音楽ナタリー Power Push - 上坂すみれ

“革ブロ”リブート前夜に放つ キラキラ&キワキワのディスコチューン

うまい棒、あるいはランチパック

──今言っていた「私らしさ」ってどういうものだと思います? 「Inner Urge」は、ニューウェイブテイストの「七つの海よりキミの海」やクラストコアの「パララックス・ビュー」とは明らかに違う。でもどの曲も上坂すみれのディスコグラフィにキレイに収まっていますよね。

なんでなんだろう……。「あえてムリヤリ例えるならば!」ではあるんですけど、うまい棒みたいなものかもしれませんね。あるいはランチパックのどっちか。

──へっ!?

上坂すみれ

うまい棒もランチパックもたくさんバリエーションがあるけど、どれもうまい棒の味、ランチパックの味がするじゃないですか。すごくヘンなご当地うまい棒を出されても「ああ、うまい棒だね」って。本当に意地を張って例えてみるならっていう話ではあるんですけど、なんとなく“上坂すみれという型”があるから、中に何を詰められても“上坂すみれの曲”になるのかな?っていう気はします。

──リスカは当然うまい棒のレシピを持っているはずだし、ランチパックの山崎製パンもしかり。上坂さんは上坂すみれのレシピを持っていたりは?

いえ。あくまで「なんとなく“上坂すみれという型”がある」っていう感じかな、と。心のどこかには「上坂すみれとは」という基準があるのかもしれないんですけど、それは無意識のことであって前意識にも出てきてないです。そしてそれでいい、“上坂すみれという型”に対してそんなに自覚的でなくてもいいんだろうなとも思ってます。

──それはなぜ?

その自覚が邪魔をしていろんなことができなくなる気がするんです。今の私を形成しているものの根本にはロシアやソ連、ミリタリー、ロリータがあるんですけど「私はそういう人だから!」って規定してしまうと、例えば横山三国志にハマるのはなんか違う気がするし、この間オススメさせていただいた「うる星やつら」も読んでる場合じゃなくなる気がしますし(参照:コミックシーモア特集、上坂すみれがチョイスした「いつか誰かに食らわせたい必殺技が載っている」8作品)。

この意味のなさを楽しんでほしい

──“上坂すみれという型”に行動を制限されたくはない、と。

自分で自分を特定しないほうがラクですし、「うわあ……」って思いながらも愉快に楽しく「Inner Urge」を歌うことだってできますから(笑)。ただ、今回は特に何も考えず、愉快に楽しく歌いすぎた気はしていて。音源やミュージックビデオを解禁したとき、けっこうビックリした同志もいたみたいで……。

──普段下ネタを言っているイメージがないから、練度の高い同志ほどこの詞にはビックリするかもしれないですね。

上坂すみれ

そうみたいです。ただ「Inner Urge」って下ネタというには開けっぴろげすぎるというか。「月刊コロコロコミック」や、ゲームの対象年齢を決めるCEROでいうとA(全年齢対象)レベルの下ネタ・言葉遊びみたいなものだと思うし、これを境にさらにエロティックなことを歌う人になるわけでもないですし。もっとエロティックな……例えばそうだなあ、「女囚・油地獄」みたいな歌は50代になってからですね(笑)。でも、ビックリした方がいるなら、何か1つくらいはこの曲についてタメになるお話ができるといいんですが……。

──いや、難しいと思いますよ(笑)。「『キセイ』の中には『セイキ』が隠れてる」「ぺろりぺろぺろぺろ 私ペロリスト」「S・O・X S・O・X S・O・X」。今回上坂さんはタメになることなんて1つも歌ってませんから。

