なぜユニコーンは楽しいのか?100周年迎えた5人の働き方改楽論

EBI編

自己主張しないことが自分の役割

EBI

──全50公演となるユニコーン100周年ツアー「百が如く」は7月の武道館2DAYSで前半が終了し、10月から後半がスタートします(取材は9月に実施)。今回は開演から100分経過した時点で強制終了という驚きのルールが設定されていますが、手応えはいかがですか?

今まで2時間半とかやっていたのを急に“100分縛り”にしたので、自分でもどうなるかとドキドキしてたんですけど。お客さんは楽しんでくれてるみたいで、ホッとしてますね。実際やってみるとショーとしてもよくできていて。お尻があるから中身は凝縮されるし、無駄も少ない。なので、時間が短いけど今までのライブと同じくらい疲れます。

──その武道館2日目の7月4日にリリース告知されたのが本作「UC100W」です。その時点ではまだ「内容はノープラン」とのことだったので、発表から発売まで制作期間は正味たった3カ月という。

そうですね。ただ、レコーディング自体はあっという間でした。トータルで3週間くらいかな? いつも通り、各自が持ってきたデモを集まって聴いて、スタジオに入って順番に録っていく。みんなでアイデアを出しながら「せーのっ!」で録音するので、1日1曲くらいのペースで完成しちゃうんです。順調すぎるくらい順調で、余裕があったくらい。

──EBIさん的に、3月リリースの前作「UC100V」と違いを出そうというのは?

それはまったくないですね。バンドを始めてずいぶん経ちますけど、僕はいまだに「こういう楽曲を書こう」とか考えられないんです。それこそノープランでずっと来ている。ユニコーンの中でも、ほとんど自己主張しないことが自分の役割だと思ってますし。

──はははは(笑)。どういうことでしょう?

何ごともメンバーにお任せして、自分は流れに乗っかってる(笑)。考えてみれば昔からそうだったんじゃないかな。僕にはそれが居心地いいですし。1人くらい、バンドの中にそういう人間がいたほうが、物事がいろいろスムーズにいくんじゃないかなと。

──でもツアー前半では、アコースティックギターを弾きながら「大航海2020」を歌ったりもして。ベースプレイ以外でも存在感を発揮していましたよ。

そうですね。わりと昔よりは、楽しんでいろんなことができるようになった気がします。それは僕の中で、再始動後の大きな変化かもしれない。

最近やっと気付きました

──今回、EBIさんが作詞・作曲を担当した4曲目の「TYT」。昔のグループサウンズを思わせる哀しげなバラードです。タイトルはどういう意味なんですか?

これはね、従兄弟のイニシャルなんです。不幸にも僕より先に亡くなってしまったんですけど、彼のことを歌った曲で……。

──ああ、なるほど。それで曲調がどこかメランコリックなんでしょうか。

うーん、どうでしょう。実は曲を作った際には、従兄弟について歌うつもりはなかった。先に楽曲があって。それに対して、自然とこの歌詞が浮かんできたんです。「TYT」だけじゃなく、ほかの曲もそう。昔から、明確なイメージやビジョンに基づいて曲を作ることはまずなくて……普段から旋律を思い付くと、ICレコーダーに鼻歌で録音しておくんです。で、そろそろ曲が必要というタイミングになると、素材を引っ張り出してきて膨らませるパターンが多い。だから、いつも見えないものに向かって曲を書いている(笑)。

──なるほど。じゃあ哀しげな旋律が先にあって。それがEBIさんの中で、大切な記憶を喚起したのかもしれませんね。

そうかもしれない。いつも手探りというか、作ってるうちに少しずつ光が見えてくる感覚なので。最初から「これはナニナニ風で作ってみよう」とか、そういうのはないです。

──「あなたに会えて幸せでした」というサビのフレーズも印象的でした。これはほかのメンバーもおっしゃってますが、EBIさんのハイトーンボイスが、バンドの持ち味になっている部分もありますよね。

キーはそんなに高くないんだけど、声質的にそう聞こえるみたいなんですね。最近やっと気付きました(笑)。自分の声は苦手というか、これまでちゃんと向き合ってこなかったけれど。それも含めての僕なので。特徴というか個性がバンドとしていい方向に作用しているなら、それはよかったと思います。

──ちなみに前作収録の「大航海2020」ではABEDONさんがベースを弾き、今回の「TYT」では民生さんがベースを担当しています。EBIさんから見て2人の演奏はいかがですか?

2人とも独特のフィーリングがありますよね。僕が刻むベースラインとはまったく違う。変な言い方だけど、奥田さんは何をやっても「いいなあ」と思える。ベースだけじゃなくパーカッション、ドラムス、タンバリンなんかもそう。持って生まれたセンスがいいんでしょうね。スポーツもそうなんですよ。例えば草野球をやっても、別にものすごくうまいわけでもないと思うんだけど、なんとなく形ができていて。きれいなんです。

──へええ。ABEDONさんはいかがですか?

