「急にこんな曲来たらビビるよね」
──さっき話に出た「City peel」「Numbness like a ginger」は、なんと言ったらいいですかね。軽くファンキーで、おしゃれなピアノが入って、あえて言うならシティポップ系と言いますか。
斎藤 そんな感じですよね。
──「City peel」はギターが最高ですね。バッキングもソロも、アタックは強いけれど柔らかくて、洗練されたカッコよさがあって。
斎藤 ギターの音作りは楽しかったですね。Bメロのモータウンっぽい感じ、初期Maroon 5のような雰囲気の中に、絶妙にフェイザー(※音の位相を変えるエフェクト)を混ぜてみたりして。ギターソロも不思議な空間系のエフェクトにして、前半と後半に出てくる同じフレーズのうち後半をちょっと崩すことでジャズマナーを取り入れてみたりとか。自分のエゴにならない範囲で、やりたいことを落とし込めたんじゃないかなと思ってます。
──「Numbness like a ginger」も、ジャズやソウルのマナーを取り入れながら、ちゃんとユニゾンらしいポップなサウンドに着地してる。すごくいい曲です。
田淵 ありがとうございます。ラッキーで書けました。
──これはテレビアニメ「ブルーロック」のエンディング主題歌として書いたんですよね。
田淵 はい。話をもらったときにはもうアルバムの構想を始めていたので、一瞬迷ったんですけど。「作るならどういう曲?」と逆算して考えたときに、「急にこんな曲来たらビビるよね」ぐらいの曲じゃないとアルバムにはつながらない気がしたので、発表の仕方も含めてどういう感じで出したらアルバムのいいプロモーションになるだろう、と。結果として「シングルとしてはリリースしない」「放送当日まで情報解禁しない」「同時にミュージックビデオを公開する」「その日にアルバムと全国ツアーを発表する」ということを決めて、そのうえでお引き受けしたという形でした。シングルではないので「俺たちの真骨頂だ」という曲である必要はなくなるし、肩の力を抜いて書けるだろうと思ったのもあります。それで「参考として90年代のシティポップのいい曲を片っ端からくれ」って、ディレクターに頼みました。
斎藤 へえー。
田淵 ディレクターはその時代の曲がめっちゃ好きなので。で、2晩ぐらいかけて片っ端から聴いて、手がふらーっと動いて書いたものが曲になった(笑)。2曲作ったんですけど、ディレクターの反応のよかったほうを仕上げました。それぐらい、俺的には普通に生きてたら書けるわけないタイプの曲です。
──言われてみれば懐かしい感じはしますね。90年代っぽいかもしれない。
田淵 サビを俺っぽくしたらユニゾンらしくなるだろうという後付けはありましたけど、取っかかりに関しては、こんな作り方をすることは今後もないだろうと思います。まぐれ待ちですからね。2晩ずーっといろんな曲を聴いて「俺の琴線に触れる曲はどれなんだろう?」って。そんなことをしたことはなかったので面白かったです。
斎藤 勤勉だね。
田淵 でも多くの作曲家は、きっとそういうことをやってると思うんですよね。YouTubeを片っ端から観てアイデアが降りてくるのを待つとか。そんな話を聞くたびに「めんどくさくない?」とか思ってたけど、俺にもそのときが来ました(笑)。それぐらい引き出しがなくなったんだと思う(笑)。
──そんなことはないでしょう(笑)。でも長くやってきて新しい刺激が欲しくなるというのはわかる気はします。
田淵 楽しかったですね。おかげさまで考えていた条件の通りの発表もできたし、いい曲になったし、やってよかったなという制作でした。
──ただ、サウンドはポップでスムーズなのに、貴雄さんのドラムがとんでもない。めちゃくちゃ自由にやっていますよね。
斎藤 確かに。
──感性のままに叩きまくってるのか、細部までこだわりまくってやってるのか、一聴してわからないぐらいすごいです。
田淵 けっこう緻密ですよ。レコーディング前の打ち込みの段階から「これ人間が叩けるのか?」というフレーズだったので。
鈴木貴雄はライブの空気感を象徴する
──ちなみにプレイヤーとしての最近の貴雄さんを、お二人はどう見ていますか?
