西寺郷太によるULTRASONEヘッドフォン「Signature PURE」&qdcイヤフォン「SUPERIOR」レビュー

近年、国内外さまざまなオーディオブランドから新作ヘッドフォンやイヤフォンが発表される中、今年に入ってからドイツの高級ヘッドフォンブランドULTRASONEから新作ヘッドフォン「Signature PURE(シグネチャーピュア)」、中国発の高級オーディオメーカーqdcから新作イヤフォン「SUPERIOR(スーペリア)」が発売された。

「Signature PURE」は「Signature DJ's Spirit, PURE Sound for All」をスローガンに掲げ、ULTRASONEの象徴的なヘッドホンとなった「Signature DJ」シリーズの特徴を踏襲したエントリーモデル。その名の通り“ピュアなサウンド”が味わえる製品だ。一方の「SUPERIOR」は「Make your music, Superior」がスローガンとして掲げられ、普段のリスニング体験を1段階アップグレードしてくれるのが魅力だ。こちらはqdc製品のエントリーモデルと位置付けられている。

音楽ナタリーでは、「Signature PURE」と「SUPERIOR」の特徴を探るべくNONA REEVESのフロントマン兼コンポーザーであり、文筆家として活躍する西寺郷太にレビューを依頼。自身のリスニング環境の遍歴を交えながら、率直な体験記をつづってもらった。

文 / 西寺郷太(NONA REEVES)

西寺郷太の
ULTRASONE「Signature PURE」 / qdc「SUPERIOR」
体験レビュー

1973年生まれの僕が小学生になった年(1980年)、前年夏に発売されたばかりのメタリックブルーのソニー「ウォークマン」が大流行していました。最初のイメージは耳元にオレンジのスボンジが付いた、頭から被るオーバーヘッドタイプのヘッドフォン。それから数年経った1983年頃、猛烈に憧れたのは、同じマンションに住んでいた2つ年上の“兄貴分”が持っていた、防水機能の付いた鮮やかな黄色のスポーツウォークマン。その頃にはオーバーヘッドタイプのヘッドフォンではなく、耳の穴の中に埋め込むような形の小さなイヤフォンが主流になっていました。

それ以降、今に至るまで自分で手に入れたり、仕事でメーカーや仲間からいただいたりとさまざまなヘッドフォン、イヤフォンを用途ごとに機嫌よく使ってきました。自宅スタジオでレコーディングする際に使っているのはソニーの定番、「MDR-CD900ST」と「MDR-7506」。クインシー・ジョーンズが監修したプレミアムモデルAKGの「N90Q」(税抜き17万8000円)もレコーディングの際のモニタとして使っています。ただ、あまりにもずっしりとした高価なヘッドフォンだとカジュアルに聴くことができず、どことなく気兼ねしてしまう部分もあります(笑)。

ワイヤレスイヤフォンが主流になってきたここ7、8年、それまでそんなに気付いていなかった自分の耳のとある特徴に気が付いてしまいました。それは「耳の穴がめちゃくちゃ小さい」こと。定価4万円ほどのBose「QuietComfort Earbuds II」を手に入れたのですが、音質向上のためもあるのか少し“重く”て。あるとき、大通りを歩いていたら右耳だけポロッと落としてしまい、本能で拾おうとして大慌て。あくまでも耳の穴が小さすぎる僕自身との相性の問題なんですが……。「耳の穴が小さすぎて、重いワイヤレスだと厳しい」とミュージシャン仲間のピエール中野くんに伝えたところ、彼のプロデュースするイヤフォン、AVIOT「TE-BD21j-ltdpnk」を去年の誕生日プレゼントとして届けてくれて。心地よい重低音ながら軽いので、今、メインで使わせてもらっています。

さて、今回はドイツの高級ヘッドフォンブランド「ULTRASONE」から発売されたエントリーモデル「Signature PURE」(オーバーヘッドタイプ)と、qdcのエントリーモデル「SUPERIOR」(有線イヤフォン)をチェックする機会をいただきました。まず「Signature PURE」は、1991年設立のメーカーによるハンドメイド製。当初エントリーモデルと聞いてある程度チープな感じを予想していたんですが、あくまでも高価格帯で勝負する同ブランドの最高峰モデル「Edition 15」(約40万円)と比較して、ということで、手にしてみるとしっかり重厚感があります。

