ナタリー PowerPush - 上坂すみれ
ユーロビート、パール兄弟、谷山浩子、そして中野 すべてを飲み込む2枚のディスク
これは敵性音楽だ!
──その外国人講師の前でもガンガン流したのであろうシングル「来たれ!暁の同志」なんですけど、あんなにオケヒットを連打して、合いの手が「Ho! Ho!」入りまくるユーロビートは20年ぶりくらいに聴いたし、すごくアガりました(笑)。
ユーロビートって私が最初にハマった音楽なんです。ヒット曲はイマイチよくわからない、でも音楽は聴きたい、どんな音楽を聴けばいいんだろう?って考えていた小学生の頃に、父のカーステレオからはたいていディスコかユーロビート、そういうバブリーな音楽が流れていて(笑)。それを聴いたとき「あっ、これはちょっと楽しそうだな」と思って。だから初めて買ったCDも「Cyber TRANCE」シリーズだったか、「SUPER EUROBEAT」シリーズだったかのボリューム100いくつかですし。
──上坂さんとユーロビートってちょっと意外な組み合わせな気もします。当時のユーロビートってギャル文化、ヤンキー文化と接触してましたよね。
なので、思春期に入って筋少やサブカルに憧れるようになってからは「ギャルは敵だ!」「こんなギャルが踊る音楽を聴いていてはダメだ!」「これは敵性音楽だ!」って思ってしまってました(笑)。でもここ数年、その中二病にも若干の快復傾向が見られるようになって。「サブカルだから」「サブカルではないから」っていう理由で物事を分別をしなくてもいいんだよなって気付いて「ユーロビートみたいなイケイケの音楽も私の一部だったんだよなあ」と思えるようになり……。
──なんか「遠い目をして若かりし頃を振り返る」みたいな話になっちゃってますよ(笑)。22歳なのに。
ふふふふふ(笑)。しばらく聴いていなかったので、今回曲をいただいたとき、ちょっと昔の音楽を聴いているように感じられて。でも再会できてホントによかったです。今、巡り会えていなかったら、あと10年はユーロビートに対してわだかまりを抱えたままだったはずですから(笑)。
「リア充が聴いていたから」避けるツラさ
──そういう意味では最近の上坂さんはラッキーが続いてますね。4月まで放送していたアニメ「鬼灯の冷徹」のピーチ・マキ名義で歌った「キャラメル桃ジャム120%」はストック・エイトキン・ウォーターマンテイスト。イギリス製の80年代ユーロビート的で、「来たれ!暁の同志」はイタリア的。90年代、デイヴ・ロジャースがプロデュースしていたような高速ユーロなわけですから。
そうですね。でも小学生の頃に聴いていたのは90年代ユーロビートのほうで、80年代のは逆に私の中では新鮮な音楽なんです。思春期になってサブカルに目覚めて、80年代アイドルにハマったことで、当時のユーロビートを耳にするようになったので。荻野目洋子さんとかWinkみたいな当時のアイドルが歌っていたから、私の中ではダンスミュージックというよりはアイドル歌謡。そういうサブカルチャー的なものとして見てるんです。反対にその頃の私にとって90年代のユーロビート、BPMが速くて私には追いつけない曲は全部“リア充の音楽”っていう扱いでした(笑)。
──でも今はその“リア充的”90年代ユーロをカッコよく、しかもかわいらしく歌えています。ネットあたりではよく“サブカル vs リア充”、“オタク vs リア充”みたいな対立構図が話題になりがちな中、上坂すみれという人はなぜ“サブカル vs リア充”の彼岸にたどり着くことができたんでしょう。
うーん……。以前CSで「レッツゴーヤング」(1974~1986年にNHK総合で放送の音楽番組)の再放送を観ていて気付いたんですけど、80年代のアイドル歌謡のような私の好きな音楽って実はものすごく大衆的なものなんですよね。当時の(中森)明菜ちゃんって今の人気アイドルのような存在だったはずですし。それが時代を経たことによってサブカルチャー的なものとして語られるようになっただけだと思うんです。そのことに気付いてからは「食わず嫌いはよくないんじゃないか」っていう気になって。ユーロビートも同じなんです。改めて聴いてみたらノリが命みたいな曲調も、わかりやすいメロディも純粋に楽しくて。しかもちっちゃい頃に聴いていた音楽だけに、今は「リア充が聴いていたから」って避けて通るのは逆にツラいなって思ってます。
やっぱり天才は本当にすごい
──そのサブカル趣味に軸足を置きながら、オーバーグラウンドなコンテンツも飲み込める感じは上坂さんならではの強さだと思います。
完全に“リア充的なもの”と和解できているわけではないんですけどね。「来たれ!暁の同志」は及川(眠子)さんのこの歌詞だから楽しく歌えたんだと思います。これがもし90年代ユーロビート的、「♪オールナイトでブギウギ」みたいなイケてる歌詞だったら……。
