器用じゃないことが“らしさ”につながってる
──新作「UC100W」、聴かせていただきました。前作の「UC100V」でも感じたことですが、メンバーのキャラも音楽性もバラバラなのに、アルバム1枚を通して聴くと「これぞユニコーン」としか言いようのないサウンドになっています。改めてこれは稀有なことだなと。
はははは(笑)。そうっすか。
──100周年イヤーで、2枚目のオリジナルアルバムを出そうというのは、そもそも誰のアイデアだったんですか?
誰ですかねえ。俺ではないですね。ABEDONか? うん、たぶんABEDONだな。
──それを聞いて、民生さんはどう思われました?
まあ、できなくはないし、それほど大変なことでもないのかなと。メンバーそれぞれ曲を作ってきますし。最近はみんな前より率先して歌いたがるしね。僕なんて、考えてみれば「UC100V」と「UC100W」の2枚合わせて、詞と曲を両方書いたのは5曲くらいしかないわけで。
──確かに。
ソロと比べたら半分以下ですからね。そんな負担でもない。「ユニコーン100周年」と銘打ってる以上、それくらいは働いてもいいのかなと(笑)。
──「UC100V」発表時のインタビューでは「デモを持ってきた人の主導で、それぞれ曲ができていく。自分は基本、そこに乗っかっていくだけ」と話されてましたね。今回もその姿勢は変わらず?
そうっすね。持ち寄ったデモ音源を聴いて、アイデアがあれば出すし。なければ言われた通りにやる、みたいな(笑)。まあ長年の蓄積もあって、お互いの音も熟知してますし。とりあえず5人で集まればなんらか形になるという安心感もある。まったくゼロから組み立てるみたいなことも、そんなにはないですし。その意味でも年々、楽にはなっている。
──各自が楽曲を作る前に、アルバムの全体像について話し合ったりは?
それもないです。作ってる最中も「ユニコーン“らしさ”とはなんぞや」みたいなことは当然考えないし。「こういう試みをしたら新しい」みたいな欲目もないっちゃない。ただ、この歳になるとそれぞれ芸風というか、スタイルが確立されているじゃないですか。
──そうですね。
だからこの5人でやると、違うタッチのアレンジを試そうとしても今ひとつやりきれない、行ききらない部分が出てくる。5人共そこまでは器用じゃない。そこが逆にバンドの個性というか、“らしさ”につながっている気はしますね。
「UC100V」で足りなかった要素を足した
──今回、デモ音源を持ち寄るにあたって何か縛りは設けました?
前回「UC100V」は100周年イヤーということで、収録曲のタイトルがすべて数字絡みだったんです。なので今回は、曲目はアルファベット関連になっている。でも実際には、それも縛りというほどの縛りじゃなくてね。自分としてはむしろ、「UC100V」で足りなかった要素を足してみようという意識がありました。
──具体的にはどういう部分でしょう?
たまたまですけど、僕は「UC100V」ではわりと静かな曲を持っていったので。今回はもうちょっと元気めな曲を書こうかなと。まあ、その程度の話です(笑)。
──明るいディスコロックを思わせる2曲目「チラーRhythm」はまさにそうですね。「天才バカボン」のフレーズじゃないですが、「これでいいのだ!」的な全肯定感が詞とサウンドの両方からビシビシ伝わってくる。
はははは(笑)。まあ、集団の強みというか、メンバーの数にものを言わせたというか。少なくともソロだとこういう曲は作れないので。こういうバンドっぽい勢いが出た楽曲が1つあってもいいのかなと。脳天気って言ったらアレですけど、ライブでみんなが歌って踊れるようなね。で、弾き語りのデモを作って。
──そういうとき、民生さんからは何かリクエストをするんですか? メンバーの方々に「この曲はこういう感じでやってほしい」とか。
まあ、そうですね。ただ「チラーRhythm」に関しては、聴いてもらえればわかると思うんですけど、そんな込み入った曲ではないので。簡単っちゃ簡単でした。ちなみに途中で入る「ちら ちらちら」という掛け声は、僕のアイデアじゃない。
──あ、違うんですか。曲のテーマに関わる重要な掛け声ですけど。
途中、間奏部分で掛け合いっぽいことをやろうというのは決めてたんですよ。そこは録音しながら考えようと思って、デモの段階では空けてあった。そしたらスタジオで、ABEDONが「ちら」って言いだしてね。みんなして「ちら ちらちら」とか言ってるうちに、それしかない感じになっちゃった。で、その「ちらちら」を正当化するために、ほかの部分の歌詞を無理やり付けてます。なるべく下ネタっぽくならないように注意しつつ(笑)。
──でも、シンプルだけど今のユニコーンのあり方を象徴するような詞でもありますね。「俺が俺が俺たちはこうだと ハデに押し出す場合ではないのさ」とか、「ほんの一瞬のすき間すき間に ふとかいま見せる魅力でいいのさ」とか。
うん、まあ、そうかな。今回の100周年では一応、「働き方改楽」みたいなことも掲げてますから。僕たちのモットーというか、それに準じる曲を作ってみようとは思いました。「年寄りだからそんな派手なことはしません! チラッとでいいんです」という。
その日のメシを決めることが俺の役割
──楽曲によって担当パートがかなり流動的なのも、ユニコーンならではですね。今回のアルバムでいうと、EBIさんが作詞・作曲した「TYT」では民生さんがベースを弾いて、川西さんが作詞した「BLUES」ではドラムを叩いています。
それについてはライブでの見え方が大きいんですよ。例えば「TYT」なら、ボーカルのEBIがステージの中央でギター弾きながら歌ったら映えるだろうし。「BLUES」なら、川西さんがドラムじゃなく、前に出てハンドマイクで歌ったらきっと盛り上がる。楽器のパートをシャッフルするのは大体そういう理由かな。僕とABEDONがわりと多いけど、基本はアイデアを思い付いた人間が実行する感じですね。
──そういうバンドのあり方も珍しい気がします。
そうっすね。各自がいろんな活動をしてきた中で、5人のキャラが育ってきて。それぞれに勢いがあるというか。説得力があるから成立するんでしょうね。誰か1人が引っ張っていくんじゃなく、きっちり5等分の役割分担が自然にできている。楽器のパートとはまた別にね。そこはなかなか、やろうと思ってもできないことかもしれない。
──ちなみにユニコーンにおける、民生さんの役割ってどういう部分なんですか?
