音楽ナタリー Power Push - 上坂すみれ
「都合がよく」て「ジラジラ」している、すみぺの20世紀
20世紀は都合のいい世紀
──ロケ、お疲れさまでした!
お疲れさまでした。浅草、にぎわってましたね。
──休日だけに人出がすごかったですね。特に初音小路は中央競馬開催日のウインズ浅草の目の前だったから……。
おじさんがいっぱいいらっしゃいました(笑)。
──皆さん、新聞片手に立ち飲み屋さんで渋く呑んでいて(笑)。そのロケーションもあって「20世紀の逆襲」的、どこか昭和レトロな写真が撮れたと思うんですけど、昭和=20世紀かというと……。
明治時代も20世紀なんですよね。
──そして上坂さんの生まれた平成3年は1991年。まだ20世紀です。
明治、大正、昭和、平成って4つの元号にまたがっている。だから20世紀は都合がいい気がするんです。
──都合がいい?
明治時代が好きな方は明治時代に思いを馳せればいいし、大正時代が好きなら大正時代のことを考えればいい。どちらも「20世紀を振り返る」という意味では同じですから。好きな年代を思い浮かべることで、誰でも素敵な過去にすることができるのが20世紀なんじゃないかなって思ってます。
──スケールは大きいんだけど、後ろ向きな話ですねえ(笑)。平成元年から今日までというように元号単位で過去を振り返ると、たいてい「いいこともあったけどイヤなことも……」って心境になるだろうけど、世紀単位、100年単位で時間を捉えれば、実人生に接触しない好きな過去も選び取れる。
もちろん戦争みたいな、体験していなくてもシリアスに考えなければいけない過去もあるんですけど、それでもイヤなことを思い出さずに振り返れるんじゃないかな、とは思うんです。例えばそうだなあ……今40歳くらいの方って何年頃の生まれですか?
──昭和50年、1975年前後ですね。
そういう方にとっては東京オリンピック(1964年)の頃のことのほうが楽しく思いを馳せられるかもしれませんよね。
──景気はよかったらしいし、イヤな思い出が頭をかすめようもないし(笑)。じゃあ上坂さんにとっての20世紀はどの年代ですか?
どこなんだろう? 生まれてからの10年間、20世紀の最後の10年にはあんまりイヤな思い出はないですし。
──保護者の方や学校の先生との関係も良好だったし(笑)(参照:上坂すみれ「20世紀の逆襲」特集 ロングインタビュー)。
ふふふふふ(笑)。でもその10年はインターネットも携帯電話も存在していた、ある意味21世紀的な10年な気もしていますし。
──となると、1990年以前の90年間すべてが「上坂すみれ的20世紀」?
確かにその90年間は“2次元の3次元”というか、私にとっては「映像の世紀」みたいなテレビ番組で観るもの。画面の向こうで起きていることは現実の出来事なんだけど、私とその現実の間には“時間”と“ディスプレイ”というフィルターが挟まっている。そういう実感のないものではあります。ただ“2次元の3次元”だからこそ好きな色合い、私なりにイメージする20世紀的映像の色合いみたいなものはありますね。
ビジュアルで考える「20世紀の逆襲」の正体
──20世紀的映像の色合い?
この間、それこそ東京オリンピックの記録映画を観たんですけど……。
──市川崑監督の?(1965年公開の「東京オリンピック」)
はい。あの色合いが私にとっての20世紀なんです。なんて言えばいいんだろう? 映像全体がジラジラしている?(笑) 影はくっきりしているんだけど、まぶしいシーンだとハレーションを起こして何も映らなくなっちゃう感じというか。
──あの映画はあえてそういう色味で撮影、現像したのかもしれないけど、それでも当時の映像って色のコントラストが強い印象がありますね。
ですよね。「でも白黒じゃないよ。カラーの映画が主役になりたてだよ」という感じ。ああいう1960~70年代のフィルムの色合いを観ると「20世紀っぽいなあ」という感じがします。
──通信技術の進歩に21世紀の足音を聞いたように、モノクロ映画がカラーになったことに20世紀性を覚える?
そういうことかもしれませんね。浅草の街並みにも、実際はそういう時代を体験していないのになぜかノスタルジーを覚えたりはするんですけど、実は場所と時間に強い関連性は求めてなくて。日本のものであれ、ロシアのものであれ、アメリカのものであれ、ジラジラした映像を観たときのほうが「ああ、20世紀だなあ」って、やっぱり体験してもないのに強く感じます。だからアルバムのタイトルも「昭和の逆襲」じゃなくて「20世紀の逆襲」にしてよかったな、と思ってます。
──「昭和の逆襲」だと話が日本に限定されることになるし。
この美樹本(晴彦)先生や丸尾(末広)先生のカッチョいいジャケットも成立しなくなっちゃったはずですよね。
──美樹本先生のジャケットは日本じゃないどころか、地球の話ですらないですもんね(笑)。
とはいえ日本でもロシアでもアメリカでも、ジラジラした映像の時代にはこういうSF的想像力って働いていたと思うんです。あと私が戦車を背負ってる丸尾先生のジャケットにも「昭和的」ではなく「20世紀的」な印象があります。
──戦車の傍らにはコアラがいるし、オペラカーテンがかかっているだけに「昭和」ではない。
このともすればナンセンスに見える無国籍感も20世紀っぽいですよね。
──確かに。上坂さんは今の価値観を、そのSF的想像力やナンセンスな無国籍感が漂っていた20世紀的なものに戻したい?
