後追いだからこそ楽しめる80年代アイドルソング

──ここからはシングルと同時発売されるコンピレーションアルバム「上坂すみれ presents 80年代アイドル歌謡決定盤」について聞かせてください。まずなぜこの企画を？

夏頃にスターチャイルドの方から「今後、上坂さんが選曲したコンピシリーズを出していきたい」「その第1弾としてアイドルコンピを」っていうお話をいただいたからですね。

──その「アイドル」の中でも80年代アイドルをセレクトした理由は？

なんの思い出もなく聴けるのが80年代アイドルだったんです。91年生まれなので、80年代アイドルさんの曲を聴いても「あっ、この曲CMソングだよね」とか、「当時菊池桃子さんの写真集を持っていました」みたいな思い出がないのが、私にとっては逆にすごく心地よくて。完全に後追いしかできないのが、逆に冷静に曲やアイドルさんを楽しませてくれるというか。

──上坂さんが物心ついた頃に活躍していたSPEEDやモー娘。みたいな90年代、2000年代のアイドルは冷静に見られない？

自分の思い出が一緒についてきちゃうので。当時のアイドルさんのことを振り返ろうとすると「でも私はその話で盛り上がる、みんなの輪に入れなかった……」みたいなことを思い出してしまって（笑）。

──あはははは（笑）。ヒット曲にはコミュニケーションツール的な側面がありますもんね。

そのコミュニケーションの問題が邪魔をするので、私は90年代以降の曲を正しく評価できないと思うんです。

──ただ80年代モノとはいえアイドルコンピを作ったということは、SPEEDやモー娘。、それから浜崎あゆみさんなんかにも見られたアイドル的、ディーバ的キラキラ感っていうのは……。

大好きです！ 実際、最近iTunes Storeで当時の槇原敬之さんの曲とかTRFの曲とか浜崎さんの曲なんかを聴き直して「あっ、カッコいい」ってなってますし。

キングレコードにデジタルリマスタリングしてもらおう！

──上坂さんセレクトの19曲なんですけど、本当に第三者的。すごくフラットですよね。さっき言っていた「CMソングだから」とか「デビュー曲だから」みたいな重み付けが一切されていない。1曲目のセイントフォー「恋気DEナマイ気」からして、デビューシングル「不思議Tokyoシンデレラ」のカップリングですし。

そういうことを体験的に知ることができなかったので。80年代アイドルさんの曲は全部ベスト盤や再発されたアルバム、それからさっきも言ったネットやCSの再放送で聴いていて。そういう体験だけを頼りに選んだので、YouTubeの関連動画一覧的な曲の並び。80年代アイドルというカテゴリに入っている似たタイプの曲で、しかも再生回数も似たような曲っていう感じのラインナップになったんだと思います。

──じゃあ選曲の基準は再生回数、つまり好きで繰り返し聴いている曲ということ？

基本的にはそうですね。でも80年代アイドルモノのコンピはすでにたくさんあるので、既発のコンピで見たことがある曲はやめようとは思ってました。キングレコードの力を使って、コンピにはあんまり入ってない曲をデジタルリマスタリングしてもらおうって（笑）。

──あはははは（笑）。上坂さんの好きな80年代アイドルナンバーの傾向って言葉にできます？ ribbon「リトル☆デイト」、レモンエンジェル「東京ローズ'88」、伊藤つかさ「へんネ！」あたりを聴いていると、語りが入る曲が好きなのかな？なんて気もしたんですけど。

確かに当時のアイドルさん特有のしゃべり方は好きですね。伊藤つかささんみたいに、あんまり口を開かない感じ。つぶやくようなあの口調もかわいいと思いますし、レモンエンジェルみたいに「ハーイ！ こちらエンジェル放送局 受験戦争でがんばってる皆さーん」って元気に語りかけちゃう感じも80年代っぽくて楽しいですし。あとはなんですかねえ。シンセやドラムの音が妙に大きい、お気楽な音像の曲も好きですし、セリフだけじゃなくて歌詞が恥ずかしい曲も好きですし。セイントフォーの曲とか歌詞カードで字面だけ見ると、読んでるこっちの顔が真っ赤になりそうになるんですけど、歌われるとすごくかわいいんですよね。

──森川美穂「姫様ズーム・イン」や三原順子「夢心中 ～MY DESIRE～」の詞もちょっと照れますよね。

「姫様ズーム・イン」の歌詞もかわいいですよね。男の子言葉で「ムカつくぜ イラつくぜ そのナヨっぽさ」とか言っちゃって、ちょっと二次元っぽくて（笑）。今も当時もあんな言葉遣いをする人って女の子はもちろん、男の子にもいなかったと思うんですよ。

──確かにいませんでした（笑）。

でもどこかにはいそうな感じもする。その現実にいそうでいない雰囲気がいいなって思ってます。

“徹夜してメッチャ考えた”トラックリスト

──このコンピのトラックリストを決めたのは？

私です。

──だから言うわけではないんだけど、すごくいいトラックリストですよね。

よかったあ。徹夜してメッチャ考えたんですよ、これ（笑）。

──さっき言っていたような基準だけを頼りにごくフラットに選ばれた19曲のはずなのに、この流れで聴くとちゃんと文脈が生まれるんですよ。だから「上坂さん、いいDJ仕事をしてるなあ」って思いました。

ありがとうございます（笑）。まずセイントフォーとラ・ムーが最初に並んでてほしいなっていうイメージがあって。1曲目セイントフォー、2曲目ラ・ムーって並ぶとすごく愉快というか……。

──シンセやドラムの音が妙にデカい2曲ですもんね（笑）。しかもそのシンセやエレドラにデジタル系のリバーブをかけまくってるあたりがすごく80年代っぽい。

そうなんです。出だしはとにかくわかりやすく80年代をイメージできる曲がいいなって思っていて、その次の吉沢秋絵さんとribbonは、かわいくてちょっと頼りないアイドルならではのボーカルを楽しんでいただくゾーンなんです。