──すみません! その歌詞、イケてないです(笑)。
あれっ!? でも及川さんの歌詞の影響は本当に大きいです。岡部(啓一)さんの書いてくださった曲調は本当に90年代のリア充的、それか“真夜中バイクで駆ける系”なのに、歌っていることはいつもの私と同じ。やっぱり“革ブロの曲”ですから。
──タイトルからして「来たれ!暁の同志」ですもんね。
でもこれまでの“革ブロの曲”とはちょっと違う。キャッチーでわかりやすいメロディによく似合う、わかりやすい言葉で歌詞を書いてくださっていて。
──「きっと時が動く 花も開く」「進め 涙拭いて この夢に集え」。本来わかりやすい言葉を使えば使うほど単純なことしか歌えなくなるはずなんだけど……。
ちゃんと“革ブロの曲”になってますよね。「生産!」「団結!」「反抑圧!」っていうスローガンまで入れていただいてますし。私が及川さんを知ったのはWinkがきっかけだったんですけど、そのWinkの「淋しい熱帯魚」ってちょっと観念的というか、想像力を喚起する抽象的な詞ですよね。なのに、こんなにシンプルで力強い詞を書いてくださって。以前もお話した気がするんですけど(参照:上坂すみれ「七つの海よりキミの海」インタビュー)、やっぱり天才の方は本当にすごいです。
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- ニューシングル「来たれ!暁の同志」 / 2014年7月16日発売 / スターチャイルド
- 初回限定盤 [CD+DVD] 1836円 / KICM-91524
- 通常盤 [CD] 1296円 / KICM-1525
初回限定盤CD収録曲
- 来たれ!暁の同志
[作詞:及川眠子 / 作曲・編曲:岡部啓一] - TRAUMAよ未来を開け!!
[作詞:サエキけんぞう / 作曲・編曲:窪田晴男] - 来たれ!暁の同志(off vocal ver.)
- TRAUMAよ未来を開け!!(off vocal ver.)
初回限定盤DVD収録内容
- 「来たれ!暁の同志」Music Video
通常盤CD収録曲
- 来たれ!暁の同志
- TRAUMAよ未来を開け!!
- 無限マトリョーシカ
[作詞:谷山浩子 / 作・編曲:Леснойпутешественник] - 来たれ!暁の同志(off vocal ver.)
- TRAUMAよ未来を開け!!(off vocal ver.)
- 無限マトリョーシカ(off vocal ver.)
- ライブBlu-ray / DVD「実録・2.11 第一回 革ブロ総決起集会」 / 2014年7月16日発売 / スターチャイルド
- Blu-ray盤 7344円 / KIXM-166
- DVD盤 6264円 / KIBM-441
収録曲
- 革命的ブロードウェイ主義者同盟
- サイケデリック純情
- パララックス・ビュー
- テトリアシトリ
- SUMIRE #propaganda
- すみれコード
- 上坂すみれの遠くてごめんねコーナー
- げんし、女子は、たいようだった。
- アオくユレている
- キャラメル桃ジャム120%
- 哀愁Fakeハネムーン
- 真・革命伝説
- FLYERS
- 我旗の元へと集いたまえ
<アンコール>
- ソライロ
- 我らと我らの道を
- 七つの海よりキミの海
- 革命的ブロードウェイ主義者同盟
上坂すみれ(ウエサカスミレ)
ソビエト社会主義共和国連邦が崩壊した1991年生まれの声優、アーティスト。小学生時代よりジュニアモデルとして活動し、2012年テレビアニメ「パパのいうことを聞きなさい!」の小鳥遊空役で本格的に声優デビューを果たす。以来、中二病でも恋がしたい!」や「ガールズ&パンツァー」など注目作に出演する一方で、ラジオ、イベント、アニメ誌、カルチャー誌などを通じて、無類のロリータファッションマニア、ソ連・ロシアマニア、ミリタリーマニア、音楽マニアであることがファンの知るところに。そして2013年4月、その趣味の世界をダイレクトに反映したシングル「七つの海よりキミの海」でアーティストデビュー。以来、桃井はるこ作詞作曲の「げんし、女子は、たいようだった。」や、大槻ケンヂ作詞、NARASAKI作曲の「パララックス・ビュー」など話題作を立て続けにリリースする。2014年1月、1stアルバム「革命的ブロードウェイ主義者同盟」を発表。そして同年7月、及川眠子、サエキけんぞう、窪田晴男、谷山浩子らを作家陣に招いた4thシングル「来たれ!暁の同志」と、2月の東京・中野サンプラザホールでの“総決起集会”(ライブ)の模様を収めたライブBlu-ray / DVD「実録・2.11 第一回革ブロ総決起集会」を同時発売した。