ナタリー PowerPush - うたたP
「みんな幸せにな~れ!」アルバム全曲解説
ミクさんが演説したら、どんな内容でも説得力がある
──では、各楽曲について伺っていきます。「こちら、幸福安心委員会です。」での、ギターロックと激しいエレクトロが入り混じりミクが演説する「エレクトロック演説」というかなりカオスな曲調はどのように思いつかれたのですか?
セリフや単語などメロディ以外のどんな音でも音楽になるところが、テクノ音楽の面白くて魅力的な部分のひとつだと思っています。この曲の制作中にそんなことを考えていたところ、ふと「演説」という言葉が頭をよぎりました。「ミクさんが演説したら、きっとどんな内容でも説得力があるなあ」と思いつき、エレクトロのリズムに合わせてミクさんに演説をさせてみたらできちゃったのがこの曲ですね。
──作詞の鳥居羊さんによりこの曲はノベライズされましたが、お読みになってどう思われましたか?
詞の原案の時点ですでに小説のようになっていたのですが、完成したものを読んで改めて「この部分はこういうことだったのね!」と私自身気付くことも多く、最後まで楽しんで読ませていただきました。
──「re:Try」は1曲目と違い、4つ打ちハードテクノ&ダブステップ風味でとてもカッコいいのですが、このあたりの曲調は最近のうたたPさんの嗜好でしょうか?
はい、最近はエレクトロハウスやダブステップなどを好んで聴いていますし、このジャンルの曲もたくさん制作しています。
──この曲はもともとGUMIで発表されていましたが、MAYUバージョンの聴きどころは?
MAYUバージョンでは曲の構成が少し違っていて、サビが少し早く来るようになっています。普段、デジタル音楽を聴かない人に少しでも聴きやすくなるように再編集したのがMAYUバージョンです。
「イントロが長い」と言われたので、反省してさらに長くした
──次は「永遠に幸せになる方法、見つけました。」。演説の次は儀式で来ましたが、これはいったいどのような儀式なんでしょう?
成功すれば永遠の生命を手に入れることができるが、失敗すると殺されてしまうという儀式です。実は成功してもゾンビ化してしまうという天獄と地獄ゲームなんですが……。
──「こちら、幸福安心委員会です。」と同様、前半はロック / フォーク色が強いですね。エレクトリックミュージック以外もお聴きになりますか?
はい。基本的に音楽であればどんなジャンルでも好きです、ロックやフォークもですし、オーケストラや民謡なんかも大好きです。
──儀式で何度も唱えられる呪文「レグバルクリヤンザンダスアティボン レガトルアルバンザンドライモール」の意味はなんでしょう?
お話のもとになっている「VOODOO教の呪文」を少しアレンジした言葉になります。
──「夢じゃない、嘘じゃない、目の前にある幸せな情景。」は、シンフォニックなトラックに乗せた3分間にわたる長い前振りから、ちょび髭信長がナンセンスなフレーズを歌いだすコミカルな展開に転調するのですが、これはいったいどういう世界観ですか? ちょっと困惑してしまいました(笑)。
困惑、ありがとうございます(笑)。トランス系のボーカロイド作品を追って聴いている方なら「イントロが長い」というコメントを一度は目にしたことがあると思います。この少々長すぎるイントロは、DJをする際に曲と曲をつなげるための“のりしろ”として存在していたりするのですが、私のトランス曲ももちろん「イントロが長い」とコメントがたくさん付いています。そこで私は反省をしまして、イントロをさらに長くしてみたのです。
──これもやはり「幸せ」の1つの形ということでしょうか?
そうですね。奇跡の勝利という嘘のような出来事が目の前で起こる「幸せ」の1つの形になります。
音楽活動に対して思い悩んでいた時期の曲
──「一途な片思い、実らせたい小さな幸せ。」は、一途なMAYUの気持ちが伝わるさわやかな曲と思いきや、後半はヤンデレ大爆発な曲です。他の曲もそうですが、途中で展開を激しく変更させるという手法がお好きなんですね。
「幸せシリーズ」のコンセプトの1つに「二面性」があります。途中でキャラクターが豹変したり、シーンがいきなり変化するのは、その二面性を表現する手段の1つです。どのように豹変するかは曲ごとに違っていて、この曲では、前半とても穏やかで爽やか、後半はMAYUの公式設定でもあるヤンデレ大爆発という形になりました。
──初めてMAYUを調教してみていかがでしたか?
