「VIVA LA ROCK EXTRA ビバラポップ!」特集|鹿野淳インタビュー&大森靖子、ピエール中野による出演者紹介「ビバラ」ブランドの新フェス誕生、ポップがテーマの理由と展望

アイドルに対して手のひらを返した

──それでは改めて「ビバラポップ!」の構想について教えてください。

すごく大切なのは、「ビバラポップ!」は僕がブッキングやプロデュースをしていないってことなんです。僕はバックエリアの責任者は務めますけど、アイドルの方をブッキングできるほどお付き合いもないし、メディア力もジャーナリスト力も持ってないから。あくまでも、ビバラというフェス自体の体力がそれを求めていることから始まった話なんです。だからまずはピエール中野と大森靖子に声をかけました。「こういうフェスをやりたいんだけど自分がブッキングするのもリアリティがないし、だからこそブッキングと空間のムード、ストーリーを作ってくれませんか?」って。2人は本当に献身的に動いてくれて。彼らの影響力って本当にすごいなと日々感じています。「ビバラポップ!」ってテレビ局が作るフェスよりもメディア力はないだろうけど、プレゼンターの2人がものすごくがんばって、そういう弱みすらも強みにできるようなフェスを、1歩1歩ですが作れていると思います。

──中野さんと大森さんはプレゼンターという立ち位置で関わられていて。お二人の顔もしっかりと見える素晴らしいラインナップになったと思います。ただ個人的には「ビバラポップ!」の構想を早い段階で伺っていて、そのとき鹿野さんは、アイドルのみならず、ネットカルチャー発のアーティストやアニソン系のアーティストも巻き込んだものを思い描いていると話していました。

鹿野淳

その通りです。今回はアイドルミュージックに特化しましたけど、来年以降「ビバラポップ!」はそういうシーンの音楽ともお付き合いをしながら続けていきたいフェスなんですよ、あくまでも。ネットやテレビを主戦場とする音楽をライブで体験するのに一番ふさわしい、音楽的な場所を作りたいなと思っていて。だから来年以降はそういうパートナーがもっと生まれてくればいいなと思っています。でも今年がその過程なのかと言えば、それは違いますからね。何度も言いますが、大森靖子とピエール中野は本当に素晴らしいプレゼンターで、彼女と彼が、記念すべき初回の「ビバラポップ!」を100点のものにしてくれました。

──正直、鹿野さんとアイドルってイメージが結び付きません。ご自身はどうお考えですか?

否定しようがないし、そんなことないよと言っても痛いだけですよね、わかってます。僕は4、5年前にネットの記事でアイドルについての対談をしていて、そこでの発言がもとになって「昔アイドルをDisっていた鹿野がなんでこういうフェスをやるんだ」って言われているっていうのも聞いています。それで誰かに迷惑をかけていたら心苦しいし、書いたことを否定するつもりはまったくないですが、この何年間かでアイドルミュージックに対して、完全に手のひら返しをしています。

──理解が深まったということですか?

いや、「素晴らしい楽曲や才能が本当に増えたなあ」「爆発してるなあ」と思っています。さらに、「“いい音”を出す方々まで生まれてきたなあ」って。音を聴くだけでゾクゾクする方々まで出てきましたよね。もっと言うと、自分のメディアフィールドの中のアーティストの多くが、今、アイドルの方々に楽曲提供していて、必然的に音楽的なネットワークはつながっていますよね。今回「ビバラポップ!」に取り組んで、“オタク”っていう言葉を安直にまとめることは物事の理解にまったくつながらないなっていうことを実感しました。アイドルの方のオタクとアニソンのオタクの人って、メンタリティの構造も音楽との触れ合い方もまったく違う。これを読んでる方からしたら「今頃わかったのか、コラ!」って話だと思うんですけど、僕は今頃になってわかったわけですよ。

──どう違いを感じていますか?

例えばアイドルファンは特定のアイドルの方と精神的な心中をするようなところがあるし、アニソンのファンはアニメカルチャー自体と精神的な心中を果たしていたりする。それって対象に対しての付き合い方が180°ぐらい違ってて面白いですよね。そういう人たちが果たしてフェスで交わるかどうかはわからないけれど、お互いに尊重し合いながら楽しめるフェスを目指すのは、不可能なことではないんじゃないか。今後「ビバラポップ!」はそういった場所になっていけばいいなと個人的には思っています。今この国の中でアイドルビジネスが果たすものは計り知れないですし、そういうシーンに新しい才能がたくさん集まってくることって必然じゃないですか。自分は音楽ジャーナリストですからアーティスト自身のことよりも音楽自体を評したいんですけど、その評するべき素晴らしい可能性と才能に満ちあふれた音楽が結果的にアイドルシーンにすごくあふれている。聴いてビックリするような音がたくさんあるし、その音楽的なアップデート感もハンパないじゃないですか?

