ナタリー PowerPush - 上間綾乃
新境地を開いた魂のアルバム「ニライカナイ」
“今”を曲にしないと伝統の継承はできない
──前回のインタビュー(参照:上間綾乃「ソランジュ」インタビュー)で上間さんは、「聴き手の皆さんにはなから門戸を閉じられてしまわないように柔軟な感覚で民謡と向き合っている」といった発言をされていましたよね。その意味が本作を聴いてよりわかりました。ものすごく聴きやすい作品でした。
ほんと? よかったー。民謡とかウチナーグチとかがわからないからといって好き嫌いするのではなく、オープンな気持ちで聴いてもらえたらいいなって思いますね。いろいろなサウンドに挑戦しているというのも、そのとっかかりになってもらえると思うので。
──上間さん流の新しい民謡がここにまたたくさん生まれたわけですよね。
民謡って、民(タミ)の謡(ウタ)と読めますよね。まさにタミのウタなんです。沖縄の民謡はその時代の“今”を取り入れて、どんどん新しい曲を生んできたのが特徴なんです。だからこそ私は、自分が生きている時代、“今”を生きるタミの思いをちゃんと曲にしていかないといけないんです。だって、そうしないとその時代だけぽっかりと抜けることになってしまって、本当の意味での伝統の継承はできないと思うから。自分でその流れをストップさせてはいけないんだなっていうことは最近より強く思うようになりましたね。
──それが上間さんの使命だと。
そう。沖縄には工工四(くーくーしー)という民謡の譜面の本があるんですよ。それは今も完結しているわけではなく、新しい曲を加えながら発刊され続けているんです。新しい号には「花」とか「涙そうそう」とか、あと「島唄」とかね、そういう曲がもう載ってるんですよ。それを見たときに「そうだよね、沖縄の音楽はそれでいいんだよね」ってすごく思って、私もどんどん新しい曲を作っていきたいっていう気持ちが改めて芽生えたの。だから今の私が感じるものを、私が出会った人たちと一緒に音楽として出していくことは間違ってないなってすごく思うんですよね。
──そういう気持ちは活動の中でどんどん強くなっているんでしょうね。
そうだと思います。前回のアルバム「唄者」から1年ちょっと経ったことで、自分の視野がまた大きく広がった感じがあるんですよね。出会った人たちが私の持っているいろんな引き出しを開けてくれるので、新しい可能性がまたどんどん見えてきているし。「唄者」は私の“今まで”とあの時点での“今”を詰め込んだアルバムだったんですけど、今回の「ニライカナイ」は上間綾乃の“今”と“これから”を表すことができた1枚だと思いますね。
ジャンル=上間になりたい
──今回ロックなアレンジで勢いのある歌声を聴かせてくれたように、この先もさまざまなサウンドにトライしていきたい気持ちもありますか?
今の私の精一杯がこのアルバムなんですけど、やれることを自分で決めつけずにいろんなところに目を向けていきたい気持ちは常にあります。私は小さいときからずっと民謡しか聴いてこない人だったんですよ。小学校のときも、カセットテープで民謡流しながら寝る子だったから。でも、活動の中でたくさんのアーティストの方と出会ったことで、その方たちは普段どんな音楽を聴いているのかなとか、どんな音楽に影響を受けているのかなとか、そういうことにすごく興味が出てきていて。だからこれからはいろんな音楽をたくさん聴いて、勉強していこうと思っているんです。
──そうすることで上間さんのベースにある民謡がまた違った輝き方をすることもあるでしょうし。
民謡から学んだ歌への思いは大切にしつつ、サウンド的には新しいジャンルのことをやってもいいわけですから。“うちなー民謡ポップス”っていう新しいジャンルも最近出てきてますもんね。
──上間さんなりのジャンルを見つけていけばいいわけですね。
この「ニライカナイ」にも、何か新しいジャンルとしての言葉が生まれてもいいような気がするんですよね。それくらい新しいものができたと思うので。星には発見者の名前が付くこともあるじゃないですか。だからそういう感じで、“ジャンル=上間”になればいいですね。もちろんチームのみんなと作り上げる音楽ではあるけど、みんなを代表して私が名前いただきますということで(笑)。
──11月からは東名阪を巡るツアーが決定していますね。
はい。このアルバムの曲たちと一緒に各地を回ってたくさんの人と出会うことで、きっとまた得られるものがたくさんあるんだろうなって思います。みんながどんな表情で聴いてくれるかなって想像しながらレコーディングした曲ばかりなので、実際に生で皆さんの表情を見ながら歌えるのがすごく楽しみです。
収録曲
- Overture-命(いぬち)、生(ん)まりとてぃ-
- ソランジュ
- 里(さとぅ)よ
- ゆらりゆらら
- Interlude-躍動-
- ヒヤミカチ節(民謡)
- 新川(あらかわ)大漁節(民謡)
- やんどー沖縄(うちなー)
- 明日ハ晴レカナ、曇リカナ
- ニライカナイ
- あなたのもとへ
- あいうた
上間綾乃(うえまあやの)
1985年生まれ、沖縄県うるま市出身の女性シンガー。小学校2年生から三線を習い始め、19歳で琉球國民謡協会教師免許に合格する。インディーズでCDを発表し積極的なライブ活動を行う中、2012年5月にアルバム「唄者」で日本コロムビアよりメジャーデビュー。2013年6月には1stシングル「ソランジュ」を発売し、「FUJI ROCK FESTIVAL '13」へ初出演を果たした。同年9月4日、メジャー2作目のフルアルバム「ニライカナイ」をリリース。