平均年齢59.4歳、ユニコーンの勢いが止まらない──。
2009年元日の再始動発表以来、全国ツアーの開催に約2年に1枚のペースでのオリジナルアルバムのリリース、加えて各地のフェスやイベントにも出演と、若手バンドと同じようなペースでの活動を続けている。そんなユニコーンが先日、約2年ぶりとなるオリジナルアルバム「クロスロード」を発表した。
ニューアルバムは全11曲入り。「OAW!」「米米夢」「モッカ幸せ」「ネイビーオレンジ」「オラ後半戦いくだ」など、過去曲をオマージュして作られた新曲が収録されているのがポイントだ。ちなみにユニコーンは、アルバムのリリース前には収録曲の一部をAIに歌わせたEP「ええ愛のメモリ」を配信リリースしている。
多忙そうに見えるABEDON、EBI、奥田民生、川西幸一、手島いさむの5人だが、音楽活動を楽しんでいることが奏でる音の端々から感じられる。その活動の根源はなんなのか? 今回はメンバーのソロインタビューを通して掘り下げた。さらにそれぞれのインタビューの最後にはユニコーンから多大な影響を受けてきたことを公言する“ユニコーンチルドレン”マカロニえんぴつから各メンバーへの質問と、その回答を掲載。“五者五様”の自然体な言葉を楽しんでほしい。
取材・文 / ナカニシキュウ
「自分で歌わなくていいんでしょ?」
──やはり今作の目玉は5人それぞれによる過去曲のセルフオマージュだと思うんですけれども、民生さんはユニコーン最初期の代表曲「Maybe Blue」(1987年リリース1stアルバム「BOOM」収録)をもとにした「ネイビーオレンジ」を作られました。そもそも元ネタに「Maybe Blue」を選んだのはどういう経緯で?
なんか、メンバーで話し合ってたときに「まあ、民生は『Maybe Blue』とか『大迷惑』みたいなやつじゃないの?」というような話になったんで、「わかりやした」みたいな(笑)。そらそうだよねと。わかりやすいんじゃないかなと思ったんですよね。
──なんとなくイメージとして、「過去のあの曲みたいな曲を作ってください」と言われるのはソングライターとしては抵抗があるんじゃないかなと思ったりもするんですが。
嫌ではないですよ。逆にこんな企画でもなければやらないことなんで、わりと他人事のように面白がれましたね。
──アルバムではご本人が歌っていますが、先行リリースされたEP「ええ愛のメモリ」ではAIで生成された“過去の民生さん”にこの曲を歌わせるという試みも行われました。なかなか挑戦的な企画ですが……。
AIボーカルに関しては、知っているようで知らなかったというか。例えば「亡くなった方の歌声をよみがえらせる」ことができるとは話には聞いてたんで、「そんなことができる時代になったんだな」ぐらいにしか思ってなかったんだけど……それを「まだ生きてるのに使う」「それで遊ぶ」みたいな考え方は面白いと思ったんで、今回の企画もいいんじゃないの?と。ただ、どうなるかは全然わかんなくて。阿部さんはなんとなく想像できていたんでしょうけど。
──民生さんとしては「よくわからんけど、面白そうだからいいかな」くらいの感じだったんですね。
そうすね。なんなら「自分で歌わなくていいんでしょ?」みたいな(笑)。結果、阿部さんだけが異常に忙しかったようですけど。俺らは「なんか阿部ががんばってくれてるから協力しようか」みたいな感じだった(笑)。
──実際に上がってきた音声については、どう感じました?
昔は僕しか歌ってなかったんで、僕の歌唱データはいっぱいあるわけですよ。それをもとに歌声を生成するから、「まあまあ、こんな感じか」「そうかそうか」となったんですけど、ほかの人に関してはデータが少ないんで、今の声とそんなに差が出てないかもしれないですね。
──確かに民生さんの声が一番違いがわかりやすいなと個人的にも思いました。
そうだと思います。でも実は自分ではそんなにわからないんですよ。なんせ自分の声だし(笑)。AIが作り出した若い声も別に今でも出そうと思えば出せるんで。でもまあ、みんなが「若い若い」と言ってるならいいかと。
「大迷惑」じゃなくてよかった
──「ネイビーオレンジ」を作る際に、現在の作り方と違いを感じた部分はありましたか?
