ナタリー PowerPush - VALSHE
葛藤乗り越え突き詰めた“VALSHE's Identity”
VALSHEのニューアルバム「V.D.」。まさに新章の始まりにふさわしいアルバムだと思う。
昨年11月にリリースされた6thシングル「Butterfly Core」の通常盤ジャケットで初めて素顔を見せると同時に、キャリア初となるライブイベントも開催したVALSHE。さらに“VALSHE's Identity”というテーマを掲げた本作によって彼女は、生身のアーティストとしての表現をしっかりと示してみせたのだ。
今回ナタリーではVALSHE自身にインタビュー。「自分とは何か?」という命題に正面から取り組んだ本作の制作プロセス、さらに現在の彼女の心境についてもじっくり語ってもらった。
取材・文 / 森朋之
生身のファンを見るのは初めてだった
──まずは昨年11月に行われた初のライブイベントについて聞かせてください。2010年のデビュー以来、初めてオーディエンスと直接向き合ったわけですが、手応えはどうでした?
思い残すことのないライブでした。当日までにいろんな下準備をして、なんの不安もなく本番を迎えて……。ファンの方々と一緒に(ライブを)作るとどうなるのか?というのは演者サイドにとっては未知数なんですよね。でも、実際にそこで見た景色は想像以上に素敵で。やり切りましたね。
──ライブの中で特に印象に残っているシーンは?
たくさんあります。覚えてる表情もたくさんあるし……。特に前列のほうにいてくれたファンの方の顔は忘れられないですね。皆さんが初めて生身のVALSHEを見たのと同じく、自分にとっても生身のファンを見るのは初めてだったわけで。「たぶんこの人は、いつもメッセージをくれるあの名前の人だろうな」って思ったり。そういう楽しみ方も見つけました(笑)。
──そんなことがわかるなんて、かなり余裕があったんですね。もしかして緊張しないタイプですか?
あまり緊張したことはないかもしれないです。ライブのときもやるべきことはやっていたので、緊張する必要がなかったんでしょうね。「もうちょっとこうしておけばよかった」という気持ちがあれば、もしかしたら緊張したかもしれないですけど。ライブ当日は「あとは楽しむだけ」という感じでしたから。
──CDジャケットで顔出しをして、さらにライブを行って。その後は生活にも変化があったんじゃないですか?
いや、そんなには(笑)。自分自身が生活する上での大きな変化は、特に感じていないです。以前と変わらないテンションで制作を続けてる感じですね。ただ、できることの幅は広がったと思います。実写じゃなくてはできないこともたくさんあるし、それはすごく楽しみですね。
自分自身の存在意義への葛藤
──まさに新章に突入という感じですね。その第1弾がニューアルバム「V.D.」ということになると思うのですが、“VALSHE's Identity”という明確なテーマを掲げた作品になっていて。
「V.D.」というタイトルは、「PLAY THE JOKER」(2012年2月リリースの1stフルアルバム)の頃には存在していたんです。サウンドプロデューサーのminatoと話す中で、アルバムの構想もほぼ決まっていたし、リード曲(「RAGE IDENTITY」)のタイトルもあって。「すべてノンフィクションの楽曲」ということもはっきりしていたので、それ以降のシングルもすべてノンフィクションでなければならなかったんですよね。「自分が共感できない曲は歌いません」という言い方をしていたのも、この「V.D.」というアルバムのためだったんです。
──すべてプラン通り?
