衣食住行
──ちなみに「WALK」というタイトルはどの段階で出てきたんですか?
ビッケブランカ 英語で最初に作ったときに、「さあ歩こう歩こう歩こう」っていうところを「アイ・キャン・ウォーク、アイ・キャン・ウォーク」って歌ってたんですよ。それを日本語に置き換えるときに、ここはヘンに変えずに直訳でいいなと思って、そのまま「歩こう歩こう」って書いたんですね。で、改めて映画のことを聞いたら、この作品は“衣食住行”がテーマになっていて、“衣”の部分を竹内監督の「小さなファッションショー」が担っていると。その中の“行”というのは、中国では“行動する”みたいな意味なんですかね?
竹内 交通とか、人の移動といった意味ですね。
ビッケブランカ あ、そうですよね。その“人の移動”みたいなところに「さあ、歩こう」という歌詞が偶然当てはまったわけなんですよ。
竹内 完璧ですね(笑)。
ビッケブランカ うん。完璧なんですよ(笑)。だから本当にいい曲を書かせてもらえたなと思って。
──曲のイントロがまさに“歩いている状態”をイメージさせますよね。
ビッケブランカ “パーッ、パーッ”って規則的に鳴ってる音が時間の経過を表していて、“タラララララララ”っていうのが足の動きのイメージです。
白石 あ、そうやって一音一音に意味を持たせているから自然と歩いているイメージが浮かぶんですね。こうやってお話を聞けると、いろいろなことが知れてうれしいです(笑)。
ビッケブランカ いつもイントロはそういうことを考えて作ってたりしてます。
何かを解決させるために物語があるのではなく、とにかく人を描いているんですよ
──ここからはもう少し「小さなファッションショー」の話にフォーカスして聞いていこうと思います。竹内監督はこの作品を作るにあたって、中国の広州の街中をかなり歩き回ったそうですね。
竹内 はい。朝から晩まで。2回に分けてロケハンに行ったんですけど、始めは5日間くらい現地の人の家を見せてもらったり、シナリオに合った場所を探して歩いたりして。
──これまでも何度か行かれていたんですか?
竹内 ちょっと前に上海には行ってたんですけど、広州は初めてでした。どっちも大都市なので大きくは違わないけど、上海のほうが観光の色がありますね。広州は古い町があるのにその横にすごい大きなビルが建っていたり、その対比がすごくて。時代の変化がそのまま表れていると言うか。
──作品でも近代的なビルと昔ながらの町並みの共存が描かれていますが、人気モデルとして華々しく活躍しているイリンは外や未来に意識が向いている印象で、妹のルルのほうが地に足が着いているという印象がありました。
竹内 そうですね。近代的なビルと昔の風景が共存している広州で、人によっていろんな思いを抱いて生活しているんだろうなと思ったんですよ。未来に希望を抱いている人もいるだろうし、流されて生きている人もいるかもしれないし、地に足を着けて暮らしている人もいるだろうし。
──白石さんはルルをどういう女の子だと捉えていたんですか?
白石 お姉ちゃん思いの優しい子なんですが、優しさの中に芯の強さがあって、服を作ることへの情熱と夢をしっかり持っている。そのうえで日常的な家事などをきちんとしながら生活している子だなと思って演じました。
──イリンもルルも決して器用に生きている感じではないですよね。
白石 そうですね。それぞれ違う意味での不器用さがあって、互いの足りない部分を補い合い、支え合っているのが、あの姉妹の素敵なところだなって。
ビッケブランカ 僕、ルルが怒った瞬間のあの声が忘れられないんですよ。「バカにしないでよ!」っていう。あそこが一番心に残ってますね。
白石 ああいう優しくていつも柔らかな子が怒るときってどうなるんだろう?って、すごく考えました。私はルルのように一気に爆発はしないので。爆発するというよりは、勝手にプンスカして、すぐ収まるタイプなんです(笑)。
──「WALK」の歌詞の中に「どうかキリのないこのちくはぐ模様に どうか意味よあれと願っていた」というフレーズがありますが、この“ちぐはぐ模様”というのは姉妹の感情を表しているんですよね?
