ナタリー PowerPush - アーバンギャルド
バンドマン諸君、君たちはアイドルに負けている
アーバンギャルドがシングル「病めるアイドル」と、今年3月に行われたワンマンライブ模様を収録した初のライブDVD「アーバンギャルドのSHIBUYA-AXは、病気」を同時リリースした。「病めるアイドル」はスポットライトを浴びて輝くアイドルの裏に隠された闇を歌ったナンバー。加熱し続けるアイドルブームに対する、バンドサイドからの挑戦状ともとれる楽曲になっている。
また彼らは、7月に旬のアイドルグループ5組を迎えて「アーバンギャルドのアイドル五番勝負!!!!!」と題した5日間の対バン企画を行うことも決定している。なぜ彼らはそこまでアイドルに執着し、勝負を挑もうとするのか。ナタリーではバンドのフロントマンである松永天馬と浜崎容子にインタビューを実施し、その思いの丈を語ってもらった。
取材・文 / 橋本尚平 撮影 / 高田梢
バンドのほうが優れてる? そんなプライドは食われてしまえばいい
──「病めるアイドル」はとても挑発的な曲ですよね。
松永天馬(Vo) アイドル戦国時代と言われている今、バンドマンはこれに対してなんらかのレスポンスをしないといけないと思っていたんです。じゃあアイドルブームってなんなんだろうって考えたとき、90年代初頭のバンドブームとすごく状況が似てきているんじゃないかって気付いて。それ以前のバンドは「ザ・芸能界」の世界のもので、事務所が育成して押し上げていくっていう方法だったのに、バンドブームから出てきた人たちは事務所もない状態でイチから自分たちでやり始めて武道館まで到達した。今のアイドルが成り上がっていくプロセスとすごく近いものを感じます。
──確かに。
松永 バンドブームと同じで百花繚乱だし、悪く言えば有象無象。正統派だけじゃなくキワモノや色モノも含めてどんどん出てきてるっていう、この意味不明さこそがアイドル戦国時代の本質的な面白さだと思うんですよね。でも今、逆にバンドはものすごく形が整い過ぎちゃってる。だからこの面白さを取り入れるべきだと思ってるんです。とはいえ僕ら自身は昔から、周囲からバンド扱いされてないってことに悔しさを感じてたんですよね。
──自分たちはバンドでありたいと思っていたんですか?
松永 ええ、恥ずかしながら。例えば、バンドマンとして「ROCKIN'ON JAPAN」に取り上げていただくことをステータスに感じていた部分が正直あります。でも今この状態になって、改めてバンドっていう定義を考え直さなきゃいけないなと。音楽っていう大きな括りの中でバンドやアイドルというカテゴリが再編成される時期にきてるのかなと思ってて。今のアイドルには昔の常識ではありえないような人たちもたくさんいますよね。失礼な言い方ですけど、歌も踊りもうまくない人とか、良くも悪くも普通の子だっている。でも彼女たちはそれぞれ持ち前の力の強度で勝負してる。コンセプトで勝負する人もいれば、楽曲のクオリティで勝負する人、歌やダンスの技術、ルックスで勝負する人もいる。そういう「なんでも勝負できるんだよ」っていうのが、元々バンドが持っていたものとすごく近くなってきてると思うんです。だからカテゴリを再編して、境界がぐっちゃぐちゃになっちゃえばいいと思うんですよね。
──音楽シーン全体がより盛り上がるために。
松永 そうです。音楽を好きになる入り口はどこでもいいと思うんです。バンドであろうがアイドル、ボカロ、アニソンであろうが。ただ「アニソンだから聴く」「ボカロだから聴く」というのはすごくつまらない考え方だと思うので、自分たちはそこを突き崩していきたいし、作り手側も自分たちがバンドだということにこだわらずいろいろやるべきだと思います。今はそれができる時期。例えば20年前だったら渋谷系リスナーたちはビーイング系の音楽は絶対聴かなかったと思うけど、YouTubeのおかげでいろんな時代やジャンルの音楽を並列に聴けるようになったから、若い世代は感覚がボーダレスで、他ジャンルに対する偏見も、仮想敵の意識もないんですよね。
──ああ、そうかもしれませんね。
松永 ヲタの人も5年くらい前からライブハウスに出入りするようになってきて、だんだんヲタの人たちのノリが昔のパンクスのライブみたいになってきてるじゃないですか。ロックバンドのライブに来る人のほうがよっぽどおとなしいという。だからその会場が一体になる熱量をなんらかの形で自分たちも手にしたいんです。
──なるほど。
