VIGORMANが8人のラッパーと巻き起こした「Chemical Reaction」 (2/2)

1時間で終わったJin DoggのREC

──3曲目の「Buster!!」では鋼田テフロンさんに加えて、Jin Doggさんが参加していて、大阪つながりではありますが、ちょっと意外性がありました。

そうっすね。変態紳士の「YOKAZE」とかとジェイクくん(Jin Dogg)のソロ曲を比べたら、そこ交わるんやってなると思うんですけど、実は2017年に出した変態紳士の「ZIP ROCK STAR」って曲のMVにもジェイクくんが映ってくれたりして。お互い大阪なので街でもよく会うし。だから俺からしたら今回のコラボも自然で。ヴァースを書いてもらうために連絡したって感じじゃなく、一緒にお酒を飲んでるときに「いつか曲やろな」って話になった感じです。

──なるほど。トラックのプロデュースはBACHLOGICさんですが、Jin Doggさんとコラボするにあたって、なんでBACHLOGICさんにお願いすることになったんですか?

いや、BLさんと先に作ってたんですよ。フックと俺のヴァースだけあって。それで大阪のHIBRID ENTERTAINMENTのスタジオで遊んでるときに「なんか最近曲作ってんの?」って話になったからジェイクくんにいろいろ未完成の音源を聴かせたんですね。そのときに「これいいやん」って言ってもらえたのがこの曲で。それでジェイクくんに入ってもらったらハマりそうやなと思ったんで、BLさんに1回相談しつつ、後日改めてお願いした形です。ジェイクくんはスタジオに入ってから俺の目の前でヴァース書いてて「1時間以内でこんな歌を書いちゃう」ってラインがありますけど、これはホンマにそうですね。

みんなに聴いてほしいイッキューくん

──GeGさんプロデュースの4曲目「My Job」はJin Doggさん参加曲からガラッと雰囲気が変わって、すごくさわやかですね。この曲で客演を務めている19Freshさんのことはこの作品で初めて知りました。

イッキューくんって俺らは呼んでるんですけど、俺含め俺の周りはみんな彼の曲がめっちゃ好きで。友達とドライブしてるときに流したら「これ誰?」って聞かれて、教えた友達がそのままハマるみたいなこともよくあったし、ずっと一緒に作りたかったんですよ。これを機にみんなイッキューくんのソロ曲を聴いてほしいっすね。「Kaze」とか「君が眠る頃」とか。

──優しい声で、VIGORMANさんの歌と合ってますね。

でも彼はソロではドープな曲もいっぱいあるし、ホンマにカッコいいんですよ。今回の曲は俺のイメージに合わせてもらったんですけど、普段とはちょっと違うことをやってもらいたいという気持ちもあって。この曲と次の「Planetarium Light feat. JAGGLA & MUD」、最後の「Entrance to Exit」はEPの内容が固まってきてから作りました。

VIGORMAN

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JAGGLA & MUDの異色コラボ

──5曲目の「Planetarium Light feat. JAGGLA & MUD」はテーマと人選に意外性がありつつ、バッチリハマっていて最高ですね。

ホクちゃん(hokuto)のビートがまず最高なんですよね。このEPの完全な立役者は、このhokutoという男なんですよ。プロデュースは「Planetarium Light」だけなんですけど、「Chemical Reaction」「ろくでなしの唄」「Entrance to Exit」の打ち込みは全部ホクちゃんがやってくれてて。ホクちゃんがおらんとマジで完成しなかった。「Planetarium Light」もすごい巡り合わせがあって。この曲はもともとタイプビートでリリックを書いてる中で「これ絶対ホクちゃんに作ってもらったらよくなるな」と思って連絡したんです。そしたら「俺このウワ音で4、5年前に作ったビートあるよ」って。それを進化させてもらったのがこのビート。送ってもらってそのまま自分が歌う部分をレコーディングしました。

──客演は熱いJAGGLAさんとクールなMUDさんで対照的な魅力がありますね。

まずジャグさん(JAGGLA)にお願いしたんですけど、その段階でMUD君と3人で作りたいという話はしてたんです。まずこの2人がラップしている曲を自分が聴きたかった。

──JAGGLAさんはVIGORMANさんと地元・大阪で深い交流があると思いますが、このビートでラップしているのは新鮮でした。

ジャグさんは誰がなんと言おうと大阪のフッドスターですね。15、6歳の頃から一方的にヘッズでした。ありがたいことにこれまで客演で呼んでいただいたり、一緒に作らせてもらった曲がいくつかあるんですけど、自分名義の作品でも絶対やりたいとずっと思ってたんですよね。それでさっきも話した通り、このEPでは客演陣に普段と違うことをやってほしくて、男から見てカッコいい男にメロウな星空の曲をラップしてほしいと思ったんです。

──MUDさんとのコラボも意外な印象だったんですが、KANDYTOWNのメンバーとは親交があるんですか?

