ナタリー PowerPush - 鬱P

ボカロ×ラウドの先駆者が語る、それぞれのシーンの今

この5年間ずっとバンドを組みたいって思い続けてる

鬱P

──ボカロPの中には、ボーカロイドでの楽曲制作とバンドの活動をシームレスにやっている人もいますけれど、鬱Pさんの場合はどうでした?

バンドを休止してから、ずっと組みたかったんですけど、結局ずっとメンバーが集まらなかったんですよ。で、だんだんボカロの活動自体が盛り上がってきたんで、しばらくこっちでいいかなって。3年前ぐらいに募集したんですけど、思ったようにいかなくて。この5年間ずっとバンド組みたいって思い続けてる感じです。

──でもこれ、失礼な言い方になっちゃうとアレですけど、ラウドロックのカッコいいバンドをやりたい人はバンド仲間を見つけやすいと思うんですよ。例えばかわいくて歌のうまい女の子にポップソングを歌わせたいなら、どこかでそういう女子に出会わないといけない。でも、ラウドロックとかメタルのバンドをやりたい人はライブハウスに行けばたくさんいるし、そういうところでスタートしたバンドだってたくさんいるわけで。

それは、もしかしたら理想が高いのかもしれないです。ボカロPとしての活動が盛り上がってきただけに、それを超えるバンドを組むのはハードルが高いというか。

──リスナーとしてはフェスに行ったりライブハウスでモッシュとかダイブしてるほう?

それはガンガン行ってます。前のほうにも行きますね。最近はちょっと体重が増えたんでダイブはできないですけど(笑)。

ボカロのシーンは3つの段階で変わってきた

──ライブハウスでモッシュピットに飛び込んでいく自分と、ボカロPとしての自分というのが、両方いるわけですよね。その両方のカルチャーの違いや壁みたいなものを感じることってありました?

最初はだいぶ違ってましたね。でも3つくらいの段階があって、ボカロのシーンって初期の頃と中間ぐらいの頃と今とで、だいぶ変わってきたと思うんです。で、ラウドロックのシーンも変わってきてて。だから少し近くなってきてる感じがありますね。

──それはどういう変化だったと捉えてます?

とりあえずボカロで言うと、初期の頃は、いわゆる「初音ミク」というキャラクターが好きな人が集まってたんだと思います。ニコニコ動画があって、そこにボーカロイドが出てきて、同時にムーブメントが始まってた感じだった。それが2009年くらいまでだと思います。僕が最初ボーマス(THE VOC@LOiD M@STER)に出てた頃はそんな感じだったですね。

──そこからどういう変化が?

鬱P

たとえばハチくんとかWOWAKAさんとか、そのあたりが盛り上がってきて、「初音ミクが歌ってるから好きだ」という人と、曲を作ってるクリエイターが好きな人がごちゃまぜになっていて。そういう時期が2010年、2011年くらいだったと思います。その頃は何を出してもアリになってきた第2期だったというか。

──なるほど。今は?

2012年から今は、完全にキャラクターじゃなくて、そのクリエイター自身が好きっていう時期だと思うんですよ。今、じんさんの曲については、初音ミクとかIAの名前はほぼ出てこないですよね。その人がイチから作った世界観が好きだという人が増えてきた。そうなってくると、なんでもアリとはちょっと違う感じなんですよ。ギターロックだったらギターロックの範囲に入ってるものが好きっていうふうになる。

──聴き手にウケるサウンドや音楽性の傾向が固まってきてる感が2012年くらいからある。

そうですね。そのくらいからあった感じです。で、ラウド側もシーンが変化してきていて。

ラウドは今が「何でもアリ」

──ラウドロックのシーンで言うと、2012年くらいから、Fear, and Loathing in Las VegasやCROSSFAITHのように、デジタルな音を意欲的に取り入れるバンドが次々と頭角を現してきている印象があって。そういう流れで言うと、ラウドロックのお客さんの側にも、ボカロ的な発想のサウンドを違和感なく受け止められる土壌が少しずつできているようにも思うんですけれども。そのあたりはどうですか?

確かになんでもアリですよね。ラウド側は今がボカロで言う2010、2011年ぐらいの時期なんじゃないかなって思います。どんなジャンルでもそうだと思うんですけど、1つのデカいムーブメントが起こって、それに似たものがどんどん増えていって、そのジャンルが固まったあとに、さらにそこから自分の個性を付け足したようなバンドが増えていくと思うんです。で、今はシーンの流れがピコピコ路線に固まって、みんな同じところを目指すようになってきた頃だと思います。

──なるほど。ボカロのシーンにしてもラウド系のシーンにしても、ほとんど音楽ジャーナリストみたいに、すごく的確にムーブメントの流れを分析してると思います。

次は1歩そこから抜け出したようなバンドが出てくると思うんですよ。そうなると僕としては楽しくなるし、だからこそ、今はバンドやりたいんですよね。そうやって路線が固まったシーンから1歩抜け出した、最初の1人になれたらいいなって思ってるんで。

ニューアルバム「悪巫山戯」 / 2013年8月7日発売 / 2300円 / Due. RECORDS / DGSA-10077
ニューアルバム「悪巫山戯」
収録曲
  1. ニャン黙の了解
  2. 馬鹿はアノマリーに憧れる
  3. 害虫
  4. Ghost under the Umbrella
  5. コロナ
  6. オトナのオモチャ
  7. B-CLASS HEROES
  8. 看板娘の悪巫山戯
  9. 骸Attack!!
  10. 風邪
  11. THE DYING MESSAGE
鬱P(うつぴー)

ラウドロックによるボーカロイド曲“VOCALOUD(ボーカラウド)”の第一人者として知られるボカロP。2009年に初の音源「DOLL」を投稿したのを皮切りに、ヘビーなサウンドのオリジナル曲を動画サイトで発表し続けている。スクリームやグロウルといった、いわゆるデスボイスをボーカロイドで表現するのが特徴。またベースの演奏力にも定評があり、「演奏してみた」動画の投稿やほかの奏者とのライブ活動もしている。2013年8月に初の全国流通アルバム「悪巫山戯」(わるふざけ)をリリースする。