ナタリー PowerPush - アーバンギャルド
バンドマン諸君、君たちはアイドルに負けている
アーバンギャルドは昔のアイドルに近い存在
──浜崎さんはアイドルについてどう思っていますか?
浜崎 私自身がアイドルになりたいって思ったことはないんですけど、アイドルは自分自身を武器にして戦ってるからすごく尊敬してます。容姿だけが全てとは思わないんですけど、外見を表現手段にするというか、自らがアートになるためには、誰にも見せない隠された日々の努力が必要なわけで。そういう部分は我々バンドの人たちも見習わないといけない部分だと思いますし。
──好きなアイドルは誰かいますか?
浜崎 私の中では松田聖子さんがもうずっとクイーンオブアイドル。楽曲も素晴らしいし、歌もすごいし、カリスマ性もルックスも完璧だと思うんですよ。あの人を超えるアイドルはもう出てこないだろうって。でも80年代当時の聖子さんは「ぶりっ子」なんて言われて女子から嫌われてましたよね。そこが今のアイドルと違うところで。昔は男性からちやほやされるタイプが多かったけど、今は「かわいい女の子が好き」っていう女性がすごく増えたから、ももクロが好きとか東京女子流が好きとか誰でも普通に言ってるんですよね。なんでそうなったのかなって考えてみたんですけど、昔はソロで活動している女性アイドル歌手が多かったけど、今はグループアイドルが主流だから、女子高とかで仲良しグループができるノリに近いのかなと思って。
松永 グループのメンバー同士でプリクラ撮ったりするよね。
浜崎 そうそうそう。みんなでお揃いのポーチを買ったり、一生懸命かわいくなるために一緒に研究したり。
松永 だから女子高を覗き見したいおっさんの欲望を満たしてると思いますよ。AKB48は都立の女子高、乃木坂46はちょっと都心にある私立のお嬢様学校みたいな感じですね。
浜崎 乃木坂はカトリック系だと思う(笑)。AKB48は公立で、クラスに男子もいるみたいな感じ。
松永 松田聖子のような昔のアイドルはウルトラマンだったんですけど、今のグループアイドルは戦隊物なんですよ。宇宙人じゃなくて中身は生身の人間(笑)。ももクロが顕著だと思うんですけど、ヘンリー・ダーガー(アウトサイダーアートの代表的な作家)が描いたヴィヴィアン・ガールズみたいな、戦う女の子たちの姿にファンが希望を託す、みたいな構図があるんじゃないのかな。
浜崎 生身のパフォーマンスで、体一貫で勝負してるカッコよさ。
松永 「プリキュア」も肉弾戦らしいからね。武器使わないで相手を倒すんだって(笑)。
──アイドルと自分たちとの間に何か共通点は感じますか?
浜崎 そういう意味ではアーバンは昔のアイドルと同じで、本当はすごく好きなのに人に好きって言うのがはばかられる存在(笑)。「学校で好きって言えないんです」みたいな手紙をたくさんもらうんですよ。
松永 アーバンギャルドにはライトなファンってあんまりいなくて、ものすごくディープなファンか「もう2度と観たくない!」っていう人かの両極端なんですよ。そういう意味ではアイドルに近い部分があるかもしれませんね(笑)。
浜崎 天馬がよくアイドルファンのことを「物語に参加してる」って言うんですけど、アーバンも世界観を作りこんだバンドだから、きっとファンの方は「私もアーバンの世界に入り込みたい」って思ってくれてるんじゃないかな。
松永 やっぱりね、アイドルを応援する上で、彼女たちの物語に参加できるかどうかが一番大きなポイントだと思うんですよ。武道館や紅白という目標に向かう女の子たちのサクセスストーリーの一員になって一緒に見届けたいという。もちろん男性なら擬似恋愛、女性であれば憧れからファンになる人もいますが、アイドルにのめり込めるかどうかは物語を感じられるかが大事な部分だと思うんです。
大便の臭いを混ぜることで香水の匂いが引き立てられるのと一緒
──天馬さんはいつも、歌詞を書く上で参考にするものはありますか?
松永 ファンからの手紙とかはすごく参考にしてますね。僕は曲でそれに返事をしてるつもりなんです。
浜崎 天馬はCDや作品のことを手紙だって言ってるんですよ。
──アーバンギャルドにはかなり熱烈なファンレターが届いてそうですね。
浜崎 便箋30枚くらいがちっちゃい字でびっちり埋まった、自分の生い立ちを全部書いてる半生記みたいなファンレターをいただいたりしますね。
──ものすごく思いがこもってますね(笑)。自分のことを全て知ってほしいんでしょうね。
浜崎 本当に光栄です。そのおかげで送ってくれた方の人物像は全部知ってるし、握手会とかで名乗ってくれたら一致するんですけど、「握手会の券を持ってたのに会うのが恥ずかしくて行けませんでした」みたいな子が結構いるんですよね……。あとはリスカしてる写真とか。天馬は使ってたカッターをもらったりしてましたね。「使ってください!」って。
──手紙に刃物が入ってるって一般的には嫌がらせの手法ですよね(笑)。
浜崎 ファンの皆さんが熱い気持ちをぶつけてくるから、私たちもそれに対して全力で応えたいという気持ちでいます。昔の私は他人に全然興味がなかったし、何かメッセージを伝えたいとか、誰かに届けたいという思いで歌ったことは一切なかったんです。でも今は皆さんがバンドにぶつけてくる感情は全部受け止めようって気持ちになってきて。好意だけが書かれてるわけじゃなくて、ものすごい憎悪がつづられた手紙があったりもするし、好きなのか嫌いなのかわかんないぐっちゃぐちゃの文章をいただいたりもするんです。そういうのを見てると、みんな必死で生きてるんだなっていうのをすごくリアルに感じるんです。
松永 だからアーバンギャルドは作業用BGMには向かないんですよ。歌詞が重すぎるというか、言葉が聴こえ過ぎちゃうんですよね。個人的にはFrancfrancの店内BGMとして流してもらいたいくらいなんですけど。
浜崎 絶対にありえないと思うよ(笑)。
松永 だったら英語とかフランス語とかで歌えばいいのかなって思って。
──ああ、今回のシングルにはカップリングに「スカート革命」のフランス語バージョンが入ってますよね。
浜崎 まさにFrancfranc(笑)!
