アーバンギャルド|吉田豪と振り返る、メンヘラバンド10年の歩み

ブレイクしないのは、やっぱり自分の容姿のせいなんじゃないか

──2012年の「夏の魔物」で浜崎さんに「一緒に写真撮ってください」って頼んだとき、「いいですけど画像チェックさせてください。醜形恐怖症なので……」って言われたのが、すごい好きで。

浜崎 それ、まだ変わってない(笑)。

──「画像チェックさせてください」まではよく言われるんですけど、そのひと言を付ける人っていなかったから「さすがアーバンギャルドだな」と思いました。

浜崎 最近さらに病気が悪化してて、自分が太って見えるんですよ。だからマネージャーに「大丈夫ですか?」って確認するんです。

松永 ミュージックビデオをチェックしてても、全然そんなことはないのに「これ、太って見えない?」って。

浜崎 太って見えるし、ブスに見えるし、ヤバいなって毎日思ってます。

左から吉田豪、浜崎容子(Vo)、松永天馬(Vo)。

──「私は人前に出ていいのか」みたいなことを考えたり?

浜崎 そうそう、あります! 「声だけでいいんじゃないか」って(笑)。アーバンギャルドに加入させてもらったとき、「ウチは写真やビデオを作品として残していくグループだから」って言われて、「写真とか動画とかホントに嫌なんだけど……」って答えたら、「それは無理だ」って。

松永 それで、いきなり経血がバーって垂れて血まみれで刀で斬りつけ合うミュージックビデオに出されるっていうね(笑)。

浜崎 やっぱり女性として、人からきれいに見られたい、少しでもかわいく見られたいって気持ちがある中でいきなりあんなMVでしたから、これはいろいろあきらめようと思って腹をくくったんだけど、やっぱりどんどんどんどん悪化しますよね、気持ちが。

──どうしても腹をくくりきれない。

浜崎 自分を客観的に見て、絶世の美女じゃないしビジュアルで売るには弱いんじゃないかと思っているから、やっぱりいろいろ葛藤しますよね。それに10年活動を続けてきて大ブレイクもせず、まったく売れないわけでもないっていう。

──ほどよい位置ですよ!

浜崎 そうかもしれないんですけど(笑)。なんか3、4番手くらいをずっとキープしているみたいな感じの状態が続いていると、やっぱり自分の容姿のせいなんじゃないかって考えますよ。歌よりも音楽よりも、やっぱり見た目がよくないんじゃないかって。

──この方向性で音楽をやるうえでは間違いなく見た目も正解だとは思うんですけど、それが一般に届くポップなものなのかどうかは別だとは思います。

浜崎 そうですね。それでもバンドのためにも一般の方からすてきに見える存在になりたい気持ちはあって、けどそれはもう手術しないといけないんで(笑)。葛藤はあります。

吉田豪

──松永さんから見たら何の問題もないと思うんですよ。

松永 ええ、なんの問題もないですし、むしろ年々おきれいになられてるなあと。

浜崎 それは間違いないですね(あっさりと)。

──あ、そこは認める(笑)。

浜崎 それは認めます(笑)。毎度撮影とかで「今回はセーフかな」って、そのときは安心するんです。でも、次の作品を撮るときに前の作品を見返すと、「……あれ? こんなに酷かった?」って毎回驚いちゃって。その繰り返しを10年続けてきたみたいな感じですね(笑)。

──努力して前よりよくなってるんですかね? ジムに通ったりなんだりで。

浜崎 そうですね、これでもメイクも研究してるし。衣装も水玉っていうモチーフはやめられないとしても、どういう水玉があるのか研究を重ねた結果、これが一番似合うんじゃないかなっていうところに行き着いて。

隠れキリシタンみたいなバンドです

──アーバンギャルドというバンドは、ちょっと自意識を過剰にさせてしまう要素があると思うんですよね。

浜崎 ありますね。やっぱりネットで活動してきたようなものですから。我々のバンドが活動を始めた時代って、インディーズバンドがYouTubeとかMySpace、mixiとかを駆使して宣伝活動を初めていった黎明期で、ライブハウスに地道に出続けて話題を呼ぶようなそれまでのバンド活動がパカっと変わった時代だと思うんですよ。

