マナーを守ろうとしない人は入れません
──では、デビュー曲「レセプション」についてお聞きします。制作のプロセスはどんな感じだったんですか?
栗山 もともとは別の曲を1曲目にしようと思っていて、「レセプション」は“0曲目”みたいな感じだったんですよ。曲の大枠ができたのは去年の12月。端倉くんと2人で「マジカルミライ 2020」(初音ミクに関する創作文化を体験できる大型ライブ&企画展)に行ったときですね。イベントで僕の「シャボン」(2019年発表)という楽曲を使ってもらっていたので聴きに行ったんですけど、ライブで感情が高まって、端倉くんと宿泊先のホテルで「曲でも作ろうか」と盛り上がり。直近で仁井くんが最高にカッコいいイントロピアノのアイデアを出してくれていたので、そこから曲の構成をふくらませて作っていきました。リズムやグルーヴの面については2人に任せっきりでしたね。
端倉 楽曲の構成は栗山くんと僕が考えたんですけど、全体的な音の雰囲気は仁井くんがおしゃれな感じで作ってくれて。それをもとに楽器編成を決めていきました。当初から栗山くんは「レセプション」について、「格式高い曲にしたい」と言っていたんです。それを仁井くんがクラシックの雰囲気が漂うピアノで表現してくれて、そのフレーズを受けて、僕が装飾を施したという。序盤はゆるやかだけど、中盤では荒ぶるような雰囲気にもなるし、いろんな音楽の表情を感じてもらえる曲だと思います。
仁井 1番のBメロは音数が少なくて、かなりリバーブがかかっているんですけど、そこは海外のEDMのテイストを取り入れていて。具体的にはクラシック、ジャズ、EDMといった要素が入ってるんですが、いろんなルーツを持っている僕らだからこそ作れた曲なのかなと。
──メンバー間でバトンを渡すように制作が進んでいくんですね。最初の発信は栗山さんですが、各セクションは2人に委ねている?
栗山 行ったり来たりですね。
端倉 僕らが作ったものに対して、栗山くんが「いいんじゃない?」と言うこともあるし、「もっとこうしたい」と言うこともあるよね。
栗山 音色にはこだわっていますね。「編曲でサブベースを入れる」とか、ピアノやギター、リズムの音に関しても「こんなふうにしたい」とかなりわがままを言わせてもらって。「この音色で問題ないかな?」と2人にLINEで確認しながら舵取りをしています。
──歌詞に関してはどうですか?
栗山 作詞も同じで、まずは僕が大枠を書いてから2人に「どうかな?」と見てもらう感じですね。最初に「レセプション」の歌詞を見せたときは、完成形よりももっと言葉がキツくて、みんなに「もっと表現を抑えたほうがいいんじゃない?」と言われました(笑)。
端倉 うん、怒りが込められてたからね(笑)。
栗山 僕が書く歌詞は8割くらいが不平不満なので。
仁井 でも、そういう栗山くんの言葉は本気だしちゃんと正しいから、すごく胸に突き刺さるんですよ。
──「レセプション」の歌詞を書いていたときの怒りとは、どういうものだったんですか?
栗山 そうですね……日常の中で耳にする、些細な不満ってあるじゃないですか。「ライブハウスにヒール履いてこないで」とか「“顎マスク”やめてほしい」とか。そういう自分の不満の根本にあるのは、すべて「できそこないの自分ですらやっていることなのに、どうしてあなたはできないの?」という怒りの感情なんじゃないかなって。自由って最低限のやることをやってこそ得られるものというか。僕の中にもそういうルールやマナーみたいなものがあるんですけど、「レセプション」で歌っていることは、僕にとって人と接するときに大切だと思っていることでもあるんです。「初対面で慣れ慣れしくされても困るし、反応できない」みたいなことだったり、「ライブのときに音に集中できなくなるくらい騒ぐのはやめてほしいな」とか。
──わかります。そういうマナーって、本当に気になりますよね。
栗山 あ、よかった(笑)。なんて言うか、どんな人と関わるときにも当たり前の作法、みたいなものがあると思っているんです。それは普段の生活の中でも言えることだし、僕らとリスナーの皆さんとの間にもあるものだから、「そこだけは守ってほしい……」という気持ちを歌っている曲ですね。バンドにもレセプション(受付)が必要だと思うし、「このマナーを守ろうとしない人は入れません」と最初に言っておくべきだろうと。バンド名も“Shop(お店)”なので、最低限のドレスコードとモラルを、僕らとファンとでお互いに持っておきたかったんですよね。
端倉 アーティストとファンはお互いに干渉し合うものでもあると思いますけど、誰にも不快な思いをさせたくないし、思いやりを持った集まりであってほしくて。「レセプション」は、「僕たちの周りには、こういう人たちがいてほしい」という願いでもありますね。
仁井 うん。僕らも楽しいし、ファンの皆さん同士も楽しい、というような理想的な場所を作りたいですし。「僕たちはこんなふうに活動していきます」と意志を表明する曲でもあると思います。
──バンドの基本的な姿勢、ファンとの関係性を示した曲なんですね。
栗山 でも、自分に釘を刺すように歌っている部分もあるんですよ。僕らは3人が3人とも、自分のことをできそこないだと自覚しているから……。
端倉・仁井 ハハハハハ!
