「絶対夢は叶う」みたいなことは言いたくない
VIGORMAN ただ「ろくでなしの唄」は、トラックを作ってる変態紳士クラブのGeGと一緒にスタジオに入って、一気に書き切りました。この曲は、これまでのソロの中で一番納得できた曲かなと思っていて。自分が好きなものをやり続けるのが、やっぱりソロの醍醐味なんですよ。変態紳士クラブは相方とプロデューサーと3つのブレインで噛み砕いて作った音楽なので、あれはあれで1人じゃできない、素晴らしい作品ができるんですけど、やっぱり軸足はソロ。それは相方もGeGも全員そうやと思います。だからソロが一番好きなことをやれる場所であり続けるために、今回のEPも何も気にせず、自分の好きな曲を作ったんですよね。
那須川 なるほど。そういう話を聞くと、また曲の聴き方も変わりますね。「ろくでなしの唄」はテンポ的にはゆっくりな感じだけど、熱い曲ですね。
VIGORMAN それをやりたかったんですよね。だからグラフィティライターのKANEさんに描いてもらったジャケも真っ赤な炎じゃなくて、青い炎なんです。ただ単に熱いのとは違うというか。
──あの曲の「バカげた夢を見てる」から「叶えた夢を見せる」への変化は印象に残りました。
VIGORMAN 例えば同年代の、夢はないけど、どうにかして自分の人生変えたいと思ってる、ろくでなしな奴らって超いると思うんすよ。俺は偶然音楽と出会えたけど、もし音楽をやってなかったら夢すら見れてなかったかもしれない。だからろくでなしって人に言われても、何か1つに打ち込んだら可能性あるよって。でも、俺もまだ何一つ叶えた夢はないんですよね。それと「絶対に夢は叶う」みたいな無責任な歌詞は書きたくない。知らん奴の人生を俺が保証することはできないし、そいつがサボってりゃ夢なんて叶うわけない。でも「ろくでなしの唄」を聴いて、巻き返せる可能性は感じてほしいし、模索してほしい。俺も叶えてないから、一緒に叶えようっていう。ろくでなしの星になりたいです。
──先ほど、那須川さんから「満足するつもりはまったくない」という言葉がありましたが、満足する瞬間って想像できますか?
那須川 ないですね。ベルトを獲っても「よし……じゃあ次」みたいな感じですし。もちろん試合に勝ったときはうれしいけど、それがゴールではない。だからゴールが見えないんだけど、僕はそれでいいと思ってるんですよね。ゴールしちゃったら終わりかなと思うし、見えるゴールを目指してもつまらない。未来のことなんて誰もわかんないし、でもそれはずっと希望があるってことだと思うんですよね。その僕の姿を見て、憧れる子供たちが増えるような存在になりたいと思うし、さらに自分自身はその先の道も切り拓いていきたいですね。僕の前に道はないけど、後ろには道があるみたいな。
──VIGORMANさんは満足する瞬間はありますか?
VIGORMAN 自分で作った曲で、この曲は自分的に特に好きやなとか、いい感じのこと言えてるなってのがあっても、聴き直すと絶対どっかに修正点が出てくるんですよね。それは誰にもわからんような細部だったりするんですけど、どれだけ追求しても100点にならない。だから1枚のアルバム全曲、120点で納得できるものができたら、満足するんじゃないかなって。だから全クリできないゲームみたいやけど、それを追求するのが面白い。作品だけじゃなくて、ライブも含めて。全曲120%で満足できるアルバムが完成したら、そのときに音楽辞めます。
シーンで唯一無二の存在として
──では、年嵩の近いお二人が現状やシーンに考えることはありますか?
那須川 僕は業界から嫌われる存在がすごい大事だなと思っていて。自分がそういう人にならないと、何も変わらないと思う。「ダメだよ」とか「無理だよ」とかさんざん言われてきましたけど、それをチームとしても気にせずやってきて、チャンピオンになった。そうすることによって何も言えなくなるじゃないですか。だから批判があってもすべてひっくり返せる自信と実力があれば大丈夫なのかなって。
VIGORMAN 今のシーンが国やとしたら、国を変えるんじゃなくて、まず自分の小さい村を大きくしていこうって思ったのが去年の1stアルバム「SOLIPSISM」くらいのとき。何万人も入るレゲエフェスがなくなって、レゲエシーンも下火って言われる時代なんすけど、だからって俺まで下火じゃないぞって。そのメッセージは今回の2曲目の「Woh!!」にも込めたんですけど、その自分の火を大きくしてる作業中というか。俺の音楽を聴いてくれる人が1人でも増えれば、シーンがどうなっても俺の音楽を聴いてくれる人は絶えないと思うし、その火がほかにも広がっていけばいいのかなって思いますね。
──最後に、違うジャンルで活躍するお互いへのエールをお願いします。
VIGORMAN 俺はもうお会いする前から応援しているんで、このまま連勝してくださいしかないですね(笑)。すでに「キックボクシングと言えば那須川天心」ってなってると思うんすよね。でも、そこでキックを極めた人が次に何をするのか、すごく興味があるし、いろんなことを応援したいです。あとバンド始めてほしいっす。俺に曲を書かせてください(笑)。
那須川 (笑)。「同世代でこんな活躍している人いますかね?」って思うような存在なので、これからも変わらず唯一無二の存在であってほしいと思いますね。止まらず、ずっと加速していってほしいです。
VIGORMAN 来年は俺も試合を観に行くので、天心くんにもライブを観に来てほしいっすね。
那須川 ぜひとも! 楽しみにしてます!