自分たちのシーンで指輪を作る
──今回、参加しているプロデューサーについて伺いたいんですけど、まず「Not Enough For You」「Goodbye」「Waste」の3曲をプロデュースしているnonomiさんは「STRANDED」から引き続きなんですね。
そうですね。彼とは前作だけじゃなくて、シングルなんかも一緒に作っていて。nonomiは僕が留学中に出会った同期で、留学先で最初に友達になった人なんです。そもそも僕は韓国籍だけど日本で育った人間で、こういうのって日本にいたらけっこう普通なことなんですよね。幸運なことに、僕は周りから差別的なことを言われたりもしてこなかった。でも、いざアメリカに行くと「韓国籍だけど、日本で育って」という自分のアイデンティティを理解してもらうのに時間がかかるんですよ。例えば、LA出身の韓国系アメリカ人だと勘違いされたり。それは、そういう人が多いからなんですけど。
──なるほど。
nonomiは日系ペルー人なんですけど、そういう部分での境遇が近かったんです。彼は、見た目は日本人だけど、スペイン語も英語もペラペラだし、けっこう複雑なアイデンティティを持っていて。2人とも近いようで遠いようで、よくわからないよねっていう感じで、面白いなと思ってごはんに行くようになり、仲よくなって。気付いたら一緒に音楽を作っていたという感じなんです。
──VivaOlaさんから見て、nonomiさんの音楽プロデューサーとしてのどういった部分が自分に合っていると思いますか?
僕も彼も質重視なんです。僕にとって、nonomiはリック・ルービンみたいな存在だなと思っています。迷ったときにすぐに答えを出してくれる人。彼は必要なものは必要、いらないもはいらないとハッキリとしたスタンスだから、僕の意見もけっこうバッサリ切られたりもします。なので、トラックが簡素になっているのは、nonomiの影響が大きいと思います。僕は性格的に足したり重ねたくなっちゃうんですけど、彼はどんどん減らしていきたい人で。そういう自分との違いとか、バランス感覚が好きですね。
──nonomiさんのように、友達と呼べるほどの身近な人と一緒に曲作りをしている部分は、VivaOlaさんの作品に独自の親密さをもたらしているかもしれないですね。
それはあるかもしれない。ほかにも例えば、「My Moon」でフィーチャリングしているZINさんも2人で普通にごはんに行く関係だし、「Over The Moon」でフィーチャリングしているSagiri Sólは同じ高校出身で、彼女のバンドでギターを弾いていたこともあるくらいの仲だし。日本って、シーンの欠落みたいなものがあるような気がしていて。前に、とあるアーティストのライブを観に行ったときに、サポートが全員、年上の凄腕ミュージシャンたちばかりだったときがあったんです。そういうのが僕はあまり好きではなくて、すごく商業的なものを感じるというか。もちろん、それでもいいとは思うけど、そればかりの業界になってしまうと、死んでいくものがあるなと思う。世代交代が起こり、同世代の横のつながりが新しいフロアを作り、また次の世代がそれをぶち壊すっていう流れが日本はあんまりない。日本は指輪の宝石の部分だけをいちいち変えていくけど、指輪自体はめっちゃ錆びている、みたいな状態だと思うんですよ。
──なるほど。
そう考えると、僕らみたいなインディペンデントアーティストたちは、自分たちで指輪を作っていかないといけないなと思います。それが小さくても、輝けばいいなって。
好きじゃないからこそやってみたい
──「My Moon(feat. ZIN)」と「Mixed Feelings」をプロデュースしているKRICKさんは、どういった経緯で声をかけたんですか?
KRICKさんは、僕が参加しているアートコレクティブ・Solgasaのメンバーのmichel koのプロデュースをやっているんです。ただ、僕はKRICKさんがトラップを作っているのは聴いたことがあったんですけど、どこかから「実は彼はハウスミュージックが好きらしい」という情報を聞いて、これは一緒に作りたいなと思ってお願いしました。けっこうサクサク作っていくというか、冷たいプロデューサーなんです。……あ、性格じゃないですよ。音像がっていうことです(笑)。
──はい(笑)。ハウスミュージックというポイントでKRICKさんに声をかけられたというのは、そういうビート感やエネルギーが今回のアルバムには欲しかったということですか?
そもそも、自分で四つ打ちを作るのはあんまり好きじゃなかったんですけど、「好きじゃないからこそやってみたい」みたいな部分はありました。なので、どちらかといえば、殻を破るためのチャレンジに近かったです。結果として「My Moon」も大好きな曲になったし、やってよかったですね。
starRoとの制作
──「All This Time」を一緒に作られたstarRoさんはどうですか?