栗山 みんな何かが欠けているし、できないこともたくさんある。なので「レセプション」は自分にも突き刺さるし、「僕らも気を付けよう」と自分で言い聞かせているというか。
端倉 戒めだね。
栗山 特に僕はそうなんですけど、自分が徹夜で作業することに抵抗がないタイプだからって、2人に大変な作業を頼むとき、気軽に「これ、明日までにできる?」と言っちゃったりするんですよ。そういう部分は気を付けなくちゃいけないなと。
仁井 僕もそういう瞬間があるので、そこはお互いにね(笑)。
栗山 それぞれのいいところと悪いところもわかってるし、お互いを認め合って、ときにはケンカもしながら(笑)、ワイワイやっていけたらいいなと思ってます。
Van de Shopと生楽器が混ざったら
──最後に、Van de Shopの未来像について。将来的にはどんなバンドになっていきたいですか?
栗山 「こういうバンドになりたい」という明確なイメージはまだなくて。いろんな人に聴いてほしいという気持ちは根本にあるんですけど、5年前に「ONE OFF MIND」を作ったときと同じ気持ちで、この3人でやりたい音楽のイメージがいくつかあるので、まずはそれを形にしていきたい。僕の頭の中にあるけど自分1人では表現できないものを、2人と一緒に曲にするのが今の目標ですね。あと、これは個人的な願望なんですけど、吹奏楽の人たちと一緒に演奏してみたくて。生楽器によって、自分たちの楽曲がどう表現されるか興味があるんですよね。
端倉 その願望、僕も持っています。吹奏楽をやっていたときに楽譜を書いていたんですが、Van de Shopの音楽に吹奏楽の要素が混ざったらきっと面白いから、いつか取り入れてみたくて。今は想像でしかないですが、徐々に近付いている感じもあるし、すごく楽しみです。
仁井 僕がやりたいことも、2人が言っていることと近いんですが、自分は演奏家でもあるし、とにかくライブをやりたいんですよ。僕たちはバンドなので、ステージでも僕らの作品を見せていけたらなって。ただ、最近になって急に2人が恥ずかしがってしまって(笑)。
栗山 ステージには立ちたいんですけど、いきなりデカい会場ではなくて、まずは100人、200人規模の場所から始めたいんですよね。普段は3人で会って演奏することもないし、徐々に挑戦していきたいなと(笑)。
端倉 うん、そうだね。
栗山 もちろんライブという場所でやってみたいこともあるので、少しずつ実現していきたいです。そのためにも、まずはいい曲をたくさん作りたいですね。
プロフィール
Van de Shop(ヴァンデショップ)
2021年に結成されたシンガーソングライター栗山夕璃(Vo, G / ex. 蜂屋ななし)と、端倉鑛(Manipulator, DJ)、仁井伯(Piano, Key)による3ピースバンド。ジャズ、クラシック、ボカロ、J-POPといった異なる音楽的ルーツを持ったメンバー全員が作詞作曲および編曲を行う。2021年11月にデビューシングル「レセプション」を配信リリース。アーティストビジュアルおよびロゴデザインはクリエイティブレーベル・PERIMETRON所属のOSRIN、「レセプション」のミュージックビデオはアニメーション作家 / イラストレーターのidoが手がけた。
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