松永 アイドルファンは自分たちで現場をどう作り上げていくかに対して強いこだわりがありますから。でも一般的な音楽ファンは接客されてるというか、観に行ってるっていう意識なんですよね。それが「参加している」に変われば音楽のライブが次のステージに上がっていくんじゃないかって。
浜崎容子(Vo) アイドルの現場を見てると、お客さんたちが満足度200%みたいな状態で帰宅されてますよね。マラソンを完走した後みたいに、みんな汗だくでびちょびちょになって、やり遂げたような晴れ晴れとした顔で。ステージに立つ側もいつも全力でやってるんですけど、お客さんにもそういう達成感や清々しさを感じてもらいたいんです。もちろん楽しみ方は人それぞれだから、それが嫌な人は後ろのほうでじっと観ていてもいいと思うし、おうちで聴いててもいいと思うんですけど。
松永 一般的なイメージでよく「アイドルはファンに媚びて接待してる」みたいに言われますけど、実際はファンを試してるというか「ファンのテンションやモチベーションと自分たちのやる気、どっちが続くか勝負だ!」みたいなところがありますよね。互いにしのぎを削る感じがすごくいいなあと思います。
──会場の一体感という意味ではバンドはアイドルに負けていると。
松永 そうですね。バンドには多分、余計なプライド持ってる人が多いんですよ。潜在意識に「演奏してるほうが優れてる」「バンドのほうが音楽的に優れてる」っていう思い込みがある気がする。そんなプライドは食われてしまえばいい。アイドルにはたくさんの作家がいて、その中からコンペで出す曲を選ぶから、冷静に考えればアイドルのほうがクオリティが高い曲ができちゃう仕組みになってるんです。なのに「自分がシンガーソングライトしてる」ってことが絶対的な優位だと思ってしまっている人が多すぎる。それはある意味では正しいけど、視点を変えれば単なる自意識過剰なだけだよってことを、僕は強く言いたいです。
ニューシングル「病めるアイドル」 / 2012年6月20日発売 / UNIVERSAL J UPCH-5752
収録曲
- 病めるアイドル
- 萌えてろよ feat. ぱすぽ☆
- スカート革命(French Pop ver.)
- 病めるアイドル(instrumental)
- 萌えてろよ feat. ぱすぽ☆(instrumental)
- スカート革命(French Pop ver.)(instrumental)
ニューシングル「アーバンギャルドのSHIBUYA-AXは、病気」 / 2012年6月20日発売 / 5980円 UNIVERSAL J UPBH-9489
DVD収録内容
- 堕天使ポップ
- スカート革命
- 子どもの恋愛
- ベビーブーム
- 保健室で会った人なの
- プラモデル
- あした地震がおこったら
- 都市夫は死ぬ事にした(男だらけのアーバンギャルド)
- 傷だらけのマリア
- 前髪ぱっつんオペラ
- 水玉病
- その少女、人形につき
- 粉の女
- 修正主義者
- ときめきに死す
- ももいろクロニクル
- 生まれてみたい
- 四月戦争
- セーラー服を脱がないで
CD収録曲
- セーラー服を脱がないで(2012年日本語ロック論争のための新録)
- 水玉病(谷地村啓による、1984年のリセチフス報告)
- 女の子戦争(瀬々信による、手首を戦場に変えるヴィヴィアンガールズのために)
- 東京生まれ(鍵山喬一による、捏造されたクール・ジャパンを聴く)
- 傷だらけのマリア(浜崎容子による、現代のアンセム、またの名をテクノポップ)
- テロル(病気の原点、新録)
- コスプレイヤー(脱衣のための新曲)
アーバンギャルド
「トラウマテクノポップ」をコンセプトに掲げる5人組バンド。詩や演劇などの活動をしていた松永天馬(Vo)を中心に、ジャズや現代音楽を学んできた谷地村啓(Key)、メタルへの造詣が深い瀬々信(G)を迎えて結成され、2007年にシャンソン歌手だった浜崎容子(Vo)、2011年に鍵山喬一(Dr)が加入した。2009年3月に初の全国流通アルバム「少女は二度死ぬ」を発表し、2011年7月にはユニバーサルJからシングル「スカート革命」でメジャーデビュー。楽曲制作のみならずアートワークやビデオクリップ制作もほとんど松永が手がけ、ガーリーかつ病的な世界観を徹底的に貫いている。2012年6月にはシングル「病めるアイドル」と初のライブDVD「アーバンギャルドのSHIBUYA-AXは、病気」を同時発売した。