上坂すみれ×志磨遼平(ドレスコーズ)|真の日陰に住みし者、高らかに歌う

上坂すみれが通算4枚目のオリジナルアルバム「NEO PROPAGANDA」を1月22日にリリースした。

清竜人、MOSAIC.WAV、group_inou、大槻ケンヂら多彩な作家陣が個性豊かな楽曲を提供する中、アルバムのラストを締めくくるリード曲「ネオ東京唱歌」では志磨遼平(ドレスコーズ)と初タッグ。戦前の唱歌やロシア民謡、1980年代のニューウェイブが融合したような独特の味わいを持つ楽曲を完成させた。今回は上坂と志磨による初対談により、不思議な魅力を放つ「ネオ東京唱歌」誕生の過程に迫った。

取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 塚原孝顕

わりと常識的に生きているという自覚はあります

志磨遼平 きちんとお話ししたのは今回のレコーディングが初めてでしたけど、上坂さんのことはいろんな方を介して存じていて……例えば吉田豪さん?

上坂すみれ そうですね。

志磨 豪さんのTwitterだったり、清竜人さんや大槻ケンヂさんといったお知り合いを介して「上坂すみれさんという人は只者ではない」という印象を持っていました。

上坂 恐ろしいですね(笑)。私は志磨さんが普通のテンションでお話しするところを見たことがなかったので……ライブや音楽を通しての印象で「この人は一切の水や食事を摂らず、家屋を燃やして生きているのだろう」という、中世の人みたいなファンタジックな存在だと思っていたんです。

志磨 暴虐の限りを(笑)。よくそんな人に曲を頼みましたね。

上坂 いろんな方に推薦いただいて。私の妄想通りの方だったらどうしようと思っていたんですけど、まさかこんなに丁寧で物腰の柔らかい方だとは。曲を作る前にはきちんと打ち合わせしてくださったり、「あれ……普通によい人なのでは?」って。

志磨 昔からよく言われるんです。「会うとガッカリ志磨遼平」(笑)。

──お二人に何か共通するところはありますか? 大枠でサブカルチャーに属する人という共通項はあると思うのですが。

志磨 細かくは違うと思うんですけど、大きく分けて種目は同じというか。

左から上坂すみれ、志磨遼平。

上坂 私は主にアニソン枠ではあるんですが、自由演技を得意とするタイプで。作品のタイアップ曲でなければわりと自由演技になってしまう。志磨さんも何かに提供する曲とそれ以外では全然違いますよね。

──どちらも自分の中に篭りがちだけど、大人としての仕事もきっちりこなせるタイプ?

志磨 そうですね。わりと常識的に生きているという自覚はあります。

上坂 人の予想に反して、暮らしはちゃんとしています。

志磨 無軌道なことはしていないと思うんですよね。今のところ(笑)。

ありました突破口

上坂すみれ

上坂 アルバムのリード曲を誰に作ってもらおうかと考えているときに……これまでは私がずっと好きだった人にお願いすることが多かったんですけど、新しいアプローチに挑戦してはどうだろうかというお話があって。スタッフの方に提案された方の中に志磨さんのお名前があったんです。志磨さんはこれまで夢みるアドレセンスやももいろクローバーZにも曲を書いていらっしゃって、それがどの曲も全然違うテイストなので、もし私に書いてくださるのならばどんな曲になるのだろうと思ってお願いするに至りました。私は作品タイアップがない場合は基本的に作家の方にお任せすることが多くて。今回はアルバムのざっくりとしたテーマとしてRPGのようなストーリーを考えていて、志磨さんとのお打ち合わせでもそんな話をしたんですけど、結局は「ぜひお好きに作っていただければ」という話になり。

志磨 「ドレスコーズの新曲のつもりで書いていただければ」と言っていただいて、それはまさに自由演技なのでどうしようかなと。ゲームのようなストーリーがテーマだというお話があったから、作り始めはYMOみたいな曲を目指してたんですよ。そこから連想ゲーム的に……それこそ共通項を探してみたんです。僕と上坂さんに共通する部分であったり、僕の中にある上坂さんのイメージだったりを踏まえて、上坂さんがこれまで歌われたことのない未開の地、まだ足跡の付いていない新雪はあるだろうかと考えたら、なかなか難しくて。誰かに曲を書くときは、その人のことを考えてその人に向けて曲を書くという意味でシンプルなんですけど、上坂さんの場合はレイヤーが多すぎて、生半可な歌詞が書けない。そこでなんとなくイメージしたのが戸川純さん。そこからは連想ゲームなんですけど……YMOからの戸川純さんということで、細野晴臣さんが設立したYENレーベルから出た戸川さんのアルバムに「夢見る約束」という曲があって。あの曲はロシア民謡みたいなメロディだったな……と、ここで見つけたんですよ。一筋の光を。ありました突破口。出発点のYMOと、上坂さんはロシア好きという情報がつながって。僕の下敷きと上坂さんの美学のようなものを重ね塗りしていくような形で作っていきました。

──ほかのアーティストへの提供曲と比べて上坂さんは特に難しかった?

志磨遼平

志磨 これも2人の似ているところかもしれないですけど……1人で立っていらっしゃるというか、背景だとか周りを囲むキャラクター像が見えないんですよね。例えば菅田将暉くんに曲を書いたときは、彼を置いて絵になる風景がなんとなく見えるんですよ。彼の横に女性を置いても絵が見える。じゃあ菅田くんにこんなことを言われたらひとたまりもないだろうというラブソングを作ろう、という道が見えるわけですけど、上坂さんはそれが見えない。なんか失礼なことを言ってるような気もしますけど(笑)。

上坂 いえいえ。なんなんでしょうね?

志磨 それはたぶん自分もなんですけど、単純に言うと浮世離れしている。だからどういう歌詞を書けばいいのかすごく悩んだんですけど、カルチャーやアーカイブに対する異常な執着とか愛情に対する歌であれば書けるかもしれないなと。時代や社会、大衆、マスにどうしてもなじめない人の曲として作った次第です。

──なるほど。今の「背景が見えない」というあたりに、2人に共通する何かがあるような気がしました。

上坂 確かに、私も自分を知るいいキーワードに当たった気がします。精神分析における大事な言葉を得たような……。