ナタリー PowerPush - 上間綾乃
沖縄が生んだ美しき“民の謡(タミのウタ)”の伝承者
ウチナーグチだけでなく、標準語で歌うこともあっていい
──高校3年生のときにはオリジナルの曲を作るようにもなったそうですね。
はい。自分の言葉とメロディで表現している先輩を見て、「あ、そっか。オリジナルっていうのもアリだな」っていうことに気付いて。今歌われている伝統的な民謡も、その曲が生まれた当時はもちろん新しく作られた曲だったわけじゃないですか。だったら私が新曲を生んでも悪いことではないんじゃないかなと思ったんです。
──どんな曲を作ったんですか?
進学や就職で本土へ行く友達に向けた曲を書いたんです。鼻歌を歌いながら思い浮かんだメロディに歌詞を乗せて。で、それを学祭で歌いましたね。そうしたら普段あまりしゃべらない人たちからも「すごくよかった!」「これからもがんばれよ!」って言ってもらえて。そのときに、やっぱり自分が思ったことを自分の言葉とメロディで歌えば、ちゃんと伝わるものなんだなっていうことも発見できましたね。
──上間さんの中でそのオリジナル曲はあくまで民謡として作った感じですか?
そうです。今の世の中にあふれているいろいろな音楽が私の中には入っていると思うので、いわゆる皆さんが想像されるような民謡にはもちろんならないんですけどね。
──今メジャーで活動している上間さんの場合、その楽曲たちがJ-POPとして受け止められる場合も多いと思うんですよ。それに関してはどう感じていますか?
もちろん便宜的なジャンル分けは、どうしてもされますよね。でも私の感覚では、私が歌う曲はすべて7歳からやってきた民謡の延長線上にあるものであって、突然鞍替えしました、というものではないのです。民謡というのは“民の謡(タミのウタ)”と読めますよね。先人たちもその時々の民の思いを歌い、今の私たちも今を生きる私たち民の思いを乗せて歌を作る。その営みは今も昔も変わらないと思うし、その意味で、民謡と今の上間綾乃の歌はつながっているんです。
──上間綾乃の“民の謡”として未来に伝承していきたい気持ちもある?
うん。ただ、伝統的な民謡はどれもウチナーグチで歌われているものなんですけど、この言葉を理解し扱える人自体が高齢化してしまっているので、若い世代がわからないっていうこともあるんですね。だから伝統を守るということを大事にしつつ、同時にたくさんの人に思いを伝えたいという部分も大事にして、標準語で歌うことも必要だと思っていて。私にとっての基本の歌の言語はウチナーグチだけど、標準語で歌うという挑戦もどんどんしていきたいんですよね。
──実際、上間さんの曲にはウチナーグチで書かれたものと標準語で書かれたものの両方がありますが、ご自身で作詞を手がける場合、その使い分けはどうしているんですか?
ウチナーグチで歌詞が浮かんだら、そのまんまウチナーグチで書きます。例えば、今回のシングルのカップリング曲「里よ」の場合、曲を聴いたときにバッと思いがあふれて、ウチナーグチの歌詞が一気に出てきたんです。それを歌詞に乗せると、ものすごくしっくりきて。逆に標準語でバーッと歌詞が浮かぶときもあるので、その場合はそのまんま使うことにしていますね。そこはもう自由な感じ。そのときの感情によって、どっちが出てくるかわからないっていうのが自分でやっていてもすごく面白いところなので。
──伝統を重んじつつも、そういった柔軟な感覚で民謡と向き合うのが上間さん流なわけですね。
そうそう。ウチナーグチはわからんよって、聴き手の皆さんにはなから門戸を閉じられてしまわれないように。両方の言葉を使うことで、そのどちらかがどちらかへの入り口になってくれればなって。パッと聴いてわかる標準語の曲をきっかけに、ウチナーグチに興味を持ってもらえたらうれしいし。その逆もそう。英語の曲だって、言葉の意味を理解してなくても、なんとなくニュアンスが好きとか、あのギターフレーズがカッコいいとか、そういう気持ちで聴いている人も多いと思うんですよ。
人との出会いを栄養に
──メジャーデビューから1年を経て、沖縄の文化を伝承しながら同時に革新も加えて活動している上間さんの、歌を通じて発信される“強い思い”は多くの人に届き始めている気がします。ご自身でも実感があるのでは?
沖縄県内はもちろん、県外のあちこちで歌う機会もいただけているので、たくさんの方に思いを伝えることはできていますね。ウチナーグチを例に出して、「皆さんの生まれた場所にも、こういう方言ってありますよね?」って聞くと、やっぱりみんな「ある」って言うんですよ。そこで、自分が生まれたところの言葉や文化は大切にしたいですよねっていう話をしたりとか。どこへ行っても、皆さんすごくあったかく迎えてくれるのでうれしいです。
──歌に対する思いもより強まっているんですか?
そこは今まで減ったことがないし、これからも減ることはないですね。逆にどんどん思いは強くなる一方です。人と出会えばそれだけ得るものがたくさんあるし、その経験が自分の栄養になる。で、それを歌に込めれば、また新たな反応がある。そういうサイクルがとにかく楽しいので。
CD収録曲
- ソランジュ
- 里(さとぅ)よ
- ソランジュ(Instrumental)
DVD収録内容
- ソランジュ Promotion Video
- メイキング・オブ・ソランジュPV
- 悲しくてやりきれない(ウチナーグチバージョン) Promotion Video
- ハリクヤマク ~2012.6.23「唄者」LIVE TOUR SHIBUYA Mt RAINIER HALLより
上間綾乃(うえまあやの)
1985年生まれ、沖縄県うるま市出身の女性シンガー。小学校2年生から三線を習い始め、19歳で琉球國民謡協会教師免許に合格する。2006年、自ら作詞作曲を手がけた「願い星」をCDリリース。以降は県外でも積極的なライブ活動を行っている。2012年5月、アルバム「唄者」で日本コロムビアよりメジャーデビュー。2013年6月19日には1stシングル「ソランジュ」を発表した。民謡で培った独特な歌い回し、豊かな表現力で多くの人の心をつかんでいる。