UNISON SQUARE GARDENの9枚目のオリジナルアルバム「Ninth Peel」が4月12日にリリースされる。
9枚目にしてひと皮むけた、その名も「Ninth Peel」。2年半ぶりに届いたUNISON SQUARE GARDENのニューアルバムは、熱くストレートなギターロック、ゴージャスなブラスサウンド、洗練されたシティポップのエッセンス、物語性の強いドラマチックなバラードなど、これまで以上に自由でカラフルな音楽の歓びがあふれ出す、会心の1作だ。
音楽ナタリーでは新作の発売に際し、斎藤宏介(Vo, G)と田淵智也(B)にインタビュー。アルバムのコンセプト、楽曲の成り立ち、精神的な成長、そして3ピースバンドの極意について、じっくりと語ってもらった。
取材・文 / 宮本英夫
今までにないものを作るのがいいんじゃないか?
──アルバムリリースは2年半ぶりですね。田淵さんはいつも「アルバムのツアー中に次のアルバムのコンセプトを練って曲作りをする」と言ってますが、今回もそうでしたか?
田淵智也(B) そうです。「Patrick Vegee」ツアーが1年遅れで始まりましたけど、ツアーが終わる頃には曲はだいたいできていたと思います。
──「Patrick Vegee」はアルバムリリースが2020年9月、ツアーの開催は2021年秋から2022年にかけてですね。今回のアルバムについては当初、どんなテーマやコンセプトが頭にありましたか。
田淵 「MODE MOOD MODE」(2018年リリース)と「Patrick Vegee」が自分の中では歴史的大作なので、「もうこれ以上のものはいいかな」と。コンセプトとか「こういう枠のアルバムを作ったらみんな驚くかな」とかそういうものを全部捨てて、ただ曲を作って「いい曲ができた」と思えるものを集めれば、あとから何かアイデアが出てくるだろうと考えながら作っていましたね。
──なるほど。
田淵 曲作りの過程を考えなかったというよりは、前のアルバムに満足しているというのが大きいです。とはいえ新作を出すとき、今までにないものを作るのがいいんじゃないか?ということは考えていました。
──「MODE MOOD MODE」は全編ポップに振り切った作品で、「Patrick Vegee」は大曲と小曲を組み合わせて曲順マジックで聴かせるアルバムだと前に言っていましたよね。今回は、そのどちらでもないと。
田淵 そうですね。レコーディングが終わるまでは曲順もそんなに考えていなかったし、作りながらだんだんと「この曲をここに置くならこうしよう」って並べていったので。これまでとは全然違う作り方だと思います。
“ロックバンドのよさ”をユニゾンの鍋で煮詰めた作品
──アルバム曲が出そろってくる中での斎藤さんの印象や手応えは?
斎藤宏介(Vo, G) 途中でけっこう印象が変わりました。シングルの「kaleido proud fiesta」や「カオスが極まる」で、アレンジ的には今までやったことがないことを、田淵がUNISON SQUARE GARDENにぶつけてきたなという印象があったので、次はそういうアルバムになるんだと思っていたんですけど。あくまで“ロックバンドのよさ”みたいなものを、UNISON SQUARE GARDENの鍋で煮詰めた曲たちが上がってきたので「ああ、なるほど」という感じになりました。
──確かに、ロックバンドのライブ感を強く感じるアルバムではあるなと思います。アレンジ面でも。「kaleido proud fiesta」と「カオスが極まる」以外は、シーケンスやシンセはそんなに入れていないように聞こえますし。
田淵 先行シングルの2曲の盛り盛りな感じとの対比で、いらない音はとにかくいらないという考えはありました。ただ「City peel」や「Numbness like a ginger」とか、「面白そうだからとりあえず弾いてもらうか」みたいな感じで弾いてもらったということも、やってると言えばやってるので。
──それはピアノですね。
田淵 はい。どこにフォーカスを合わせるか?という話だと思うんですけど、1曲目と最後の曲が音数の少ない構成になっているという目線で見れば、そういうアルバムに見えるし、「City peel」「Numbness like a ginger」や、リード曲の「恋する惑星」にはブラスがバンバン入っていたりとか、そこに目を向ければ「けっこう音が入ってるな」とも言えるし、「ロックバンドしてますよ」とは言い切れない気もするので。不思議なアルバムだなあと思います。
斎藤 確かに。
田淵 でも1曲目と11曲目の目線で言うと、とにかくギター2本で成立させるんだという挑戦はあって、「ギターのコードカッティングだけで名イントロを作ってやる!」みたいなことを楽しめたのは面白かった。1曲目のトラックダウンをしながら「20年前の下北沢みたいな曲だな」と思ってました。
斎藤 シモキタ感、あるよね(笑)。
曲が勝手に一人歩きした感じを面白がれた
──確かに、1曲目「スペースシャトル・ララバイ」と、11曲目「フレーズボトル・バイバイ」ではケレン味のないストレートなギターロックサウンドをひさびさに味わった感じがします。
斎藤 その2曲に関してはシングルとはまた違った強度が感じられるし、たぶんライブでやったらもっと印象が変わるんだろうなと思います。デカい感じというか、「バーン! うわー! ハッピー!」みたいな(笑)。こういう曲のほうがライブ映えと言うんですかね、ライブでの変化があるのかなと思います。
田淵 今日日ギター2本でめちゃめちゃデカい音を出すということに、遅れてきた僕のブームとして「やったー!」ってなりますね。ギターロックは流行らないとか、ヒットチャートにロックバンドがいないとか、そういう時代の中で「ギターがデカいのがうれしい!」みたいな。
──2曲目に出てくるリード曲「恋する惑星」が、ブラスやコーラス、ピアノがたっぷり入ったソウルフルなポップチューン、という流れもすごく面白いです。この曲はどんなふうに生まれたんですか?
田淵 まず「こんなキュートな曲書いちゃっていいの?」というくらいポップな曲にしたいというところから作曲が始まったんですけど、鈴木(貴雄 / Dr)くんにデモを渡してドラムをアレンジしてもらったら、フィルがほぼなくなって。デモにはロックバンドっぽいフィルがいっぱい入ってたんですけど、スネアとキックが鳴ってるだけのシンプルなアレンジになって、さらに大太鼓みたいなものを入れたそうな雰囲気になってましたね。で、もともとブラスは入れる予定だったんですけど、「kaleido proud fiesta」も手伝ってくれたアレンジャーの伊藤翼くんに送って「なんでもやっていいよ」と言ったら、彼が「5管にする」と言い出したんです。僕が今まで経験してきたブラスセクションは3管か4管なんですけど、際限なくやっていいんだったら5管が一番アレンジを書きやすいんですって。
──そうなんですね。
田淵 そうすると対旋律でいろんな音が使えて、誰かがいつもトップにいながら、その周りでハーモニーを作ることができると。そうしたらとてつもなく分厚いブラスになって、それをディレクターが気に入って、「リードはこれにしよう。アルバムの2曲目に置こう」ということになった、という経緯があります。最初はもっと規模の小さいもので“ユニゾンがたまに書くキュートな曲”という感じだったんですけど、いろんなミラクルが起きたなと思います。
──面白い成り立ちです。
田淵 曲が勝手に一人歩きした感じがあって。今回は全体的にそういうものを全部面白がれた制作だったなと思います。自分のイメージとは違うけど、100回聴いてたらよくなってきた、みたいなことを全部やっていった結果、予期しない要素がいっぱい入ったアルバムになったなという気はします。
次のページ »
「急にこんな曲来たらビビるよね」