最近の曲の作り方とは180度違いますよね。今は「昔のアレに似ちゃいけない」と、似そうになったら軌道修正しなきゃいけないじゃないですか。それに対して今回は「『Maybe Blue』に沿って作る」という企画なんで、まあ完全にパクればいいんで。考え方がまったく逆だから、そこはなんて言うんですか? ……寄り添うように(笑)。
──寄り添うように(笑)。
で、歌詞に関してはなんでもよかったんですけど……まず似たようなタイトルを先に決めようと。そんで「ネイビーオレンジ」ということは、なんか夕焼けかな?みたいな。そんな感じです。
──楽曲キーも「Maybe Blue」と同じBmになっていますが、これは意図的に合わせたということでしょうか?
そう。ドラムのパターンもだし、ベースもギターもね。キーボードはわりと自由だったんですけど、もとがわかりやすい曲なんで、みんなにそのままやってもらえばいいっていう。で、キーも同じにしたほうが単純に声の差も出やすいだろうと。できるだけいろんな部分を同じにして、ちょっとだけ変えるという作り方でしたね。
──その作業は、ソングライターとしての在り方みたいなものを改めて客観視する機会にもなったんじゃないかと想像するんですが、今の民生さんから見て当時の奥田民生はどう映りますか?
そうっすね……あれを作ったときはピュアですから。ピュアというか、知っていることが少なすぎるっちゅうか(笑)。ボキャブラリーがほとんどないわけですよ。とりあえず闇雲に作ってみてるようなもんなんで、技術は感じないですね。自分らしさとかそういうのも何も考えてないですし……だから何もないですね(笑)。
──それが今となっては技術や経験などいろいろなものを手に入れて、たくさんある手札から適切なものを出す感じになってきている?
今回のこの曲は、何も知らなかった昔の自分に戻った気持ちで作ったんで、たぶんそうはなってないですけどね。だから例えば、もし仮にこういう企画じゃないところで「ネイビーオレンジ」ができてたら……まあできないとは思うけど、たまたまできたとしたら「なんでそんなもの作るんですか」みたいな話になると思うんですよ。“らしさ”がないしね。別にらしさがないといけないわけじゃないんですが、なんか違いますよね。それをやれてしまったのも、この企画ならではの楽しさだと思いますよ。
──それは近年のユニコーンを見ていてすごく感じます。「1個のお題に対して5人それぞれが何を出すか」という作り方が最近は多いですけど、そのやり方でしか生まれないであろう面白いものが毎回ある気がしていて。
ユニコーンの現場だと、自分らしさとかは「ほっといても多少は出るんでしょう」くらいの感じもあって。それよりも「みんなが盛り上がって録音やライブをやれればいい」という、そっちが先なんで。難しいこともどんどんやらなくなってきてますし(笑)。変な構成の曲とか、もはや絶対やらないわけですよ。だから曲は簡単なんだけど、経験やそれに裏打ちされた何かがちょっと入っていればいいというか。
──実際、楽曲がシンプルになればなるほど演奏する人間の度量みたいなものが問われますよね。それがないと、ただ平板なだけのものになってしまうというか。
そうですね。人と同じになっちゃいけないし、そうするためには技術がいる。それをずっと追求してきてるから、自分たちにそういうものが備わっているであろうという半分自信のようなものもあったりするんで、曲はどんどんシンプルになっていっていいんじゃないかという考え方になってますね。
──「ネイビーオレンジ」もシンプルな楽曲になってますけど、仮に「Maybe Blue」ではなく例えば「大迷惑」をもとにしていたら、複雑なものになっていた可能性もありますよね。
だから「大迷惑」じゃなくてよかったなって(笑)。あれみたいにするんだったら、ちょっとアレンジ的なことも考えなきゃいけなくなるんで。
──オーケストラが入ってきたりとか。
そうそう、「大迷惑」はあのアレンジあってのものだと思うんで。今回はそこを誰も求めてなかったと思うんですよ。予算的な意味でも(笑)。
この世で一番明るい曲は「走れ正直者」
──アルバム1曲目の「クロスロード」では、オモチャっぽいテイストの楽器がたくさん使われていますね。