あはははは(笑)。なんか洋楽の訳詞みたいですよね。日本盤の洋楽のCDって歌詞カードに対訳が載ってるじゃないですか。これもちっちゃい頃の話なんですが、父のクルマの中でディスコのコンピや洋楽のヒット曲集を聴いたあと「あのすごくキレイな曲は有名な歌だし、きっと人々の心を打ついいことを言っているに違いない」と思って歌詞カードを見てみたら「イカしたあの子のナイスなヒップが オレのフライドポテトを……」みたいなことしか書かれていなかったっていうことがあって……。

──ド下ネタもいいところ(笑)。特にディスコやR&Bって、ホントにいい声で、ホントにしょーもないことを歌ってたりしますよね。

LAメタルなんかもそうなんですよね。聴いているだけで絵が描けるくらい、いろんな情景を想起させてくれる筋肉少女帯や、絵本のように深遠な谷山浩子さんみたいな意味や物語性に富んだ曲ももちろん大好きですし、私の曲にしてもちゃんと意味のあるものはあって。それこそ大槻(ケンヂ)さんが書いてくださった「パララックス・ビュー」は意味深い歌ですし……。

──「げんし、女子は、たいようだった。」や「来たれ!暁の同志」は上坂さんのアティチュードを表明する楽曲ですしね。

はい。でも、その一方でLAメタルや電気グルーヴの「エジソン電」が大好きな私もいるんです。「この曲、本当に意味がない!」って(笑)。世の中にはそうやって愕然とするくらい意味がないのに楽しかったりカッコよかったりするものもあるし、「Inner Urge」もこの意味のなさを楽しんでほしいです。そういう点もまさにモラトリアム、猶予期間っぽい。今の私の音楽活動にぴったりだなって思ってますし。

ニューシングル「Inner Urge」 / 2015年7月22日発売 / STARCHILD
初回限定盤 [CD+DVD] / 1836円 / KICM-91617
「Inner Urge」初回限定盤
通常盤 [CD] / 1296円 / KICM-1617
アニメ盤 [CD] / 1620円 / KICM-91618
初回限定盤、通常盤CD収録曲
  1. Inner Urge
    [作詞・作曲:松浦勇気 / 編曲:橋本由香利]
  2. ツワモノドモガ ユメノアト
    [作詞:椎名可憐 / 作曲・編曲:牧元芳朗(strip)]
  3. Inner Urge off vocal ver.
  4. ツワモノドモガ ユメノアト off vocal ver.
初回限定盤DVD収録内容
  • 「Inner Urge」PV
アニメ盤収録曲
  1. Inner Urge
  2. ツワモノドモガ ユメノアト
  3. Inner Urge off vocal ver.
  4. Inner Urge TV size mix
上坂すみれ(ウエサカスミレ)

上坂すみれ

ソビエト社会主義共和国連邦が崩壊した1991年生まれの声優、アーティスト。小学生時代よりジュニアモデルとして活動し、2012年テレビアニメ「パパのいうことを聞きなさい!」の小鳥遊空役で本格的に声優デビューを果たす。以来、注目作に出演する一方でメディアやイベントなどを通じて、無類のロリータファッションマニア、ソ連・ロシアマニア、ミリタリーマニア、音楽マニアであることがファンの知るところに。そして2013年4月、その趣味の世界をダイレクトに反映したシングル「七つの海よりキミの海」でアーティストデビュー。その後も桃井はるこ作詞作曲の「げんし、女子は、たいようだった。」や、大槻ケンヂ作詞、NARASAKI作曲の「パララックス・ビュー」など話題作を立て続けにリリースし、2014年1月には1stアルバム「革命的ブロードウェイ主義者同盟」を発表する。また同年7月、及川眠子、サエキけんぞう、窪田晴男、谷山浩子らを作家陣に招いた4thシングル「来たれ!暁の同志」を、12月には5thシングル「閻魔大王に訊いてごらん」と自薦の80年代アイドルナンバーをコンパイルした「上坂すみれ presents 80年代アイドル歌謡決定盤」を発売。そして2015年7月、約7カ月ぶりとなるシングル「Inner Urge」をリリースした。