いきなり違う空気になるのが好き
──「Ca Va?」も代表曲の1つで、音楽シーンに与えたインパクト、セールス力を含めてエポックメイキングな楽曲だと思います。
そうですね。「Ca Va?」の前に出した「まっしろ」はタイアップ(ドラマ「獣になれない私たち」挿入歌)が付いていて、いい感じのバラードだったんです。たくさんの人に聴いてもらえて、“ビッケブランカ=めっちゃいいバラードを歌う人”というイメージができつつあった。で、次のリリースの話になったとき、スタッフは「しみじみとした感じのミドルテンポの曲がいいんじゃない?」と言ってたんだけど、「そんなのつまんなくない?」と反対したんです。「まっしろ」からの流れをぶっ壊す曲のがいいなと思って、「Ca Va?」を提案して。
──スタッフの皆さんの反応はどうでした?
ドン引きでしたね(笑)。「いやいや、ありえない」「そんなのやるわけない」って。僕としては「絶対面白いことになるから」と言ってたんだけど、なかなか納得してもらえなかった。SpotifyのCMソングになってからもですよ(笑)。僕も必ずうまくいく確信があったわけではなくて、ただ「そっちのほうが面白そう」ってだけだったんですけど。
──とにかく面白い方向に進むと。
そうですね。最後までゴリ押しして、「お前がそこまで言うならもういいよ」と言う感じでリリースしたんですけど、世間の皆さんにはすぐに「なんだこの曲!?」と面白がってもらえたし、チャートの結果もよくて。最終的にはスタッフも「こういう展開は予想できなかったわ」と認めてくれたし、「でしょー!」と笑いながら話すのも楽しかったです。
──すごい。ビッケさんは基本的に天の邪鬼なんだけど、それが功を奏したというか。
「これがセオリー」「次はこうなるはず」という流れとは違うことをやるのが好きなんですけど、「Ca Va?」のリリースはそれの最たるものですね。「曲さえよければ大丈夫」と思ってたし、音楽的な説得力や価値があるからこそ、「この曲でいこう」という判断ができたんですけどね。あと、どう転んでも笑えるじゃないですか。もしリスナーがガッカリして「これはないわ」と思っても、それはそれで「ヤバいことになったね」って(笑)。
──普通はそういう心境になれないと思います(笑)。失敗は怖いじゃないですか。
子供のときからそんなことばっかりやってたんですよ。小学生のときも「今こういうこと言ったら、先生どうなるかな?」みたいなことを考えてたし、授業参観の最後でいきなりダンスを披露して、思いのほかウケて「子供のやることってけっこう受け入れられるんだな」と思ったり。
──それもさっき言っていたような“実験”だったのかも。
そこまで冷静だったわけじゃないですけど、いきなり違う空気になるのが好きだったんですよね。ただ、「Ca Va?」がこんなに受け入れられるのは想定外でした。そういうことも何度かあるんですよね。「Black Catcher」(テレビアニメ「ブラッククローバー」主題歌)が海外でめちゃくちゃ聴かれているのもそうだし。
──Spotifyの「海外で最も再生された国内アーティストの楽曲」で2020年、2021年と続けてトップ10に入った曲ですね。
ほとんどが海外のリスナーなんですよ、「Black Catcher」は。もちろん「ブラッククローバー」の力が大きいんですけど、1.5億再生を超えているのは異常ですね。もともとアニメの第3クールのときに「Black Rover」という曲で主題歌をやらせてもらってたんですけど、すぐに5000万回くらい聴かれて「なんじゃこれ?」とビックリして。なので、第10クールのときに自分から「主題歌やらせてください」とアニメのスタッフさんに連絡したんです。だって、絶対に当たる馬券みたいなものじゃないですか。これを逃す手はないし「1億再生させますから!」って。
──すごいアピール力ですね。
いやいや、だって自分の人生ですから!
