満足度の高いCD作りができた

──楽曲、映像、朗読。VALSHEさんの中に生まれた物語を軸にして、幅広い表現に結びつきましたね。

そうですね。実写化（VALSHE本人がジャケット、ビデオクリップなどに登場）にあたって、新しいものを提示してきたわけですが、それ以前からの変わらない部分として、“作ることを楽しむ”ということが根っこにあって。前作のように、その瞬間のリアルなものを投影した楽曲も作っていきたいのですが、それと同時にコンセプチュアルな作品を作ることもすごく楽しいんですよね。今回はそれがわかりやすい形で表現できたと思うし、音、歌詞、ビデオクリップ、ブックレット、朗読CDを含めて、満足度の高いCD作りができたんじゃないかな、と。制作期間がミニアルバム（「storyteller II～the Age Limits～」）と重なっていたぶん、ギュッと濃縮された制作だったんですけど、前作のリリースイベントでリフレッシュできたし、その経験を糧にできたのもすごくいいサイクルだったと思いますね。

「storyteller II」では“大人感”を出したかった

──では、同時発売となる「storyteller II～the Age Limits～」について。こちらはメジャーデビュー作「storyteller」の続編ですね。

はい。「storyteller」は4年前の9月23日に出たんですが、発売直後から「第2弾をいつか作りたい」という話をしていて。しかも2014年の9月24日、デビュー5年目の1日目に"II"を出すことは去年の時点から決まってたんですよね。シングル（「TRIP×TRICK」）と同時発売するというのはあとから決まったことなんですが（笑）、"II"に関しては「storyteller」の「7編のまったく異なる物語を読み聞かせる」というコンセプトを引き継いでいます。そこに"the Age Limits"というテーマに寄り添い、大人感を出すために使っているコードの雰囲気、アレンジの方向性、歌詞、ボーカル、（CDジャケットの）イラストも含めて詰めていったんですよ。

──大人っぽい雰囲気をプラスすることには、この4年間の成長を見せたいという意図もあったんですか？

4年間活動してきたことによって、音楽的な成長もあったと思うし、自分自身も学んだこと、見つけたことがたくさんあって。「ここは成長できたかな」という部分は反映したいと思っていました。前回の「storyteller」は「NEVER LAND」という子供から見た大人を歌ってる楽曲から始まるんです。それもあって、今回は大人からの視点で話を書いていきたいと思ったんですよね。

──なるほど。

また、前作からのパワーアップと言いますか、新しい要素を入れたいという思いもあって。CDに秘密を散りばめてあるというか、手に取ってくれた人しかわからないようなものを詰め込んでるんですよ。1曲目の「HIDE & LEAK」でも歌っているんですが、最初に「ここから始まる物語はウソかホントかわかりませんよ。それを聞いたところでどうするの？」という問いかけをしているんです。フィクションとノンフィクションが入り混じっているんです。あとは1曲1曲に、あるキーワード、テーマを設けてあるんですよね。まあ、そこはあえて触れないでおこうと思いますが。というのも、ブックレットをよく見てもらうと、それが何かわかるようになっているんですよ。盤を手に取ってくれた方にはわかる仕掛けですね。

──VALSHEさん、CDというパッケージにかなり愛着があるみたいですね。シングル「TRIP×TRICK」の初回限定盤もすごく豪華だし。

ありますね！ 小さい頃から、CDを手に取って音楽を聴くのが当たり前のことだったので。自分が聴き手だったときは、ジャケット、帯、デザインにこだわったCDがすごく好きで、大事にしてたんですよね。CDというものに対して、コレクションアイテムという意識があるというか。それを作れるようになったこともすごくうれしいし、VALSHEの作ったCDを細かく見てくれる方がいるのも本当にうれしいんですよ。自分のCDは背表紙のロゴ、名前、タイトルがすべて同じ位置にそろえてあるんですよね。

個性的な作家陣を迎えて生まれた化学変化

──「storyteller II」の作家陣には、VALSHEさんの楽曲に初めて関わる方も何人かいらっしゃいますね。

新しい作家さんと組みたいということは、minatoを含めて、ずいぶん前から話してたんですよ。まずは「VALSHEのサウンドって、こういう感じだよね」という土台を固めたいという気持ちがあったんですが、それができたら、新しい要素を取り入れていきたいな、と。今回の「storyteller II」はちょうどいいタイミングだったと思います。

──なるほど。DOITOKIさん（KAT-TUN、V6、スフィアなどに楽曲を提供）、望月由絵さん（倉木麻衣などに楽曲を提供）など個性的なクリエイターが参加していますが、VALSHEさんが特に印象的だった楽曲は？

すごい化学変化が起きたのは「CAINCOMPLEX」（作詞：VALSHE / 作曲：桑原佑介 / 編曲：中山真斗）ですね。ファンタジックなサウンドトラックのような雰囲気なんですよ、この曲は。自分はもともと神話性のある物語が好きなのですが、それを音で体現しているというか。そこに「TRANSFORM」を編曲してくれた中山真斗さんのアレンジが加わることで、さらにすごいものになって。もちろん、VALSHE、minatoサイドからも「こういう感じにしたい」ということは話したんですが、レコーディングのときに「すごい！」という驚きがありましたね。

──旧約聖書に登場するカインをモチーフにした歌詞も印象的でした。

タイトル通り、その物語（アベルとカイン）を軸にして歌詞を書きました。いろいろな解釈ができると思うし、そこに込めた心情を含めて楽しんでもらえたらな、と。

──minatoさんが作詞、VALSHEさんが作曲した「セミステージ」は、まさに大人のムードの楽曲ですね。

アダルトですよね（笑）。自分で初めて作曲した曲は2ndシングル「JESTER」（2011年7月発売）に収録されている「Vessel」なのですが、これはその次に作った曲なんです。そのときは何も考えず、ただ作りたいものを作ったんですけど、今回のテーマである大人感にマッチするなと思って。

──かなりセクシーな歌詞に仕上がってますが、歌ってみてどうでした？

セミダブルのベッドを舞台に見立てた歌なんですけど、そういう楽曲を歌えて楽しかったです。今回のアルバムでは、ボーカルに関してもわかりやすく変化を付けられたんじゃないかなと思っていて。なかでも「セミステージ」はアダルトな感じがすごく出てる曲ですよね。自分はでっかいベッドで1人で寝たいタイプなんですが（笑）。

──もうひとつ、アルバムの最後に収録されている「Separation」についても聞かせてください。

この曲にもひとつ仕掛けがあるんです。「storyteller」の最後の曲は「nameless story」なのですが、それを知っている方が「Separation」を聴けば、イントロから「あ！」って思うように仕上がりになっていて。そういうつながりも面白いんじゃないかなって。

──この曲の歌詞は、リスナーに直接語りかけているような雰囲気があります。特に「もう責めたっていいんだよ / 生まれて来て良かったと思ってくれている？」という歌詞は素晴らしいな、と。

この歌詞に関しては、自分の心情がけっこう投影されているかもしれないですね。アルバムの最後の曲には、自分の気持ちを入れたいと思っていたので。