斎藤 “3ピース専用ドラマー”というか、音数が少ないところを彩れるドラムとして確立していますよね。もう1人ギターやピアノがいたら「ドラムはそんなにやらなくていいよ」と言われそうなギリギリのところを常に攻めていて、それもたぶん自覚してる。そう言えば俺、貴雄に言われたことがあるんですよ。ライブにおいて音がガシャガシャしてくると、盛り上がりはするけど、歌は歌いづらくなってしまうんですね。でも貴雄に「UNISON SQUARE GARDENは宏介が歌いづらいと思いながら歌ってるのがカッコいいんだよ」と言われて、「あ、そうだな」って、わりと腑に落ちたんですよ。
──ああー。なるほど。
斎藤 「自分がいい歌を歌うことがいいんだ。歌いづらいのは悪だ」みたいなことを、ずっと当たり前に思っていたんですけど、そうではなくて。バンドとしての音の塊をスピーカーから出してるわけだから、歌が主役なんて誰が決めたんだ?って、自分の中で腑に落ちた。
──それは相当に重要な話ですけど、いつ頃の会話ですか?
斎藤 わりと最近です(笑)。
──それまでずっと、心の中で「歌いづらいな」と思っていたと(笑)。
斎藤 そういうことですね(笑)。でも俯瞰だか主観だかわからないですけど「バンドを色付けるために自分にできることはなんだろう?」と考えながらやっているということが、彼のキャラクターとして確立しているなと思いますね。
──とても面白い話です。
田淵 彼は年々「熱く人生を生きる」みたいなスイッチが入ってきていて、それがライブの空気感を引っ張るというか……象徴するという言い方のほうが近いかな? 「ユニゾンはこういうバンドだよね」というものがより濃くなっていて、それをどうやって自分の人生を通して表現するか?というゾーンに入ってきているんだろうなと、見ていてすごく思うんです。そうなると、自分的に楽ができるところが増えるというか、自分が考えなくていいところも見つかるし。彼についていくときもあれば、ついていかないほうがいいときもあって、それを駆け引きで決めていく感じは、これまでになかったことなので。それがけっこう、最近の大きな変化だと思っています。
──それも最近なんですね。
田淵 うん。彼は自分にとってのドラマ作りみたいなものを年々どんどん考えるようになっている感じで、俺は逆に年々そういうことがどうでもよくなっているところがあるんですよね。「なんでもいいや」というスタンスが自分の生き方に合っているところもあって。俺の熱量が落ちているということはまったくないんですけど、「こうじゃなきゃ」ということを過剰に考えて「そのためにはこのぐらい虚勢を張らねばならない」みたいな時期が過去にはあったんです。そこと比較すると、もしかしたら田淵が盛り下がったような感じに見えるかもしれないけど、これはこれで自分の選んだ好きな生き方だから。そうなってみると鈴木くんが今作ろうとしている「ユニゾンとしてこういう世界観が一番カッコいいんだ」というものとバランスが取れて。結果としていいライブができる新しい形が生まれたので、バンドって面白いなと思います。
──ユニゾンならではのバンド論だと思います。
田淵 それぞれ自分が請け負いたいエリアがかぶってないから「そのエリアを誰より気にしてるのは俺なのに」みたいにならずにバランスが保てているし、しかも数年前とはまた違うバランスになっているのが面白いです。そこの違いはたぶん、僕らのライブをずっと見に来てくれる人たちには、わかると思うんですよね。「こんなユニゾンも面白いね」「今のユニゾンってこんなモードなんだ」って。そんな面白い推しっていないじゃないですか。推しとか自分で言ったらおかしいか(笑)。
斎藤 推し、ね(笑)。
田淵 見るたびにバランスが変わってる、でもなぜか全部カッコいい、みたいな。そうなると次に作る曲はどうなるか、次のライブはどうなるか、というバンドを続けるためのアイデアがまた出てくる。結果、それがバンドを続ける秘訣なのかもしれない。
次のページ »
ボーダーラインを超えてしまってもいいや