──引きこもってる女の子でもハマれるタイミングだったんですかね。

左から松永天馬(Vo)、浜崎容子(Vo)。

松永 ちょうどSNS勃興期ですからね。アーバンギャルドはバンドマンのフォロワーは悲しいことにあまりいませんが(笑)、ライブアイドルの子にフォロワーがとにかく多くて。

──アイドルのメンヘラ率も上がってきてますからね。

松永 和田輪ちゃん(Maison book girl)が「私は旭川の実家にいるときにアーバンギャルドにパソコンで出会えたことで自分の世界が開けた」って言ってくれたし、アーバンギャルドはネットで出会うバンドだったんです。ライブハウスで出会った人もいるかもしれないけど、それ以上にネットで最初に衝撃を受けた人が多いのかなって。

──そういう人たちに引っかかる何かが出せてたわけですよね。

松永 そういうことなんでしょうね。ただし、周りに話せる友達は誰1人いない(笑)。

浜崎 「薦められないけど好き」みたいな、隠れキリシタンみたいなバンドです。

松永 お母さんにCDを取り上げられて、アーバンギャルドのジャケットをポンって置かれて「さあ踏んでみろ!」って言われて、「踏めない!」みたいな(笑)。ファンの子からもらう手紙もそんな感じで、地方で友達と音楽の話を共有できない子は自意識をたぎらせて、過剰な自意識を爆発させるように東京に出てからアイドルになっちゃったりするんですよ。そういうのばっかり見てきたよね。

なんとか延命治療を続けてたんですけど、やっぱり無理でした

──一番大変だったのが、谷地村啓(Key)さん解雇のゴタゴタがあった時期だと思うんですよ。

松永 その件に関してはググればいろいろ出てくると思うんで説明しませんけど、やっぱりつらかったですね。

──あのとき、浜崎さんはブログでかなり正直に踏み込んだことを書いてましたよね。

浜崎 松永が書けって言ったんで。

──そんな大人の事情が(笑)。

左から松永天馬(Vo)、浜崎容子(Vo)、吉田豪。

松永 別にああいうふうに書けとは言ってないですよ(笑)。「今ファンに対して説明してあげるべきだから、僕も書くんでそれぞれのコメントを書こうよ」って、そんな「書け!」なんて言ってないです。

浜崎 私、めちゃくちゃ反対しましたもん。「踏み込んで説明しなくてもいい」「私がファンなら知りたくない」「事務所からのひと言だけでいいと思う」って。

松永 だから、そこはメンバー間でも意見が割れるところはあったし……。

浜崎 自分では冷静に書いたつもりでしたが、書いたことにより、ものすごく怒ってるっていうふうに取られてしまって……コメントを出すならメンバー全員が出すべきだと考えていたし、でも出しても出さなくてもネット上に何かしら上がってしまったらいろんな憶測をされると思ったので書きましたけども。結果それがよかったのはどうかはいまだにわからないですね。その前にも1度、「どうするんだこれ」っていう話があったんですよ。だから私からしてみたら「来ちゃったな、ついにこのときが」っていう感じでしたね。なんとか延命治療を続けてたんですけど、やっぱり無理でしたっていう状態(笑)。ずっと問題を抱えて続けてはいたんですよ。でも、それってどのバンドでもそうだよね。

松永 どのバンドも膝に爆弾を抱えてますよ! それをセンテンススプリングなSNSが狙ってるんです!

──いつ膝が爆発するのかもしれないまま、みんな活動を続けて。

浜崎 普通に生活してる人もプライベートにまったく問題抱えてない人っていないと思うから、それと同じです。

松永 メジャーデビュー後の数年間はメンバー間のコンセンサスがなかなか取れなかったり、僕がやりたいと思ったこととほかのメンバーがやりたいと思うことのズレがけっこうあって。

浜崎 今もですよ(笑)。

松永 今もなんですよ! 僕はバンドってメディアでありカルチャーでもあると思ってるから、音に付随する見せ方であったり、映像作品とかプロモーションも含めて音楽表現だと思っているけれども、そう思わないメンバーもいるし、そのへんのズレが大きくなって意思疎通ができなくなったのかなって思ってますけどね。

──浜崎さんは松永さんのやりたいことを理解されてるんですか?

