ORANGE RANGE×KDDI 音のVR|20周年イヤーに「以心電信」で再タッグ、色褪せない歌詞がコロナ禍に響く理由

KDDIおよびKDDI総合研究所が提供するスマートフォンアプリ「新音楽視聴体験 音のVR」にて、ORANGE RANGEのバーチャルライブ映像が3月17日に配信された。「音のVR」とは、観たい映像や聴きたい音に自由自在にズームやフォーカスができる360°動画のインタラクティブ視聴体験アプリ。これまでハロー!プロジェクト所属ユニットやZARDなど、数々のアーティストによる音楽ライブが配信されてきた。今回音楽ナタリーではバーチャルライブ収録を終えたORANGE RANGEのHIROKIとNAOTOに、収録の感想や「音のVR」の魅力について語ってもらった。

取材・文 / 阿刀“DA”大志
撮影 / 正慶真弓、平野タカシ(メインカット)、臼杵成晃(インタビューカット)

「ORANGE RANGE×KDDI音のVR」とは

「au ✕ ORANGE RANGE 20周年記念」ロゴ

「音のVR」は360°の動画に対し、視聴者が観たい映像や聴きたい音に、自由自在にズームやフォーカスができるインタラクティブ視聴技術。今回のコンテンツでは、ORANGE RANGEによる「以心電信」「KONOHOSHI」のバーチャルライブを配信。さらにスマートフォン向けVRコンテンツ「au XR Door」ではバーチャルライブ収録の舞台裏も公開されている。

ORANGE RANGEインタビュー

左からNAOTO、HIROKI。

めっちゃ緊張しましたよ!

──新たなインタラクティブ視聴技術である「音のVR」への出演オファーを受けたとき、率直にどう感じましたか?

HIROKI 僕らは16年前にもKDDIさんとCMソングのお仕事をしていたので、「また声をかけてくれるんだ!」ってすごくうれしかったですね。

NAOTO 僕は普段から新しいものが好きなので、企画を聞いたときは「面白そう! やりたい!」というシンプルな感想でしたね。

──「音のVR」は、視聴者が自分の好きなパートを画面上で拡大することで、映像だけでなく歌や各楽器の演奏に寄って視聴することができるというKDDIの独自技術ですが、「音のVR」と言われてすぐにピンときましたか?

NAOTO 説明をしてもらってやっと、という感じでしたね。

HIROKI もちろん資料はもらっていたんですけど、イメージがしづらくて。でも、収録前日にGINZA 456(KDDIが「5Gや先端テクノロジーを活用しユーザーの想像を体験に変え『おもしろいほうの未来』が体感できる場所」として東京・銀座4丁目5番6号にオープンさせたコンセプトショップ)でZARDさんのバーチャルライブを体験していたので、「こういうふうになるのかな?」と想像できました。

──昨日(取材前日)収録をしたそうですが、いかがでしたか? 「音のVR」の特性を考えると、演奏する側としてはけっこう緊張しそうですね。

HIROKI めっちゃ緊張しましたよ!

NAOTO 20年間で一番! あとにも先にもないぐらい!

「音のVR」映像収録中の様子。

HIROKI 去年はまったくライブができなかったので、1年間ブランクがあるヤツらが、いきなり最新技術を使った企画でたくさんのスタッフがいる中、一発録りをするという。しかも、一発録りと言っても今はあとからいろいろ修正ができるじゃないですか。でも、今回は本当の意味での一発録りで。

NAOTO まったく直せないんですよ。

──ええー!

HIROKI それを考えたら僕たちにオファー出します?

──いやいや(笑)。

HIROKI そういう意味で「もっとほかにいるでしょう?」って。それでもオファーしてくれたKDDIさんのパッションに感動したんですよ。

──収録はどういう流れだったんですか?