starRoさんは不思議な人でした。僕よりも確実に人生経験を積んでいる人なので、そういう意味で話が合わないんです(笑)。starRoさんのほうが3歩くらい先を考えているので、制作中は「自分は子供だな」と思うことが多かったです。ある意味やりづらくはあったんですけど、それはいいことだったなと思っていて。ひたすら勉強になりました。
──「All This Time」は、音楽的にはどういうものを目指していたのでしょうか。
僕とstarRoさんの間で「キューバに行っちゃおう!」みたいなことを言いながら作っていました(笑)。僕はレゲトンやアフロビートがすごく好きで。そういうことをやりたいっていうのがまずあったうえでstarRoさんに頼んだんですけど、結果的にもっと変なものができた(笑)。制作中で記憶に残っているのは、ビートができて、ボーカルを録る段階でひたすらグルーヴの研究をしたことですね。普段、レコーディングでそんなに体は動かさないですけど、この曲のボーカル録りでは声が揺れるんじゃないかっていうくらいライブ並みに体を動かしました。そうしなきゃつかめなかったグルーヴ感がこの曲にはあって、そこがstarRoさんと僕の人生経験の差、聴いてきた音楽の差なのかなという感じがします。聴いてきた音楽というもの、iTunesとかそういうものを通してではなくて、肌身で感じてきた音楽。僕もLAは行きましたけど、starRoさんは一時期住んでいた人なので、そういう違いはあるのかなと思いました。
日本語と向き合った1枚
──歌とリズムの話でいうと、今回のアルバムは日本語の占める割合がかなり大きくなったアルバムでもありますよね。
日本語で歌いたいというのはありました。友人にWez Atalsというバイリンガルラッパーがいるんですけど、彼も最近アルバムを出して、それがすごくいいんですよ。でも、僕は英語がわかるから彼のメッセージ性はすごく伝わるけど、彼自身は「自分のメッセージが5割も伝わっていない」と悩んでいるみたいで。きっとリリックを読んで彼のメッセージを読み解こうとするリスナーもいると思うんですけど、その一方で一種の“おしゃれな音楽”として消費されてしまう部分もあるなっていう……そういうのをすごく感じるんです。その状況にアタックしたいと思って作ったのが、「STRANDED」に入っている「One of these nights」という曲で。あの曲は全部日本語で書いたんですけど、かなり伝わったという実感があって。今回のアルバムは自分に言い訳できないように、「どうやったら伝わるんだろう?」というところに向き合って作りました。ただ日本語で書くといっても、それでダサくなったら元も子もないし、聴き取れないのも好きじゃない。「日本語だけど、こんな歌い方聴いたことない」みたいな部分を突き詰めたいと思いながら、歌詞は書いていきました。
フィクションの中で描いた本物の感情
──10曲目の「Two Years」でアルバムは締めくくられますが、ハッピーエンドなのかバッドエンドなのか、みたいな部分は受け手によって印象も変わるのかなと思うんです。終わらせ方に関して、意識したことはありましたか?
そもそも僕は、ハリウッド黄金時代の映画のエンディングみたいな、わかりやすいハッピーエンドが好きじゃなくて。「そんなきれいな終わり方ないよな」と思っちゃう。それよりも「レオン」みたいな映画のほうが好きなんですよね。今回、アルバムを作るうえでリファレンスにした映画があって「トゥルーマン・ショー」という作品なんですけど、あの映画のエンディングがすごく好きなんです。エンディングで主人公が扉から出ていくとき、その扉の向こう側が真っ暗なんですよ。この先、どこに行くのかわからないという。そういうのがすごくいいなあと思っていて。
──「ロミオ&ジュリエット」は、いわば恋愛悲劇として知られている戯曲ですけど、今回のVivaOlaさんのアルバムも決して軽い作品ではないんですよね。愛情と、そこから生まれる虚しさや憎しみが描かれている。今の時代にこうした物語を描くことについて、考えたことはありましたか?
今の時代背景とかはあまり意識していないです。ただ、このアルバムで歌っていることって現実にあることだと思うんですよね。欲望にまみれた、空けられた穴を埋めるためのワンナイトラブであったり、人間関係に亀裂が入ってしまって、その人と一緒に過ごした時間を無駄だと思ってしまう憂鬱さであったり、「あの人のことは忘れたよ」と言っていること自体が忘れられない証拠だったり……全部バカバカしいことだと思うんですけど、こういうことって本当にあることで、当人にとってはとんでもなくつらいことだったりする。特に日本だとエロに関する話題って重いことと捉えられたりしますしね。そういう意味でも、このアルバムにある感情……プラスの感情も、マイナスの感情も、全部の感情と向き合ってほしいなと思います。全部、本物の感情なので。でも、改めて言いますけど、これはやっぱりフィクションなんです。
──この物語はフィクションである。でも、描かれている感情は本物であると。
うん。きっと「ロミオ&ジュリエット」もそうだったと思うんですよね。小説でも映画でも演劇でも、「この物語はフィクションである」と提示する場合がありますけど、そういう作品ほど「本当にそうなのかな?」と思う。きっと描かれている感情が本物だからこそ、それを強調するんじゃないかと思うんですよね。
ライブ情報
- VivaOla「Juliet is the moon」Release Party
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2021年11月20日(土)
東京都 WWW
<出演者> VivaOla
<ゲスト> YonYon / and more
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2021年11月20日(土)
東京都 WWW
<出演者> VivaOla
- VivaOla(ヴィヴァオラ)
- 韓国生まれ、東京育ちのR&Bシンガーソングライター / プロデューサー。2020年6月にセルフプロデュースにて制作したミニアルバム「STRANDED」をリリースすると、J-WAVEのチャート「TOKYO HOT100」でトップ10入りを果たし、Spotifyの公式プレイリスト「Soul Music Japan」のカバーアーティストに選出されるなど大きな話題を呼んだ。2021年9月にはフィーチャリングゲストにZIN、YonYon、Sagiri Sól、プロデューサーにnonomi、KRICK、starRoを迎えた1stフルアルバム「Juliet is the moon」をリリースした。