えられるし、実る実らないは別にして、誰かを大切に思う気持ちは芽生えた時点で大事にするべきなんだ、誇っていいものなんだというところまで描けたらいいなと思って。

松下 刺さるー。

橋口 あはははは。

松下 ドラマの撮影中にさ、「恋だろ」が完成したと聞いて。もう、すぐに聴きたいと思って、特別にスタッフさんから音源を借りて車の中で聴いたんですよ。そうしたらね、その場に大人3人いたんだけど、みんな黙っちゃって。

橋口 それはどっちの意味?(笑)

松下 もう、よすぎて。

橋口 ああ、それはよかった。

松下 僕の第一声、「やってくれたな……」だったから。

橋口 あはははは!

松下 そのとき僕はまさに、作品の中で健太(役)として「性別や家柄、年齢の差なんて関係ない。乗り越えられるのが恋だろ」という気持ちで佐都(土屋太鳳演じる相手役)や家族のことを思っていたから。それを歌にされちゃったらね……もう、なんだろう。とにかく感動で胸がいっぱいになっちゃって。橋口くんが書くラブソングって、大切な気持ちを全部代弁してくれるんですよ。そこが本当に素晴らしいと思っているんだけど、今回も……僕たちがお芝居では表現しきれない部分を全部担ってくれるのが「恋だろ」なんだと思えたからすごく心強かった。それに、劇中歌からそういう感覚を得たのは初めてだったというか。本当に「恋だろ」に励まされたし、助けられました。聴いてすぐに電話したもんね。

松下洸平

松下洸平

橋口 そう、だからうれしかったですね。“合格発表”ですよ。「いつも待ってる連絡、来た!」と(笑)。夜遅めの時間だったけど、わざわざ電話をくれて、思いを伝えてくれて感激しました。スタッフや出演者の皆さんが現場でどんなふうに作品と向き合って、その中で楽曲はどんな形で役に立てているのか、僕らはなかなか知る術がないけれど、洸平くんは現場の空気をリアルに伝えてくれて、「また共演者の人に感想もらうね」とまで言ってくれて。本当にイメケンだなあと思いながら。だからなおさら、今回の挿入歌は特別なものになったなと思います。

松下 佐都と健太、2人だけのシーンで「恋だろ」が使われていたじゃない。「やんごとなき一族」は「そんなことあるかーい!」っていう、ハチャメチャな出来事がいっぱい巻き起こるドラマだったから、2人だけのシーンはなるべくそういう喧騒を感じないような、リアルでホッとできるような時間にしたかったんです。そういうときに「恋だろ」という曲が、僕らが作ろうとしていた空気感をグッと際立たせてくれた。何か困難な問題が起きて、それでも2人ががんばっていこうとしているときは、佐都と健太の背中を押してくれるような存在でもあったし。たった1曲なんだけど、「恋だろ」という楽曲が持つ力の大きさみたいなものを、現場で感じてた。

橋口 うれしいなあ。

松下 3カ月、4カ月と同じ役を演じていると、自分の中身はほぼほぼ健太になっているんです。だからもう……「乗り越えられんのが恋だろ」というワードに、何度励まされたことか。あとね、2人のシーンの撮影中は、「今ここで『恋だろ』がかかってるだろうなあ」って思いながら撮影してた(笑)。

橋口 この前教えてくれた“wacciタイム”ってやつね(笑)。

松下 そうそう。挿入歌は編集作業の中で加えられるものだけど、現場でモニタチェックしているとき、例えば健太が佐都の手をぎゅっと握った瞬間、「性別も~♪」ってみんなが歌い出したりして。

橋口 あはははは。ドラマのTwitterでも「#wacciタイム」でつぶやいてくれたりしてたよね。本当に愛のあるチームだなあと思ってた。

松下 みんな「恋だろ」が大好きだったからね。ドラマは最終回を迎えたから、ここからは「やんごとなき一族」の世界を離れて、「恋だろ」がいろんな方に届いていくはずなんです。健太と同じように「乗り越えられんのが恋だろ」って思いながら恋愛をする方はたくさんいると思うし、この曲はそういう方たちの背中をそっと押してくれる存在に必ずなる。普遍的な1曲だと思います。