そうですね。2、3年前にKANDYTOWNの皆が大阪に来てたときに連絡をくれて、「RECしたい」とのことやったんで、遊びに行きがてらレコーディングの機材をホテルに持っていったんですよ。そこでせっかくだから皆で一緒に作るかって話になったんですけど、完成せず、そのまま飲みに行って終わったことがあって。その曲はもう覚えてもいないんですけどね(笑)。

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BRON-KとNORIKIYOを知らずに死んだらかわいそう

──6曲目は2020年11月にリリースされた作品「ROKUDENASHI」のリード曲「ろくでなしの唄」にBRON-KさんとNORIKIYOさんを迎えたリミックスです。オリジナルバージョンの段階で、2人の楽曲を連想させる「夜中のROMANTIC CITYで 月と目が合ってふっと我に返る」というラインが入っていましたね。

クソガキの頃から俺は2人の曲を聴きまくってて。ほかにも日本語ラップは自然にいろいろ聴いてきた中で、中3ぐらいの俺は神奈川のクルーのSD JUNKSTAにハマりました。「ROMANTIK CITY」とか「夜に口笛 feat. 鋼田テフロン」とか、俺が発信する必要もないぐらいのクラシックですけど、俺の曲を聴いてくれてる同年代のやつらとか今の中高生とかが知らずに死んだらかわいそうだと思って、「ろくでなしの唄」の原曲でさりげなく引用してたんです。

──原曲の制作時からリミックスのリリースも考えていたんですか?

はい。決まってはいなかったんですけど考えてましたし、原曲の完成後すぐにお願いして、2021年の初めにはもう完成してたんです。今回のEPに参加してくれたほかのラッパーの皆とは全員朝まで遊んだことあるけど、BRON-KさんとNORIKIYOさんは歳が20くらい離れているのもあって、そういう間柄ではなくて。紹介してもらってお会いしたことはもちろんあったんですけどね。もう純粋にヘッズ魂で、ダメ元で頼んだら2人とも自分の曲かのようにガッツリ取り組んでくれました。2人のヴァースの最後の1行は原曲の俺のフロウを使っていただいていたりするんですけど、そういう部分はこっちからお願いしたわけじゃないんですよ。ホンマに粋な計らいです。

──「叶えた夢を見せる」と歌っていますが、このリミックス自体が「叶えた夢」なんですね。

その通りですね。2人には俺の力が必要なときなんてないと思うんですけど、もし何か依頼をいただいたら恩を返したいし、いつでも飛んでいきますって気持ちです。

──BRON-Kさんは最近表立った活動をされていないので、ファンもこの曲でひさしぶりにラップを聴けて喜んでいましたね。

俺はガチのBRON-Kヘッズやから客演で参加してる曲も含め全曲聴いてるんですけど、この曲以外にもBRON-Kさんが客演で参加している曲は最近もチラホラ出てたりするんですよ。ただMVで顔出しするのはホンマにひさびさやからYouTubeでのコメント欄も温かったですね。久しぶりに顔を見れたことを俺にまで感謝してくれて(笑)。自分の曲はリリースしてからはもう“みんなの曲”って感じで、あんまり聴き返すことはないんですけど、このリミックスは2人のヴァースが聴きたくて擦り切れるくらい聴いてます。

Super Syokiを知ってもらいたい

──そして最後の「Entrance to Exit」は1曲目と同じく客演なしで、Super Syokiさんのプロデュースです。

この曲はホンマに締め切りヤバい中で、つい最近作ってねじ込みました。どうしても7曲入りにしたくて。最初に話した通り「Chemical Reaction」は3部作くらいのEPにしたいっていう構想があるんですけど、それぞれ6曲入りの3部作やったら「666」になる。自分は悪魔崇拝者じゃないし、単純に「777」のほうが好きなので(笑)。

──そういう理由なんですね(笑)。

それでSuper Syokiに徹夜してもらって。俺はこいつのこともみんなに知ってもらいたいんです。珍しい名前だと思うんですけど、俺とこいつは下の名前が漢字まで同じで、しかも同い年。ライブでは一緒に全国各地を回ってきたし、こいつがいなかったら俺はレコーディングもライブもできないですね。

──WILYWNKAさんと同じくらいに相方と言える存在なんですね。

そうですね。これまでも一緒に制作してきましたけど、Super Syokiの名前をガッツリ出すのはたぶん初めてやったと思うんで、自分としてもなんかうれしいです。本名のスペルは「Shoki」なのに、こいつInstagramのIDを間違えて「h」じゃなく「y」で始めてしまって(笑)。そこからSyokiなんですけど、Super Syokiって名前が決まるまでにみんなでいろんな名前を考えて、アイデアが出るたびにSuper Syokiが師匠のGeGに相談してたんです。いろんな名前があったんですが、巡り巡ってSuper Syokiになりました(笑)。

──GeGさんの許可が下りて今の名義なんですね。

許可っていうか最後の方は「もうなんでもええやん。知らんよ俺」って言ってました(笑)。

──「Chemical Reaction」についてはシリーズ化の構想があるという話ですが、今後について考えていることを教えてください。

こないだジャケットの撮影をしてきましたけど、変態紳士クラブの新作もリリースされるし(参照:変態紳士クラブが4曲入りの新作「舌打」リリース、ジャケットに板尾創路)、今年はソロの2ndアルバムの制作も考えていて。だから「Chemical Reaction」の続編はすぐには出されへんやろうし、来年ですら出せるんかわからんけど、気長に待っててくださいって感じですね。実はもう何曲かはできてたりするんですけど、「Chemical Reaction」シリーズはじっくり作っていきます。

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プロフィール

VIGORMAN(ビガーマン)

3人組ジャンルレスユニット・変態紳士クラブに所属する1998年生まれ、大阪府堺市出身のレゲエディージェイ。15歳の頃に地元のクラブイベントで歌い始める。どんなジャンルでも自由に乗りこなすメロディアスでエモーショナルなフロウと固めのライムを武器として厚い支持を集めている。2019年8月に1stアルバム「SOLIPSISM」をリリースし、全国ツアー「SOLIPSISM CLUB TOUR 2019」と 追加公演「SOLIPSISM CLUB TOUR + 2020」を開催。2022年3月に新作「Chemical Reaction」をリリースした。