いえ、全然(笑)。このジャケットはカッチョいいし、楽しいものではあるんですけど、2016年という“今”の美樹本先生や丸尾先生の新作は新作として楽しみたいですから。当然20世紀と21世紀は断絶しているわけではないんですけど、それでもやっぱり私にとっての20世紀は日常とは違う、憧れるべき非日常なんです。なので「20世紀の逆襲」も「ジャケットを眺めているときや、アルバムを聴いているときはその人なりの明るい20世紀に思いを馳せられるけど、ジャケットから目を上げたり、ヘッドフォンを外したりしたら、そこには通勤・通学電車が滑り込んできてるよ」という作品になったなって。非日常感はありつつ、サラッと日常に回帰することもできる。そういうアルバムだと思ってます。
- ニューアルバム「20世紀の逆襲」2016年1月6日発売 / STARCHILD
- 初回限定盤A[CD+Blu-ray]3888円 / KICS-93336
- 初回限定盤B[CD+DVD]3888円 / KICS-93337
- 初回限定盤C[CD+写真集]3888円 / KICS-93338
- 通常盤[CD]3240円 / KICS-3336
CD収録曲
- 予感02
[作曲・編曲:R・O・N] - 20世紀の逆襲 第一章~紅蓮の道~
[作詞・作曲・編曲:絶望ノ果てのクリシェ] - パララックス・ビュー
[作詞:大槻ケンヂ / 作曲:NARASAKI / 編曲:Sadesper Record] - 冥界通信~慕情編~
[作詞・作曲・編曲:和嶋慎治(人間椅子)] - 繋がれ人、酔い痴れ人。
[作詞・作曲・編曲:吟(BUSTED ROSE)] - すみれコード
[作詞・作曲:松永天馬(アーバンギャルド) / 編曲:アーバンギャルド] - TRAUMAよ未来を開け!!
[作詞:サエキけんぞう / 作曲・編曲:窪田晴男] - Inner Urge
[作詞・作曲:松浦勇気 / 編曲:橋本由香利] - 無限マトリョーシカ
[作詞:谷山浩子 / 作曲・編曲:Леснойпутешественник] - 無窮なり趣味者集団
[作詞 上坂すみれ / 作曲・編曲:エンドウ.(GEEKS)] - 来たれ!暁の同志
[作詞:及川眠子 / 作曲・編曲:岡部啓一] - 20世紀の逆襲 第二章~蠱惑の牙~
[作詞・作曲・編曲:絶望ノ果てのクリシェ] - 閻魔大王に訊いてごらん
[作詞:RUCCA / 作曲・編曲:岩橋星実(Elements Garden)] - 罪と罰 -Sweet Inferno-
[作詞:RUCCA / 作曲・編曲:岩橋星実(Elements Garden)] - 全円スペクトル
[作詞・作曲・編曲:吟(BUSTED ROSE)] - 革命的ブロードウェイ主義者同盟(INST piano solo ver.)
[作曲・編曲:遠山明孝] - ツワモノドモガ ユメノアト
[作詞:椎名可憐 / 作曲・編曲:牧元芳朗(strip)] - 20世紀の逆襲 第三章~絶境の蝶~
[作詞・作曲・編曲:絶望ノ果てのクリシェ]
初回限定盤A、B Blu-ray&DVD 特典映像
- 「七つの海よりキミの海」Music Video
- 「げんし、女子は、たいようだった。」Music Video
- 「革命的ブロードウェイ主義者同盟」Music Video
- 「パララックス・ビュー」Music Video
- 「来たれ!暁の同志」Music Video
- 「閻魔大王に訊いてごらん」Music Video
- 「Inner Urge」Music Video
- 「テトリアシトリ(PARKGOLF REMIX)」Music Video
ライブ情報
超中野大陸の逆襲 群星の巻
2016年2月11日(木・祝)東京都 中野サンプラザホール
超中野大陸の逆襲 草莽の巻
2016年2月12日(金)東京都 中野サンプラザホール
各プレイガイドにてチケット一般発売中
上坂すみれ(ウエサカスミレ)
ソビエト社会主義共和国連邦が崩壊した1991年生まれの声優、アーティスト。小学生時代よりジュニアモデルとして活動し、2012年テレビアニメ「パパのいうことを聞きなさい!」の小鳥遊空役で本格的に声優デビューを果たす。以来、注目作に出演する一方でメディアやイベントなどを通じて、無類のロリータファッションマニア、ソ連・ロシアマニア、ミリタリーマニア、音楽マニアであることがファンの知るところに。そして2013年4月、その趣味の世界をダイレクトに反映したシングル「七つの海よりキミの海」でアーティストデビュー。その後も桃井はるこ作詞作曲の「げんし、女子は、たいようだった。」や、大槻ケンヂ作詞、NARASAKI作曲の「パララックス・ビュー」など話題作を立て続けにリリースし、2014年1月には1stアルバム「革命的ブロードウェイ主義者同盟」を発表する。また同年7月、及川眠子、サエキけんぞう、窪田晴男、谷山浩子らを作家陣に招いた4thシングル「来たれ!暁の同志」を、12月には5thシングル「閻魔大王に訊いてごらん」と自薦の80年代アイドルナンバーをコンパイルした「上坂すみれ presents 80年代アイドル歌謡決定盤」を発売。そして2016年には丸2年ぶりとなる2ndフルアルバム「20世紀の逆襲」をリリースした。