うーん……その日のメシを決めることですかね。
──はははは(笑)。
スタジオへの出前を選ぶ担当。そこは一応、僕が権限者なんですよ。まあ「今日はこれが食べたい」とか言いだすメンバーもいて。そっちに流されることも多いですけど(笑)。あと実作業でいうと、なるべくスムーズに録音を進めるためのアイデアとか手順は常に考えてます。「この曲をやるなら、楽器と機材の組み合わせはこうしよう」とか。そこはわりと得意分野だと思う。でもユニコーンのレコーディングは、さっきも話したように基本的には曲を作ってきた人間がイニシアティブを取るパターンが多いので。
──なるほど。そうなんですね。
この5人でやるときは、リーダーシップも日替わりっていうか……その日、調子がいい人間がワーッと意見を言うと、それが通ることが多い。「俺はこっちだと思うけど、今日はアイツの声がデカイから、別にそれでいいや」みたいなね(笑)。そういう選択は僕もしますし。実は大事なことだと思ってるんです。極端な話、僕がスタジオのロビーで煙草を吸ってる間に曲がほとんど完成しちゃってることもあるけど、実際そっちのほうが結果もよかったりするので。
──民生さんとしては、そこは特に気にならない?
うん。昔なら「ちょっと待って。俺の意見がまったく入ってないのってどうなの?」とか思ってたかもしれないけど、今は全然いいんですよ。自分もバンドの一員でありながら、どこか人ごとみたいに楽しんでる部分もあったりして。確かにそういうのはユニコーンの現場ならではというか……。
──ソロ活動やいろんなプロジェクトとは違う、特別な関係性だと。
そうですね。よく「バンドは一生のうち1つしか作れない」みたいな言い方をするじゃないですか。逆に言うと、この5人ではどんなにあがいてもできないこともあるわけです。それこそがバンドのよさだって気付くのは、若い頃は無理で。どうしても「もっとできるはず」って思いがちでしょう。
──はい。
でも僕らは、一度解散して。それぞれがいろんな経験を積んだうえで、また集まったから。自分たちにできること、できないことが見極められるようになった。これまでの経験から「これ以上やってもダメ」っていう切り上げどきのジャッジも早いですし。かなり短期間でアルバムも作れるんでしょうね。ま、再結成したのも偶然っちゃ偶然で(笑)。計算してそうなったわけじゃないんですけど。それも含めて、よかったのかなと。
──「ユニコーン100周年」を超えて、バンドはずっと続いていくんでしょうか?
100周年といっても、完全にこじつけですけど(笑)。でも、そうやって自分たちを奮い立たせてくれる理由を探しつつ、今後もやっていくとは思いますね。これまでもメンバーの誰かが50歳を迎えるたびに「50祭」というライブをやってきましたが、そういうネタならいくらでも作れるでしょうから。
ユニコーンにしがみつくことが正しいとは誰も思ってない
──「ユニコーン100周年」では、「働き方改楽 - なぜ俺たちは楽しいんだろう -」というスローガンが掲げられていますが、民生さんはなぜ、ユニコーンはこんなに楽しいんだと思いますか?
うーん……不思議なもので、この5人が集まると、1人だけ静かにしていられない空気があるんです。無理やりにでも楽しげに振る舞ってるうちに、気付けば本当に楽しくなっているという(笑)。例え気分が落ちていたとしても、調子のいいメンバーが1人いると、自然とそっちにチューニングが合っていく。ライブもソロでやるより5人のほうがテンション高めで楽しめる。それがバンドってもののよさなんでしょうけど、ユニコーンは特別その傾向が強いんじゃないかなと。そういう集団って、少なくとも僕にとってはユニコーンだけなので。それでいて、存在として重くないですしね。再始動後は、集まるときは集まってバンド活動を楽しむ。そうじゃないときは各自が好きなことをする。そのサイクルがいい感じで機能している。頑なにユニコーンにしがみつくことが正しいとは、5人の誰も思っていない。だからやってて楽しいんじゃないですかね。
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ABEDON編