それがらしさなんだろう
──似てるなっていうのは感じてたんだ。制作中なんか、お互いのクセや特徴をめっちゃ聴くことになるもんね。
ビッケブランカ 体育さんは自分の曲では音程をピタッと合わせて、ダンスミュージック然とした歌のチューニングをするんですけど、歌、単純にうまいんですよね。バラードなんか聴くとわかるけど、声のニュアンスもいっぱいあるんです。Auto-Tuneをかけるとちょっと機械的な声になって、それが体育さんの音の特徴でも今あるんですけど……今回はあえて体育さんのパートはAuto-Tuneをかけずに、歌ったままの声を入れてます。そういうふうに歌ってる体育さんの歌って、あんまないよね?
岡崎体育 ないっすね。僕は自分のアルバムだったら、ビッチリ当てるんで。もともと歌がシャープするクセがあって、いつもはそれを直してるんですけど。
──若干高くなっちゃうってことですか?
岡崎体育 そうなんですよ。
ビッケブランカ チューニングされてない体育さんの声を音源から聴くって、めちゃくちゃ新鮮だと思います。めっちゃいいビブラートするんですよ。チューニングすると「な~っかったね~~~」っていうのが「ねーーー」になるわけ。
──ああ、なるほど。
ビッケブランカ で、「らーしさなんだろ~~~」ってパートのビブラートがめっちゃ好きだったから、今回お願いしたジョシュ・カンビーっていうロサンゼルスのミックスエンジニアに「このビブラートが好きだから、ここを目立たせてくれ」と言ったんですよ。どうやって目立たせるかはジョシュに任せて。で、上がってきた音を聴いたら「らーしさなんだろ~」のお尻にディレイをかけて「なーんだろ~ろ~ろ~ろ~」って。もう、目立たせ方がロサンゼルスだな!って。
一同 あはははは!(笑)
ビッケブランカ ボリューム上げるとか、ドライにして聴こえよくするとかじゃなくて、もう“飛ばす”っていう。
──「ドッキリ大賞」のやり方ね。何回も繰り返しVTR見せる、みたいな(笑)。
ビッケブランカ はい、それをやってました(笑)。
──これめちゃくちゃいい話聞けましたね? ナタリーさん!
岡崎体育 やっと音楽の話になった。
──そうか、ビブラートか……逆に、体育くんが普段自分のビブラートを残さないのはなんでなんですか?
岡崎体育 ビブラートがそんなに得意なわけじゃなくて、これも何テイクか録った中でたまたまいいビブラートで録れたんですけど、僕はビッタリしているほうが好きなので。
ビッケブランカ ダンスミュージックやってる人だからね。
岡崎体育 だけど、ビッケさんが「ここのビブラートがいい」と言ってくれて、自分のコンプレックスというか、気付けていなかった部分に今回のレコーディングのディレクションで気付かせてもらって。しかもそこの歌詞がね、「それがらしさなんだろう」だっていう……。
──え、めちゃめちゃいい話!
ビッケブランカ ちょっと、今の話なしで!
──なんでだよ(笑)。
ビッケブランカ いい話すぎるでしょ(笑)。だけど、体育さんの“らしさ”が出せただけでも、コラボできた価値があるなと思いますね。
バース、ビルド、ドロップ
──逆にビッケさんはあったの? 今回の制作を通して新たに気付いたこととか。
ビッケブランカ 制作に関しては僕主導でやらせてもらったんですけど、エンジニアのジョシュって、世界的なDJの曲をミックスしたり、アーミン・ヴァン・ブーレンとかリタ・オラとかの曲に携わってる人なんで、本物の音を聴きまくってるわけですよ。その人が俺のトラックについてどんなことを言うかっていうのは、気になってたんです。ダンスミュージックって日本の市場では主流じゃないし、日本から世界に出て活躍しているダンスミュージックのアーティストやクリエイターが数えるほどしかいないのも事実じゃないですか。そんな中で、自分のトラックが世界標準の人間にどう映るのかが知りたかったから、曲を渡したときに「忌憚のない意見をくれ、兄さん」と伝えたわけです。そうしたら彼は「日本的だ」と言うんですよ。メロディメイキングが日本的。サウンドは十分世界標準だって。
──“ロス兄”がそんなことを。めっちゃうれしいじゃん。
ビッケブランカ ダンスミュージックとか世界標準の音楽って日本のポップスと構造が違って、サビが音だけなんですよ。「化かしHOUR NIGHT」で言ったら「ココンココンで追いかけて~こうやって何十年もばかしていたいね」のあとの音がサビ。ドロップって言うんですけど。
──なるほど!
