Vaundy「ホムンクルス / Gift」特集|劇場版「僕のヒーローアカデミア」主題歌2曲を前後編インタビューで語り尽くす

Vaundyが8月2日より公開されている映画「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト」にオープニング主題歌「ホムンクルス」と、エンディング主題歌「Gift」を書き下ろした。もともと「僕のヒーローアカデミア」が大好きだったという彼は、主人公のデクとその仲間たちに強いシンパシーを抱き、オープニングを彩る疾走感あふれるギターロック曲と、エンディングを飾るバラードを生み出した。

音楽ナタリーでは日本とイギリスをつないで行ったリモートインタビューの模様を前後編で展開する。前編では「ヒロアカ」への思い入れや、映画のオープニング主題歌を担当するにあたっての意識、さらに「ホムンクルス」の制作の裏側と目指した方向性について語ってもらった。そして後編では「Gift」の話を中心に、Vaundyが「ヒロアカ」という作品の根幹にあるメッセージをどう捉えて、どう表現したのかを紐解く。

取材・文 / 柴那典ライブ撮影 / 日吉"JP"純平、太田好治

【前編】「ホムンクルス」に見える、映画オープニング主題歌へのこだわり

異能の扱いに面白さを感じました

──「ヒロアカ」主題歌の話がきて、最初の印象はどうでしたか?

ずっと「ヒロアカ」に携わりたかったんですけど、まさか映画の主題歌を担当させてもらえるなんて。本誌のほうで原作が完結するタイミングでもありますし、大事な時期に主題歌をやらせてもらえるのはすごくうれしいです。

──原作は連載開始当初からずっと読んでました?

いや、僕はアニメから入ったんですよ。昔CDショップでアニメの告知の絵を見て、「面白そう」と思ってアニメを観るようになって。もっと先のストーリーを知りたいからマンガを単行本でしっかり読むようになりました。僕はもともとアニメを観るのが大好きなんですが、「週刊少年ジャンプ」の本誌をちゃんと読み始めたのは高校生とか大学生とか、わりと最近なので。

──「ヒロアカ」の魅力をどんなところに感じていましたか?

アニメで観たときは、まず異能の扱いにすごく面白さを感じましたね。「ヒロアカ」では異能のことを“個性”と呼んでいて。ちゃんとコミカライズされていて、子供向けにもなってるのがうまいなと思いました。そこから興味が湧いて、アニメを一気に全部観たら、物語がスーッと頭に入ってきて。内容にまったく違和感を感じさせない描写力が僕はすごく好きですね。で、マンガもしっかり全部読んで、最新話まで追いかけてるんですけれど、絵もうますぎて。僕も絵を描いていたから感動しました。作者の堀越(耕平)先生はすごいなと思うし、モノ作りの根本の話につながる面白さもある。そこが僕はいいなと思いました。

──モノ作りの根本の話につながる面白さ、というと?

主人公の能力は“個性”と呼ばれるもので、基本的には全部親からの遺伝で決まるものなんですよ。今のモノ作りにおいても、同じことが言えると思うんです。例えば僕は、僕の前に音楽をやっていた先人たちのことを“母”だと思っている。そういう人たちから、こういう色があるとか、こういう音があるとか、こういうタッチがあるとか、モノ作りの遺伝子を受け継いでいる。僕が去年に出した「replica」というアルバムの理論がそういうものだったんですけれど。

「Vaundy one man live 2024 at Makuhari Messe」の様子。

「Vaundy one man live 2024 at Makuhari Messe」の様子。

──「replica」はまさに、個性や才能、オリジナリティは先人から受け継いできたものの集合体であるという価値観を示したアルバムでしたよね。それを作ったこともあって、「ヒロアカ」とは奥底で通じ合うようなものがあった。

そうだと思います。そういうところにシンパシーを感じるところが多くて、感情移入しやすいんですよね。主人公が力を受け継ぐべくして受け継いだという。それを違和感なく描写しているところにも、堀越先生のすごみを感じます。ただ、今はインタビューなので僕はこうやって作者の話をするんですけど、結局、作者の存在を感じさせないマンガが一番強いと思うんですよ。「ヒロアカ」もストーリーとキャラクターが強いから、最初は作者の像があまり見えなくて。僕が音楽の仕事をしっかり始めるようになったときに初めて「これ、作ってる人やべえな」と思うようになった。視点が変わってきたんです。作品だけではなく、堀越先生に対してもシンパシーを感じるようになりました。

子供たちの価値観と審美眼への影響

──堀越先生へのシンパシーはどんなところに感じたんでしょうか?

