ビッケブランカが3月23日に初のベストアルバム「BEST ALBUM SUPERVILLAIN」をリリースした。
メジャーデビュー5周年を記念して制作された本作には、ファン投票で選ばれた人気曲を中心とした全36曲が収められた。そのラインナップはメジャーデビュー曲「ウララ」、ブレイクのきっかけとなった名バラード「まっしろ」、奔放なポップセンスが炸裂したアッパーチューン「Ca Va?」といった代表曲や新曲「アイライキュー」など。決して型にハマらず、持ち前のセンスを自由に発揮して彩り豊かな楽曲を発表してきたビッケブランカの、5年間の軌跡を追体験できるアイテムとなっている。「デビュー当初はやりたいアイデアを形にするので必死だった」というビッケブランカ。音楽ナタリーでは彼にインタビューを行い、ベスト盤の話題を軸に、この5年間の自身の変遷と今後の展望について語ってもらった。
また、最後のページにはビッケブランカの音楽を愛する4名のプレイリストと、ビッケブランカへ向けたメッセージを掲載する。
取材・文 / 森朋之撮影 / 曽我美芽
ビッケブランカ インタビュー
曲を作る意欲はまったくなくならなかった
──初のベストアルバム「BEST ALBUM SUPERVILLAIN」がリリースされました。メジャーデビューから5年間のキャリアが刻まれた作品ですね。
自分の音楽史をたどれるし、「こんなに曲があるんだ?」と思いましたね。もちろんこれ以外にもたくさん曲があるわけで、「どんな気概で作ってたんだろう?」って。我ながらすごいです(笑)。
──実際、どんな気概で制作を続けていたんですか?
まず、やりたいことがいっぱいあったんですよね。子供の頃から「こんな曲があったら面白いんじゃないか」というアイデアを貯めていて、それを1つひとつ曲として消化して。なので、これくらいの曲数があっても不思議ではないんです。
──とにかくクリエイティブに力を注いだ5年間だったと。「SUPERVILLAIN」を直訳すると、“超悪者”みたいな意味ですが、どうしてこのタイトルに?
自分でも気付いてなかったんですけど、これまでの作品にそういう言葉をけっこう使ってたんですよ。「wizard」(2018年11月リリース)、「Devil」(2020年3月リリース)もそうだし、「蒼天のヴァンパイア」(2021年7月)だったり。潜在的にそういう言葉が好きなんだなと思ったし、その総称が“SUPERVILLAIN”なのかなと。ヒーローじゃないことも自覚してますからね。自分は音楽業界のど真ん中にはいないと思ってるので。
──そうですか?
変化球を投げ続けてるというか(笑)。まあ、そもそもど真ん中を目指しているわけじゃないんですよ。ど真ん中に行くためには危険なことを削って、どんどんホワイトにならなくちゃいけない。それは退屈ですからね。ただ、一方で「愛されたい」という気持ちもあるので、ちょっと難しいんですけどね(笑)。
──メジャーデビュー当時の将来的なビジョンはどんなものだったんですか?
そんな大したものはなかった気がします。当時のインタビューを読み返しても、そこまで息巻いてないと思うし。そもそもデビューしたのが29歳ですからね。愛知から上京したのが23歳で、インディーズで最初にリリースしたのが28歳。めちゃくちゃ遅いんですよ(笑)。なのでデビューしたときも手放しで喜ぶことはなかったし、「夢が叶った」とも「もっと上を目指そう」とも思っていなかったです。
──冷静に受け止めていた?
