上坂すみれ×志磨遼平(ドレスコーズ)|真の日陰に住みし者、高らかに歌う

鳥肌が立つような不思議な縁

上坂 志磨さんが入れてくださっていた仮歌を含めて完成された感じがあって、最初に聴いたときはドレスコーズの新曲のようだと思いました。

志磨 よかった。最初のオーダー通りですね。

上坂 ただ、この仮歌からどうやって自分の歌にしよう?というくらい、完成されたものだったので……。

志磨 すみません(笑)。

上坂すみれ

上坂 ニュアンスがとても伝わりやすかったです(笑)。元ネタがあまり加工されない新鮮な状態で登場するので、ひねくれた人のひねくれていない歌、心はスパイラルしているけど表現方法は実にさわやかというか。曲構成もすごく不思議ではあるんですけど、サビはとても晴れやかだし、自分の主張をすごくストレートに述べているので、ライブなどで歌ったらすごく気持ちいいだろうなと感じました。

志磨 レコーディングは僕もご一緒して。昭和のSP盤時代の音楽みたいな独特の歌い方……あれなんなんでしょうね? たぶんオペラとか歌劇からヒット曲が生まれていた時代というか、そういうことだと思うんですけど。あの感じで歌ってほしいのですとお願いして。

上坂 Aメロのところだけ具体的に「この感じでお願いします」と、あれは戦前の唱歌ですかね? レコーディングブースでiPhoneから流してもらって一緒に聴くという。「これはいったいどういう歌い方なんですかね?」「不思議ですね」とお話ししながらいろいろトライして。

志磨 声のニュアンスやトーンを操ることにおいて一流の声優界で活躍されている方なので、僕もそれが聴きたいというか。なのでかなり細かいところまでわがままを聞いてもらいました。上坂さんは見事に応えてくださるので、楽しかったですね。

上坂 ありがとうございます。ブースの外であんなに拍手してくださることはなかなかないので、こちらもうれしかったです。ニュアンスを変えながらいろいろ録ってみるというのは楽しかったですし、歌っているうちに「じゃあこれをやってみましょう」とその場で考えてみたり、コーラスを追加してみたり、どんどんアイデアが足されていく作業は新鮮でした。

──歌詞にはどことなくオリンピックを意識したようなフレーズが入ってますよね。1964年の東京オリンピックや1970年の大阪万博では公式非公式さまざまなノベルティソングがありましたけど、この曲も非公式オリンピックソングを狙ったのかなと。

志磨遼平

志磨 あくまで非公式です(笑)。アレンジはもっとシンプルだったんですけど、そこにゲルニカ(戸川純、上野耕路、太田螢一によるユニット)のようなオーケストレーションを乗せようと考えたとき、僕が普段お世話になっている方の中で、実際に戸川さんとお仕事をしたことがある長谷川智樹先生に編曲をお願いするのがいいんじゃないかと。それで長谷川先生に、曲のイメージはこんな感じでと「夢見る約束」が入っている戸川さんのアルバム「極東慰安唱歌」を挙げたら、「志磨くん、そのアルバムは僕のデビュー作だよ」って。

上坂 えーっ!

志磨 鳥肌が立つような、不思議な縁を感じました。ますます長谷川先生しかいないだろうと。それで「どうにも世の中の流れに乗り切れない人の曲です」と説明して(笑)。そしたら長谷川先生から古関裕而さんの名前が挙がったんです。運動会なんかで知られる「スポーツショー行進曲」の作者で、日本のマーチ音楽の第一人者ですね。その古関さんみたいなオーケストレーションを乗せようということで、どんどん豪華になっていって。フルオーケストラで、自分の作品ではこんなに予算をかけられないだろうという(笑)、ぜいたくなレコーディングになりました。ミュージックビデオもすごかったですね。よくぞ、という。まさにあの世界観を表現してくださって。

上坂 MVを撮るときは監督がコンテを書いてくださるんですけど、この曲は世界観設定みたいなものがほかにあったんです。キャラクターが3人いて、労働者がいて……アニメのキャラクター設定ぐらい丁寧に作ってくださっていて、荒船(泰廣)監督なりの「ネオ東京唱歌」の世界観が完成していました。

「志磨フェス」で共演?

──アルバムを携えてのツアー「上坂すみれのPROPAGANDA CITY 2020」は4都市6公演と過去最大規模になります。

上坂 体力は要りますけど、同じ編成で何回もやるチャンスがあるというのは、そのたびに精度を上げていくことができると思うのでありがたいですね。ライブ1回のみで映像収録ありだったりするとかなりプレッシャーもあるのですが、6公演あれば安心です(笑)。

──志磨さんは上坂さんのライブをご覧になったことは?

志磨 映像でいくつか拝見しています。先ほど名前を挙げればよかったのですが、掟ポルシェ(ロマンポルシェ。 / ド・ロドロシテル)さんも共通のお知り合いで。上坂さんもライブで……。

左から上坂すみれ、志磨遼平。

上坂 キャベツを刻んだり(掟ポルシェが得意とするパフォーマンス)、マンガを配ったり。

──ライブパフォーマンスにおいて、上坂さんから志磨さんに聞いてみたいことはありますか?

志磨 何も答えられないですよ。僕は今どきのバンドマンとしてはライブの本数が少ないほうで、ツアーの本数もだいたい1ケタですし、バンドワゴンで全国を回るような経験もない。イベントに呼ばれることも少ないですし(笑)。

──お二人の対バンがあったら、すごく噛み合いそうな気がします。

志磨 ああー、それは楽しそうですね。ぜひツーマンを。

上坂 「志磨フェス」みたいなものはないんですか?

