いろんなことが変わり目な気がして、自然とそういう曲を書いてしまった
──昨年2月にケーヤンの発表があって、それから間隔を開けずにファンクラブ会員限定のツアーがあって。9月には「ヤッサ 2018」があり、その公演後にビクター内のロックレーベル・Getting Betterへの移籍を発表されました。
トータス ビクターから声がかかったのはすごく意外でしたよ。3人になったのに「ウチに来てほしい」って、おかしいんちゃうかな、勇気あるな思てね(笑)。でもそれはやっぱりうれしかったです、単純に。
──東芝EMI、ワーナーと来て、第3期の始まりといった感じで。
トータス そうですね。ビクターは東芝の当時の社員さんがいたりもして、戻ってきたような感覚もちょっとだけあって。それもなんかうれしかった。気持ちがガラっと変わりましたからね。「ビクターか、よっしゃ!」みたいな。
──そして、10月には配信シングル「変わる 変わる時 変われば 変われ」をリリースしました。これはバンドとしての意志表明のような曲ですよね。「とにかく今の気持ちを歌っておかねば」ということで作ったわけですか?
トータス そう。というのと、そのタイミングで僕、引っ越したんですよ。50代になったこのタイミングで自分自身が一番想定してなかったことをやったほうがエエかなと思って、建てた家から引っ越した。そのときにとりあえず1曲、新しい家で書いてみようと思ってね。すぐには片付けきれないから、段ボールに囲まれて、めっちゃ狭いところでパソコン広げて。自分自身もそうやしウルフルズもそうやし、いろんなことが変わり目な気がして、自然とそういう曲を書いてしまったというかね。なんかそういう気分やったんやろうな。
ジョンB いろんなことが変わっていく感じでね。そういうムードだったんですよね。
──「チェンジこそがチャンスなら」と歌っていて、自らを奮い立たせる感じもありながら、曲調としてはいい意味での軽さがありますよね。
トータス あ、そうそう。この曲は大阪の朝の情報番組(ABC「おはよう朝日です」)のテーマ曲なんですけど、朝聴いてフワっと元気出そうな曲というイメージが初めからあって。で、その番組の曜日ごとのレギュラー陣がいろんな言葉を出してきて、「それを歌詞に入れてほしい」って言うんでね。とりあえず無理やり使ったら面白くなったんですよ。「満腹」とか「意義あり」とかはそこから出てきた言葉で、「こんなんどこに入れんねん!」って思いながらも使ってみたら(笑)、いい感じの軽さが出た。
──ケーヤンのことがあっただけに、「グッドラック マイフレンド」というフレーズがグッときました。
トータス それも、野々村真さんから「グッドモーニング スマイル」って言葉が出てきて、「ベタな言葉やなあ」なんて思いながらも1番に入れたら意外によくて。それに紐付くように、2番で「グッドラック マイフレンド」と入れようと。船で漕ぎ出した友達に対して、「グッドラック」と言いたかったというか。
「リズムをとめるな」だから、自分はすごい責任を感じた(笑)
──そして今年の2月には次の配信シングル「リズムをとめるな」が出ましたが、これまたタイトルからして、バンドを続けるんだ、休んじゃダメなんだという意志がズバっと感じられるもので。
トータス 「カメラを止めるな!」って映画が流行ってね、僕も観に行って面白いと思ったし、タイトルがキッパリしてていいなと思ってね。で、俺たちだったら何を止めるな、かな? リズムやろなと。そこから自然に書けましたね。自分たちのやろうとしていることを止めるな、自分の中にある熱い思いを止めるな、グルーヴを止めるな、歌をやめるなって、自然と導かれるように書いていった。今しか書かれへんことやったと思うし、いい曲になったなと。
──こういうギターロックサウンドになったのも自然に?
トータス そう。最初はデモテープをギターだけで作って、デタラメなドラムも叩いて聴かせたら、2人とも「すごくいい」と言ってくれて。
サンコン でもタイトルが「リズムをとめるな」だから、自分はすごい責任を感じた(笑)。いい意味で、自分へのお題というか、「じゃあ俺はこの曲で何ができるのか、どう叩くのか?」みたいなことをすっごい考えましたね。
──3人になったぶん、リズム隊の見え方も前とは変わるし、より重要度が増すところもあるでしょうからね。
サンコン そうそうそう。
ジョンB そこはサンコンがすごく考えてて。やっぱり3人になったから、3人で成立するアレンジを考えないといけないわけで、今回のアルバムはそこをすごく意識しましたね。
トータス ギターもそんなに凝ったことはしてないけど、聴き応えのある音になったんちゃうかな。演奏してて楽しいし、気持ちいいんですよ。
──気持ちよく弾いてる感じが出ていますよ。トータスさんのギターがこんなに前に出ている作品は過去にはなかったですし。
トータス うん。僕は高校生の頃にアマチュアバンドをやっていたけど、そのときは歌うたいが別にいたからギターに徹してたんです。そこから先はケーヤンがおったからサイドギターでコードストロークしているだけの感じになってたんやけど、ここに来て昔のアマチュアバンドの頃を思い出して、もう1回指が動くようにがんばってみようと思って。去年はめちゃめちゃ練習したなあ。
──どういう練習をしたんですか?