ビッケブランカ 「ココンココンで追いかけて~こうやって何十年もばかしていたいね」はビルドっていうパートなんです。平メロ……いわゆるバースがあって、そのあと音がどんどん盛り上がっていくのはビルドゾーンなんですよ。このビルドで俺たちは「ココンココン ポポンポポン」と歌ってる。ビルドして「ばかしてたいね」でドーン!と最高潮まで上げてドロップ。「Aメロ、Bメロ、サビ」じゃなくて「バース、ビルド、ドロップ」。最後のドロップパートが、聴いている人のテンションを一番上げるんですよ、海外では。
──確かにクラブとかだと、そのドロップでみんな踊るもんね。
ビッケブランカ そうです。ちゃんとJ-POPとして着地させたいという2人の狙いのもと作っていったわけですけど、ジョシュはそのメロディがすごく美しいと。そのメロディメイキングは、きれいなメロディを作る世界のDJたちと全く遜色ないよと。だから俺みたいなエンジニアが音をちゃんと作れば、世界とも勝負できるぜと言ってくれたんですよ。
──めっちゃいいことを言ってくれて。
ビッケブランカ 僕としてはそうやって、チャレンジする中で手応えもあった感じですね。
──体育くんはできあがったものを聴いてどう感じたの?
岡崎体育 日本のミックスとはスタートの部分から違うので。ラウドネス規制みたいなところもね、日本の音源やと音詰め込みすぎてサブスクでカットされる帯域が出ちゃうんですよ。それがすごいもったいないんですけど、ロス兄はそこも完全にクリアしてますし。
──ロス兄すごいね。
岡崎体育 だからサブスクで聴いても、音の劣化がほぼない曲です。J-POPシーンの中でEDM……向こうのスタンダードをやるにあたって、ビッケさんは一番いいニュアンスを出してくれたなというか。単調なEDMも数多ある中、「化かしHOUR NIGHT」はロス兄の言う日本のよさ、メロディの美しさも出せているので。だから普段あまりEDMを聴いていない人に向けた入り口にもなると思う。この曲をきっかけに「こういうのも好きやな」って人が多く出てきそうな気がしてます。
──確かに、めちゃめちゃ聴きやすいしね。
ビッケブランカ 「聴きやすい」と言ってもらえるのはすごくいい成果だなと思います。一番盛り上がるところで急に歌詞がなくなるっていう、本来聴きにくい作りの曲なので。そういった感想が一番うれしいですね。
この2人がそろえば、曲なんて永遠に生まれる
──ボツになったっていうバラードも気になりますけどね。
岡崎体育 自分のアルバムに入れます。
ビッケブランカ 俺も自分のに入れると思います。
──いや、2人でライブやって発表してくださいよ(笑)。「これ本来一緒にやるはずだったんですけど僕の曲になっちゃったんで歌いますね」って。今後の展開とかはどうなんですか?
岡崎体育 第2弾とかですか?
ビッケブランカ 俺はやりたいって言ってるんですよ。「LIKE ANIMALS」っていうコンビで行こうって。
──名前も一度Zoomで決めたほうが(笑)。スタッフの意見が一番大事だと思うので。
ビッケブランカ なんですけどね、まあ俳優業が忙しいようで。
岡崎体育 そんなん言ってへんやん(笑)。
ビッケブランカ 1人でしくしくEDM作ってます(笑)。
──せっかくならね、アルバムとかも作ってほしいですけど。
ビッケブランカ 作るのは楽勝だと思います。この2人がそろえば、曲なんて永遠に生まれると思うし。
岡崎体育 (笑)。
ビッケブランカ 何笑っとん! だってそうじゃん、LIKE ANIMALSじゃないの?
岡崎体育 いや、そうやけど、恥ずかしくなっちゃって。
──ずっとケタケタ笑ってるじゃん(笑)。
ビッケブランカ 何よりもこの……バース、ビルド、ドロップっていう作りの曲をね。日本語で、しかもメロディメイクもよくてっていう自分たちの音楽が盛り上がってほしいですよ。音楽の新しい楽しみ方だと思うんで。
──確かに、それはそうだよね。
ビッケブランカ EDMの一番いいところって、音楽が完全に聴き手のものになるところなんですよね。いつもの僕や体育の曲には、その曲の景色やドラマの中に常に歌っている僕や体育が存在してるわけじゃないですか。だけど「化かしHOUR NIGHT」で俺たちは、聴き手に曲を放り投げるんですよ。ビルドで「このあとはお前の時間だ!」って呼びかけて、ドロップ。だから、クラブなんかでもDJは全力で盛り上げるけど、「1, 2, 3 Let's go!」でドロップに突入したら、そのあとはフロアが主役になるっていう。
──なるほどね。俺、最初の頃はその感じわかってなかったかも。「急に歌ないんだ!?」みたいに思っちゃって。
ビッケブランカ 文化がないとわからないですよね。だからこの曲をきっかけに、放り投げられた音を浴びながら踊るとか、自分が「イエーイ!」って叫んで主役になれるみたいな喜びが皆さんにも伝わったらいいなって思います。それが伝わったら、作った意味がありますよ。
──ホントにそうだよねえ。
ビッケブランカ 体育さん、次の取材でこれ同じこと言ってね。俺はもう話しきったから(笑)。
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推しHOUR NIGHT~ビッケと体育's PLAYLIST~