アルバムのもう1つのコンセプトとしてAIとは別に「明るい曲」というのがあったんで、僕は子供の頃に観たアニメの主題歌みたいなものをイメージしたんですよ。まあ僕も近年「ハクション大魔王」の主題歌をやらせてもらったりしてますが、「マッハGoGoGo」とか「マジンガーZ」とか「トムとジェリー」とか、もっと昔のアニメの曲ね。そんな雰囲気を目指したいなと。あの時代のアニメの曲って、いわゆるバンドサウンドではないじゃないですか。
──確かにそうですね。ブラスバンドだったり……。
なんならオーケストラだったり。で、曲中の効果音みたいなものも全部何かの楽器で鳴らしてたりするでしょ。ああいうイメージ。
──個人的には、近年のユニコーンをそのまま象徴するような音だなと感じたんです。パッと聴いた瞬間に「なんか自由で楽しそう」みたいな。
まあ、だからあれですよ。バンドの打ち合わせで「この世で一番明るい曲は西城秀樹さんの交差点で100円拾う曲だ」ってなったんですよ。
──アニメ「ちびまる子ちゃん」のエンディングに使われていた「走れ正直者」ですね。
そう。あれがこの世で一番明るいという話になって、だから全体的にそういうイメージがみんな付いちゃって。「クロスロード」もその「交差点」って歌詞から来てるんですけど、曲の中に「英語ではクロスロード」って歌詞が出てくるから、アルバムも「クロスロード」ってタイトルになったんです。
──なるほど。そんな中、民生さんが作詞を手がけた「アルカセ」はちょっと異彩を放っていますね。言い方が難しいですけど、“ちゃんといい曲”というか。
これだけはアルバム企画とはまったく別のところでできた曲で。たまたま阿部さんが映画主題歌のオファーを受けて、俺が歌詞を書いて歌うことになったんで(参照:ユニコーン、笑福亭鶴瓶&中条あやみが夫婦役の映画「あまろっく」主題歌を書き下ろし)、これだけAIとか「明るい」とか全然関係ないんですよ。だから逆にこれは普段のユニコーンと同じような感じですよね。
──そうなんですよね。このアルバムにこの曲が入っているのはちょっと不思議な感じもするんですけど、入ってることである意味安心して聴ける部分もあって。
ははは。「ここで我に返ってください」みたいな(笑)。だから全部が全部コンセプト通りじゃなくても、あれがポコッと入ることで締まるというかね。普通だったら企画物として作ってるアルバムなんだからこういう曲は入れないっていう選択肢もあると思うんですけど、入れてしまうのが俺たちのすごいところだと思います(笑)。はっはっは。
やる理由がまだあってよかった
──「クロスロード」は「ツイス島&シャウ島」から約2年ぶりのアルバムです。振り返ってみると、ユニコーンは14年前の再始動からほぼ2年に1枚ペースでコンスタントに作品を出し続けています。受け手としてはもちろんうれしいんですけど、キャリアのわりに働きすぎじゃないかという気もしておりまして。
デビュー当時に比べたら全然ですけどね。みんなほかのこともやってるし、ユニコーンだけで言うと昔に比べれば余裕のある、ラクな感じでやれてるんで。仮にけっこうな年数が空いたとしてもそんなに誰も文句は言わないだろうみたいなところもあるんで、ほっといたらもっとペースもゆったりすると思うんですけど……それこそ「縛りを設定してバーッと作る」みたいなのが毎回あるから無理なくやれている部分もあるし。「できるときにやっとこう」くらいの感じでやってます。
──「2年に1枚は必ず出そう」ということではないんですね。
ないですね。昔はそれこそレコード会社との契約で「何年間で何枚作る」とかあったんですけど、再結成後に関しては「そこは自由にできますかね?」みたいなやりとりをしてるんで(笑)。若いバンドはそんなふうにはできないと思うけど、「ベテランになるとそんなこともわりと自分たちでコントロールできるんだぜ。どうだ、いいだろう」みたいなところを世の中に見せつけたい感じもあるんですよ。特に阿部がそういうところを出していきたいと言っていて。
──それは十分に伝わってきていますが、そのわりには出てくる作品数が多いなと。