HIROKI 最初は音をメインに録音して、いいテイクを録り終えたら、演奏シーンを撮って。でも、普段のレコーディングみたいに「このテイクのここと、このテイクのここを合わせて……」みたいなことができないから、頭からケツまでミスれない。しかも、自分だけじゃなくてほかのメンバーもいるから、あの緊張感はもう……。

NAOTO すり減ったよな。

──全員一緒に演奏するから、誰一人としてミスできないんですね。

HIROKI だから、曲が終わりに近付けば近付くほど緊張感がヤバいんですよ。最後の最後にしくったらまたやり直しになるから。

NAOTO 序盤なら「あ、間違えた! もう1回!」ってすぐに言えるけど、曲が進めば進むほど言えなくなる。

HIROKI 「KONOHOSHI」と「以心電信」を録ったんですけど、「KONOHOSHI」はリハ中は歌詞を見ずに歌えてたのに本番になると歌えなくなるんですよ!

──緊張のあまり(笑)。

HIROKI 「歌詞見ていいっすか?」って。それで「KONOHOSHI」を乗り越えてから「以心電信」を録ったんですけど、何十年も歌ってきて染み付いてる曲のはずなのにヤマ(YAMATO)が歌えなくなったんですよ。「1番と2番で歌詞がごっちゃになる」って(笑)。今までは感覚で歌ってきたから、独特の緊張感のせいでおかしくなっちゃって。

NAOTO そう、変なとこに落とし穴ができちゃって。

──各々のパフォーマンスにフォーカスできるという技術は、これまでの音楽視聴の概念を覆しますよね。

NAOTO 根本的な考え方が違いますもんね。それもあって余計に緊張しました。

HIROKI やる側としてはめちゃくちゃ大変ですけど、聴く側としてはすごくいいですよね。楽器を演奏する人なら、「ここの演奏はこうなってるんだ!」みたいにすごく楽しめるコンテンツになると思います。

──長い時を経て、再び「以心電信」でKDDIとタッグを組んだというのは美しいですね。収録後はさぞ達成感があったでしょう。

HIROKI ありましたよー! 飲みに行きたかったけど、緊急事態宣言でどこもお店が閉まってたからすぐに寝ましたよ!(笑)

NAOTO 普段なら行ってたな。

──どれだけ大変だったか伝わってきます(笑)。

HIROKI このインタビューのせいで、今後「音のVR」に参加するアーティストが減りません?(笑)まあ、俺たちが苦労しただけで、ほかのバンドは大丈夫だと思いますけどね。

「以心電信」の何が決定打になったのかはいまだにわからない

──「以心電信」は老若男女を問わず有名な曲ですけど、実はシングル曲ではないんですよね。

NAOTO そうなんですよ。自分たちでもそのことを忘れるぐらいで。

──もともとCMのために書いた曲ではないんですか?

NAOTO

NAOTO 曲自体は昔からありました。

HIROKI 歌詞はタイアップが決まってから書いたので、CMの内容に寄せましたけどね。

──メンバーの中ではどういう立ち位置の曲だったんですか?

NAOTO アルバムの中の1曲、でしたね。

──そんな曲にタイアップが付き、大きな反響を呼びました。

NAOTO 何が起こるかわからないですよね。それからこの曲をライブでやる機会が増えていったので今となってはいい曲だと思うんですけど、当時は正直、「これでいいんだ」という気持ちがありましたね。

──自分たちの中でアルバムの中の1曲だった曲が人気になるというのはどういう感覚なんですか?

NAOTO そんなことばっかりですよ。「これはいい」と自信を持って出した曲がダメだったり、そういうつもりじゃない曲が人気になったり。

HIROKI 狙いどおりにいくことは少ないですね。

──今振り返ってみて、この曲のどこがそんなにウケたんだと思いますか?