ビッケブランカ その通りです。感情のちぐはぐであり、服を作るときのパッチワークのちぐはぐですね。でも、意識してあのシーンを当てはめて書いたというわけではなくて。感じたことをポロっと書くと、それが3作品すべてに通じるという感覚が、作詞をしている最中に不思議と何度もあったんですよ。それってきっと、3作品が一貫したものを伝えようとしていたからなんじゃないかなと思うんですけど。
竹内 うん。この3作品は物語の中に大きな事件は設定してないんですよね。何かが起きてそれを解決させるために物語があるのではなく、とにかく人を描いているんですよ。それが3編に共通しているところで。明確に何か結論を言いたいわけではない。ただ「人と人とのつながりって大事だなあ」というぐらいに思ってもらえればいいし。観る人によってそれぞれ経験が違うと思うので、自分に当てはまるところとそうじゃないところがあるでしょうけど、でも違っていてもそれをどう解釈するかという方向性は伝えられているんじゃないかなと。だから結末は観る人それぞれで描いてもらえればいいなと思っているんです。
──観る人の経験によって、3編の誰に感情移入するかも変わっていく。自分は「小さなファッションショー」のイリンのマネージャーで相談役でもあり、ルルとも仲のいいスティーブが好きでした。
ビッケブランカ いいですよね、スティーブ。僕も好きでした。
白石 ステキな存在ですよね。
竹内 あのキャラクターは脚本の方の発案なんですけど、話を転がす役割としてもよかったですね。姉妹の話なので、あそこに男性らしい男性が入り込むとちょっとバランスがよくないなと思っていたんですけど、ああいうキャラクターであればちょうどいい。姉妹には両親がいないという設定なんですけど、スティーブは父でもあり母でもあるという、その両方の役割を持たせているんです。
ビッケブランカ ああ、なるほどそういうことなのか。イリンを川べりでたしなめたり慰めたりているところなんて、ちょっとお父さんっぽいですもんね。口調はお母さんっぽいけど(笑)。そっか、両方を担っているんですね。
夏はいつも気付いたら終わってる
──3編にはそれぞれキーになるアイテムがあって、「陽だまりの朝食」はビーフン、「上海恋」はカセットテープが象徴的に出てくるわけですが、「小さなファッションショー」で竹内監督が服をキーにしようと思ったのはどうしてなんですか?
竹内 ファッションは人と人とのコミュニケーションのツールだったりもするので、そこで姉妹の関係性の変化を描ければと思ったんです。衣食住のうち「食」とか「住」についてだと、僕は中国で暮らしたわけじゃないので、そこまでリアルさを出せない。でも「衣」を人と人とのつながりのツールというふうに着目して描くことならできるんじゃないかなと思って。
ビッケブランカ なるほど。
──特に女性にとっては、服は食と同じくらい重要だったりもしますからね。
白石 そうですね。明るい服を着ているだけで気分が上がったりもしますし。
──そう言えば今日の白石さんの服は、あの姉妹と同じ色の……。
白石 はい。意識して着てきました(笑)。やっぱりこういう色の服を着ていると気持ちも明るくなりますね。だからあの2人のこだわりがわかる気がします。
──そんな白石さんは、これからビッケにどんな曲を歌ってほしいですか?
白石 私はバラードが好きなので、その優しい声でバラードを聴かせてください。
ビッケブランカ わかりました(笑)。
──ちなみにニューシングルのもう1曲「夏の夢」は、バラードではないですけど、これもビッケとしては手応えありの曲ですよね?
ビッケブランカ もちろんです。これは夏を楽しみきれないやつの歌なんですけど、日本中に隠れてたくさんいるであろう、そういう人たちの代表曲になればいいなと思ってます。監督は、夏、お好きですか?
竹内 いやあ。夏はいつも気付いたら終わってるんですよね。
白石 そうですね。夏が始まると、「今年こそ浴衣着て花火大会に行って、水着も買って海に行くぞ」とか思うんですが、思っているだけで気が付いたら夏が終わっていますね。
ビッケブランカ そんなお二人にもピッタリな曲として、ぜひ聴いてください!(笑)
- ビッケブランカ「夏の夢 / WALK」
- 2018年8月8日発売 / avex trax
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数量限定生産盤
[CD+サコッシュバッグ]
2160円 / AVCD-94135 -
通常盤
[CD]
1296円 / AVCD-94136
- 収録曲
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- 夏の夢
- WALK(movie ver.)
