Veats Shibuya特集|五感で楽しむ新ライブハウスを杏沙子が訪問!店長&デザイナーによるこだわり解説も

川上貴也氏(Veats Shibuya店長)&若松義秀氏( (株)SLOPE代表)インタビュー

左からVeats Shibuya店長の川上貴也氏、デザイナーの若松義秀氏。

40歳新人です

──川上さんが店長を任されることになった経緯は?

川上 最初は原宿RUIDOというハコで働いてたんですが、それから20年くらい東京でいろんなハコを開けたり閉めたりしてきたんです。その中で、ビクターから新しいハコを作るという話を聞きまして。じゃあ一度詳しい話を聞いてみようかと思って軽い気持ちで担当者に会ってみたら、それが実は面接だったんです(笑)。でも、ちょうど新しいことを始めてみたいと思っていたタイミングでしたし、やってみようかなと。正直に言うと、ビクターに来て正式に契約を結んだのは今年の4月で。

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──じゃあ、新人ですね。

川上 そうなんです。40歳、新人です。

──若松さんはどういう流れでデザイナーとして関わることになったんですか?

若松 以前、avexさんやLDHさんのスタジオを一緒に作った施行会社がありまして。そこがVeatsを手がけることになったときに、一緒にやらないかとお声がけをいただきました。

──ちなみに、過去にライブハウスをデザインされたことは?

若松 ライブハウスは初めてなんです。これまではショップを中心に、オフィス、住宅、先ほども言ったスタジオなど、あまり垣根なくいろいろやってきてはいたんですけども。

──初めてライブハウスを作ってみていかがでしたか?

若松 面白かったです。もともと音楽がすごく好きで、DJをやったり、ライブハウスやクラブにもよく行ったりしてまして。それで、今回のお話をいただいてすぐ、勉強のためにニューヨークに行ったんです。7泊8日の日程で、20カ所くらいのヴェニューを回りました。

川上 20カ所! そんなに!

若松 ニューヨークって、ライブハウスが文化として根付いてる感じがあって。そういった空気感とかハコの使われ方、人々の楽しみ方を肌で感じておこうと。マンハッタンのマーキュリー・ラウンジとか古くからあるようなところも見に行ったし、ブルックリンの新しいハコとかも見ました。キャパ100人程度のところから上は1000人ぐらいまで、いろいろ見てからVeatsのデザインに入りました。

愛のあるハコはだいたいフローリング

──実際のデザインはどのように進めていったのでしょう?

若松 最初にビクターの方に「どんなライブハウスにしたいですか?」とヒアリングしたときに聞いたのは、「いろんな側面を持たせたい」ということでした。昔ながらのライブハウスって“3K”、つまり「暗い、汚い、怖い」のイメージがあるじゃないですか。そういうのじゃなくて、ロックバンドだけじゃなく、例えば声優さんのライブだったりレーベルのコンベンションライブだったり、いろんな用途に対応させたいというのが一番のオーダーだったんです。

川上 図面を見たときに「これ、ライブハウスじゃないな」とは正直思ったんですよ。僕の知ってるライブハウスって、極端に言えば全面黒塗りで床も真っ黒で、柵があってみたいな感じだったので。

若松 まさに「ライブハウスっぽくないハコ」を目指したんです。

──床がフローリングだったり、ライブハウスというよりスタジオっぽい雰囲気がありますね。

Veats Shibuya内の様子。

若松 クラブでもライブハウスでも、運営者の愛がこもっているハコってだいたいフローリングなんですよ(笑)。“ライブハウス=黒”というイメージを脱却するために、面積として一番広い床に木を持ってこようっていうのは最初に考えたところですね。今回、メインマテリアルには間伐材を利用した集成材を使っていて、これは木を細かく割いてチップ状にしたものをギュッと固めて独特の風合いを出しているもので。木なんだけど、一手間加えられた新しい素材なんです。

──ナチュラルさと人工的なテイストを併せ持つような。

若松 その集成材を繰り返し使うことで、柔らかくて温かいんだけど、そっちに寄せ過ぎないようにしました。あんまり“ウッディウッディ”してると、電子音楽なんかの無機質な音楽だったり、アニソンのイベントなどには合わないだろうと思いまして。

ライブハウスというカテゴリーではない

──ハコが完成してみていかがですか?

川上 この間内覧会をやったんですけど、お客さんの反応が面白かったんです。単純にライブハウスとしての捉え方をしている人ももちろんいるけど、それ以外の使い方の需要がチラホラ出てきて。例えばファッションブランドが発表会をやりたいとか、それを中継していろんなところに飛ばしたいとか。

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──いい意味でライブハウス然としていないからこその反応が。

川上 僕はライブハウスを運営するつもりで来ましたけど、また違うことを求められているなと思いましたね。従来のバンドさんやアイドルさんをブッキングしてお客さんに来てもらう、みたいな動かし方だけではダメだなと。ハンドリングするこちら側の意識を変えていかないと、ハコのポテンシャルを生かしきれない可能性が高いなと思ったんです。でもそれは全然ネガティブなことではなくて、むしろ逆にパワーのあるハコが1個できたと思っています。ライブハウスというカテゴリーじゃない、新しいものができた。今までの経験値はまったく意味がないなと。

──意味なくはないと思いますけど(笑)。

若松 ニューヨークでは、ライブハウスにお客さんが付いてるんですよね。ライブが始まってもずっとカウンターで飲み続けてる人とか、「あのおばちゃん、いつ来てもあそこにいるな」みたいな(笑)。国内でも、例えばフェスって音楽以外のところでいろんな工夫をしてお客さんを楽しませようと努力してるじゃないですか。ワークショップを開いたり、飲食のブースもたくさんあって、子供が遊べるスペースを作ってみたりとか。Veatsでは、カフェスペースにDJブースを置いたり、ゆっくりお酒を楽しめるようにバーカウンターに仕掛けを設けたりという部分で、かなりそういうところを意識しました。

川上 図面を見ただけでは感じきれなかった懐の深さが至るところにあるんですよ。現実的には、ニューヨークのようにライブを観ないで「俺たちは飲んでるだけだから」という過ごし方は難しいかもしれないんですけど、それができる余力はある。極端な話、カフェスペースだけでイベントを打ったりっていうイメージも湧くような作りになってるなと感じましたね。

若松 ドリンクカウンター上部に「RGB_Light」という照明が吊ってあるんですけど、当てると影に色が付くんです。そういう“映え”なポイントも楽しみながら、リラックスしてお酒が飲めるスペースになっています。