ulma sound junctionインタビュー|色褪せない旧譜のリテイク、最新のモード凝縮した新曲携えメジャーデビュー

ulma sound junctionが4月13日にメジャーデビュー作品「Reignition」をリリースした。

「バンドを再認識してもらい、自分たちの音楽を“再着火”させる」という意味がタイトルに込められた本作には、新曲「Modern Bleed」と過去に発表した楽曲のリテイク4曲が収録されている。音楽ナタリーではバンドの歩みを振り返った前回の特集(参照:沖縄発プログレ×ラウドロック・バンド・ulma sound junctionがメジャーデビュー、キャリア17年の歩みを振り返る)に続いて「Reignition」の特集を実施。今回はメンバー全員にリモートでインタビューを行い、本作の制作エピソードや今後の展望を聞いた。

取材・文 / 西廣智一

メジャーに行っても変わらない攻めの姿勢

──ついにメジャーデビュー作「Reignition」が完成しましたね。メジャーシーンに切り込んでいく最初の作品ということで、相当気合いも入ったかと思いますが、まずどんな作品を最初に届けようと考えましたか?

田村ヒサオ(Vo, B) 僕らulma sound junctionがどんなバンドなのかが、これを聴けばわかるという名刺代わりとなるような作品にしようとずっと考えていて。だからこそ、「メジャーに行ったから、ちょっとおとなしくなったよね?」とか「急に王道路線に変わったよね?」というようなことは絶対に言われたくない作品にしたかったので、僕らの歴史を感じてもらえるような新曲1曲と、過去に発表した楽曲のリテイク4曲という構成を考えました。特に新曲の「Modern Bleed」に関しては、僕らがメジャーに行っても何も変わらないよっていう、その攻めの姿勢が端的に表現できたんじゃないかなと思っています。

──なるほど。確かに「Modern Bleed」を聴かせていただいて、おっしゃるように「おお、がっつり攻めているな!」と感じました。

田村 そうですね、ちょっと攻めすぎというぐらいに(笑)。

──でも、メジャー1作目がこの曲から始まるというところに、バンドの覚悟が伝わりました。この曲は前回の特集を執筆する際に伺った、昨年12月開催のメジャーデビューを発表したライブで披露した楽曲ですよね?

田村 そうです。あのときに初披露した曲です。

福里シュン(G) 僕のギターの音が出なくなったときですね(笑)。

──この「Modern Bleed」を制作する際、どういったイメージを持って曲を固めていきましたか?

田村 僕らが制作に要する時間というのはその曲によりけりで、完成までに1年近くかかる曲もあれば、数週間くらいでできあがってしまう曲もあって。「Modern Bleed」は半年以上、1年未満で完成させたと思います。いわゆる前半部分、特に冒頭の攻撃的な方向性はもちろん意識してますし、サビでメロディアスさを打ち出すことも考えました。中間部におけるインストゥルメンタルパートではプレイヤー陣のエゴだったり「こういうことがやりたいんだ」という思いを詰め込むことを意識しました。とはいえ、そういった異なる要素を1つにまとめるために、のちのちに各セクションの辻褄合わせで自分の首を絞めるんですけれど、結果的にはそこがうまくできた楽曲かなと思っています。

──こういうプログレッシブロック的に複雑な展開を持つ楽曲って、その展開が変わるポイントで、いかに不自然さを消すかというアレンジ力や演奏技術が求められると思います。この曲の場合も、そこに相当時間を要したのかなと想像しますがいかがですか?

田村 意外とボーカルが入っているパートよりも、中間のインストパートだけを練習することが多かったですね。

加勢本タモツ(Dr) もう大変すぎて、泣いてましたね(笑)。ボーカルが入っているパートは、演奏するのもすごく楽しいんです。

ulma sound junction「Modern Bleed」ミュージックビデオより。

ulma sound junction「Modern Bleed」ミュージックビデオより。

田村 この中間部に関しては、特に加勢本が中心になっていろいろ提案したんだっけ?

加勢本 そうだったかな。そのあとの、最後の大サビのメロディまでつながっていく流れとかは、うまくまとまった気がしますね。

田村 セクションだけ見ると複数のパートで組み立てられている印象があるかもしれませんが、逆にそれを「どんどん変わっていますよ」と感じさせない演出を、そのセクションの間でうまくやれているんじゃないかな。そこは意外と難しくて、時間がかかったところでした。

加勢本 パーツごとには早めにできてはいたけど、それをまとめるのがね。

──それがこのナチュラルなアレンジにつながっているんでしょうかね。

加勢本 本当ですか? そう言っていただけると、ありがたいです。

田村 実はセクションごとにテンポが変わっているので、そういう部分にも僕らの場合はけっこう時間をかけますね。

ulma sound junction「Modern Bleed」ミュージックビデオより。

ulma sound junction「Modern Bleed」ミュージックビデオより。

J-POPの枠に置かれるような曲も作っている

──楽曲の骨格を作るという点ではリズム隊が重要になるとは思いますが、その曲の持つカラーや方向性を決定付けるうえではギターのアンサンブルはさらに重要になるという印象もあります。

田村 コード感を広げたい部分や逆にそこまでコードの深みを感じさせたくない部分が僕の中に明確にあるんですが、特にレコーディングではギターの2人はそこをうまく表現できるポジションなので、現場において臨機応変さを課したわけではないですけど、2人にはフレーズを固めていく作業をかなり担ってもらった曲ですね。

──ギターのお二人がリフワークの組み立てやフレーズでの色付けなど、制作においてこだわったポイントはどういったところでしょう?