先日、堀越先生と対談をさせていただく機会があったんです。そのときにも思ったんですけれど、どっかで同じところにいた気がするというか……世代とかそういうもの以前に、モノ作りという観点で、僕が今通ってるところを彼はすでに通っていて、その先にいるんだなと感じて。堀越先生が通っている道に、自分もいるかもしれないってすごく思った。

「Vaundy one man live 2024 at Makuhari Messe」の様子。

「Vaundy one man live 2024 at Makuhari Messe」の様子。

──堀越先生には、これまで「週刊少年ジャンプ」のマンガとそのアニメが築き上げてきたカルチャーを受け継いで、それをアップデートしつつ、ある種の王道を引き受けているような作家性があると思うんです。それを踏まえて改めて聞きたいんですが、Vaundyさんはマンガやアニメのカルチャーからどういう影響を受けて、それを今主題歌という形でコミットする立場になって、どう受け継いでいると言えますか?

それは歳によって感じ方の違いがあると思っていて。少年のときに思ってたことと、青年のときに思ってたことと、今24歳の大人になって思うことって、全部違うんですよ。少年のとき「コロコロコミック」が好きだったし、アニメも毎週日曜の朝5時くらいに起きて10時とか11時くらいまでずっとテレビを観てるような子供だったので、マンガやアニメは自然と体に取り入れるものだったんです。青年になったときには、深夜アニメとかラノベ系のアニメをひと通り観て。大人になって改めて少年ジャンプとか少年マンガに戻ってきたときに、やっぱり面白いと思った感じかな。子供のときに観ていたアニメと大人になって観るアニメは、同じ作品でも全然感じ方が違うんだけれど、作者が描いていたこと、思っていたことは変わらないじゃないですか。そういう意味では、今僕は子供たちに対して同じことをする立場になってきているのかなという。自分のアーティストとして、作家としての価値観を子供たちに渡していく存在になってきている。責任感を感じるようになってきていますね。

「Vaundy one man live 2024 at Makuhari Messe」の様子。

「Vaundy one man live 2024 at Makuhari Messe」の様子。

──なるほど。

アニメ主題歌を通して、本当に子供たちの未来を変えてしまうんじゃないか、とも思うし。アニメは子供たちの価値観と審美眼にすごく影響するので、本当にいいものを作らなきゃいけないなという意識は、より強くなりましたね。今年「映画ドラえもん のび太の地球交響楽」の主題歌をやったんですけど、子供のときに「面白いな」ってスーッと入ってきてた作品を、大人になって思い出したときに「あれ、いい曲だったな」とか「そういえば僕のこの口癖って、『ドラえもん』のあそこからきてるな」と思ったりするんですよ。「あのときに影響受けてたかも」って気付く。だから今、24歳の僕が、子供たちにこれから15年後、20年後にそう思ってもらえるようなカッコいい曲を作れてるのかな?って意識するようになりました。アニメの主題歌をやるというのはものすごく大事なことだと思っているし、だからたくさんやらせてもらっているんです。それが絶対に未来のモノ作りにつながる。子供たちが大人になったときの審美眼の要に関わってくるものだから、絶対手を抜いちゃいけないし、本気で子供と向き合わなきゃいけない。そういうことはアニメの作品をやらせてもらうときに、いつも感じています。

──2つのハードルがあるわけですよね。まず子供たちが何も考えずにカッコいいと思って夢中になるもの、そしてその子供たちが大人になっても影響を及ぼすような深さと奥行きを持つもの。その2つを兼ね備えている必要がある。

そうですね。そのためには結局、僕がちゃんと無邪気に作っていないといけない。「カッコいいものはこれだ」という“説得力のあるエゴ”が大事だと思います。まず歌がうまい、曲作りがうまい、絵がうまい、説明がうまいとか、そういう技術的なものが説得力につながるんだけど、その手前の最初の衝動が本当に無邪気じゃないと、子供たちの無邪気な感覚には勝てない。自分が子供だったとしても、ただ巧みなだけじゃワクワクしないと思う。だから、その2つのハードルがありますけど、あんまり意識しないように、自分がカッコいいと思うものを貫くようにはしています。

2024年8月13日更新