志磨 実は僕、今年がデビュー10周年で……なんとなくそういうことを考えていたんですよ、ちょうど。スケジュールが決まったらすぐにお声がけさせてもらいます。

悩むのが趣味

──余談ですが、最近ハマっているものなどありますか?

上坂 私はずっと電子書籍が苦手だったんですけど、最近は本を捨てて電子書籍で買い直しています。

志磨 なんと。

上坂すみれ

上坂 ずっと紙派だったんですけど、ひさしぶりに引っ張り出した本が信じられないくらい汚くなっていて。これはさすがに読めないけど、中古でしか出回っていない本だしどうしよう……と思っていたら、Kindleだと定価より安く、しかも全巻そろえられることがわかったんです。それで試しに購入してみたら「あ、普通に読めるじゃないか」って。

志磨 どんな部屋に住んでるんですか? 僕は本当にいわゆる「足の踏み場もない部屋」で、全部手が届くところに置いてあるんです。

上坂 わー、そこはイメージ通りですね。うれしい。キャラクターデザインに合ってます。

志磨 ありがとうございます(笑)。家に家電がほとんどないというのはどうですか?

上坂 えっ? テレビも?

志磨 テレビはあるんです。キングレコードの人にもらって。DVDプレーヤーと一緒に。

上坂 「完パケの映像作品を観なさい」と。冷蔵庫は?

志磨 部屋に備え付けのものはあります。でも炊飯器とか電子レンジはないですね。

上坂 確かに炊飯器があると悲しいですね。「志磨さん、お米炊くんだ……」って。美学を感じますね。細身の体を維持する家電抜きダイエット(笑)。私はですね、猫を飼っていて。猫が運動をするので、床にあまり物を置かずに収納するようにしています。そんなに大きいお部屋じゃないんですけど、テレビとか冷蔵庫とか買う家電がみんな大きくて。大きい家電で構成された部屋ですね。

志磨 小人みたいな感じですね、外から見ると。家電に対しての比率がね。実生活で何かお困りなことはありますか?

上坂 常に困窮しています。困り果ててはいるんですが、困ったことがないとどうしていいのかわからなくなっちゃうというか……日々「今日のお悩み」を考えるのが好きですね。

志磨遼平

志磨 僕も昔、悩むのが趣味なんだと思っていて。なんでいつもこんなに悩んでいるのかと思っていたけど、これが趣味なんだと考えたら気持ちが楽になった。

上坂 私も趣味なんだと思います。わざわざ悲観的に考えることで、ちょっとリフレッシュする。

志磨 ですね。

──悩み抜いて考え抜いた果てに、すべてを解決して満たされた状態になりたいとは思わない?

上坂 解き放たれたら恐ろしいですよ。何をするかわからない(笑)。ある程度己に枷をかけるのが趣味なんだと思います。志磨さんは最近どんなお悩みがあるんですか?

志磨 僕は対人関係が下手で……こうやってお話しするとあからさまでしょうけど、うまくしゃべれないでしょ?(笑) 「上坂さんさあ」みたいな態度で全然行けないんですよ。

上坂 そうですね。本当は陽気なのに陰気な感じを装っている人って“陽キャバレ”するじゃないですか。私のような真の暗がりの者には「あ、この人は暗く振る舞ってるぞ」ってわかるんですよ。志磨さんは間違いなく、ピュアな日陰に住みし者……(笑)。今日は緊張するかなと思ってたんですけど、そんなに。近い波形を持っているのかもしれませんね。

志磨 そうかもしれませんね、確かに。陰の濃さが近いんだと思います。漆黒の者(笑)。

上坂 日陰者でも「あのさあ」って行ける人いますからね。ある程度親しい人でも敬語になってしまうし……。

志磨 いますか? タメ語でしゃべれる友達。……そりゃいるか(笑)。

上坂 あははは(笑)。志磨さんもいますよね。でもたぶん同じ人数ぐらい。

志磨 常に円滑ではないけれど、悩みというほどではないです。

──ちなみに最近一番憤ったことは?

志磨 今朝起きたとき、すごく顔がむくんでいて。今日は取材で撮影もあるからと、リンパマッサージを自分でやろうと思って調べたんですよ。“顔 むくみ”とかで検索して。あまり時間がなかったので、コンビニでサラダを買ってきて、膝の上に乗せてリンパマッサージをやってたら、サラダを全部布団にこぼしたんです。……それぐらいですかね。自分への憤りです(笑)。

上坂 遣り場のない、切ない悲しみですね。同じようなので言うと……この間、お友達と一緒に夜景がキレイなところでごはんが食べたいと言って、スカイツリーのレストランを予約したんです。でもスカイツリーの中を探してもそんなお店なくて。案内の人に聞いてみたら、隣のビルだったんです。ぬか喜びをした1週間。キレイなスカイツリーが見られて結果よかったんですけど。

志磨 ポジティブですね(笑)。

上坂 外に向いた話は特にないですね。

志磨 憤りすらも自分の中で完結してしまう……。

上坂 悲しいお話でした(笑)。

ツアー情報

上坂すみれライブツアー「上坂すみれのPROPAGANDA CITY 2020」
  • 2020年3月20日(金・祝)埼玉県 サンシティホール越谷 大ホール
  • 2020年3月21日(土)埼玉県 サンシティホール越谷 大ホール
  • 2020年3月28日(土)大阪府 NHK大阪ホール
  • 2020年3月29日(日)大阪府 NHK大阪ホール
  • 2020年4月5日(日)愛知県 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
  • 2020年4月19日(日)東京都 TOKYO DOME CITY HALL
志磨遼平「IDIOT TOUR 2020」
  • 2020年4月15日(水)東京都 中野サンプラザホール
  • 2020年5月9日(土)大阪府 なんばHatch
  • 2020年5月10日(日)愛知県 THE BOTTOM LINE
左から上坂すみれ、志磨遼平。