──面白い楽曲が次々に生まれていますよね。

もしかするとアイドルカルチャーってカルチャーとしてアップデートしていくと言うより、特有の文化が深まるような進化をしているのかもしれないんですけど、音楽としてはすごくアップデートされていると思う。自分の周りにいるバンドマン、例えばMASH A&Rのフレデリックがばってん少女隊の曲を書いていたりとか、いろんなことに驚くわけです(笑)。アイドルミュージックの中にはそういった驚きがたくさんある。だからこそ、僕は手のひら返しをしました。

目を輝かせた人の新しい集合場所になりたい

──そうですか(笑)。

「VIVA LA ROCK」の様子。©︎VIVA LA ROCK All Rights Reserved©︎VIVA LA ROCK All Rights Reserved

ただ僕は、マニアとしてもジャーナリストとしてもそのシーンにはとても客観的だから、自分ではなくてビバラ自体がそこに参入していくという夢があります。ほかのアイドルフェスがどういう方針かはわからないですけど、少なくとも「ビバラポップ!」は音楽というものを丁寧に大切に扱うフェスとして定着してほしい。そしてさっきも話した通り「ビバラアイドル!」ではなく「ビバラポップ!」って名前にしたのは、もっとこのフェスの可能性を広げたいから。アイドルミュージック、ネット発ミュージック、アニソンというカルチャーがどういうふうにフェスという場所で音楽的にコラボできるのか。そういうフェスのスタンダードになれるものを目指したいなと思っています。僕、コミケとかニコ超とかが大好きで、よく行くんです。何故好きなのかと言うと、そこで展示している人や、それを見ている人の目の輝きがハンパないんですよね。壮絶なまでにまっすぐで、正直その目の輝きに僕はずっと嫉妬しています。そういう人の新しい集合場所に、「ビバラポップ!」はなりたい。心からなりたいです。

──「ビバラポップ!」、初回がどう受け入れられるか楽しみですね。

もう、日々ビビってばかりですけどね。あえて言いますけど、フェスをやっている側の人が「フェスの日が来るのが楽しみ」とか言っていたらそれはきれいごとだと思ってほしいです(笑)。僕も言うかもしれないんですけど、きれいごとを(笑)。実際は怖くて怖くてしょうがないです。その日に雨が降るのか、地震は起きないか、新幹線が止まらないか、そして怪我人が出ないか。痴漢が入ってこない体制が取れたか、アーティストが遅れないか、アーティストがタイムテーブルを守ってくれるのか……ずっとずっとずっと心配なことだらけです。だから楽しみって言葉にできないです。参加してくれる人には気が狂って、どうかなっちゃうほど楽しんでほしいですけどね。

VIVA LA ROCK EXTRA ビバラポップ!
ビバラポップ!

2018年5月6日(日)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
OPEN 9:30 / START 11:00 / END 20:30

出演者

プレゼンター大森靖子 / ピエール中野(凛として時雨)

LIVE大森靖子 / こぶしファクトリー / 鈴木愛理 / DJダイノジ(大谷ノブ彦) / Negicco / ばってん少女隊 / BiSH / Maison book girl / ゆるめるモ! / ラストアイドルファミリー(シュークリームロケッツ / LaLuce / Love Cocchi / Good Tears / Someday Somewhere) / アップアップガールズ(仮) / 吉川友 / 欅坂46 / sora tob sakana / バンドじゃないもん! / 道重さゆみ / LADYBABY

MC遠山大輔(グランジ) / ぱいぱいでか美 / 吉田豪 / 団長(NoGoD) / 西井万理那(APOKALIPPPS、生ハムと焼うどん)

鹿野淳(シカノアツシ)
音楽評論家。「ROCKIN'ON JAPAN」での副編集長を経て「BUZZ」「ROCKIN'ON JAPAN」の編集長を歴任する。2004年に株式会社FACTを設立。2007年3月に「MUSICA」を創刊した。2014年からはロックフェス「VIVA LA ROCK」のプロデューサーを務めている。