いや、2年前の時点では「いつ次のアルバムを出すか?」ということも決まってなかったし、「Butterfly Core」というシングルと初ライブが重なることも全然予想してなくて。実際は「何が起こるかわからない」という感じだったのですが、こんなにベストなタイミングはないと思ってます。2年前に想像していた“VALSHE's Identity”と、実際に制作に入ったときの自分の感情も全然違ってましたからね。歌詞を書いたのは昨年の12月に入ってからなんです、実は。CDのジャケットが実写になって、ライブを経験して。その上で書いた歌詞だから、本当に今の等身大ですね。
──「RAGE IDENTITY」の作詞はどうでした? “アイデンティティ”って、考えればきりがないテーマだと思うんですが。
「なんのために自分がここにいるのか?」「なんのための存在なのか?」というこのアルバムの大きなコンセプトに沿った歌詞になってるんですが……前回のシングル以前は、ずっとイラストで活動してたんですよね。それは当初から思い描いていた通りだったし、やりたい道筋には寸分の違いもなかったんですけど、自分自身の存在意義に関してはかなり葛藤もあったんです。そのことは「Mr.Diorama」という曲の歌詞にも書いてるんですが、「自分じゃなくてもいいんじゃないか」と思ってしまったこともあったし。でもライブでお客さんと向き合ったときに、そういう気持ちがなくなってることに気付いたんですよね。その上でVALSHEとしての自分に初めてちゃんと向き合えたというか。そこを突き詰めながら書いた歌詞ですね。
──VALSHEとしてのアイデンティティも明確になった?
いや、まだなってないと思うし、漠然としています。歌詞の中で書いた通りなんですけど、「容易く答えられるはずもない」っていうことだと思うんです。ただ、自分が生きていく場所を決めて、そこに存在していれば、いつかは見つかるんじゃないかなって。
──「RAGE IDENTITY」の歌詞はVALSHEさん自身の体験がもとになってますが、そこにあるメッセージはすべての人に当てはまると思います。
アイデンティティって、誰でも一度は考えたことがあるテーマだと思うんですよね。このアルバムを聴いてくれた方が「これは自分のことだ」って解釈してくれるのも楽しみですし。そうやって自分に向き合う瞬間があるっていうのも、面白いんじゃないかな、と。アルバムの制作中はそんなこと全然考えてなかったんですけどね(笑)。今回はとにかく自分自身を見つめ、向き合うことが最優先だったし、このアルバムを手に取ってくれた人がどう感じるか、どういう反応が返ってくるかについては、一切考えてなかったです。
──自分自身と向き合ってそれを歌詞にするっていうのは、ラクな作業ではないですよね? 自分のイヤな部分にも目を向けなくちゃいけないだろうし……。
曲によっていろんなテーマがあるんですけど、正直言って「これはきついな」と思うこともありました。逆にすごく楽しんで書いたこともあるし、「恥ずかしいな」って思うこともあったんですけどね(笑)。喜怒哀楽以上の感情が出てきたし、その中でいろいろな発見もあって。それは自分にとってもいい経験になったと思います。
- ニューアルバム「V.D.」 / 2014年2月19日発売 / ビーイング
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 4095円 / JBCZ-9004
- 通常盤 [CD] / 3150円 / JBCZ-9005
CD収録曲
- Overture
- RAGE IDENTITY
- Butterfly Core
- AFFLICT
- ASTRAEA
- Human Dolls
- Mr.Diorama
- Blissful Jail
- BLESSING CARD
- Leopardess
- EVALUATION
- Prize of Color
- Tigerish Eyez
- Fragment
- Sincerely
初回限定盤DVD収録内容
- Butterfly Core(MUSIC VIDEO)(実写Ver.)
VALSHE(ばるしぇ)
アニメファンやネットユーザーを中心に支持を集める女性シンガー。2010年のメジャーデビュー以来ミニアルバム、フルアルバム、シングルと精力的に作品をリリースしている。2013年11月、人気アニメ「名探偵コナン」のオープニングテーマに採用された「Butterfly Core」を6thシングルとして発売。このタイミングでアーティストビジュアルを従来のイラストから実写へ一新し、大きな反響を呼ぶ。リリース後には初のライブイベントをファンクラブ会員限定で開催し成功に収めた。2014年2月、2ndフルアルバム「V.D.」を発表する。中性的なハスキーボイスで歌われる力強いロックサウンドが魅力。