なぜユニコーンは楽しいのか?100周年迎えた5人の働き方改楽論

ABEDON編

いいことずくめの100分ライブ

ABEDON

──現在開催されている100周年ツアー「百が如く」は「100周年だから100分で終わる」という縛りが非常にユニークですね。なぜこういう縛りを設けたんですか?

一般論として昨今のライブって長いでしょう? サービス過多と言ったら失礼だけど、曲もたっぷりやって、MCでお客さんを笑わせて、趣向もいろいろ工夫して。3時間を超えるステージも珍しくない。「それってどうなの?」という気持ちがあったのと。僕らも一応ロックバンドなので、わりに体力を消耗するんです(笑)。年齢も重ねてきて、だんだん効率のいいライブを模索していかなきゃいけない、という意識もあって。

──なるほど。

この歳になると、どうしても持久力は落ちますが、その代わりに集中力はある。だったら思い切って曲数を減らして、短い時間でビシッと決めれば、2つのテーマを同時にクリアできる。そう考えたら、100周年なので「100分ツアー」でいいんじゃないかと。誰のアイデアだったかはもう忘れちゃいましたけど。

──開演から100分経つと、アルバム「服部」のオープニング曲「ハッタリ」が流れて、その時点でライブは強制終了。演奏しているほうもなかなか大変では?

そうですね。長くやろうと思えばいくらでもできる。でも、きっかり100分で切り上げというのは初めてですから。演奏にだけ集中してればいいってわけじゃない。時間との戦いも大きい。

──今回のツアー前半で、実際に強制終了になったことはありました?

あったんですよ、これが(笑)。アンコールの途中で100分がすぎてしまって。そういう場合、曲は最後までやりきると前もって決めてあるんですけどね。演奏が終わるやいなや「ハッタリ」が流れて、何の余韻もなく終了という日が2回ほどありました。でも、そのスタイルでやってみると意外といいことも多くてね。

──どういう部分でしょう?

ライブ中、休みなしで次々行かなきゃいけないのは、しんどいと言えばしんどい。正直、MCをダラダラ続けたり、僕のコーナーも含めていろんな出し物とか“おふざけ”の要素があったほうが、僕たち的には楽なんです。それを思い切って削ったことでかえって切迫感が出たというのかな……ギュッと凝縮して濃い演奏をすることで、お客さんからはかえって若返って見えている気がする。その意味では、いいことずくめ。

「シャンブル」に近い手触りの「UC100V」「UC100W」

──その充実感は、もしかしたら本作「UC100W」につながっているかもしれませんね。収録時間は決して長くないけれど、ギュッと詰まって若々しい。偶然かもしれませんが、どこかシンクロしている気がします。

人間、集中しているときが一番力を発揮できますからね。例えばレコーディングにしても「ここからここまでの期間で作るから」と伝えると、メンバーがそこに集中力のピークが来るように調整してくる。特に今回の「UC100W」は、100周年ツアーの前半と後半の間に一気に制作したので。結果、タイトに仕上がった部分はあるんじゃないかな。

──2年前にリリースされたCDボックスセット「UC30 若返る勤労」では、ABEDONさんがユニコーンの過去作すべてのリマスターを担当しました。今回の新譜も?

3月に出した「UC100V」と今度の「UC100W」。どちらも僕がやっています。

──そのマスタリング作業も踏まえて、今回の2枚は、ユニコーンのディスコグラフィにおいてどんな位置付けの作品になったと感じていますか?

そうだなあ……。これまでユニコーンが出した全アルバムと改めて向き合ってみて、僕が一番気に入っているのは2009年にリリースした「シャンブル」なんですね。

──再始動のタイミングでリリースされた、記念すべきアルバムですね。

そう。これは非常に出来がいい。なんだろう、メンバー全員のやる気とか熱みたいなものがグッと集まって、個々の曲に滲み出ている。溜まったものが一気に放出された感じです。その後またユニコーンとしての活動を再開して。当然、バンドのテンションもどんどん変わっていくわけです。僕らは同じことはやらないので、いろんな実験をしてみたりね。でも今回のアルバムは、ひさびさに「シャンブル」に近い手触りがありました。

──へええ。それは「UC100V」と「UC100W」の両方共?

