ビッケブランカが8月24日に新作EP「United」をリリースした。
2枚組で届けられる今作は、夏の恋を描いたポップチューン「This Kiss」や、美しく切ない歌声に胸を打たれるバラード曲「魔法のアト」、多様性をテーマにした「Changes」、エフェクトをかけたボーカルが楽しい「Treasure」といった楽曲の数々が収められるほか、2021年11月にLINE CUBE SHIBUYAで行われたワンマン公演「FATE TOUR 2147」のライブ音源も収録されるなど、バラエティ豊かな1枚に。無二の個性で創作の幅をさらに広げているビッケブランカの“今”が凝縮された作品となっている。
8月27日には、デビュー5周年イヤーの集大成となる全国ツアー「THE TOUR『Vicke Blanka』」がスタートするほか、10月に彼が新たに立ち上げたイベントの第1弾となる「Vicke Blanka presents RAINBOW ROAD -軌-」の開催も決定。5周年を契機にさらなる飛躍を遂げているビッケブランカに、EP「United」の制作や「RAINBOW ROAD」について語ってもらった。
取材・文 / 森朋之撮影 / 笹原清明
自分も楽しくなれるような曲にしたくて
──5周年イヤーを彩る全国ツアー「THE TOUR『Vicke Blanka』」のスタート直前に、新作EP「United」がリリースされます。
ツアーが始まる3日前ですね。にぎやかでいいかなと思って。
──「United」はビッケブランカさんのカラフルなポップセンスが体感できる作品ですよね。まず1曲目の「This Kiss」は、BS-TBSのドラマ「あなたはだんだん欲しくなる」の主題歌です。
この曲は、実はドラマのために書き下ろした曲ではないんですよ。自分がいいと思って作っていた曲をドラマのスタッフの方が聴いてくれて、「主題歌として使わせてください」というお話をいただいたという形で。
──そうだったんですね。リゾート的な雰囲気のサウンド、軽快なグルーヴ、ちょっと切ないメロディを含めて、現代版のシティポップだなと感じました。
シティポップがなんなのか、自分はわかってないんですけどね(笑)。よく「何年代のシティポップっぽいですね」と言われるんだけど、「そうなんですね」としか答えようがなくて。「This Kiss」は夏っぽい感じをひさびさにやってみようと思ったんですよ。「夏の夢」(2018年)、「夢醒めSunset」(2021年)のようにゆったりした夏の曲はあるんだけど、今回は自分も楽しくなれるような曲にしたくて。歌詞に関しては、タイトル通り“キス”がテーマですね。「キスするよね」「うん、する」という雰囲気になって、実際にキスするまでの数秒を歌いたいなと。
──伸びやかなフロウも気持ちいいですね。
メロディ自体が伸びやかだし、1回のブレスである程度の文字数を歌うことは意識していました。とにかくグイグイ来るような歌詞にしたかったし、内容に関しても、かなり言い切っています。
──仲間たちと海のそばではしゃぐミュージックビデオも素敵でした。ダンサブルな楽曲だし、ビッケさんも踊り出しそうな雰囲気でしたけど……。
踊ってるのは一瞬ですね(笑)。最近は踊るミュージックビデオが流行ってるし、実は僕もダンス経験者なんですけど、生半可な気持ちでそっちには踏み込めなくて。“歌って踊る”フィールドには三浦大知さんというすごい人がいらっしゃるし、「ちょっと踊ってみました」みたいなニュアンスではやれないです、僕は。ただ、撮影では「みんなで踊るとこんなに楽しい感じになるんだ」と思ったし、ライブでやるときのイメージの着想にもつながりましたね。
バラードはやっぱり居心地がいい
──2曲目の「魔法のアト」(東海テレビ・フジテレビ系ドラマ「個人差あります」挿入歌)は、珠玉という表現がぴったりのバラードナンバーですね。とにかくボーカルが素晴らしいです。
バラードは作るのも歌うのも好きだし、やっぱり居心地がいいんですよ。ゆったりしたメロディのほうが、こちらがやりたいことを明確に伝えられるというか。この曲は、「魔法のアト」のドラマ側から「どういうバラードにしてほしいか」というイメージが事前にあって、頭をそのモードにして書いた曲ですね。メロディと歌詞が曲の真ん中にしっかりあったし、これはもうピアノ1本でいいいなと。
──実際、ピアノと歌だけの超シンプルなアレンジですよね。
そうなんです。試しにストリングを入れてみたんですけど、そうするとベースやドラムも欲しくなっちゃって。そうするとどうしても音数が増えてしまうし、中庸というか、よく聴く感じになってしまう。だったらピアノと歌、コーラスだけで十分だなと。ミックスのバランスも歌が真ん中で、ピアノは一瞬たりとも歌を追い越してないんですよ。
──当然ですが、ミックスも曲の個性だし、印象を大きく左右しますからね。
うん、ミックスはめちゃくちゃ大事です。「魔法のアト」のミックスをやってくれたのは、神戸円さんという女性のエンジニアなんです。「Devided」(2021年)のミックスも彼女なんですけど、神戸さんはすごくチャレンジ精神があって、けっこう思い切ったことをやってくる人で。「その思い切りは少し抑えて」というときもあるんだけど(笑)、ハマったときはすごくいいんですよ。
──「君しかいないのに / 君に伝わらない」というもどかしさを反映した歌詞も印象的でした。
ドラマでは、“性別がいきなり変わる人が続出して、それを社会が受け入れている”という世界が描かれているんですけど、そっちに寄り添いすぎるとSFや異世界系みたいになりそうだったので、ニュアンスだけを心に置いて書きました。ドラマに出てくるシンガーソングライターが劇中でこの曲を歌うという設定もあったので、それも意識しつつ。
──その、ドラマに登場するシンガーソングライターはビッケさんが演じていらっしゃいます。演技はお好きですか?
好きだと言っておきます(笑)。ただ、自分の芝居には全然納得してないですけどね。もちろん俳優の皆さんと肩を並べようなんて思ってないですけど、自分の中で「これくらいはできているはず」と思うレベルにも全然届いてなくて……(笑)。
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すべてを知らないと信憑性のある曲は書けない