ナタリー PowerPush - ボカロ小説座談会

ボカロ小説刊行記念インタビュー

巨大化は男のロマンです!!

──では最後にcosMo@暴走Pさん。この小説は1年前に書かれた作品で、今回文庫化されたわけですが、そもそも「初音ミクの消失」という楽曲ができたきっかけを教えてください。

cosMo@暴走P これはですね、タイトルの元ネタになった某小説がありまして、あれがたまたま本棚に並んでるのを見て、先にタイトルだけ思いついたんです。そもそも「初音ミクの暴走」もそうなんですけどね。じゃ、「消失」でいくかと。

──やっぱり(笑)。

cosMo@暴走P で、「消失」というタイトルから、初音ミクというプログラムが消えていく話を高速でやったらカッコいいんじゃないかなというアイデアを通学中に原付に乗りながら思い付き、これいけるんじゃないかなと思ってすぐに作り始めました。

──曲の制作は大変じゃなかったですか?

cosMo@暴走P とにかく歌詞の量が多くて、ただでさえ聴き取りづらいうえに、リズムとの兼ね合いみたいなものも意識して歌詞を作ったので本当に大変でしたね。

──小説の制作において苦労したことはありますか? 

cosMo@暴走P キャラクター設定とストーリーのプロットはこちらで全部用意して、それをベースに執筆作家の阿賀三夢也さんとも話し合いながら作っていきました。かなり膨大な量のプロットを作ったので、阿賀さんにも迷惑をおかけしてしまったのですが……。

──前半はほのぼのとしたラブコメディですが、後半は一転して緊迫感あふれるシーンが続きます。最後の巨大化は爽快感がありますよね。

cosMo@暴走P あれはもうストーリーがうんぬんというよりビジュアル的なものですね。巨大化は男のロマンなんで(笑)。阿賀三さんに提案したら「あ、いいっすねえ」みたいなノリになってこのシーンができました。音楽にも「ここにこういうフレーズが乗ったらカッコいい」みたいのあるじゃないですか。それと同じで「こういうシーンが見たいんだ」みたいなのをとりあえず。

デP 参考になるなあ(笑)。

cosMo@暴走P ストーリー的に派手な戦闘シーンがあるわけじゃないけど、なんか動きのあるシーンが欲しかったんですよね。

星新一とか好きなんですよ

──では、ここからは全員に伺います。小説に携わるのは初めての体験だと思いますが、普段やっている音楽と比べてどうでしたか?

YM いやあ、不安でしたね。段取りが想像できなかったというのもあり本当に不安でした。

デP 曲だったらなんとなく「この曲はこうなるだろうな」とか、「どうせあんまり伸びねえだろうな」とか手応えがなんとなくわかるんですけど、経験がなさすぎてわかんないんですよね。

YM 確かに。楽しみであり不安であり。

cosMo@暴走P あと、楽曲だと最後まで作らなくていいところを、小説だと最後までやらなきゃいけないってとこですかね。その加減がわからなかった。

デP ん? 歌詞ってこと?

cosMo@暴走P いや、そうじゃなくて、ここはこういう設定なんだというのは楽曲ではそんなに考えなくてもいいけど小説はそうはいかないっていう。

デP ああ、そういうことね。小説だとちゃんとやろうと思ったら家の間取りまで決めなきゃいけない。音楽はそういうことがないからね。

cosMo@暴走P あとはキャラクターの名前かな。デPは極力名前を出さないようにしてるみたいだけど、やっぱり名前が必要なキャラもいるしね。

デP オレ、星新一とか好きなんですよ。なので固有名詞を持っているキャラクターを少なくしたかったんですよね。曲のイメージを薄めちゃまずいと思って。

──あえて名前を出さないと。

デP うん。でもやっぱり名前出さないと文章書けないっす(笑)。誰がしゃべってんのかわかんないもん。「彼」ってどの彼だよみたいな。エヌ氏(注:星新一の小説の登場人物の多くは名前がなくイニシャルのみ)は偉大っすわ。

動画サイトに投稿された曲は後付けで世界観が増えていくもの

──今後は歌詞を書く際に、小説を書いた経験が活かされそうですか?

cosMo@暴走P そうですね、バックグラウンドをしっかり作ってから歌詞を書こうと思いました。

デP それはどうなんだろうね。やらないほうがいいんじゃないかな?

YM その心は?

デP 自分1人で作りこんじゃうと発展性がないじゃないですか。例えばCDとしていきなり発表する曲だったらそれでいいかもしれないけど、動画投稿サイトに発表する以上、PVを作ったり、コメントが付いたりで、後付けで世界観が増えていくものじゃないすか。初音ミク自体がそういうもんなんだから。

YM なるほど、「みんなで育ててる感」が薄れるかもだよね。

──つまり細部まで設定しないで聴き手にまかせると。

YM いや、自分の中だけで設定を用意しておいて発表するのはいいと思うんです。

cosMo@暴走P うん。設定があると説得力が違うし、ユーザーの手によって発展していったらそれはそれで面白いしね。「本当はこうなんだけどなあ」とニヤニヤもできるし。

デP なるほど、2度おいしいと。

YM(わいえむ)

2009年頃から動画サイトにマッシュアップや手描きMADなどを投稿し始め、現在はボカロPとして主にGUMIを使ったオリジナル曲を発表。2010年に公開した楽曲「ハンコウセイメイ」で初めて殿堂入りを果たし、翌年発表した「十面相」が100万再生突破の人気曲となった。2012年にはEXIT TUNESからアルバム「センセーショナル大革命」をリリース。2013年8月には自身の代表曲「十面相」のノベライズに原作者として携わった。

デッドボールP(でっどぼーるぴー)

2007年から動画サイトで自作曲を発表しているボカロP。過激すぎるエロティックな歌詞で知られ、投稿動画に「直球というよりデッドボール」というコメントが書き込まれたことがアーティスト名の由来となっている。2009年にはネットで発表した楽曲を無修正バージョンで収録したアルバム「EXIT TUNES PRESENTS THE VERY BEST OF デッドボールP loves 初音ミク」をリリース。その後もPSPゲーム「初音ミク -Project DIVA-」への楽曲提供や、さまざまな企画アルバムへの参加など精力的に活動を展開。2013年8月には処女作となる小説「俺のボカロが妹になりたそうにこちらを見ている」を刊行した。

cosMo@暴走P(こすもぼうそうぴー)

30曲以上が殿堂入りを果たしている人気ボカロP。まくしたてるように歌うポップソング「初音ミクの暴走」や、まったく息継ぎができないほど歌詞が詰め込まれたボカロならではの曲「初音ミクの消失-DEAD END-」など、テンポが速くて早口な曲が多い。2010年にはベストアルバム「初音ミクの消失」を発表し、大ヒットを記録した。2012年7月には自らが原作を担当した小説「初音ミクの消失 小説版」を刊行。この小説は好評を受けて翌年文庫化された。2012年8月には2ndアルバム「星ノ少女ト幻奏楽土」を発表し、オリコンウイークリーチャート9位を獲得。