浜崎 いえ、してない部分いっぱいあります(笑)。全部が全部いいとは思ってないですよ。それは好みの問題ですから。でも、「今回はこういう方向でやりたいんだ」っていう話が出たときに、「じゃあその中で一番いいものを作ろう」っていう気持ちでいつも取り組んでます。だから、作品を出すたびに毎回いいものができたって自信を持って言えるんだけど、それが自分の好みかどうかって聞かれると「うーん」っていうものもたくさんあって。それは今でもそうです。だけどそれでいいし、それがバンドだと思ってます。

──自分が好きなことだけやりたいんだったらソロをやればいいだけだし。

浜崎 そうですね。ほかにメンバーがいる作業って、意見が違って当たり前だと思ってるから。私はわりとニュートラルに「ああ、そうなんですね」「じゃあわかりました」って感じでできるタイプだったけど、そうじゃない人ももちろんいたし、すごくぶつかることはありますよね。

松永 旧来のバンドマン的な感性でアーバンギャルドに関わると、ちょっと合わないのかもしれない(笑)。

アーバンギャルド「少女フィクション」
2018年4月4日発売 / 前衛都市
アーバンギャルド「少女フィクション」初回限定盤

初回限定盤 [CD+DVD]
4104円 / FBAC-050

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アーバンギャルド「少女フィクション」通常盤

通常盤 [CD]
3024円 / FBAC-051

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CD収録曲
  1. あたしフィクション
  2. あくまで悪魔
  3. ふぁむふぁたファンタジー
  4. トーキョー・キッド
  5. ビデオのように
  6. 大人病
  7. インターネット葬
  8. 鉄屑鉄男
  9. キスについて
  10. 少女にしやがれ
  11. 大破壊交響楽
初回限定盤DVD収録内容
  • あたしフィクション(PROPAGANDA VIDEO)
  • あくまで悪魔(PROPAGANDA VIDEO)
  • ふぁむふぁたファンタジー(PROPAGANDA VIDEO)
  • 大破壊交響楽(MEMORIAL VIDEO)

公演情報

アーバンギャルド「アーバンギャルドのディストピア2018『KEKKON SHIKI』」

2018年4月8日(日)東京都 中野サンプラザホール
OPEN 16:00 / START 17:00

アーバンギャルドの公開処刑13(トークライブ & サイン会)

2018年4月3日(火)埼玉県 ヴィレッジヴァンガードPLUS イオン越谷レイクタウン店
START 18:00

2018年4月4日(水)大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店
START 19:30

2018年4月5日(木)愛知県 HMV栄
START 19:30

2018年4月6日(金)東京都 タワーレコード新宿店
START 21:00

アーバンギャルド
アーバンギャルド
「トラウマテクノポップ」をコンセプトに掲げる4人組バンド。詩や演劇などの活動をしていた松永天馬(Vo)を中心に結成され、2007年にシャンソン歌手だった浜崎容子(Vo)が加入した。2009年3月に初の全国流通アルバム「少女は二度死ぬ」を発表。ガーリーかつ病的な世界観を徹底的に貫き、多くのリスナーから共感を集める。2011年7月にはシングル「スカート革命」でメジャーデビューし、2012年には東京・SHIBUYA-AXでワンマンライブを敢行。2014年から東京・TSUTAYA O-EASTを舞台にした主催イベント「鬱フェス」を毎年開催している。松永は2015年から2017年にかけてNHK Eテレの子供向け番組「Let's天才てれびくん」にレギュラー出演し、2016年にはNHK BSプレミアム「シリーズ・江戸川乱歩短編集 1925年の明智小五郎」でドラマ初出演も果たしている。2018年4月にはCDデビュー10周年を記念したアルバム「少女フィクション」をリリースし、同月に東京・中野サンプラザホールでデビュー10周年記念ライブ「アーバンギャルドのディストピア2018『KEKKON SHIKI』」を開催する。