デビューするまでにいろんな経験をしましたからね。音楽業界に触れ始めたのが22歳くらいで、そこからいくつか事務所をジャーニーして(笑)。6年くらいはまったくダメだったし、変に業界のことをわかった気になって……でも、曲を作る意欲はまったくなくならなかったんですよ。「音楽業界ってこんなもんか」と斜に構えて逃げることもなかったし、ひたすら作っていました。「いつになったらこの曲たちを世に放てるんだろう?」とは思ってましたけどね。メジャーデビューしたときは「ようやく世に出せる!」という気持ちが強かったし、同時に「ヤバい、やりたいことがめっちゃある」という状態だったんです。「あとはもう作るしかないな」って必死になっていることが楽しかったし、「自分にはこれしかできない」と思い込んでいましたね。
──蓄積してきたアイデアを曲として具現化する日々だったと。
まさにそうですね。実際に形にしないと、そのアイデアが正しいかどうかもわからないので。「この音とこの音を組み合わせたらどうなるか?」という視点もあるし、「今の日本にこの曲を放ったらどう受け取られるか?」という視点もあって。とにかくアイデアを消化するのに一生懸命で、最初の3年は実験ばっかりやってた気がする。すごく面白かったけど、疲れましたね(笑)。
──実験の結果もちゃんとチェックしないといけないですしね。
それもいろんな見方があるんですよね。セールスやライブの規模などに関しては順調で、ずっと右肩上がりなんですよ。楽曲を作るときはそういうことを気にせず、自由にやってますけどね。ライブも意外と計算しているというか、セットリストや演出を含めて、「こうすれば盛り上がる」みたいなことを考えるんだけど、曲を作るときはそうじゃないので。ベストアルバムに入っている曲も「そうそう、このときはコレを試したかったんだ」という感じで思い出せます。例えば「Moon Ride」は唯一、ラッパ(管楽器)を使っている楽曲なんです。ピアノファンク系のサウンドなんですけど、どうしてもラッパを入れたくて。それ以来、一度も使ってないんですけどね。
曲の中で何かを起こしたいし、そうじゃないと価値がない
──ベスト盤の収録曲はファン投票をもとに決めたそうですが、メジャーデビュー曲の「ウララ」が1位。この結果をどう受け止めていますか?
もちろんうれしかったですけど、めっちゃ意外というわけでもなく、予想していたわけでもなく、「へえー」という感じだったかな。スタッフは「ライブでの置き場所の影響もあるんじゃない?」と言ってたんだけど……。
──ライブ本編の最後に持ってくることも多いですからね。
はい。でもそれだけじゃなくて、単純に曲がいいんだろうなと思います。「ウララ」はタイアップも何も付いてなくて、ただ「春の歌を書こう」というところから始まった曲で。当時の僕なりの春ソングなんだけど、とにかく一生懸命作ったんです。いろいろなアイデアを試して、削ったり足したりを繰り返して。トライの回数はかなり多かったと思います。
──「Slave of Love」のような組曲的な楽曲もビッケブランカさんの特徴ですよね。
そうかも。曲の中で突然テンポチェンジしたり、わけのわからないゾーンを入れるのが好きなんですよ。インディーズ時代の「Bad Boy Love」も同じようなアレンジの曲なんですけど、それをさらに研ぎ澄ませたのが「Slave of Love」ですね。一番よくないのは“何も起こらない音楽”だと思ってるんです。曲の中で何かを起こしたいし、そうじゃないと価値がないなと。
──淡々と進行する楽曲が好きじゃない、ということですか?
それはちょっと違っていて。例えばFloating Pointsの同じような電子音が延々と続く曲は、何も起きてないように聞こえるけど、実は聴き手に“何か”を起こしていたりする。映画でも同じようなことが言えるんですよね。派手な爆発だったり、登場人物が裏切ったりすれば何かが起きてるわけではないというか。僕「A GHOST STORY」という映画が大好きなんですが、この作品、住人がキッチンでパイを食べているところをおばけが見ているシーンが10分以上続くんですよ。その“虚無な時間”はおばけにとっての時間の流れ方を表していて、観る人が観れば「おばけって、こんな感じなのか」ということがわかる。音楽もそうですけど、何かを起こすための手法はいろいろあるので。
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いきなり違う空気になるのが好き