ABEDON

うん、2枚共ですね。「UC100V」と「UC100W」は、僕の中では一対になっているアルバムなので。時間差の2枚組っぽい感覚なんですね。レコーディング中、特に「シャンブル」に寄せようとかは考えてません。でも、メンバー全員の熱量が凝縮されるようなスケジュールをあえて組んでいった部分はあるので。それが作品としての勢いにつながったんじゃないのかなと。あと、短期間でギュッと作ったので、どちらも「まだもうちょっとやれるな」という余力を残して止められたのもよかったと思う。もちろんマスタリングの作業は、時間をかけてきっちりやっています。それはまた別の話。僕はレコーディングの現場を一番よく見ている人間で。かつ、バンドをどう進めていくかを決めるリーダー役でもあるので。そこは神経質なくらい丁寧にならざるをえない。

──その意味でABEDONさんは、俯瞰的な視点を持ったプロデューサー的な側面も大きいんでしょうか? 再始動以降の、バンド内での役割分担として。

まあ、それはあると思います。そもそも再始動の話を持ち出したのは僕ですし。その前はプロデューサーとしてのお仕事もかなりしていたので。あと、そういう役回り、自分でもわりと嫌いじゃないんですよ。僕が引き受けると、ほかの4人は喜ぶし(笑)。誰かがこの役割を始めたら、僕は別の仕事を見つければいいので。ただ現実問題、レコーディングやマスタリングのノウハウからレコード会社との折衝まで、実際に自分が持っているものを生かせる部分も多い。なので、できる限りのことはやろうかなと。

──レコーディングの現場で、何か意識していることはありますか?

しいて言えば、メンバーの動向をよく見てることですかね。で、会話とか日常のやりとりの中でポロッと出てきたワードを拾って。それを形にすることを考える。場合によっては「あのとき、こう言ってなかったっけ?」と自分から話を振ってみたり。

「川西さん、俺を辱めるつもり?」

──1曲目「M&W」はABEDONさんが作詞・作曲したナンバーですね。打ち込みのビートが途中から生ドラムに変わって、パーッと風景が開けていく感じが印象的でした。あの音はアナログのシンセサイザーを使っているんですか?

そうです。今、モジュラーシンセにハマってまして。

──いわゆる「箪笥」と呼ばれるような?

そうそう。モジュールと呼ばれる構成要素をラインでつないで音を出す、古いシステムなんですけどね。やってみないとどんな音が出てくるかわからない。そこが面白いんですね。なるべく想定外の動作をするモジュールを組み合わせて、気に入った感触の音やビートが出てくると、その都度レコーディングしていく。すると、言うことを聞かないメンバーが1人増えたような感覚になるんです(笑)。鍵盤を置いちゃうと、頭でイメージした音がすぐ出せてしまうので。あえて鍵盤を使わずに、それに近いことをやってます。

──「M&W」はどういう意味なんですか? 歌詞を読むと“Man and Woman”の略にも思えたのですが。

ああ、そういう見方もアリですよね(笑)。聴いてくれた人が、自由に受け取ってくれて構わない。一応、作り手としての意図を説明しますと、この曲のサウンドって、前半部と後半部でガラッと変わるじゃないですか。ほとんど真逆というくらい。

──はい、確かにそうですね。

だから歌詞を書くときも、1番と2番で正反対のことを言おうと思ったんです。まず1番の1ライン目を書いたら、まったく逆の視点から2番の1ライン目を書く。次はまた、1番の2ライン目を書いて。続けて2番の2ライン目を書く。で、光と影のバランスじゃないですけど、どちらも間違ってない。両方とも正しいという感じにしたかった。

──ああ、なるほど。面白い進め方ですね。

タイトルは記号みたいなもので、深い意味はないんですけど。アルファベットで「M」を180度回転させると「W」になるでしょう。どっちも文字として成立してるというので、この2文字を曲名にしてみました。

──民生さんが作詞・作曲の2曲目「チラーRhythm」。往年のVillage Peopleを思わせるディスコロック調のこの曲も、アナログシンセの音が効いています。