トータス CDやテープをかけてコピーして。引っ越した家でアンプに差し込んでガーっと弾いたりしてね。向かう先があっての練習だから、楽しいんですよ。「このフレーズをちゃんと弾けるようになりたい」と思って練習するから、できるようになったときに単純にうれしい。曲を作るためかライブで歌うための伴奏楽器としてしか弾いてなかったけど、インストゥルメンタルの楽器としてもう1回ちゃんとギターを弾くということを、この歳になってやるとは思ってなかったし。それはハッキリと自分の変わり目でしたね。
ジョンB もともと3人が持ってるものは変わらへんけど、4人から3人になって、松本くんがギターを弾くとなると、グルーヴがまったく変わってくる。サンコンもそうやろうけど、いろんな音符の長さの感覚が違ってきたり。「前やったらこうは弾かへんな」というところもあったりね。それは自分でも面白かった。ウルフルズって楽しい音のイメージがあると思うんやけど、今回はもっと一丸になるというか、よりエネルギーのある音を追求できた。かと言ってユーモアがなくなったわけではないし。それを楽しんでやれたのが、結果よかったんかなと思います。
スリーピースになって、ある意味、丸裸になった感じ
──そうして、今回新しいウルフルズを感じさせるアルバム「ウ!!!」が完成しました。
トータス いろんなことが変わって、今回は中村督さんというエンジニアの方にミックスしてもらったんですけど、その人との仕事も初めてだし。このアルバムはホンマに今までとは全然違う状況でやったのが、結果よかったのかなと思いますね。
──音色も変えたいという気持ちがあったんですか?
トータス 「エンジニアも変えたらどうやろ」って感じでね。ビクターの制作から提案してもらって、やってみたらすごく相性がよかったんですよ。中納良恵(EGO-WRAPPIN')さんとかレキシさんとか、いろいろやってる人で。
──ロック的な生々しさがこれまでよりも出ているけど、そちらに行きすぎず、ポップとしての洗練もある。その塩梅がいいなと感じました。
トータス そう、そうなんですよ!
──アルバム全体のイメージというのは作る前からあったんですか?
トータス 全然なかった。なんせ自由にやらせてもらったんで。ビクターの制作は「いい曲ができたら録音しましょう」みたいなノリやったんやけど、その自由な感じが今回はよかったんですね。最初は「とりあえずミニアルバムを夏に発売したい」と言われたんですけど、「いや、せっかく移籍したからがんばってアルバムに向かっていきたいんです」と言ったら「おお、いいっすね!」って。「あ、言ってもうた。言ってもうたからには書かなアカンな」となりました(笑)。
──でも、そういう創作意欲がトータスさんの中にあったわけですね。
トータス アルバムでバーンと行きたかったし、今やったらできるんちゃうかなと思ったんです。というのも、去年の春先のファンクラブツアーで、3人のウルフルズにすごく手応えを感じたんですよ。「この調子なら曲も全然書けるし、アルバムも作れるな」と。
──ファンクラブツアーで得た手応えは、言葉にするとどういうものだったんですか?
トータス 火事場の馬鹿力みたいなものが出たんでしょうね。ウルフルケイスケがバンド活動を休止することを2月に発表したときのファンの落胆ぶりを目の当たりにして「うわ、これどうしよう」と思ったけど、とにかく今は3人でやれることをやってみせよう、正直にその姿を見せようと思っていたんです。そうしたら思いのほか、みんなが温かく歓迎してくれた。「もちろん寂しいけど、今日のライブを観て、これからのウルフルズに期待が持てました」みたいな声がいっぱいあって、それに勇気付けられたんです。
サンコン 必死でしたけどね。悲壮感のない必死さというか。たぶんそういうのが伝わったんじゃないですかね。
トータス 3人で回ったあの選択は正しかったと思う。
ジョンB そやな。ある意味、新しいバンドを始めた感覚にも近かったんですよ。バンドを始めた頃のエネルギーを取り戻せたというか。
トータス だからか、ウルフルズを20年くらいやってくれているローディーのチームに、めっちゃ受けがよかった。妙にテンション上がってるスタッフもいて、「こんなに喜んでくれるんや」って。それもうれしかったですね。
ジョンB スリーピースになって、ある意味、丸裸になった感じ。観てくれた人もそこが面白かったんじゃないですかね。