どんな状況であれ、自分が幸せであることが一番大事
──「白熊」もファンの間で人気のある楽曲の1つです。ビッケさん自身のリアルな感情が込められた楽曲ですよね。
自分のメッセージをうまく表現できたと思っています。「白熊」も意外というか、ここまでしっかり届いているとは思ってなかったんですよね、実は。ちょっと乱暴な表現というか、「君を守るよ。僕がいるよ」という姿勢から一歩踏み込んで、「誰にやられた? 俺、そいつをシメてくるから」というところまで歌っているので。そこまではっきり書いてはいないんだけど、自分が曲に込めた気持ちとしてはそういう感じなんですよ。
──包み込む優しさというより、もっと激情に近い気持ちというか。
「好き」だとか「守りたい」では足りなかったんですよね。「白熊」で歌っていることは幼稚園のときの思い出がもとになっていて。妹が誰かにいじめられたときに「誰がやった?」って聞き出して、そいつのところまで行ったんですよ。今もはっきり覚えてるんだけど、そいつをぶっ飛ばすことしか考えてなかったし、心がざわついて、怒りもあって、守りたくて、悔しくて……幼稚園のときの話ですけどね(笑)。根底にあったのは、「許せない」という純粋な気持ちでしたね。
──そういう激しい思いを洗練されたポップスに昇華させているのが素晴らしいと思います。「ポニーテイル」もそうですが、J-POPの王道と呼べるような曲も実は得意ですよね。
「ポニーテイル」を作った頃はちょっと心が疲れていて、「音楽に振り回されたくない」という時期だったんです。Salyuさんの曲ばっかり聴いてたんですけど、「今こういう音楽が好きってことは、次に作る曲もこういう感じなんだろうな」と思ってたら、やっぱりそうなった。だけど何も起きてない曲ではないんですよ。ゆったり聴けるんだけど、最後にはふと「今の、何かいいな」って気持ちになれるはずなので。なのでアレンジもJ-POPのトッププロデューサーである本間昭光さんにお願いしました。そういうモードだったってことですね、自分が。
──その瞬間のモードや気分によって生み出す曲がどんどん変化する。本当に自由な創作スタイルですね。
うん、めちゃくちゃ自由にやらせてもらってます。基本すごく楽しいし、アーティストの知り合いから悩みの相談をされたときとか「そんなにつらい思いをしなくても」と思っちゃうんですよ。もちろんそれぞれの人生だし、考え方や価値観も違うから余計なことは言いませんけど、「偉大なことをやるためにはつらいことが付き物だ」という考えが定着しちゃってる気がして。でも実はそんなことはなくて、偉大なことを楽しく、ラクにやることもできるはずなんだけど。
──ビッケさんほど自由に楽しそうに音楽をやってる人は少ない気がしますけど。
同世代のアーティストからも「うらやましい」って言われます。でもね、そう言ってる人が僕より売れてたりするんですよ!(笑) いくら売れてても、つらいんじゃしょうがない気もするけど。
──その話、社会全体にも共通していますよね。仕事はつらいもの、楽しむのは罪みたいな風潮もあるので。
それもホントに不思議。どんな状況であれ、自分が幸せであることが一番大事だと思ってるんですよね、僕は。楽しいはずの30代前半がつらくなるのはイヤじゃないですか。……こういう話、もっとしたいですね(笑)。
「海外に行きたい」という欲は止まらない
──ベストアルバムには新曲「アイライキュー」も収録されています。「いつからかアイライキュー 運命が僕たちを選んでいたんでしょう」という冒頭の歌詞もそうですが、ファンの皆さんとビッケさんの結び付きを想起させるような……。
え、違う違う! あ、でも「ファンのみんなのために書いた曲」ってことにしておこうかな(笑)。
──あはは、いやいや(笑)。「アイライキュー」もこれまで通り、今やりたいことを形にした曲なんですか?
そう、素直にやりたいことをやりました(笑)。僕の曲にはいくつか系統というか、ラインがあるんですよ。「Ca Va?」「Shekebon!」のライン、「THUNDERBOLT」「Avalanche」のライン、「キロン」「蒼天のヴァンパイア」のライン……と、傾向が近い曲で分けられる。で、「アイライキュー」は、「ポニーテイル」「北斗七星」のライン。ゆったりしたポップスに乗せて“好きだ”が“愛してる”に変わる瞬間を描きたいというアイデアがあって、それをブラッシュアップさせました。
──そこにはビッケさん自身の体験も反映されているんですか?
そんな野暮なこと聞かないでくださいよ! 「そうです」と言っても寒いし、「そうじゃない」も寒いんで(笑)。
──失礼しました(笑)。そして、リリース後にはベストアルバムを引っ提げた5周年アニバーサリーツアーが始まります。
アリーナクラスの会場(東京ガーデンシアター)もあるし、楽しみです。5周年を打ち出すことでリスナーも楽しんでもらえると思うし、ツアーのタイトルも「Vicke Blanka」なんですよ。みんなで1つのことを成し遂げて、次のことを考えたいですね。
──まさにひと区切りなんですね。次の展開も見えているのでは?
いや、全然ですね。ただ「海外に行きたい」という欲は止まらないんですよ。というか「何でお前、まだ行ってないの?」という感じで。
──行きたいなら、すぐ行けよって?
そう。デビューしてからはずっと忙しくて躍起になってたし、(コロナ禍の)こういう状況だからしょうがないところもあるんだけど。「日本でやり尽くして、40代半ばで憧れの海外に移住」というのは違うんですよね。今の年齢で行って、向こうのフィールドで戦いたいので。たまたま英語も話せるし、できるだけ早くしないと……なので今、めっちゃ歯を治してます(笑)。もちろん、メジャーデビューしてから5年間、一緒にがんばってきたスタッフがモヤモヤするのは絶対よくないと思っていて。まずはみんなと話し合いながら決めたいですね。