細かい調整をしなくても聴きやすい表現ができる、とてもいい声質の子だと思いました。キャラクターも個人的に好みですし、いろいろ作品を作ってみたいと思わせられるボーカロイドですね。
──「世界一幸福になれるバスツアー」では結月ゆかりさんが邪悪なバスガイドになっていて驚きましたが、そういうイメージだったんですか?
ゆかりさんの口調がとても丁寧できれいなので、まず最初にイメージしたのが「案内をしてくれる人」でした。その中からバスガイドを選んだということです。
──ケルベロスさんに甘噛みされるのも幸せなのでしょうか……?
この曲に関しては、その様子を見ているゆかりさんの幸せなのかもしれませんね……(笑)。
──「ブランダズ -Brand as-」だけは少し古い曲で、鳥居さんも参加していないですね。
そうですね、この曲は私が音楽活動に対していろいろ悩んでいた時期に制作した思い入れのある1曲になります。「踏み出す勇気」という心情を描いたこの曲を発表した後にいろいろと方向性など、迷いが生じていた部分でいろいろ決断ができるようになり、本当に踏み出せるようになりました。この楽曲のおかげで「幸福シリーズ」が生まれたと言ってもいいと思いますので、今回のアルバムへの収録を決めました。
──端正なトランスのようで、ブレイクなど細かく遊んでいますよね。アレンジに関してはかなり追い込むほうでしょうか? それとも勢いでやっちゃうほうでしょうか?
どちらかというと勢いでやっちゃったあとに、細かい部分を追い込んで完成させるといった感じです。これはずっとトランス系の楽曲を作る際の大きな課題としていますので、普段トランス系を聴かない人でも端正な部分を飽きずに聴ける要素としてブレイクで細かく遊んでいるのかもしれません。
- うたたP feat. 初音ミク、MAYU、結月ゆかり「みんな幸せにな~れ!」/ 2013年4月17日発売 / 2000円 / EXIT TUNES / QWCE-002722000円 / EXIT TUNES / QWCE-00272
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収録曲
- こちら、幸福安心委員会です。/ うたたP feat. 初音ミク
- re:Try -MAYU edit- / うたたP feat. MAYU
- 永遠に幸せになる方法、見つけました。/ うたたP feat. 初音ミク
- 夢じゃない、嘘じゃない、目の前にある幸せな情景。/ うたたP feat. 初音ミク
- 一途な片思い、実らせたい小さな幸せ。/ うたたP feat. MAYU
- 世界一幸福になれるバスツアー / うたたP feat. 結月ゆかり
- ブランダズ -Brand as- / うたたP feat. 初音ミク
- ヤマダを狙うサトウの影に潜むスズキを操るタナカ / うたたP feat. MAYU・結月ゆかり
- キミが望んだ、すれ違いの幸せ。/ うたたP feat. 結月ゆかり
- あなたのこえ、きこえています。 / うたたP feat. MAYU
- ぼくは ゆうしゃに えらばれた! / うたたP feat. MAYU
- キミのことが好きでゴメンナサイver MAYU / うたたP feat. MAYU
- 3人の可愛い姉妹と、吊り橋の下に潜むモノ。ver MAYU / うたたP feat. MAYU
- 幸せになれる隠しコマンドがあるらしい / うたたP feat. 結月ゆかり
- rotceV ynitseD / うたたP feat. 初音ミク
- セキズイ駅発下り列車 / うたたP feat. 結月ゆかり
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うたたP(うたたぴー)
ボーカロイドを使用したトランスの総称「ミクトランス」の先駆者として、2007年からネット上に楽曲を投稿しているボカロP。「ストラトスフィア」「アド・アストラ」「ブランダズ -Brand as-」といった楽曲でネットユーザーから大きな支持を集める。2011年にはローソンのオリジナルボーカロイド「あきこロイドちゃん」のフィーチャリング楽曲集「あきこロイドちゃん LOVE▽」(▽はハートマーク)に楽曲「VOCALAWSON desu.」を提供。2012年に投稿した「こちら、幸福安心委員会です。」は初音ミクが演説する独特の曲調が「エレクトロック演説」と呼ばれ、1カ月半で再生回数100万回を突破。2013年4月には「幸福シリーズ」の楽曲をメインにしたアルバム「みんな幸せにな~れ!」をリリースした。