モーグシンセサイザーですね。「チラーRhythm」は彼の中に、最初からはっきりしたイメージがあって。まさにVillage Peopleの「Y.M.C.A.」的なサウンドと言ってたんです。そうなるとこっちも、なるべく近い音を出したくなるじゃないですか(笑)。で、実際に70年代後半に使われていたシンセサイザーを探しました。その機材があれば面白いレコーディングになるなと思ったら、急にやりたくなったんです。思い描いていたサウンドが出てきたときは、すごくうれしかったですね。

──「4EAE」はABEDONさんが作曲、ドラムの川西さんが作詞というパターンです。すごくロマンチックな内容ですが、歌ってみていかがでした?

最初はめっちゃ恥ずかしかったです。内心「川西さん、俺を辱めるつもり?」と思ったりしたんですけど(笑)。慣れるにつれ、素直にいい歌詞だと思えてきました。面白かったのは、曲の中にちゃんと川西節みたいなものが入ってるんですね。歌入れ作業のときに、川西さんがブースに来ては「そこの譜割りは違う、こう歌ってくれ」と細かく指示をしてくれた。そういう川西さん独自のセンスと、僕がもともと持っているメロディアスな感覚が混じり合って、なかなか興味深い仕上がりになったんじゃないかなと。

ABEDON

──逆に、川西さんがライブで歌うときは、ABEDONさんがドラムを叩いたり。

うん。自分で言うのもなんですけど、それをできるのはウチのポイントですね。曲によっていろんなアンサンブルが組める。その代わり、ライブの機材は増えがちですけど(笑)。僕と民生くんだけで、普通の1バンド分くらい持ち込んでるんじゃないかな。

──もう1つ、ABEDONさんが作詞・作曲の「D-D-D-, Z-Z-Z-」。この曲はどこか捉えどころがない魅力があって。ゆったりたゆたうようなビート感と、奥行きのある音色が印象的で、個人的にはアルバムのハイライトでした。

お、ありがとうございます。この曲もやっぱり、モジュラーシンセをいじっているうちに面白いリフが生まれたので、それをベースに作りました。モジュールっていわゆる小節の概念がないんですね。なのでいっそ、その特長を生かした構成にしようと。具体的には、曲が進んでいくうちに拍子がどうなっているのかわからなくなって、でもその混沌に身を委ねられるような曲。それで途中に変拍子をどんどん入れていったんです。

──「D-D-D-, Z-Z-Z-」というタイトルの意味合いは?

これはね、デモを渡しても、メンバーが弾いてる途中でコードを見失っちゃうんですよ。まあ、そういう意図で作った曲なんだけど、自分がどこにいるか分からなくなる。

──拍の概念がないから。

そう。なのでデモに仮歌を入れるとき、僕がコードを口ずさんでたんです。Dのコードに変わった箇所では「D-D-D-」って。それがそのままタイトルになった(笑)。

楽しくやらないとユニコーンはやってられない

──最後にもう1つ、共通の質問を。「ユニコーン100周年」では、「働き方改楽 - なぜ俺たちは楽しいんだろう -」というスローガンが掲げられていますが、ABEDONさんはなぜ、ユニコーンはこんなに楽しいんだと思いますか?

うーんと、それはね、ユニコーンが楽しいのではなくて。楽しくやらないとユニコーンはやってられない、というのが正解かもしれない。楽なバンドじゃないんですよ。それぞれ個性も強烈だし。これまでやってきたこともあって、常に一定以上のものを期待される。厳しい状況に置かれたバンドでもあるんです。だからメンバー間の切磋琢磨も必要だし、気を抜くとすぐやられてしまう。でも、それをカリカリやってたら面白くないでしょう。それだと、カリカリした音楽しか生まれてこない。

──そうですね、きっと。

だから、無理やりでも楽しくしないと続かない。こういうメディアの取材とか収録だってそうですよね(笑)。ブーブー文句言いながらやるよりも何かしら面白いことを探して、笑いながらやったほうが絶対いい。実際、本気でやればなんでも楽しいですし。

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