ULTRASONE「Signature PURE」

ULTRASONE「Signature PURE」

qdc「SUPERIOR」

qdc「SUPERIOR」

僕がヘッドフォンやイヤフォンのチェックをする際、いつも指針とするのがマイケル・ジャクソンの「Rock with You」。僕は12歳くらいから、40歳を過ぎるまで「Rock with You」を1日3回聴くという謎のことを習慣にしていました。「Rock with You」のベース、ハイハット、ストリングス、キックなどを聴き分けつつ自分のその日の体調もわかる、という自分でもよくわからないルーティンで(笑)。

1週間トライした感想、「Signature PURE」はまさにその名の通り変な味付けをしないいい意味でドライな響きが魅力かと。「S-Logic 3」という最先端技術が搭載されていると聞いて「何?」と思ったのですが、つまりサラウンド的な自然な立体感、臨場感をヘッドフォンの中で生み出す、ということで確かにジョン・ロビンソンのキックはちょうど聴いていて自分の顎あたりの位置で心地よく響き、マイケルのバックコーラスとストリングスは左右のパンの広がりの中で包み込むように鳴ってくれます。だいたい3万円くらいの値段、ということでこれからしばらくメインでリスニング、チェック用に使ってみたいです。

ULTRASONE「Signature PURE」

ULTRASONE「Signature PURE」

「SUPERIOR」は僕の小さな耳の穴にもすっぽり入りました。僕が手にしたのはエンジ色のような深いレッドで、イヤフォン本体はかなり高級感があります。こちらは大好きなジョージ・マイケルの「Father Figure」でチェックしたのですが、1987年にリリースされた傑作アルバム「FAITH」、当時最新だったクリアで透徹、それでいてふくよかなシンクラヴィアによる重低音ベースが心地よく聴けました。ほんの少し有線ケーブルが短い気もしましたが、そのあたりは交換して使ってもよいかもしれませんね。有線イヤフォンの寿命はだいたい1年から2年くらい。持ち運びしやすいケースが付いているので、いろんな場所にあくまでもカジュアルに、気軽に持ち出して楽しもうと思っています。

qdc「SUPERIOR」

qdc「SUPERIOR」

qdc「SUPERIOR」

qdc「SUPERIOR」

製品情報

ULTRASONE「Signature PURE」

ULTRASONE「Signature PURE」

「Signature DJ's Spirit, PURE Sound for All」をスローガンに掲げ、ULTRASONEの象徴的なヘッドフォンとなった「Signature DJ」のエッセンスを受け継ぎつつ、プロフェッショナルも認める「Signature」シリーズのピュアなサウンドをより多くのユーザーへ届けるという思いによって誕生したエントリーモデル。自然なサラウンドサウンドを再生する独自のテクノロジー「S-Logic 3」やLE技術など、ULTRASONEのヘッドホンだけが提供できる独自の技術で構成されている。

仕様

直販価格:税込33000円
形式:密閉ダイナミック型ヘッドフォン
ドライバーユニット:50mmマイラー
インピーダンス:32Ω
再生周波数帯域:8~35.000 Hz
出力音圧レベル:114dB
質量:約294g(ケーブル含まず)

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qdc「SUPERIOR」

qdc「SUPERIOR」

「数多くのカスタムIEM(インイヤーモニター)開発から得られた知見と技術による快適な装着性と正確な音楽再生」というqdcのアイデンティティを、より多くのユーザーに体感してもらいたいという思いから開発されたコンセプトモデル。「Make your music, Superior」が製品スローガンとして掲げられており、正確な音楽再生でリスニングからモニタリング、ライブステージ、ゲームに至る幅広い用途において、普段の音楽ライフを1ステップグレードアップしてくれる。

仕様

直販価格:税込14300円
形式:密閉型イヤフォン
ドライバーユニット:ダイナミック型(10mm径シングルフルレンジ)
インピーダンス:16Ω
周波数応答範囲:10~40,000 Hz
入力感度:100 dB SPL/mW
外音遮断:26dB

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プロフィール

西寺郷太(ニシデラゴウタ)

1973年生まれ、NONA REEVESのボーカリストとして活躍する一方、他アーティストのプロデュースや楽曲提供も多数行っている。2020年7月には2ndソロアルバム「Funkvision」、2021年9月にはバンドでアルバム「Discography」をリリースした。文筆家としても活躍し、著書は「新しい『マイケル・ジャクソン』の教科書」「プリンス論」「伝わるノートマジック」「90's ナインティーズ」など。近年では1980年代音楽の伝承者としてテレビやラジオ番組などに多数出演している。2023年3月、3rdソロアルバム「Sunset Rain」をリリース。