- 夏の夢(cold water remix)
- Black Rover(feat.SKY-HI city raven remix)
- 「詩季織々」
- テアトル新宿、シネ・リーブル池袋ほかで公開中
- 「陽だまりの朝食」
- スタッフ / キャスト
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監督:イシャオシン
キャスト:坂泰斗 / 伊瀬茉莉也
- ストーリー
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北京で働く青年シャオミンは、ふと故郷・湖南省での日々を思い出す。祖母と過ごした田舎での暮らし、通学路で感じた恋の気配や学校での出来事……子供時代の思い出のかたわらには、いつも温かい、心のこもったビーフンの懐かしい味があった。そんな中、シャオミンの祖母が体調を崩したとの電話が入る。
- 「小さなファッションショー」
- スタッフ / キャスト
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監督:竹内良貴
キャスト:寿美菜子 / 白石晴香 / 安元洋貴
- ストーリー
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広州の姉妹、人気モデルのイリンと専門学校生のルル。幼くして両親を亡くした2人は、共に助け合いながら仲良く一緒に暮らしていた。しかし、公私ともに様々な事がうまくいかなくなってきたイリンはついルルに八つ当たりしてしまい、2人の間には溝ができ、大ゲンカをしてしまう。
- 「上海恋」
- スタッフ / キャスト
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監督:リ・ハオリン
キャスト:大塚剛央 / 長谷川育美
- ストーリー
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1990年代の上海。石庫門(せきこもん)に住むリモは、幼馴染のシャオユに淡い想いを抱きながら、いつも一緒に過ごしていた。しかし、ある事がきっかけとなり、リモは石庫門から出ていき、お互いの距離と気持ちは離れてしまう。そして現代、社会人になったリモは、引っ越しの荷物の中に持っているはずのないシャオユとの思い出の品を見つけるのだった。
©「詩季織々」フィルムパートナーズ
- ビッケブランカ
- 愛知県出身の男性シンガーソングライター。高校卒業と同時に上京しピアノを習得した後、本名の山池純矢としてソロ活動を開始する。2012年にビッケブランカに改名。その後はライブを中心に活動を続け、美麗なファルセットボイスとピアノが紡ぎ出すポップチューンを武器に各地のイベントなどに出場し話題を集めている。2014年7月に配信シングル「追うBOY」をリリース。同年10月に1stミニアルバム「ツベルクリン」を発売した。2015年8月には2ndミニアルバム「GOOD LUCK」を発表。2016年10月にミニアルバム「Slave of Love」でavex traxよりメジャーデビューを果たす。デビュー作収録の「Natural Woman」はメタボリックのスムージー「enNatural」、「Slave of Love」はGoogle Play MusicのCMソングに採用された。2017年1月にワンマンツアー、5月にツーマンツアーを行い、各公演のチケットはソールドアウトを記録する。7月に1stフルアルバム「FEARLESS」をリリースし、8月には「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017」や「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2017 in EZO」といった大型フェスに出演。9月からワンマンツアー「FEARLESS TOUR 2017」を行い、10月の東京・赤坂BLITZでのツアーファイナルを含め満員御礼となった。2018年4月にメジャー1stシングル「ウララ」を発表。8月に2ndシングル「夏の夢 / WALK」をリリースした。
- 竹内良貴(タケウチヨシタカ)
- 1985年生まれ。東京工科大学メディア学部卒業。映画「秒速5センチメートル」(2007年)より、すべての新海誠作品に背景美術・CGスタッフとして参加。「星を追う子ども」(2011年)、「言の葉の庭」(2013年)、「君の名は。」(2016年)では、3DCGチーフとして各3Dカットを担当し、新海作品を支える。自身でもアニメーション作品やCMなどに演出、監督として携わり、「小さなファッションショー」でオリジナル作品の監督デビューを果たす。
- 白石晴香(シライシハルカ)
- 1995年4月8日生まれ、東京都出身の女優、声優。特技はジャズダンスとバレエ。2011年公開の映画「コクリコ坂から」の松崎空役で声優デビューし、以降、2014年公開の映画「思い出のマーニー」などに参加。同年NHK BSプレミアムで放送されたテレビアニメ「山賊の娘ローニャ」では主人公のローニャ役を務める。声優として活動するほか、舞台作品にも多く出演。またテレビアニメ「ゴールデンカムイ」では、アシリパ役を担当している。