Vaundy「ホムンクルス / Gift」特集|劇場版「僕のヒーローアカデミア」主題歌2曲を前後編インタビューで語り尽くす (2/4)

劇伴的なことをやろうと思った

──「ホムンクルス」の制作に関しても聞かせてください。まずどういう取っかかりから曲を作り始めたんでしょうか?

取っかかりとしては、“オープニング”というところですかね。映画が始まったときには、僕ら観る側は準備ができてるので、世界観に入り込んでる中でオープニングが流れると、急に作り物感が出てきちゃう。僕はそういうものは実はないほうがいいと思っていたんです。だからいわゆるオープニングっぽいものは今回は絶対作らないほうがいいと思って。

──アニメの構造として、テレビシリーズだったらオープニングは必要だけど、劇場版はそれとは違うというのもありますよね。

テレビっていろんなものが混在しているので、没入させるためにオープニングが必要なんですよ。だけど、映画は始まったときにはもうすでに没入してるから、オープニングは本来はいらないのかもしれないって思って。場面設定を紹介するようなオープニングだったらいいけど、主題歌みたいなのって、意外と危険だと思っているんです。モノ作りしているVaundyとはまた別の視点で、無邪気なアニメ好きの子供としての“Vaundyくん”がそう言っているという感じですね。でも、アーティストVaundyとしての僕は、絶対オープニング主題歌をやりたい。どうやったらその折り合いをつけられるかなというところで、最初は苦悩しましたね。そこから「目立たないけどカッコいい曲にしたい」「絵を優先するような曲を書こう」というほうにシフトしていった。でも、広告で使ったりもするだろうから、パワーはなきゃいけない。もしかしたら、今回の主題歌を聴いてあんまりインパクトがないなと思う人もいるかもしれないし。感じ方は人それぞれだけど。

──試写で映画を観ましたが、最初にアクションがあって、そこからカットアップの映像でオープニングになりますよね。その映像のムードにも合っているし、「ここから物語が始まるぞ」という期待感を煽るものになっていて、バッチリだと思いました。

ああ、よかったです。デモを作り始めたあとに、劇伴的なことをやろうと思って。映像と曲をリンクさせながらオープニングに入っていきたかったんです。バイクで走るシーンに曲のイントロが入ってくる。そこをうまく演出できればいいなと思っていました。

──「ホムンクルス」は疾走感あるギターサウンドのロックナンバーですが、このスタイルはどういうところから考えたんですか?

わかる人はわかると思うんですけど、T. Rexとかあのあたりのビンテージロックのイメージで作っていて。なぜかというと、世界全体のコミックの流れとして、ビンテージのものをしっかり使う傾向があるんです。それこそマーベルとかDCもそうだし。「ヒロアカ」は海外でも人気な作品だから、そっちにもしっかり届けたいなという思いもあって。だから主題歌というより、BGMとして昔の曲を使うみたいな感覚ですね。そのほうがいいと思うんですよ。バーンと「主題歌!」って感じでやると、アニメ側としても本気でモノ作りしてるんで、結局、戦っちゃう。そうしたら壊れてしまう。だからうまいことバランスを取らなきゃいけない。その1つの手段として、BGMとして名曲を使う感覚、いい意味で曲を軽く扱うことは大事だと思うんです。テレビシリーズのオープニングとは明らかにそこが違うんですけど、映画だったらそういう面があってもいいんじゃないかと思ってるので。悪目立ちを避けて、しっかり全部をまとめるために、いい意味で曲を軽くあしらう。そのほうがすましててカッコいいと思うんですよ。

──Vaundyとしてのアーティスト性や自己主張みたいなものを押し出していくというよりは、作品世界に馴染むことを優先した。

僕はタイアップをやらせてもらうときに毎回「どんな絵ですか?」と最初に聞くんです。絵の色とか、コマ割りのイメージとか、例えばどういうリファレンスで色を構成したりするんですかという話をして。そこに対して「こういう音色だよね」と、絵を中心に音を作っていくようにしています。で、ストーリーから「こういうコード進行とメロディだよね」とイメージして、味付けと翻訳として歌詞を入れる。馴染むことのほうが優先順位が高くて、そこからストーリーを付けていく作業、翻訳していく作業をする。だから、特に今回は歌詞があまり聞き取れないようにしたんですよ。そのほうがカッコいいと思ったので、映画の中で曲が流れるときは何を言ってるかわからないようにしました。で、映画館から出てフル尺で聴くと全然違う曲になるという。「ホムンクルス」はそういう変な曲なんです。なぜそうしたかというと、1曲で起承転結をちゃんと作らなきゃいけなかったので。起承転結の全部が1曲の中に収まっていて、歌詞を全部聴くと映画の主題歌になるように作っています。ただ、劇中ではそれを感じさせたくないという。