全員が曲を作るようになっていることもあって、負担が以前とはまったく違うわけですよ。少なくとも俺はね。そこはデカいです。あとは「ツアーをやって小銭を稼ぐぞ」みたいなモチベーションももちろんあるんで、「ツアーをやるためには何か出さないと」というのもあるし(笑)。1回解散したことで、今はサラリーマンでいう第2のキャリアっつうんですか? まあ同じとこに戻ってますけど、前とはだいぶ違って肩の力を抜いてやれてるんで、気持ちに余裕があるんです。
──つまり、長期間アルバムを出さなくても別に怒られないのにちゃんと出しているのは、無理せずともやれる環境があるからであり、やる理由もあるからなんですね。
やる理由がまだあってよかったというかね。そういうことだと思いますね。
ユニコーンチルドレン・マカロニえんぴつから預かった質問を直接本人にぶつけてみるの巻
奥田民生編
はっとり(Vo, G)からの質問
先日はレコーディングありがとうございました! めちゃくちゃ楽しかったです。ところで、昔から民生さんが間奏中によくやる「ダァ」が大好物です(「I'M A LOSER」の3:36や「抱けないあの娘 -Great Hip in Japan-」の1:24、今回であれば「ネイビーオレンジ」の1:42や3:03など)。あれは何がきっかけで始めたのでしょうか?
歌詞じゃないところで何か叫ぶやつってことですよね。いや、みんなやってるからですよ(笑)。次へ向けて気合いを入れている場合もあるし、痰が絡んでるだけだったりもするし、「ギターソロ始まりますよ皆さん!」っていう司会業みたいなことだったりもするし……いろんな理由があるんですけど、まあやらない人はやらないよね確かに。「イェー」とか「ヘイ」とかじゃなくて「ダァ」なのはなぜかという意味の質問だとしたら……無意識なんでわからないけど、痰が絡んでるんだと思うよ(笑)。はっとりへの答えとしてはそれです。「痰が絡んでいる」。
高野賢也(B)からの質問
レコーディングで一番こだわるポイントはなんですか?
こだわるのは、まあまずは音ですよね。なんつうの? 曲が……曲になっているかどうか(笑)。何かを思って作った曲が、その思いのような音になっているかどうかですね。ただ音がよければいいってものでもないんですよ。例えば1人で弾いたギターがものすごくいい音で録れたとしても「この曲には違う」と思うこともあるし、その曲に応じて考えていくことが大事かな。大事というか、そういうのが好きだし楽しいんで。他人が聴いたら「どっちでもいいんじゃないの?」と思うかもしれないところだけど、自分としては一番気にしているところですね。
田辺由明(G)からの質問
前作のAIボーカルでの制作を経て、「クロスロード」を制作するうえで民生さんの歌唱への影響はございましたか?
えっとね、AIはAIで別でやってたんですよ。同時進行で。だから制作中は阿部以外はAIのボーカルを聴いてないんで、こっちに影響するようなことはなかったですね。ただ「若いっぽい曲を作ったから、ちょっと若いっぽく歌うか」みたいなことはあったと思いますけど、それは別にAIからの影響ってわけではないんで。今後AIがもうちょっと進化したら、本当にいざというときには休めるようになるかもしれないから、そこはちょっと期待してますけどね(笑)。
長谷川大喜(Key)からの質問
男女問わず幅広くプロデュースされていますが、楽曲提供するにあたり作曲、作詞を今までの引き出しから作るのかその方をイメージしてイチから作るのか、どのように作られているか気になります。
一応それはね、その人の顔を思い出して、その人のやっていることを思い出して作りますが……自分の作るものなのでそんなに自分から離れてはいかない、っていうところですかね。その混ざった感じを求められているんだろうと思うし。作ってる途中でものすごく自分の感じになっちゃっても「まあ俺が歌うわけじゃないし、いいか」とか、それくらいの感じです。ただPUFFYの場合は曲数も多かったんで、なんなら俺がやるはずだった曲を持っていかれちゃったこともあるんですけど(笑)、そういうのも聴いてみたら意外と合ってたりするんですよ。だから別に、人が歌うことを想定せずに作っても曲によってはいい場合もあるんだなとわかりました。
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ABEDON インタビュー