ABEDONって、ギターやベースを弾いたり、ドラムを叩いたりしてるときのほうが、なぜか生き生きしている(笑)。その生き生き感があふれている演奏だと思います。そういえば前作「UC100V」でも、川西さん作詞作曲の「気まぐれトラスティーNo.1」で、豪快なドラムを必死で叩いてました。

──ああ、確かに。そうでしたね。

あの2人は、芯から楽器好きなんだと思うな。レコーディングでも率先してやりますし。

みんなのこと信頼してますし

──もう1曲、EBIさんが作詞・作曲された9曲目の「Lake Placid Blue」。これは文句なしにご機嫌なロックンロールナンバーで。

ははは(笑)。ご機嫌でしたか?

──ええ、すごくご機嫌でした。これは愛用の楽器について歌っているんですか?

EBI

はい。「Lake Placid Blue」というのは、フェンダー・プレシジョンベース(1951年にフェンダー社から発売されたエレクトリックベース。通称プレベ)の特注カラーの名前なんです。僕が使っているのはそれを真似たリフィニッシュ(再塗装)のベースで、本物ではないんですけど。1989年から今に至るまでずっと使ってますね。

──じゃあ「Lake Placid Blue」のレコーディングでもお使いに?

いやあ、それはちょっとワケあって弾かなかったんです。ちょっと専門的な話ですけど、当日そっちのベースには、普通のラウンドワウンド(巻き線が丸いタイプ)の弦が張ってあったんですね。で、サブのベースにはフラットワウンド(巻き線が平たいタイプ)弦が張ってあって。同じプレベなんですけど、弾き比べたらフラットのほうがよかったという。そこは民生にも突っ込まれました(笑)。

──なるほど(笑)。いずれにせよ、EBIさんにとって大切な楽器なんですね。

はい。30年ずっと弾いてるから思い入れも強いですし。最高のベースだと思ってます。いろいろ弾いてきましたが、俺には本当にこれしかないという感じで。

──アッパーな曲調から、深い愛情が滲み出てました。そうやって自分のデモ音源をバンドで形にするとき、メンバーには何か希望を伝えるんですか?

いえ、冒頭でも言ったように、自己主張が希薄なお任せ人間なので(笑)。好きにやってもらうのが一番いい。今回の「TYT」「Lake Placid Blue」もそうです。自分の作ったデモ音源は聴いてもらってるので、それを聴いてどう解釈するかはメンバー次第。僕からはあまり求めません。みんなのこと信頼してますし。

30年以上経っても完成しない

──ユニコーンが現在のメンバー編成になって、もう30年。EBIさん自身の変化についてはどう捉えていますか?

そうですねえ……性格的には、多少なりとも前に出られるようになったのと。あとプレイスタイルはけっこう変わったと思いますね。やっぱり年齢を重ねて、肉体的な問題がありますから。具体的にはベースがどんどん弾きやすいポジションに移行している(笑)。ほら、プロ野球選手もベテランになると、ピッチングやバッティングのフォームを微妙に調整する人がいるでしょう。

──ええ、そうみたいですね。

EBI

観客には気付かれないレベルかもしれないけれど、自分だけにわかる変化がある。最近、ミュージシャンも同じだなって気がするんです。昔はベースを下のほうで構えて、多少弾きづらくてもカッコよさを重視していた。でも今は弾きやすさだったり、思い通りの音色であったり……とにかく演奏優先のフォームに変わってきた。自分の中で重要視する部分が変わってきたというか。プレイ自体を追求すると、自ずとそうなるのかなと。

──今回の「UC100W」。どんな仕上がりになったと感じます?

「UC100V」もそうですが、バンドとしての総合力や一体感と、メンバー5人それぞれの個性がどちらも際立ってるんじゃないですかね。今回も全員で曲を書いているので、1人ひとりの顔がしっかり見えるし。でも全体として見るとちゃんと、ユニコーンでしかありえないサウンドが鳴っている。ほかの4人もたぶん同じことを言うと思いますけど(笑)。そこはほかのバンドにはない部分なんじゃないかなと。

──ベタな質問ですが、EBIさんにとってユニコーンはどういう存在ですか? 古巣? それともホームグラウンド?

難しいですね。それこそ30年以上いろんなバンドに参加してきましたけど、ユニコーンのエッセンスってたぶん、可能性だと思うんですね。30年以上経っても、まだ変化するんじゃないかなと思わせてくれる。どんどん形を変えて、完成されない。僕にとっては、そこが魅力ですかね。

ユニコーンはドキドキとワクワクをずっと感じていられる場

──最後にもう1つ質問が。「ユニコーン100周年」では、「働き方改楽 - なぜ俺たちは楽しいんだろう -」というスローガンが掲げられています。EBIさんはなぜ、ユニコーンはこんなに楽しいんだと思いますか?

うーん、今さっきの答えともつながりますが、ドキドキとワクワクをずっと感じていられる場だからかな。これはもう理屈じゃないんですよね。5人そろったときに居心地もいいし、飽きないし、いつもワクワクしている。この年齢になっても、いい意味で先行きが見えない面白さがあるんですよね。だから楽しいんだと思う。

──100周年を迎えてそう思えるのは、稀有なことですよね。

本当にそう思います。活動の方針についても、ちゃんと事務所がメンバーに「今年はどうします?」と確認してくれるので。先々のスケジュールだけどんどん埋まり、ただ惰性でライブやレコーディングが続いちゃうことがない。完全にバンド主導というか、すべてをこの5人で決めていけるのは、すごい恵まれてるなって思いますね。

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川西幸一編