──T. Rexはまさにそうですが、70年代のハードロックやグラムロックの要素もありますよね。そのあたりに「ヒロアカ」のオマージュ先であるアメコミとリンクする感触を捉えていたのでしょうか。

僕は、ですけどね。堀越先生はあんまりそんなことを考えてないと思うんですけど、僕は結局モノ作りをしていると、最終的には70年代にたどり着くと思ってるんですよ。たぶんアニメとかマンガも一緒。今のポップの体制というか、商業としてのモノ作りの原点は60年代、70年代にあって、それより前は別のモノ作りだと思う。だから、どうしても70年代の曲を使いたくなっちゃうんですよね。ただ、少なからず現代の味付けにしなきゃいけないんですよ。絵や音の感じは寄っていくけど、テクノロジーは2024年だから。

「Vaundy one man live 2024 at Makuhari Messe」の様子。

「Vaundy one man live 2024 at Makuhari Messe」の様子。

みんな誰かのホムンクルス

──歌詞についても聞きたいんですけど、まず曲名の「ホムンクルス」はどういう象徴として考えたんでしょうか?

脚本というかストーリーの流れを見たときに、この映画に出てくるダークマイトという敵<ヴィラン>は、オールマイト(絶大な力と人気を誇るヒーローで、主人公・デクの師匠)の言霊が生んだホムンクルスなんだと思ったんです。本編で重要視されているオールマイトのセリフとして「次は君だ」というものがあって、その言霊から生まれたホムンクルスがダークマイトなんだと。だから、もちろん主人公のデクたちも大事だけど、少なからず、あの世界にはダークマイトと同じように感じている、同じ思想を持ってるやつがいるんだろうなとか、だから必ずしも悪ではないのかもしれないなとか、そう思って哀れなホムンクルスの話を書きました。

──映画のタイトルは「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト」、つまり「You're Next」である。その意味するところに真正面から応えたんですね。

そうですね。みんな誰かのホムンクルスではあるし。僕が今回作り上げた話としては、ダークマイトはオールマイトの「次は君だ」という言葉を自分を鼓舞するために使って、その言葉が彼にとってすごく大事なものになってしまった。でも、「それは悪いことじゃないよ」と言ってあげたいなと思って。ダークマイトに憐れみを与えるというか。僕は敵<ヴィラン>が全員悪いとは思わない派なので。最近のSFとかバトルもののマンガって、敵<ヴィラン>にもバックグラウンドがあるんですよ。その流れを汲んで、曲で回収してもいいかもしれないと思って。それでダークマイトのバックグラウンドに触れるような曲にしました。

──歌詞をちゃんと読むと、例えば「俺が来た」というフレーズがあったり、その主語が誰であるかというのも匂わされているようなところがある。

あとあと「あのオープニングって結局なんだったんだ?」って聴き返したときに「これ、ダークマイトの話じゃん」と気付くみたいな。そういう2つの楽しみ方があるようにしました。でも、それは劇場を出たあとに思い出して聴き返さない限りわからないようにした。だから本編ではずっと煽りの部分しか使ってないんですよ。この曲、最後にもう1つサビを付けていて。フルでこの曲を聴いたときに、「結果こうだよね」って起承転結がわかるように、そういう構成にしました。

「Vaundy one man live 2024 at Makuhari Messe」の様子。

「Vaundy one man live 2024 at Makuhari Messe」の様子。

──確かに後半は曲調も歌詞のトーンもちょっと変わりますよね。映画を観終わったあとに、改めて歌詞を見てじっくり聴いたら気付く部分が用意されていると。

そう。劇中でそれを全部伝えちゃうと絶対邪魔なんですよ。だから、映画の中ではそれをまったく感じさせないように意識して作った。そういうふうに僕の中で折り合いがついたので、ああいう感じになりました。

──なるほど。だからこそ、先ほど言ったような2つのハードルを超えるものになっているというか、大人になって聴いたときに「このことは実はこれを指し示していたんだ」と気付くような曲にもなっている。

それは我ながらうまくできてるんじゃないかなと思いますね。あとは聴く側、楽しむ側の皆さんに任せようかなと思っています。

2024年8月13日更新