音楽ナタリー PowerPush - 上間綾乃
“はじめての海”との出会いがもたらした新しい歌声、進化する私
上京して作品への思い入れがより深まった
──本作は、“夏”と“海”をテーマにした内容になっているのも大きな特徴ですね。
私は季節の中で一番夏が好きなんですよ。気分が明るくなるので、暑いけど思い切り楽しみたいって思うんです。なので、そういう気持ちを皆さんと共有できたらいいなと思ったんですよね。南の島生まれなので、上間は冬より夏のほうが似合うでしょ?(笑)
──ですね。しかも、夏と海の切り取り方に上間さんらしさが出ている印象もありました。テンションの高い曲もあるけど、単に騒ぐだけじゃない深みのある表現もあって。
そうですね。静かな曲の中にも熱い思いを込めたいなと思っていたので。特に「海へ来なさい」とかがそうですけど。
──井上陽水さんの名曲のカバーですね。
はい。カバー曲の候補がいろいろある中で、この曲を歌ってみたいなって強く思ったんです。名曲なだけにそもそもハードルは高かったんですけど、ピアノと歌だけのアレンジにすることでさらにハードルを上げてしまったという(笑)。ただ、上間が歌うことで原曲とはまた違ったメッセージを伝えることができるんじゃないかなっていう思いがあったんですよ。なので原曲とは雰囲気の違う、優しい子守唄のような感じで歌ってみました。
──コーラスがすごく印象的な仕上がりですよね。
あのコーラスはアレンジャーの倉田(信雄)さんがやってくださったんですけど、ものすごくキレイですよね。何人分かわからないくらい声を重ねてくださって。曲が仕上がったあとに、スタジオのいいスピーカーで聴かせていただいたんですけど、音が目に見えるように飛び出してきたのが衝撃的でした。その迫力に、カラダがふわっと浮く感覚もあって。そういう経験ができたのは初めてでしたね。今回はマスタリングも含めて、可能な限りすべての現場に参加させていただくことができたんですよ。それも沖縄と東京を行き来していたらできなかったことだと思うので、上京してよかったなって思いました。作品への思い入れもより深まりましたし。
三線にエフェクターを通してみたい
──葉山の海との出会いを通して生まれた「はじめての海」は、夏の心地よい空気感を抱いたナンバーで。ナチュラルな歌声が素敵ですよね。
この曲のレコーディングをしたときにはもう心が晴れやかになっていたので、自分を認めて、自分の思う歌の通り道を作って、素直に歌いました。東京にいるけど、ちゃんと故郷はつながっているんだっていうことを思いながら。
──この曲で鳴っている三線は、上間さんが独自にカスタマイズしたものを使っているそうですが。
そうなんですよ! いいですか、ちょっとオタクみたいな話をしても(笑)。この曲では三線の皮の張りを変えたり、いつも見た目で選んでいたカラクイをちょっと固いものにして音がパーンと鳴るようにしたり、あとはウマのコマを皮にベタッとくっつけることで太く艶っぽい音が出るようにしたり……かなりいろいろ自分なりに試してみたんですよね。結果、すごく面白い音になりました。
──そういうカスタマイズの仕方は、上間さんが編み出したものなんですか?
そうですね。ウマのコマをベタッとくっつけてる人はたぶんほかにはいないと思います。私にとっての三線の表現方法を見つけられたらいいなと思っていたので。演奏に関しても、一般的に三線はメロディラインを弾くんですけど、ここではオブリのようなハーモニーを意識して弾いたりしてますしね。三線という楽器にはまだまだ可能性があると思うので、ここからもいろんな挑戦をしたいです。今度はエフェクターを通してみたいなって思ってるんですけど(笑)。
──すごいですね。民謡の先生に怒られそうじゃないですか(笑)。
電子楽器にしちゃうのはね、民謡的にはナシだとは思うんですけど(笑)。でも上間綾乃としての表現なら、それもアリだと思うんです。ちゃんと民謡という土台を持った上での面白いチャレンジなので。
──「花言葉」という曲では、楽曲や歌という面での新しいチャレンジも感じました。
この曲は本当に面白かったですね。自分にこういう歌い方ができるんだなっていう驚きがあったというか。沖縄民謡の節とは言えないし、かと言ってポップスとも言いきれない独特の上間の世界になったと思います。曲を書き下ろしてくださったASUさんは、私の歌を聴いて「譜面にできないね」って笑ってましたけど(笑)。
──確かに音符と音符の間にある音をすくいとっているような、不思議な雰囲気がありますもんね。
そういう歌を頭で意識していたわけではないんですけどね。今までにない曲、そしてこの先にもつながるような曲ができたと思います。
次のページ » ルーツを示すための「てぃんさぐぬ花」
収録曲
- はじめての海
- 波
- 花言葉
- 夏いちりん
- 童神(わらびがみ)
- あの角を曲がれば
- オキナワのともだち
- 海へ来なさい
- あなたには守ったものがある
- てぃんさぐぬ花
ライブ情報
上間綾乃 Concert Tour 2014「はじめての海」
- 2014年8月30日(土)東京都 東大和市民会館ハミングホール
OPEN 17:30 / START 18:00 - 2014年9月13日(土)東京都 EX THEATER ROPPONGI
OPEN 17:00 / START 18:00 - 2014年9月15日(月・祝)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
OPEN 16:30 / START 17:00
上間綾乃(ウエマアヤノ)
1985年生まれ、沖縄県出身の女性シンガー。小学校2年生から三線を習い始め、19歳で琉球國民謡協会教師免許に合格する。インディーズでCDを発表し積極的なライブ活動を行う中、2012年5月にアルバム「唄者」で日本コロムビアよりメジャーデビュー。2013年には1stシングル「ソランジュ」、2ndアルバム「ニライカナイ」を発売し、「FUJI ROCK FESTIVAL '13」への初出演も果たした。2014年7月に3作目のフルアルバム「はじめての海」をリリース。