テクノも新しいし、ツインボーカルも新しいし、もうなんでもアリやなと(笑)
──そして、そのファンクラブツアーの手応えと熱を持ったまま、スタジオに入ったわけですね。レコーディングはどうでしたか?
サンコン 楽しかったですよ。さっき松本くんが言ってたように、すごく自由にやらせてもらったんで。
トータス 3人になったのもあって「こういうことはあまりしないほうがええんちゃう?」みたいなことがなくなった。
──なるほど。“らしさ”に捉われず、恐れずなんでも自由にやってみようと。
トータス そうそうそう。
──その最たる曲がアルバムの1曲目を飾る「センチメンタルフィーバー ~あなたが好きだから~」じゃないでしょうか。この曲にはちょっと衝撃を受けましたよ。ある意味、電気グルーヴのような。
トータス わはははは(笑)。これね、ビクターに移籍した際にまず挨拶代わりのアーティスト写真を撮ったんですけど、それこそ電気グルーヴのビジュアルをやられている田中(秀幸)さんにお願いしたんですよ。3人になったことやし、面白くて新しい感じの写真がええなってことで。そこで田中さんの名前が浮上して、3人が斜めに並んで不自然な笑みを浮かべている写真を撮ってもらった。そしたら、それを見たある人が、「アー写はその人たちがどんな音楽を奏でているかがわかるようなものじゃないとダメだ」みたいなことを言ってきて。そうか、どうしよって話を3人でしてたら、サンコンが「じゃ、テクノやろか」って言い出して、「テクノお?」となって。
サンコン そうそう。その前の月だったかな、たまたま松本くんの家でYMO「テクノポリス」のシングルを聴かせてもらってて。改めてレコードで聴いたら、「ええっ!?」って驚くような音像に感じたんですよ。それに、去年からバンド内でTalking Headsが流行っていたのもあったりして、ホントは1980年代の音楽やろうかって言いたかったんですけど、それやとザックリしすぎてるじゃないですか。それで「テクノ」って言ったら、1回、シーンとなって(笑)。
トータス でもまあサンコンとしては、3人やからってことで思い付いたのもあると思ったんですよね。で、「テクノねえ」なんて噛み締めてたら、だんだん「なるほどな」という気持ちになってきて。確かにこのアー写の3人がテクノやってるってだけでおもろいし。そこからちょっとテクノを研究してみようと、人からレコード借りたりしていろいろ聴いたんですよ。ただ音から入ると曲ができひんから、とりあえず弾き語りで曲を作って、それから4つ打ちに合わせてギター弾きながら歌ってみて。で、サウンドプロデューサーの菅原(龍平)くんという、ウルフルズの第4のメンバー的なヤツがおるんやけど、彼に「これ、テクノにして!」って投げてね。そしたらテクノになって返ってきて、「ええやん!」と。で、「じゃあジョンB、Aメロ歌って!」って、思い付きで。あはははは(笑)。
──ムチャぶりじゃないですか(笑)。
トータス そう。でもウルフルズが活動休止してるときに、ジョンBは自分がボーカルをとるバンド(ジョンB & ザ・ドーナッツ!)をやったりしてたから、歌に慣れてるからね。
──テクノっぽい電子音に乗せてAメロをジョンBさんが歌い、そこにトータスさんのいつにも増して暑苦しいボーカルが絡む。このミスマッチ感が強烈な印象を残す曲です。
トータス 僕はテクノのバンドに無理くり呼ばれてきてるトム・ジョーンズみたいな気持ちで歌ってみたんですよ。
──ああ、なるほど。それはわかりやすい例えですね。
トータス めっちゃミスマッチなんやけど、呼ばれたから歌ってるみたいな感じがおもろいと思ったんです。でもAメロは僕が歌うと“マッチョ感”が生きないので、脱力系で歌うのがいいと思って。自分で2役やるのもなんか違う気がしたから、歌ってもらったという。
──すごく思い切ったことをされたなと思いました。
トータス ツインボーカルの曲なんて、今までやったことないからね。やったことないから面白い。ウルフルズにとって、テクノも新しいし、ツインボーカルも新しいし、もうなんでもアリやなと(笑)。
ジョンB 面白いってことが大事ですからね。だってこの曲、僕はベースを弾いてないですから。TRICERATOPSの林(幸治)くんにスラップベースを入れてもらって。
トータス 最初はそれすら入れてなかったんやけど、YMOの「テクノポリス」にチョッパーが入ってて、そのオマージュをしたいなってことで。
──そういえばトータスさんは学生の頃、RCサクセションなんかと一緒にプラスチックスもよく聴いてらっしゃったんですよね。だからテクノポップにもそこまで抵抗はなかったわけですよね。
トータス そうそう。去年引っ越して、コレクションしてたアナログレコードを片付けながらプラスチックスのレコードも改めて聴いたりしてたんですよ。で、やっぱりええなあと。電子音楽なのにアナログでかけたほうが気持ちいいっていうのも面白いもんやなと。
──グルーヴがありますからね、プラスチックスの曲は。
トータス すごいあるんですよね。で、YMOもまた聴いて。今思うと、そういう流れがあったからできた曲なのかもしれないですね。そんなに唐突ではなかったというか。
ウルフルズだからこそできること、ウルフルズでしかできないこと
──2曲目が「リズムをとめるな」で、3曲目が「ワンツースリー天国」。これは一筆書き感の出ている単純明快ロックンロールで。
トータス そう、得意のやつ(笑)。
──僕は4曲目のソウルバラード「ひとつふたつ」がとても好きなんです。
トータス ああ、ありがとうございます。僕も大好きです。うれしい。
──トータスさんのルーツにあるオーティス・レディングとか南部ソウルのムードがあって。途中から合唱になっていくあたりもグッとくる。
トータス そこは3人プラス、さっき言った菅原くんの4人で合唱しました。これ、ライブではお客さんみんなでシンガロングになったらいいなと思ってて。みんなに歌ってほしいんですよね。
──5曲目「ありがっちゅー」もウルフルズ節でありながら、忌野清志郎リスペクト感も出ているミッドテンポ曲ですね。「こっちこっち どっちどっち」というところの歌い回しとか。
トータス ああ、確かに。イントロとかエンディングもちょっとRCサクセションっぽいんよね。
サンコン 言われてみたらそうかも。
──6曲目「生きてく」はスウィートソウルで、鍵盤の音もすごくいいですね。これはどなたが?
トータス これは浦清英くん。YUKIちゃんのサポートとかもやってる。
ジョンB 「ありがっちゅー」と「生きてく」は、今までウルフルズでやってそうでやってなかったタイプの曲。ソウルなんやけど、こういう感じは意外と珍しい。
サンコン 「ありがっちゅー」のドラムとか、難しかったもんなあ。
──でもこの2曲のサンコンさんのドラム、すごくいいですよね。サンコンさんはここ数年石橋凌さんはじめ、ウルフルズの外でもいろいろ叩いてますが、そうした活動が今作に反映されているところもあったりしますか?
サンコン それは絶対あると思いますね。どこがどういうふうにと言うのは難しいけど。とは言えやっぱりウルフルズが一番やりたいことやから、ウルフルズだからこそできること、ウルフルズでしかできないことを、すごく考えてしまうところがあります。「ほかの現場ではこういうことはやらんやろな、ウルフルズならやってええやろな」って。でも今みたいに「このドラム、いい」と言ってもらえると、しっかり考えてやってよかったなと思いますね。