NAOTO 何が決定打になったのかはいまだにわからないですね。

HIROKI

HIROKI それがわかれば次の「以心電信」が作れるんですけどね(笑)。

──なるほど(笑)。もちろん当時はまったくそんなつもりはなかったでしょうけど、ドキッとするぐらいコロナ禍にマッチする歌詞ですよね。

HIROKI 以心伝心という感覚は人の中にずっと存在するものじゃないですか。時代を問わないいい言葉だと思いますね。

──YMOも1980年代に同タイトルの曲を出していますしね。

NAOTO タイトルを決めるときに同じ“電信”にしたんです。曲のニュアンスは違うけど、YMOと同じにしたいと思って。

──この曲だけでなく、アルバム「ELEVEN PIECE」(2018年リリース)に収録されている「KONNICHIWA東京」も今や予言めいた内容になっていて面白いですね。

NAOTO あの曲の裏テーマは東京オリンピックだったんです。三波春夫さんの「世界の国からこんにちは」をモチーフにして、「オリンピック、どうなるんだろうなあ」という気持ちを込めて書いたんですけど、実際にこんなことになってしまって。

──そうですよね。では、話を戻しましょう。「以心電信」は着うたのCMソングでしたけど、今は「音のVR」ですよ。音楽視聴の技術はかなり進歩しましたけど、音楽を伝える側として当時から変わったことはありますか?

NAOTO 好みの変化というのもありますけど、1つひとつの音がちゃんと聞こえるように年々音数を減らしていますね。あと、レコーディングもみんなでスタジオに入ってという形ではなく、コロナ以前からリモートになってきてます。

──では、コロナ禍だからといって制作スタイルは特に変わっていないんですね。

HIROKI 変わってないですね。

NAOTO いつもの場所でいつもの流れで。

結成20周年はぐるっと回って元に戻った

──そして、ORANGE RANGEは今年バンド結成20周年を迎えます。

ORANGE RANGE 20周年記念ロゴ

NAOTO 20年ってすごいよな。だって、3引いたら17だよ?

HIROKI なんで3引くんだよ(笑)。

NAOTO まあ、実感はないですよ。20年というと相当長いイメージがあると思いますけど、振り返ってみると「本当かな、これ」って感じですね。あまりピンとこないです。

HIROKI 自分たちの中身もやってることも何も変わらないし、周りからの見られ方だけが変わっていって勝手に箔がついてるというか。こっちが意図しないところで「深いなあ」って受け取られたり。

──でも、20年間変わらないってすごいですよ。変わらずにいることのほうが難しい気がしますけど。

NAOTO もしかしたら変わった時期もあったのかもしれないけど、ぐるっと回って元に戻ったのかもしれないですね。

HIROKI 今は10代の頃の感覚で音楽に取り組めてるから、いろいろ経たうえで今があるのかもしれないですね。

──これまでで印象に残っているライブはありますか?

「音のVR」映像収録中の様子。

NAOTO 結成15周年のときにやった武道館ですね。このときにやっと武道館でやる達成感がわかったような気がしました。会場としてはほかのアリーナに比べるとそこまで大きくないけど、だからこそ遠すぎず近すぎない、ちょうどいい一体感が生まれるし、ほかのバンドが「武道館でやってよかった」って言うのはこういうことなんだろうなって初めて思いました。

HIROKI それは自分も感じましたね。昔からキャパシティとかに対するこだわりはなかったんですけど、このときの武道館は周りの人たちが連れてきてくれた場所、見せてくれた景色という感覚だったんですよね。みんなでつくったというか。そういう思いは年々強くなってますね。沖縄で自分たちの主催イベントをやってるんですけど、みんな一緒に手作りで準備して成功していくという幸福感みたいなものがあるし、それは昔にはなかった感覚です。

──それは皆さんの意識の変化があってのものなのかもしれないですね。

HIROKI あとは、人と分かち合いたい、分かち合うことがうれしいと思うようになってきました。ワンマンにはワンマンのよさがありますけど、対バンとかフェスの空気感のほうが今は好きですね。

──4月にはファンクラブ会員限定ツアー「RANGE AID+ presents ORANGE RANGE FC TOUR 021 〜Clap Your Hands〜」が東名阪で開催されるそうですね。

HIROKI ガイドラインに沿ったうえで最大限楽しめるように工夫していきたいですね。こういう状況ならそれに合わせた楽しいことをやりたいです。声は出せないけど、そうじゃないやり方でつながれるようにみんなで考えてるところです。

左からHIROKI、NAOTO。