山里ヨシタカ(G) 2人の役割に関しては、実はそこまでかっちり決めてはいなくて。曲のなんとなくの雰囲気でどっちが弾くかという感じで、例えば雰囲気系の音は僕が担当することが多いんですけど、今回は逆にシュンのほうに振ったパートもあったり、新しい機材を買ったのでそれを積極的に使ったりもしましたし。昔はじゃんけんで弾くフレーズを決めてたよね?

福里 うん(笑)。

山里 このフレーズはジャンケンに負けたほうが弾くとか(笑)。

福里 でも、この曲に関しては気付いたらできあがっていたような感覚かな。

山里 そんなこと、ある?(笑)

福里 いやいや。例えばレコーディングで「ここにこういう音が欲しい」と具体的に言われたとすると、それをライブで実際に弾く弾かないは別として、音源として成立していればいいかなという考えでまず弾いてみて。最終的にボーカルが乗った音を聴くと「やっぱりこのフレーズ、あって正解だったね」ということがほとんどなので、そういう意味で気付いたらできあがっていたということです。

山里 でも、前作(2021年2月発売の3曲入り音源「primary」)も担当したエンジニアさんがギタリストでもあるので、そういった点ではかなり助けられましたね。

福里 「ここをこうしたほうが、もっと曲に広がりが生まれる」とか。

田村 僕もいろんな音楽を聴いてる自負があるんですけど、エンジニアの方もめちゃめちゃいろんなジャンルを聴いているし、ギタリストの目線も持っているので助かってます。レコーディング現場ではそういう第三者目線が特に大事になってきますよね。プロデューサーという存在がいないバンドなので、彼の発想力やアイデアにはかなり助けられましたし、サウンドの構築を決定付けられた部分もあります。

──そういった意味でも、かなり頼りにしてるエンジニアさんだと。

田村 はい。特にコーラスワークに関しては、だいぶ彼に頼りました。

──なるほど。アレンジに関してもう1つ、例えばスクリームやシャウトしているパートに関してはコード進行的にはシンプルな印象を受けますが、メロディアスに歌い上げるパートに移るとコードの動きが急に激しくなりますよね。冒頭のヘビーなパートは海外のヘヴィメタルバンドに負けないパンチが備わっていますし、メロウパートのアレンジには国内ギターロック勢にも匹敵するセンスを感じました。改めてulma sound junctionって面白い存在だなと感じるポイントでした。

田村 ありがとうございます。まだ発表していない制作途中の楽曲もあるんですが、あからさまにJ-POPの枠に置かれるようなタイプの曲も作ったりしてるんですよ。かと思えば、今回の「Modern Bleed」みたいに攻めの楽曲も存在していて。作曲するにあたって、昨今流行っているJ-POPをよく聴いているんですけど、そういったところからもいろいろ吸収できている感覚があります。ulma sound junctionとしては単純にラウドロックや限定された界隈に括られることなく、もっと広く振り幅を持って攻めていきたいと意識はしています。「このシーンでてっぺんを獲るんだ!」という感覚ではなく、どんなシーンにも対応できるバンドでいたい。オールラウンダーではないですけども、その振り幅を広げることが今は楽しいかなと個人的には思っています。

田村ヒサオ(Vo, B)

田村ヒサオ(Vo, B)

山里 もう長いこと活動しているので、昔と比べて乱暴な構成の仕方はなくなってきましたし、無理をしないような曲作りをしているな、だんだんと大人になってきたなと感じます。もちろん、ずっと変わらず同じことをやるバンドもいいと思うんですけど、うちらはたぶん、どんどん変わっていくことが当たり前のバンドなんです。新作を出すごとにお客さんが抱くイメージもどんどん変わっていると思いますし、次の作品を出したらまたイメージが変わるかもしれないですし。海外のニューメタルバンドとかが今もデビュー当時と変わらないような曲をやっていると、「ちょっとなあ……」みたいな感じになってくることってあるじゃないですか(笑)。ひさしぶりに新譜を出したと思ったら、前と同じようなことをやっていたり。僕らはそういう感じにはなりたくないので、新しく吸収したものをどんどんアウトプットするのが大事かなと。その吸収するものは別に音楽だけじゃなくて、絵を見たりとか映画を観たりとかなんでもいいわけですしね。

加勢本 特に「Reignition」には昔の曲をリテイクした曲を収録しているじゃないですか。昔からのお客さんにはそこでも変化を感じてもらえるんじゃないかなと。アレンジを変えたところもありますし。