──天馬さんが先程アーバンギャルドについて、心の底から大好きな人か、眉をひそめる人かどっちかしかいないと言っていましたが、多分その原因のほとんどは歌詞ですよね。だから今回このフランス語バージョンを聴いたときに、過激な歌詞の後ろに隠れていたおしゃれなメロディやアレンジがより強調されて、新しい魅力を発見したような気がしたんです。
松永 よし! 全編フランス語にしてボサノバアレンジをしたものをFrancfranc限定で売りましょう! そしたら新たな顧客を見込めるかもしれない!
浜崎 やりたいです!
──浜崎さんはシャンソン歌手もやってますよね。やっぱりフランスが好きなんですか。
浜崎 本当にパリが大好きなんです。よく見てください。今日着てる洋服、エッフェル塔の柄なんです(笑)。
松永 でも絶対にパリ症候群にかかるタイプだよねえ。
浜崎 そうなんですよね……。
──パリ症候群ってなんですか?
松永 日本人女性とかが「おしゃれな街」みたいな憧れを持ってパリに行ったら、実際はどこも汚くて失業者にあふれた街で、ショックを受けて精神的に不安定になるっていう。だってフランスで香水が栄えたのって、昔のパリが臭い街だったからなんでしょ?
浜崎 そうよ。汚い街よ。だからハイヒールの文化も生まれたのよ、排泄物を踏まないように(笑)。汚いものから美が生まれるっていうのは素晴らしいことですよ。
松永 アーバンギャルドみたいなもんです。スカトール(大便の臭いの主成分)を入れることによって香水の匂いが引き立てられるのと一緒ですよ。よく「浜崎さんの歌だけでいいんじゃない?」とか言われることもあるんですけど、僕の汚い声が入ることで曲が引き立つんですよ!
浜崎 最初はみんなすごく不快に感じるらしいですけどね(笑)。でもそれが当たり前になったら、ハイヒールや香水の元になったのが排泄物だなんて誰も思わないですから。
ニューシングル「病めるアイドル」 / 2012年6月20日発売 / UNIVERSAL J UPCH-5752
収録曲
- 病めるアイドル
- 萌えてろよ feat. ぱすぽ☆
- スカート革命(French Pop ver.)
- 病めるアイドル(instrumental)
- 萌えてろよ feat. ぱすぽ☆(instrumental)
- スカート革命(French Pop ver.)(instrumental)
ニューシングル「アーバンギャルドのSHIBUYA-AXは、病気」 / 2012年6月20日発売 / 5980円 UNIVERSAL J UPBH-9489
DVD収録内容
- 堕天使ポップ
- スカート革命
- 子どもの恋愛
- ベビーブーム
- 保健室で会った人なの
- プラモデル
- あした地震がおこったら
- 都市夫は死ぬ事にした(男だらけのアーバンギャルド)
- 傷だらけのマリア
- 前髪ぱっつんオペラ
- 水玉病
- その少女、人形につき
- 粉の女
- 修正主義者
- ときめきに死す
- ももいろクロニクル
- 生まれてみたい
- 四月戦争
- セーラー服を脱がないで
CD収録曲
- セーラー服を脱がないで(2012年日本語ロック論争のための新録)
- 水玉病(谷地村啓による、1984年のリセチフス報告)
- 女の子戦争(瀬々信による、手首を戦場に変えるヴィヴィアンガールズのために)
- 東京生まれ(鍵山喬一による、捏造されたクール・ジャパンを聴く)
- 傷だらけのマリア(浜崎容子による、現代のアンセム、またの名をテクノポップ)
- テロル(病気の原点、新録)
- コスプレイヤー(脱衣のための新曲)
アーバンギャルド
「トラウマテクノポップ」をコンセプトに掲げる5人組バンド。詩や演劇などの活動をしていた松永天馬(Vo)を中心に、ジャズや現代音楽を学んできた谷地村啓(Key)、メタルへの造詣が深い瀬々信(G)を迎えて結成され、2007年にシャンソン歌手だった浜崎容子(Vo)、2011年に鍵山喬一(Dr)が加入した。2009年3月に初の全国流通アルバム「少女は二度死ぬ」を発表し、2011年7月にはユニバーサルJからシングル「スカート革命」でメジャーデビュー。楽曲制作のみならずアートワークやビデオクリップ制作もほとんど松永が手がけ、ガーリーかつ病的な世界観を徹底的に貫いている。2012年6月にはシングル「病めるアイドル」と初のライブDVD「アーバンギャルドのSHIBUYA-AXは、病気」を同時発売した。